かける人のこと考え抜いたメガネ作りが、ターニングポイント 谷口眼鏡
眼鏡フレームで有名な福井県鯖江に来ています!
こちらでは、10月31日、11月1日のオープンファクトリーとマーケットのお祭り「RENEW」が開催されました。このRENEWはメガネや漆器など1,500年以上続く河和田地区のモノづくりを生で体験してもらうために、活動するメーカーやクリエイターといった作り手たちが工場を開放し、作り手の思いやものづくりの背景に触れながら商品を購入できる体験型マーケット。普段は開放されていない工場をいくつも見ることができましたのでそのレポートをどうぞ!
鯖江産のメガネフレームの国内シェアは96%で世界シェアでも約20%。そのため就業者の7人に1人はメガネ産業に従事しているほどなのだとか!市のキャッチコピーもズバリ「めがねのまち さばえ」ということで、河和田地区のメガネ工場、谷口眼鏡(たにぐちがんきょう)さんにお邪魔します。
谷口眼鏡は1957年創業、メタルやプラスチック、樹脂などいろいろな素材がある中で谷口眼鏡はセルフレーム一筋。15人の若い職人たちが丁寧にMade in 河和田のメガネを自信と誇りをもって作っています。
玄関先にはメガネの素材で作った素敵なオブジェも飾ってあります。楽しくなる。
社長の谷口康彦さん、今日はよろしくお願いします。
さっそく工場にお邪魔いたします!
「アセテート」というメガネフレームの素材。いろんな色彩があり、加工しやすさ・デザイン性に優れています。なんと原料は綿花やパルプなんですって。天然素材が原料だなんてオドロキ!だから肌触りがよく、温かみがあるんですね。ちなみにこちらの板はイタリア製で、この1枚から70〜80枚のメガネを作ることができます。
レンズ部分が削られる「内径削り」。このまま怪しいパーティに出席できそうなイメージです。
パット付けはメガネフレームと同じ素材が溶剤で溶かされくっつきます。そしておおよその形ができてきたところで、
ガラ削り。
大きな福引きの機械のようなものに外径削りされたメガネフレームが入り、ガラガラされます。
中にはチップが入っていてこれが研磨剤とともに磨いてツヤを出してくれます。
ガラ削りにも「荒ガラ削り」「中間削り」「仕上げ」とステップに分かれていて、それぞれ中のチップも変わってきます。
夏は気温が高く、冬にかけては湿度が多い鯖江ではその時の気候によって仕上がりに影響があるので、加工場内はエアコンで温度湿度の管理。そしてつけっ放しも注意。消し忘れダメ!絶対。
荒ガラ削りが終わったメガネたちは、さらに次の工程を待ちます。
ここでワークショップ!
今回の工場開きイベントと合わせて谷口眼鏡ではワークショップを開催。
メガネで使われるのと同じ素材「アセテート」でオリジナルピンズ作りを体験しました。
たくさんの柄のデザインの中から、おメガネにかなった生地を見つけて、
職人のお兄さんに教えてもらいます。これは仕上げのガラ磨きの後、さらにきめ細かく仕上げるための手磨きで使う研磨機。メガネでやるのと同じように磨いていきます。
水を吹き付けます。これは摩擦熱で乾いていく羽布(ばふ=高速で回る部分)をしっかり潤わせるため。
研磨剤を水で泥状にしたものを塗りつけます。房州粉と呼ばれていて、むかし千葉県で取れていたから、らしい。
羽布あてて磨きます。機械の回転に負けないように一定の強さで押しつけるのがコツ。メガネの場合は曲線が多いので形状にあわせて回しながら押し付けていきますが、たくさんのメガネたちを同じサイズで仕上げていかないといけないので、慣れるまでには少し経験が必要。
ツヤを出す仕上げ用の羽布に変えて、研磨剤もマーガリンがかたくなったみたいなやつを塗って...
磨き終わったら、次に好きな絵柄をチョイスします。
どうしようかな、迷う、その2。
今、体験させてもらった絵柄付けの作業は、実際のメガネだとこういったところに使われます。
製造工程の見学に戻ります!
手磨きされたメガネフレームには、接続部分に蝶番という金具が取り付けられ、
前の部分とテンプル(メガネの横のパーツ)がくっつきますが、まだ合わせ目がでこぼこなので、
出っ張りをヤスリで削ります。上が削ったものです。わかります?
谷口さんは2代目。メガネの専門学校を卒業後、メガネの小売業での5年間の修行を経て26歳の時に家業である谷口眼鏡に戻ってきました。当時、谷口眼鏡では眼鏡問屋さんなどの下請けがメインでしたが、売上の大半を占める取引先が倒産。
そして、若き谷口さんが立ち上げたのが自社ブランド「TURNING(ターニング)」でした。
このTURNINGは谷口をもじった!だけではなく、まさに流通に振り回されず、自分たちのモノづくりをしていく、まさにターニングポイントの決断、という思いが込められています。
しかし、30年前の眼鏡業界はフレームが優れているか?といった性能で売れることはない時代。ビッグブランドの名前をつければ売れる状況でした。しかし、小さな工場では高額なライセンス料を支払うこともできません。「どんな強みがあるか?」と頭を悩ます康彦さんがたどり着いたのが、小売の現場で獲得したフィッティングの技術。
今でこそメガネを通販で買うことは珍しくありませんが、メガネを得ることは対面販売が基本。
検眼や「いかに心地よくかけ続けてもらえるか」というフィッティングこそが自分の強み、その強みを生かしニーズを汲み取るモノづくりを行う、を考え方の基に自社ブランド「TURNING」がスタートしました。
快適なメガネは、小売店のフィッティング技術や選定ノウハウ、フレームやレンズメーカーの技術、それら総合力で出来上がるものです。
フレームメーカーの役割としては、第一に小売店の人がフィッティングしやすいフレームを作ることが大切です。TURNINGフレームのテンプルに挿入しているジョイント芯は全てチタン製が使われていますが、使う部位によって2種類のチタン材料にしています。こめかみに近い方はしなやかな弾力性のβチタン、耳側は柔らかい純チタンを使って、フィッティング調整をしやすくすることで、小売店と連携して快適なメガネを目指しています。
お客様の中には強度近視の方もたくさんいらっしゃいます。当然、メガネの前の方が重くなりズリ下がりやすくなります。ですから、テンプルの耳部にボリュームをつけ、バランスと保持力を高める設計にしています。
それから一番大事なことですが、メガネは「お顔につけるもの」だということです。ですから「安全」がとても重要です。守る順番は(1)目、(2)顔、(3)レンズ、(4)フレームです。つまり、フレームは日常使い以上の衝撃を受けた時にも、目や顔にケガさせることなく上手に曲がったり、場合によっては壊れなければいけないということです。TURNINGフレームでは、テンプルのこめかみ部分に弾力性を持たせることと、蝶番(ちょうつがい)部分を適度な強度に設計しています。
「快適で安全、そしてカッコイイ」がTURNINGの目指すところです。
谷口社長自らフィッティングを見せてもらうことができました。ちなみにメガネはカメラマンのかけていたものです。じーっと顔を眺めて、顔の形をチェックした後は、
工場見学、ワークショップ、インタビューの後はやはりメガネ選び。
かっこいいデザイン性に加えて機能的な裏付けが必要、という谷口さんの思いは、日本人の扁平顔にも負担にならず、柔軟でフィッティング感に優れたテンプル、という形になり製品に結実します。
「鯖江の眼鏡は技術的には世界一だと思いますが、世界一売れているわけではない、つまり、優れたモノづくり、高い技術だけでは世界一にはなることができないことも一方の現実」と谷口さん。流通を簡素化して新しいマーケットを作ることはもちろん大切だけど、課題は「ブランディング、伝達の濃さ」。
『谷口眼鏡かけてるよ!』って言われるようになりたい
「今回の工房見学やワークショップを通じて、当社の若い職人たちにも、普段あまり接することのない一般のお客様やメガネをかける人とつながる機会を体験してもらって『眼鏡枠の目指すところ』をお客様目線で考えられるようになってもらいたい。
そのことが作り手と使い手の相互な信頼に発展していく基礎になると思っています」と谷口さん。
フィッティングの経験から得た顧客の目線で、メガネづくりを続ける谷口眼鏡。このRENEWというイベントが次のターニングポイントになって、さらに使う人に近づきました。Made in 河和田のセルフレームが世界一のメガネになる日も遠くないように感じました。
最後に記念写真をパシャリ!!
谷口眼鏡のみなさん、今日は本当に有難うございました。
(text:西村、photo:市岡)
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