iPodで気づいた!技術を広げていくことの大切さ 燕市磨き屋一番館
みなさん、ご存じiPod!
でも新潟県の燕三条エリアでこのピカピカの背面が磨かれていたことは知っていましたか?
このピカピカは「鏡面磨き」といって、金属加工製品が製品になる直前の仕上げの工程、命を吹き込む作業!今日はApple社のスティーブ・ジョブズにもその技術の高さを見込まれた職人さんたちの後継者を育てている「燕市磨き屋一番館」で磨き体験&見学です。
「燕市磨き屋一番館」は燕市が研磨技術の後継者の育成、新規開業者の促進、技術の高度化による産地産業の振興と研磨技術の普及を図ることを目的に開設。
体験の前にお勉強です。
燕市や三条市を含む新潟県県央地域は、金属加工業を中心に約600年にもわたる「モノづくり」の実績があり、鍛造・圧延・プレスなど幅広い金属加工の技術が集積。今日見学させてもらう研磨もその主要な技術のひとつとして発展してきました。
江戸自体には農家の副業として神社に使われる和釘(わくぎ)が生産され、明治時代に海外から洋釘が入ってくるまで続きました。
明治以降、燕市ではカトラリーの製造が地場産業として発展。国産洋食器の90%以上を生産する洋食器の町として知られています。あのノーベル賞のレセプションで使われる食器もこの地域の山崎金属という会社が作ったものが使われています。
研修生がずらり。燕市のピカピカ技術を守っていく人たちです。
近年は中国をはじめとするアジア諸国との競争から、この地域も研磨に関わる事業者数や技術者の数が著しく減少しています。
このままでは金属加工の産地の衰退、そして研磨技術の従事者がいなくなってしまう心配があるため、燕市磨き屋一番館が生まれました。燕市磨き屋一番館を委託運営しているのは「燕研磨振興協同組合」。高度な産業技術を支える卓越した技能を有する人たち「にいがた県央マイスター」に認定された「マイスター」が研修生を受け入れ、指導。現在の研修生は9名です。
手だけではなく、体を左右に揺らしながらゆっくり動かして作業しています。
飛行機の翼も磨く
こちらの展示は小型ジェット機の翼の一部。手で持ち上げられないので、ハンド研磨機で磨きます。機体の浮力に影響するので歪みやへこみはNG。また、少しでも凹んだり傷が付いていると上空で水蒸気が凍りつき空気抵抗が高まり、その結果機体が重くなってしまうので、こんな大きなものでも最高の磨きの技術が求められます。磨きは空の安全にも関係しています。
ピカピカにしてやる!
いよいよ磨き体験です。タンブラー磨きに挑戦。
「技術・技能は人に伝えて初めて意味を成す」
今日の磨き体験の先生は、高橋千春さん。
県立巻高校、法政大学を中退後、東京都内の室内装飾会社へ就職。25歳のときに燕へ戻り、昭和63年に金属研磨仕上げ単—等級を取得。バフレース研磨はもちろん、フレキシブル研磨、ハンドバフ研磨などを複合させ、大きな製品から小さな製品まで鏡面仕上げができる極上の磨き職人さん。
自らが企画する「マイスター塾」や工業高校、テクノスクールの外部講師などの技能継承活動を行いながら、優れた技能の維持や継承、人材確保、人材育成を回り、地域産業の振興の一翼を担っています。
ぱっと見キレイに見えますが、これはまだ「粗磨き」という工程が終わった状態のもの。表面を粗く削る「粗磨き」、「中磨き」というもう少し目を細かく研磨したもの、「仕上げ磨き」という名前の通り製品の最終状態にする工程と、だんだん目を細かく研磨していきます。
バフ(羽布)!
研磨のマシンにはクルクル回る機構があり、羽布(バフ)を使って磨きます。
研磨の細かさによって素材が異なっていて、粗磨きで使用するのは羽布に細かい鉄の粒がまぶしてあります。
仕上げには綿の素材。だんだん柔らかい素材になっていくんですね。
これが研磨機。今回は左の席を「中磨き」、右を「仕上げ磨き」用に使います。
さて、どれほどピカピカになっていくのでしょうか!楽しみ。
先生のお手本から。ポイントは研磨機への体の距離と姿勢。手袋を二重ではめるのは、熱が発生するので手の保護のため。
もっと腰を入れて、グイッと!でもうまいゾォ〜
先生の喝と激励の声が飛びますが、やさしく褒めてもくれます。うれしいです。
ぐるぐる高速で回る羽布に負けないように腰をグイッと入れ、磨くタンブラーは負けないように膝がしらで支える感じ。タンブラー自体はゆっくりと左から右に動かしていきます。いま当てている面が磨けたな、と思ったらタンブラーを回していきます。ゆっくりとかつ均等に移動させるのがコツ。
だんだん押し付け具合がわかってきました。口も閉じてきました。
中磨きのビフォー&アフターです。やっぱり全然違うな。やる気がでる輝きです。
見よ!この輝き。
指紋をつけたくないので触るのに躊躇します。
今回は円筒型なので形状も簡単で、一つだけだったので素直にキレイお美しいと感動しましたが、同じ品質・スピード・仕上がりと均一に保つのは大変だなぁと知ることができました。
ピカピカiPodがきっかけになりました
このピカピカiPodの裏面の鏡面磨き作業を請け負うお話が来た当初はとても実現が不可能と思われていました。理由は研磨の時に発生する摩擦熱で厚さ0.4mmの板が歪んでしまうため、その形状を保ちつつ、キレイに磨き上げることは当時、職人さんでもなかなか難しいことでした。
しかし、職人さんたちの協力と努力の結果、なんとか無事仕上げることができ「あのiPodのピカピカが日本の燕市で作られている」と知名度がアップ。この地域が世界的に注目されることになりました。そしてこの時みんなが気がついたのは、協力し技術を広げていくことの重要性。代々受け継がれてきた技という閉じた世界から、後継者の育成を始めとする育成と技術の拡大に意識を転換することになった出来事でした。
磨き屋一番館の使命は、技術の継承、後継者の育成と研磨技術の大切さを広めること。磨き体験を通してその価値を感じてもらい、広く知ってもらう活動を続けています。
研修生のみなさん、これからもピカピカな技術を磨き上げて行ってください。
今日は貴重な現場を見せてもらって有難うございました!
(text:西村、photo:市岡 ※一部の写真は磨き屋一番館さん提供)
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