柳宗理デザイン 本当の美がうまれる工場 日本洋食器
柳宗理さんデザインのカトラリーや、キッチンツールなどを中心に製造を請け負う工場があると聞きつけ、しゃかいか!は、新潟県燕市の日本洋食器さんへやってきました。今回は、1年に1度、主に見学のために工場を開放するイベント「燕三条 工場の祭典」に合わせて行われていた日本洋食器さんのイベントに参加してきました!
こちらの工場では、スプーンやフォークの成形をしています。隣の工場では研磨や検品、包装などの作業が行われています。それでは、工場見学スタートです!
スプーンの工程は、材料切断→地抜き→ロール→半切り→マーク→柄押し→つぼ押し→研磨→洗浄→検品→包装と11段階の工程を経て完成します。
まずは、切断されたステンレス板から元になる形を打ち抜く「地抜き」の工程です。
製品によってステンレス板の大きさを変えて、互い違いにできるだけ無駄のないようにくり抜いていきます。
スプーンの口に入れる先端部分を薄くする「自動ロール加工」を行い、打ち抜いたステンレス板をプレス機で引き延ばします。この段階では、まだコテのような形状をしています。
厚さ、薄さのバランスが重要
職人さんの目で見て打ち抜かれたステンレス板を手でロール加工していきます。スプーンの口に入る部分の厚さ、薄さのバランス調整が使いやすさのポイントです!
さらに、スプーンの頭部を丸く打ち抜く「半切」をして形を整えていきます。コテからしゃもじの形状に!
これはステンレス板からスプーンを抜いた抜け殻です。
レードルやお玉は大きいため自動プレス機ではなく、スプーンの柄になる部分をプレスして模様を出す「柄押し」していきます。
1の形状をプレスして2の形状へ。持つ手を考えたスプーンの柄になる部分が誕生しています。
次のスプーンの先端に凹みをつける「つぼ押し」の工程では、プレスによる1回目の絞りで平なものを浅く絞ります。さらに2回、3回と絞って形を整えていきます。微妙なプレスの違いで形状が変化してしまう緊張の作業です!
自動研磨機では対応できない形状や大きさのものは、職人さんの手で丁寧に磨かれます。
持ち手の部分が黒柄でつくられている黒柄のカトラリーです。
黒柄カトラリーのデザートスプーンの製造では、黒柄の部分とステンレス部分を接着した後に使いやすい形になるよう職人さんが手作業で研磨する「ダマ磨き」を行います。少しの研磨の違いで使いやすさが変わってしまう重要な作業です。
1日6,000本磨く
ステンレス製の小さなサイズのコーヒースプーンやデザートスプーンは、自動研磨機の1列に柳宗理コーヒースプーン19本,
デザートスプーンだと13本を並べます。
通常1日8時間で約6,000本を研磨していきます。15本の組み合わせで600回繰り返すと9,000本!
カトラリーだけで30種類くらい生産している工場では、主に国内向けに生産していますが、台湾、アメリカへいくカトラリー、キッチンツールもここでつくられています。
一つ一つ厳しく検品して包装後、完成です!
次は、ステンレスボールの成形です。
ステンレスボールの底の膨らみや立ち上がりのフォルムなど使用用途に合わせてつくられています。丸いステンレス板を絞り、余分な部分をとります。
23センチの大きさのステンレスボールは、泡立てに最適な形になるようにつくられています。他の大きさのボールよりもボールの底に丸みをもたせて泡立てやすくしています。
金属素材をプレス加工する際、金型の表面を保護せずに金型に力を加えていくと、金型と機器の接触面間で大きな摩擦が発生します。その結果、割れや傷がついてしまうため摩擦を少なくするため揮発性の油を使用します。
油をつけてステンレスの上部の丸い金型部分のすべりこみ部分を調節します。油で滑り込ませて、底の丸み部分を成形します。季節によって使用する油も変えます。38年のベテランの職人さんが、深さの調整を油の量を調節して、金型のすきまに紙を挟んですべりこみ部分調整していきます。
シンプルで美しく成形を終えたステンレスボールたち!
本日は、柳工業デザイン研究会で20年余、ものづくりをされている藤田光一さんのお話をお聞きすることができました。
人間の手で使うモノを、手で作らないでどうするの?
柳デザインでは、工房でのワークショップにおいて、模型を作りながら、考え、試み、デザインしていきます。デザインの発想は、頭の中で瞬間的に出てくるものではなく、デザインの構想は、デザインする行為によって触発されます。大切なことは、デザインによって作るのではなく、作ることによってデザインが生まれるということ!人間の手で使うものをパソコン上で考え始めてしまっては本当のデザインにはならないのですね。
デザインの進め方
また、デザインは決してデザイナー1人で出来るものではなく、多くの職人の手によってモノは作られています。「モノを作るには、まず人と人との繋がりを作ることから始まります。メーカーや製造現場との間では、一緒にいいモノを作ろうという同じ意思を持ち協力し合えるチームの様な信頼関係があります。双方新たなことに取り組んでいく積極的な姿勢が創造を生み出し、それがカタチとなって生み出されていくのです」と藤田さん。デザインする作り手と生産する作り手両者の強い信頼関係があるからこそ実現されてきたプロダクトデザインなのですね。
ケトルは、ふたからの距離など考え、計算されつくして一つ一つの形状が生み出されています。
本日は、日本洋食器の皆さま、取締役古俣之宏さん、柳工業デザイン研究会の藤田さん、プロダクトデザインの生まれる現場、そのデザインを生み出す工場双方のご案内をしていただきましてありがとうございました!
(※1)柳宗理・・・戦後の日本を代表するインダストリアル・デザイナー。生活用品から大型公共構造物まで手がけるほか、世界デザイン会議やオリンピックのデザインにも参加する(柳宗理記念デザイン研究所参照)
(text:坂田、photo:加嶋)
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