木のことを気づかせないのが木地職人のいい仕事! だけど、木への愛情だけは隠せない 井上徳木工
漆器の産地、福井県鯖江市河和田地区の井上徳木工さんにお邪魔します!
井上徳木工さんは、漆器の中でも丸いお椀などではなく、重箱やお盆など木の平面を組んで木地を作る「角物師」という職人のお家です。
井上孝之さんは有限会社井上徳木工の二代目。高校を卒業したのち家業を継いだのは28年前。以来、ここ河和田の土地で木地職人として活躍中。
今日は河和田のイベント「RENEW」のワークショップで、カッティングボードづくりを体験させていただきます。
カッティングボードとは、まな板のこと。しかし最近では調理の道具としてだけではなく、おしゃれなカフェで、お料理をのせるプレートとしても使われています。
今日使わせていただく木材は「アガチス」という木材。別名「ナンヨウカツラ」ともいって、マレーシア、ベトナムなどの東南アジアが原産で、タンスなどの家具、彫刻した玄関のドアの材料、ギターのボディーにも使われていて用途が広く、木材加工の初心者でも比較的扱いやすい材料です。
空き時間を利用して製材置き場にも入らせていただきました。
これらの製材は2〜3年前の物が保管されています。木は切ってすぐだと水分が含まれていて、反ってしまうなど微妙に変形することがあるので、使用する前には十分に乾燥させなければなりません。最近では製材所で乾燥済みのものを仕入れることもありますが、まずは乾燥させるのが基本。
保管方法にも実はコツがあり、ビッチリと積んであるように見えますが、「桟積み(さんづみ)」という方法で風が通るように、隙間をわざと開けて並べ、何段にも重ねて乾燥させます。
朴の木(ほおのき=葉っぱの部分がほおば味噌に使われるアレです)は、反りが小さく加工しやすい、
粘り気があって曲げやすいのでわっぱにも使われ値段もこなれている米ヒバ、
ナチュラルテイストをいかしてクリア仕上げに適したタモ、などなど多くの樹種の材料が保管されていますが、フタ・底は狂いが少なく乾燥しやすいものといったように使う場所や用途によって、たくさんの種類の木材を使い分けていきます。この使う材料を選定することを「木取り」と言います。
大きく見える木材ですが、最近は日本の木は特に、仕入れる木のサイズが同じ価格でも少し幅が狭くなっていたり、年輪が粗くなってきているそうです。これは早く育っている木が流通されるようになっているのが理由。製材屋さんで細かく切るとコストがかかるので、厚いままの状態(厚物=あつもの)で仕入れることもあります。
しかし、数年保管し用途が様々だとコスト的にも流行に素早く対応できないのでは?という意地悪な質問をしてみたところ「河和田は漆器が中心で流行に流されないので、木地職人としてはそんなに困らない」というお答え。それに、
「使っている木をわからせないのが、木地職人にとってはいい仕事だから」
つまり、漆器に使われる目的で作る器の場合、木目などの木の特徴が出ない仕事の方が良いとされているからです。美しい木目を生かすのではない漆器の世界では、木目が出ている材料は狂いやすく、扱いにくいものとされています。
しかし、そのためにはやはり用途や木の特徴・状態を知り尽くして見極める必要があります。職人は手を動かす前に仕事がはじまっている。かっこいい。
また、越前漆器は業務用が中心なので、繰り返し熱くなっても変形しない耐久性に優れたものが求められ、お重の場合は積み重ねて利用されるので、いかに狂わないかを見極めることが必要。
フタとお重本体でも木材は使い分けられます。
「木が反る、と書いて板と読む」
「どこかで『木が反ると書いて、板とよむ』と聞いたのだけど、これは木に携わる人がいかに上手に付き合っていくかを表した言葉です」と井上さん。
その年の気候によっても微妙に木が動くことがありますが、河和田は分業でも木地作り、漆塗り、蒔絵など小さな場所で漆器作りで仕上がるようになっていますが、気候は同じ。河和田であれば湿気による変化も実はそんなに神経質にならなくてもよいのだそうです。
今でこそ流通が発達して全国どこの器でも手に入るようになりましたが、漆器の産地が日本全体に適度に散らばっているのは、作るのも使うのも気候や温度が似ている同じ場所で完結していたのが理由では?というのが井上さんの見解。なるほど!
工房の中には、切ったり削ったり磨いいたり。木を加工する機械がたくさんあります。
図工室っぽい。
こちらの修理というか改造の内容はというと、左手にもっている品物はもともと台として使われていて足の部分を切り落としたもの。
これまで畳の上に置いて使っていたものでしたが、テーブルの上で使えるお盆的なものとして再利用されることになりました。食生活の変化とともに道具の形も変わっていきますが、新しいものを買わずに、もう一度使われるなんて幸せな漆器たち。もちろん、それだけ高価だったということもあります。このように長い時間を超えて使われるのも漆器の良いところ。
工房の中にあるたくさんの機械、年季が入ったものもありますが、このHATTORI社製の昇降盤はすでに40年以上のものもあります。このメーカーは残念ながら今はもうないのですが、実は中古市場ではレアで人気のモデル。今も現役で40年以上働いてくれています。メンテナンスは購入した機械屋さんが定期的に来てくれて消耗品を含めて面倒を見てくれています。
ヤスリで側面を磨いた後、一番面積の大きな面の部分はカンナ盤にかけます。
こちらのオイルたち、カッティングボード用で食用にも大丈夫なコーディング剤です。とても高価でヘタするとカッティングボードよりも高い!
最後にきれいにラッピングしてもらって完成。
オイルが染み込むまで1〜2日置いてから使うことができます。
このカッティングボード作り、朝イチにお伺いしたにもかかわらず、予想を上回るみなさんが参加されていました。
「ワークショップをカッティングボードづくりにしよう!というアイデアはもちろんうちの奥さんです。
井上さん自身も「予想外の盛況にびっくり」。ワークショップは井上さんにとっても初めての体験で、テーブルを借りてきたりカッティングボードの材料を用意したりと慣れないことで大変。
しかし!「ちょっと疲れたなぁ」という言葉とは裏腹に笑顔がこぼれています。
「普段はいつも決まった納期に向けて黙々といつもと同じ作業をするだけなのに、お客さんが来てくれると『難しい!たのしい〜!キャッキャ』となってこっちも逆に楽しくなってきます」
ワークショップの間じゅう、笑顔を絶やさなかった井上さん。生き生きと楽しくお話してくれた木への愛情は、このRENEWというイベントで、参加したみなさんにも確実に伝わっています。
井上徳木工のみなさん、今日はありがとうございました!
【詳細情報】
有限会社 井上徳木工
電話番号:0778-65-0338
住所:福井県鯖江市河和田町26−19
(text:西村、photo:市岡 ※一部の写真は井上徳木工さん提供)
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