「あんしんを羽ばたく力に」鉄道事故の避難誘導と応急復旧工事を見学 京急電鉄 鉄道事故復旧訓練(前編)
京急電鉄の鉄道事故復旧訓練にやってきました。京急電鉄は東京都港区の「泉岳寺」駅から三浦半島まで、主に海沿いを走っていて赤い電車でおなじみです。品川駅、横浜駅、京急川崎駅などがあり都内や横浜市内への通勤・通学の足として、また羽田空港のターミナルへ直結する駅もあり空の玄関口へのアクセスとしても大切な路線。
「あんしんを羽ばたく力に」を体験!
鉄道事故復旧訓練は、万が一重大事故が発生した際も、安全・確実な対応によって早期の復旧が行えるように毎年実施していて、今回2015年で34回目!鉄道事故が起こった際の旅客の避難誘導といった基本動作、電気・通信・土木といった復旧作業の確認、的確な連絡体制の確立、そして職員一人ひとりの事故発生時の意識の高揚を図ることが目的。
グループ全体のコーポレートスローガン「あんしんを羽ばたく力に」を今日は体験することができます。会場は京急ファインテック久里浜事業所。京急電鉄のグループ会社で普段は鉄道車両のメンテナンスや定期検査を行っていていますが、今回の訓練は同社の敷地にあるモーターカー基地で実施します。
「ふんどしを締めなおしていこう」
社長の原田さんのご挨拶。10月14日開催の鉄道の日の式典で国土交通省から表彰された「日本鉄道賞」受賞のうれしい報告。日頃の安全で安定した運行や最小の遅延時間が認められた結果です。しかし、2012年(平成24年)9月24日、追浜駅〜京急田浦駅間で発生した京急電鉄本線列車脱線事故の教訓を忘れないこと、台風の影響を受けやすい三浦半島を通過する路線であること、90箇所もある踏切での事故防止対策など「ふんどしを締めなおしていこう」ということばで締めくくられました。
ヘルメットがたくさんいるぞ!
この訓練には、京急電鉄、京急ファインテックの他にも、駅の業務のオペレーションする京急ステーションサービス、通信・電気といった設備関係を担当する京急建設、京急電機といったグループ会社も合同で参加。さらに神奈川県警浦賀警察署、横須賀市消防局も参加しています。
たくさんのお客さんが観覧しています。
抽選で選ばれた観覧客のみなさん、それに他の鉄道会社や関連団体からも見に来ているのだそうです。
いよいよ、訓練がスタート!
11時06分事故が発生!
久里浜線 京急久里浜駅〜YRP野比駅(横須賀リサーチパークの最寄駅なのでYRPという名前がついた駅)間の踏切で、動作中の踏切道内に侵入した乗用車と列車が衝突、列車が脱線したという設定。
事故が起こった時間と訓練開始の時間は同時刻で、今後は実際の時刻で進行されます。
実際にレールから列車が脱線しています。この訓練のためにわざと脱線させました。鉄道事故復旧訓練では準備も大変です。
事故車両の中には、車椅子やベビーカーのお母さんの乗客の姿が見えます(本来、事故車両のドアはしまっていますが見えやすくなるように開けてあります)。
実はこの乗客役は京急電鉄社員のみなさん。さまざまな部門のみなさんが乗客役として約130名で参加しています。
広報の方のお話だと「訓練を通じて、各部門の連携強化や意識の向上を図る意味合いもあり当社としても貴重な場」になっているとのこと。大きな会社だったり、現場とオフィスが離れたところにある業種だと、お互いの仕事を見る機会が少なくなりがち、とても大切な時間です。
運転士は踏切道内に侵入してくる乗用車を発見!
担当運転士は非常ブレーキをかけ、この列車から半径約1キロ以内の列車と運輸司令に対して異常を知らせる「発報信号」のスイッチを押します。異常を知らせるため、警笛を鳴らしヘッドライトを点滅させます。また、パンタグラフを降ろしておきます。
運転士は事故の発生を車掌に連絡するとともに、列車が脱線していたため、発炎筒・携帯型列車無線機・緑色旗・赤色旗を携帯し、対向列車を止めに向かいます。
対向列車に知らせなければなりません
鉄道車両のブレーキは、最高速度で走行中非常ブレーキをかけて600m以内で停止するよう定めて(※)いて、対向列車も停止できるように運転士も600m以上見通せる位置まで走ります。対向列車が来ない場合もその地点に発炎筒をセットして事故現場に戻ります。
これは「列車防護」といって、被害の拡大を防ぐためにも非常に重要な処置です。
※区間や事業者によって異なります。
車内へアナウンス
車掌は、運輸司令に状況を連絡。車内放送で乗客へ事故発生を知らせ、その後乗客に負傷者がいるかを確認します。受話器のようなものは「携帯型列車無線」といって車両の全ての運転台に整備されていて、事故現場からの連絡を行うことができます。
「線路に降りるなど勝手な行動は大変危険です。ご案内するまでそのままお待ちください。車掌が後ろの車両から車内に参りますので、怪我をされた方はお知らせください」と繰り返し繰り返しアナウンス。
音声で「運輸司令」から全列車担当乗務員への連絡が聞こえます。「久里浜線走行中の全列車は最寄駅に停止してください。現在、駅に停車中の列車は運転を見合わせてください」そして、品川・横浜方面からの下り列車は京急久里浜駅で折返し運転となります。
運輸司令とは、運転士・車掌など列車乗務員や駅等に業務指示を行う役割で、ダイヤの乱れが発生した時に、運転整理、設備の復旧作業指示、バス代行の手配など振替輸送の依頼を行います。重大事故が起こると大変重要な役割を担う文字通り司令塔の重要な役割。
連絡を受けた駅長・駅係員が事故現場に到着。駅などに備え付けの非常用脱出ハシゴと担架を持って駆けつけます。
運転士・車掌から報告を受け引き継がれた久里浜駅長が、さらに詳しい情報を運輸司令に報告します。
並行して駅助役が、お客さまに状況をアナウンス「この列車が京急久里浜~YRP野比駅間を走行中に遮断桿を突破し線路内に侵入してきた乗用車と接触、脱線停止いたしました。復旧に相当の時間がかかると思われますので、安全なところまで避難していただきます。準備でき次第ご案内いたしますので、今しばらくお待ちください」
続いて、乗務区の係員・車両関係や保線・土木・電力・通信といった施設関係の係員の先発隊が、事故発生の連絡を受け、タクシーなどで現場に到着しました。人員は保線4名・土木9名・電力4名・通信4名・車両4名。駅長の指示に従い、黄色いヘルメットの電力区員2名が避難誘導に支障がないかどうか、断線した電車線の状態を確認します。
いよいよ避難誘導です
「順番に電車から降りて一旦集合していただき、その後2列で京急久里浜第2踏切道まで100mほど歩いて避難いたします。係員の誘導案内に従ってゆっくりと」実際の事故では、脱線していない車両から降りていきます。
負傷者が4名、うち重傷者1名。乗用車の運転手1名は負傷して車内に閉じ込められている状態。準備が出来しだい避難誘導にかかりますが、負傷者については救急隊の到着を待って救出します。
現場から連絡を受けた消防と警察が到着。現場に警戒線が設定されます。警察は警備行動・事故現場の検証・鑑識など、消防による救出活動が開始されます。京急電鉄では日頃から沿線の警察・消防機関と、今回のような訓練を通じて連絡・協力体制の強化や、相互の意思疎通を図っています。
京急サービスの警乗警備員も乗客の誘導に参加。整然と誘導していきます。
オレンジのワッペンの人がいます
通勤途中に事故列車に乗り合わせた京急電鉄関係職員が、乗客の避難誘導を手伝っています。その関係職員たちは左胸にオレンジ色のワッペンを貼り社員であることをわかりやすくしています。このワッペンは通勤時や私用で京急電鉄線を利用中に大規模災害・事故が発生した場合、支援活動を行う際に使用するため社員全員が携帯しているものです。
※訓練ではわかりやすく実物より大きめのものを使用しています。
救急による乗用車のドライバーが救出され、救急車で病院へ搬送。
乗客の避難誘導までおおよそ35分。息をつく暇もありませんでした。
並行して行われていた乗務員の調査で、事故現場の設備ではレールとまくら木等の損傷、踏切警報機・遮断機・発光信号機が倒壊、電力柱が曲がって損傷、電車線および列車無線の誘導線が断線、脱線により踏切の信号機も倒れている状況であることがわかりました。設備的には甚大な被害です。
現地指揮所が開設
京急電鉄線の駅は全部で15のブロックに分かれていて、事故発生現場は京急久里浜駅の管轄なので、まず京急久里浜駅長が中心となって活動します。役割は総合司令所や関係各所との連絡を綿密に行い、円滑な復旧作業を目指すこと。京急久里浜駅長のもと車両課長・保線課長・通信課長が各部門の責任者として現場を指揮します。
これから復旧作業に向けた作業が始まります。
続きは「安心・安全の列車運行を支える鉄道作業員の仕事現場をレポート!」の記事でご覧ください。
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