枡って楽しむものなんだ!ファッション、縁起物、ITまでもがコラボしたがる日本の伝統製品の「懐の深さ」 大橋量器
「測る」という概念を明文化した道具の一つ、枡。枡を使って天下統一した事業といえば、豊臣秀吉の太閤検地。この時に枡の尺度が統一され、量を均一化させ、税収を正確に数値化することができました。
こちらの大橋量器さんのある岐阜県大垣市は枡のシェアが全国80%。上質な檜が手に入りやすい土地で、長年枡づくりという産業が行われている場所なのです。
でもこちらのお店の枡、よく見ると世界的に有名なブランド名が入ったものや
実は大橋量器さんは、ニューヨークのポール・スミスに枡を納品したことで、話題になった、枡の概念を超える商品を作っている会社さんなのです。
真四角な枡だけでなく、さまざまな枡が、この直営店「ます工房 ますや」で販売されています。
枡を見て「楽しい!」と純粋に思ったのは初めてです。
案内してくださるのは代表取締役の大橋博行さん。
よろしくお願いします!
昔からのエコ発想。高級建材の端材が材料に
それではさっそく枡づくりを見学します。枡づくりの方法は昔から変わらない方法で職人さんたちが丁寧に作業を行っています。
材料となるのは高級建築材、健具材を作る際に出る切り落とし部の、いわゆる端材を仕入れています。昔から建築の際に使わない部分の有効活用をしているのです。
ここエコ?削りくずは天然の芳香剤としても使える
この端材はモルダーと呼ばれる機械にかけられます。下、右、左、上と4面同時に削り、加工するためのサイズに整える機械です。職人さんが建材を手で入れていきます。
一合枡の場合、一日におよそ1600枚の側板用の板材と、400枚の底板用の板材をモルダーに通すとのこと。
最後の工程にもカンナがけがありますが、組み立てる前に内側だけをかんながけすれば、あとで作業する面が少なくて済む。効率のよいフローになっています。枡の側板の場合は内側になる面1面をツルツルにかんな掛けします。
カンナを掛けた時に出るひのきの削りくず。作業場の中は檜のいい香りが充満していました。さぞや気分よく仕事ができるのではないかときいてみると
大橋社長「みなさんそうおっしゃるんですけど、慣れてしまって…」
なんとも贅沢な話。この削りくずはお店にも香りのおもてなしとしてつかわれていました。
鼻が慣れていない私にとっては天然ヒノキの香りに癒やされます。
枡のアイデンティティ「組目」を作る
こちらは下から下から丸ノコ(チップソー)が飛び出す、ジャンピングソー。木の大きさを一定にしていきます。
こちらはロッキングカッターを使って、 枡の組目となる溝(ほぞ)を掘ります。この組目は枡のアイデンティティであり心臓部。重要な工程です。ほぞをつくる際に爪の部分を潰して、後に元に戻す工夫(「木殺し」という!)がしてあるそうです。
複数枚のカッターが等間隔で機械内に並んで回転。一度の上下動で左右対称(オス・メスという呼ばれ方をしています)となる溝が掘られた駒(枡のパーツのこと)ができます。
ほぞ同士を組み合わせると、釘などを使わず駒を固定できるのです。シンプルな作りですが、ベストなバランスでないときちんと固定されません。
機械で量産する方法と、手作業を使い分けて「のりづけ」
続いてはのりをつけて、固定していきます。塗る場所は溝の間に20枚同時にブラシで、多すぎず少なすぎず均一なのりの量でまとめて塗っていきます。
ここをバランスよく塗っていくのは職人技。口につける枡。食品安全衛生上問題ない木工用ボンドを使っているので安心です。
たくさん生産される一合枡の場合は、機械で仮組み。
機械と手作業を使い分けています。
昔ながらの道具でギュッと締め上げる
のり付けされた状態の駒4枚一組で四角に組みたてた後は、軽い圧を掛けて仮組を行います。 長方形、八角形など特注サイズなどは今でも手組みで組んだ後に本締めをしています。
目視で締まっているかどうかの品質チェックも同時に行います。組む速さや締める感覚。これらは熟練した技術が必要な工程。
もうすぐ完成!枡に底付けします
あとは底をつけて完成です。
底板を貼り付けるに、手で(人力)で締めて一晩乾燥させる方法と、底付け機を使って熱で乾燥させる方法と2種類あります。
これも職人技。仕上げる
形が完成した枡は熟練した職人が枡の外側4面を丸く仕上げます。
そして手作業で面取りも丁寧に行っていきます。
面取り製品の角を丸めることで、枡を使う方の口当たりなどを配慮する作業です。
さらに個性をプラス。完成した枡に装飾。
結婚祝いの枡など、枡に焼印をする作業や、カラフルなカラー枡の作業に入ります。
実際に挑戦させていただきました。
これが意外と力加減などが難しい。枡に高温で圧を掛け焼き付けていくので、力の加減を失敗すると、必要以上に焦げ色が濃くはっきりと押印されます。
こちらはカラー枡を仕上げるシルクスクリーンの現場。
この日は作業がなかったので見られませんでしたが、いくつもの色を枡に塗った足跡がたくさん見られました。
女性が活躍する職場
ちなみに大橋量器さんの職人さんは女性がたくさん活躍していました。先ほどの焼き印担当の方も女性の職人さん。
個性的な枡の誕生は、売れなかったことがきっかけ
大橋社長が会社に入社したのは1993年。当時から会社の営業を担当し、枡の売上の伸び悩みを感じていたそうです。
大橋社長「それで危機感を覚えて、今までにないものをやってみたいと思うようになりました。お酒を呑む以外の用途として、枡に盆栽を入れてみたら、いいんじゃないかなと。それで自由が丘など感度の高い雑貨屋の多い地区を周りました。時には飛び込み営業することもありましたよ。」
しかし、斬新すぎる枡の活用は、なかなか伝わらない。そんな中、1社からオーダーが入る。
そこのオーダーが「正月のギフトにしたいから枡を赤黒に塗ってほしい」ということ。
無茶だと思われるオーダーが枡の可能性を引き出した
大橋社長「枡は木の美しさが売りなのに、それを台無しにするなんて…最初は抵抗がありました。でも試作品づくりで、思い切って塗ってみたんです。すると意外と木の温かみなど魅力を損なわないことに気づいた。あ、これはうちの仕事だなと思ったんです」
その後も、桝屋としてギフトショーに出たり、さらにはアメリカのギフトショーにチャレンジしたり。「NOといわない営業」で、どんな特注品も受けて、枡の可能性を探ったそうです。
今までで一番難航したという六角形のアポロワイン枡。ワイングラスのようなシェイプをつくるのが難しい!
真四角以外にもいろんな形がさまざまなことに使われる枡が誕生。
まさかのITと枡のコラボも成功
「枡が光ったらモテるかなって(笑)」
今年、クラウドファンディングMAKUAKEで目標額を達成した「光枡」(HIKARIMASU)。
その紹介文はこんなふうに書いてありました。
「木を光らせたら絶対に綺麗!これで飲んでいたら俺だけモテル!?」そんな中年オヤジの遊び心から生まれた商品です。
チームは2013年9月、岐阜県大垣市にある大学院大学IAMAS主催の新商品開発を目指すアイデアソン・ハッカソンで結成。枡をどうしても光らせたいチームメンバーのオヤジが、ある日突然アイデアスケッチだけでは伝わらないと、自宅で枡を改造し、試作品を持ってきたのが始まり。
オヤジの遊び心というのが面白いですね。
光の色やON/OFFはBluetoothで操作可能。実際にこれを持って飲みに行ったメンバーは、かなりモテているそうです(笑)
枡って、本当にコラボ力が高いんですね。
楽しいから人におすそ分けしたくなる
こちらの枡をみて、お話を聞いていると欲しくなってしまったので、個人的に友人へのプレゼントとして購入しました。
これだけ手間のかかる製品であっても「手の届かないものにしたくない」という社長の思いで、どの製品も1000円台から購入できます。
戦国時代に量が統一された枡は、測ること、お酒を飲むことを超えて、ギフト、ファッションやITいろいろなものとコラボレーションする力があることを知りました。
単品でも主役になれるし、いろいろなものとも協力できる。
枡って、懐が深いんですね!
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