Sponsored by 新寿堂
長く使い続けてもらうことを支える、手帳製本の技術 新寿堂
東京板橋区にある手帳専門の印刷・製本会社「株式会社 新寿堂」さんにやってきました!
新寿堂では、企業のオリジナル手帳や学生手帳を製造販売。そして、ビジネス手帳のトップブランド「NOLTY(能率手帳)」を作っています。
今日、ガイドしてもらうのは、生産本部長の雲野さん。今日はよろしくお願いします!
現在の手帳は多種多様。表紙の色や素材などの外の見た目はもちろん、中のレイアウトもいろんなタイプがあります。
1週間をパッと一目で俯瞰できるので週ごとの管理がしやすい「ウイークリー」。これは「レフトタイプ」といって、週間の予定は左に、メモは右に配置されたもので、スケジュールと記録をハイブリッドに使えるタイプ。
ページの縦方向に時間軸がならぶ「バーチカルタイプ」。1日に複数の予定が入る営業職などに向いています。
他にも、カレンダーのように月間の予定がざっと見やすい「マンスリータイプ」は、1日の記録が少なくて、主にスケジュールの把握に向いています。スペースが広いので、日記やスクラップブックの目的に向いている1日1ページの「デイリータイプ」なども。
中面だけでもたくさんの種類があります。
これらに、さらにポケットに入れることのできるコンパクトなもの、バッグに入る、またデスクトップにドンッとならぶものなど、見た目×中のレイアウト×サイズの組み合わせで、一つのブランドやシリーズでも本当にたくさんの種類があります。選ぶのだけでも大変!
新寿堂では、こういった商品の仕様・規格や入稿されたデザインデータをもとに、印刷・製本を担当しています。では、印刷・製本の面から手帳に求められる品質は、というと(1)丈夫さ、(2)使い心地の二つ!
開いて閉じて、また開く
手帳は主に1年を通して使われ、さらに記録として保管されることもあるので、何回も開いて見て閉じて、開いて書いて、閉じて開くをずっと繰り返します。何度も開閉するので、本を綴じている部分がやはり傷んできたりします。一年間の使用に耐えられる丈夫さが、まずは求められます。
そして、使い心地。
ずっと使っているとペンの引っ掛かりやカスレ、裏が薄く透けてしまった、といった書き味は、結構気になるところ。通常のノートでも違う種類のものに変えると「あれ、なんだか違うや」というアレです。
さらに、ページをめくったときのちょっとした罫線のズレ。書籍や雑誌でもページをめくっていくうちに「文字が斜めになってるゾ」とか「急にインクが濃くなったな」という経験はありませんか?手帳の本文部分に印刷されるのは、ほとんどが罫線なので見開いていくうちにズレると、一目瞭然。わずかな違いがとても気になるので、実はズレないということは他の印刷物に比べてとても厳格な精度が求められます。
手帳は一年を通して使うので、丈夫さと使い心地がとても大切。
しかしお店で、何度も開閉したり、一ヶ月間借りて試してみるということはできないので、なかなか目的の手帳にたどり着かず、手帳を使うこと自体を諦め、挫折することにつながっているのかもしれません。また一方、一度使い始め慣れると違う手帳にスイッチされにくい理由です。
では、工場を見学!
手帳工場の繁忙期は、年末年始の贈答用を製作する10月〜11月。
今日は11月の末。一番忙しい時期から少し落ち着いてきた頃。
印刷の工程。写真は両面二色印刷機。黒などベースとなる色、プラス日曜・祝日お休みの赤色だから二色。手帳の印刷専用機として使用されています。
インクの缶には「NOLTY スコラ 赤色」「新寿堂グレイ」と書いてあります。通常の印刷ではCMYK(簡単に言うと赤青黄黒)の混ぜ具合で、印刷のときに色を決めていくのですが、新寿堂の手帳では、新寿堂専用の手帳のグレーや商品専用の赤色があり、インクメーカーからあらかじめ作ってもらったインクを使います。DICやPantonの特色と同じです。
2015年と2016年の色が違っていると、同じ手帳を使い続けている人がアレレ?となるからです。また、長期間の保存を想定されているので、色落ちしない耐久性の高いインクが使われます。
紙はこんなに大っきい!
一枚の紙には、何ページ分か組み合わされて印刷されます。これは「面つけ」といって、紙のサイズに合わせて、決まった順・方向・間隔で、ページをならべることです。
これを間違えると、2月の後に1月が来てしまったり、ページをめくると逆さまになってしまったりと大変です!印刷前の製版のときにこの面つけはチェックされます。
手帳の書き味に影響する用紙は、どんな筆記具でも書きやすく、裏写りしにくいことも大切。
抜き取った!
印刷機の担当の人が、1枚すっと抜き取って検査。
機械といっても原料を入れればハイオッケー、完全で同品質のものが仕上がってくるとは限りません。水と油が反発する原理を採用しているオフセット印刷では、水の影響により、用紙の伸縮やどうしても左右・表裏で微妙な誤差が生じてしまいます。手帳製本の会社では、印刷を外部に委託して分業しているところが大半だそうなのですが、新寿堂は印刷機を自社で持ち内製化することで、その精度を保っています。
この機械の場合、一度に印刷されるのは1時間に約8,000〜10,000枚。その中からおおよそ250枚に一度、ズレ・カスレ・濃度ブレがないか、インク跳ねがないかなど印刷状態を検査。不具合があったときに、後で印刷状態を追跡できるように1,000枚ごとに保管しています。
これは機械の調子が悪いのではなく、常日ごろから行うルーティーン。
「記憶より記録」
抜き取った用紙をサンプルとして保管しておくのも、この「記録」の一つ。
わずかなミスも許されません。
このように数分に一度抜き取って、人間の目で仕上がり状態をチェック。
緊張を強いられる作業。
工場の中には、小型の印刷機もありサイズの単色(1色)、ロットが少ないものはこちらで印刷。
印刷物の面には「トンボ」と呼ばれる、裁断する外側を示すガイドの線がついています。
これを裁断機に通して切る。
「大断ち(おおだち)」という作業です。
トンボの中心を切る!
トンボ線の真ん中をエイっと裁断。手帳の品質を決定づける製本の大切な第一歩です。
レーザーで切るべき線、つまり刃が入る箇所がガイドされて、ここをカット。
このようにトンボの線の上をカットすると、縁にトンボ線の断裁の跡(黒いところ)が紙の側面に現れます。
向こうに見える紙は、紙のゆがみのズレ(用紙自体が曲がっている場合や伸びている場合があります)を調整しているのだそうです。紙一枚で調整して、トンボの中心を正確に断裁するなんて、まさにカミワザです!
折りに回される用紙には、紙が挟んであります。この紙は、先ほど大断ちされた、作業ごとのロットを表しています。この紙があることで、一つの作業の中での「上(刃の入ったところ)」と「下(断ち切った終わり)」がわかるので、「上と下でズレてるかもしれないよ」という目安のメッセージになっています。僕の目には、全然ずれているように見えないのですが、断ちから折り工程へ引き継ぎへのサイン。
ズレないことに相当、気が使われています。
サイズの大きな手帳は「直角折り」で折られます。
折り方は手帳のサイズやレイアウトによって決められます。
折り加工が終わると、紙を「トントン」
次の作業でズレを起こさないために揃えていきます。この工場のあらゆるところで見られた光景「トントン」です。
かっこいい機械を発見!
ドイツ「ハイデルベルグ社」製の機械。これはミシン目を入れるためのもの。
ミシン目はココに使われる
手帳のミシン目とはこの部分。栞と同じ意味で使用するもの。
緑のところがクッションになっていて、間に刃があります。これに手帳の本文部分を押し付けることで、ミシン目がついていきます。
続いては丁合(ちょうあい)。
折られた用紙の束たちがいくつかありますが、1〜16ページ、17〜32ページのように別々に印刷・折り加工された用紙が一折ごとの重ねられ、機械によって一冊分にまとめられてれていく工程。
丁合が終わると、背標がキレイに並んでいきます。
この工程は「かがり」といって、たくさんある製本方法の中でも強度に優れた技術。一年間の使用に耐えるために、重要なステップです。
かがりが終わると「背固め」へ。一冊の本の状態になった本文は、ローラーで背中部分に糊がつけられます。この時、湿度や乾燥に左右されるので、用紙の特性とも相談しながら糊の量を微調整していきます。一年間使い続けるための強度と一定の「開きやすさ」を保つための工夫。
さらに、糊が塗られた本文は前後に見返しが貼り付けられます。シワが出ないように特別な糊とマシンで作業されます。こちらは「見返し貼り」という工程。
背を綴じ固められ、見返しがついて徐々に手帳らしくなってきた冊子には、寒冷紗(かんれいしゃ)というガーゼ状のテープを貼っていきます。これも強度を保つためのもの。この寒冷紗という素材は百科事典にも使われていて、まさに辞書並みの開閉にも耐える強さを目指しているということです!
「焼き付け」という工程。表紙のカバーと分かれているタイプでは内表紙という固めの紙を密着させます。鉄板の上を押し付けながら通過して手帳の中身と内表紙がピッタリに。なぜ鉄板の上を通すか?の理由は、本文・内表紙の隙間をなくし強度を増す、という効果があるからです。このように強度の高く、美しい手帳になっていきます。
一度にやってしまう機械がコレ!
長〜いこの機械。上で書いた4つの工程(背固め〜見返し貼り〜寒冷紗巻き〜焼き付け)を一度に作業してしまう機械です。手帳製本の機械は完成品があってそれを買ってくるのではなく、ほとんどがその会社向けにカスタマイズされたオリジナルの設備。
一度にやってしまうから、ずーっと長くて、写真のように折り返して初めてゴール、となります。
いよいよ仕上げへ。
手帳の角の部分を丸くカットする角丸加工。この工程は開けたり閉じたりを繰り返すうちに角が折れ曲がってくると手帳の本文が傷んでしまうことを防ぐ目的もあります。一年間使ってもらう、というのは本当にいろいろ大変です!
金箔(もしくは銀箔)づけ、色をつけられるものもあります。
手帳の断面は「小口(こぐち)」と呼ばれ、加工することもあります。
美しくラグジュアリーに見せるため、というよりも、1年間使い続けると手垢などだんだん汚れてきたり、日焼けなど紙の変色が目立ってくるので、その防止が目的。
金箔をつけた手帳は開きやすくなるように、くっついてしまわないように、パラパラとほぐします。
こちらは小口の「色付け」の様子。分厚い一冊の手帳ではもちろんありません。何冊かまとめられた手帳の束をぎゅっと固定します。
色つけ磨き機。これで磨いていきます。
磨くのはメノウという石です。
光沢を出すメノウ。いろいろある中でこの石が採用された理由は、硬くツヤがでやすいから。
手帳の断面(小口)の加工はこれだけではありません。
エアーでページをめくっていき、その枚数を数えて、月ごとに不要なミミの部分を切り落とし、最後の表面のタブ(見出し)に印字。
インデックス表面を保護するコーティングを吹き付ける加工を行い、
さて、いよいよ工程のゴール「表紙くるみ」です。
能率手帳は、糊で表紙と本文を貼り付けていきます。向かい合って三人で手作業。
向かい合ったお二人が本文冊子の外側に糊を塗りつけ、片面だけを表紙に差し込んでペタッ。
手帳を保護する「チリ」!
手帳の表紙が本文のサイズに比べて少し大きいのは「チリ」といいます。これは手帳の中身を保護するため。
熟練の職人さんが、微調整して最終的に仕上げていきます。
片面の貼り付けと、別の人が最終仕上げをする理由は、糊をついた手で仕上げることはいけないのと、両面をくるむ作業は微妙な加減が必要だから。表紙くるみは製品の仕上がりを決める大切な作業なので、最後まで丁寧に。
一枚一枚手で触って点検。閉じている箇所に糊がついていないか、シワになっていないかなどなど、たくさんの項目をチェックチェック!
検査する製品の量が多いのもさることながら、サイズや種類も多彩。この検品作業は、製品によっても当然その内容は微妙に異なってくるので大変です。先ほどの表紙くるみもこの検品作業も女性が中心。性別で作業をわざと分けているわけではなく、適性によって会社が判断した結果です。「女性は根気があり、丁寧な作業に適しているのかもしれませんね」と雲野さん。
これでようやく手帳が完成。
午後から始めた見学も終わると、すでに外は真っ暗になっていました。
手帳にスマホが取って代わるのかと思いきや、年末の手帳の売り場は例年通り賑わっていますし、文具やカバー、マスキングテープなどの周辺のアイテムと一緒に売られていたりして、むしろ充実してきているように思えます。知り合いの書店員さんにお話を聞いても、手帳の売り上げは横ばいもしくはお店によっては微増傾向だそうで、書籍など他の出版物と比べても健闘しているようです。
その理由はきっと、書く、振り返って見返す、そしてまた書く、という自分に密着した道具なので、一度使い始めると、なかなか手放せずスイッチしにくいから。そして、それを支えるのは、長く使ってもらうための品質や技術に対して、生産現場の誠実さということがよくわかった見学でした。
スケジュール機能が備わったビジネス手帳が日本に生まれてから65年。同じく創業して65年の新寿堂は、手帳の歴史そのもの。現在は東京都内でも手帳専門で印刷・製本を営んでいるのは、新寿堂と数社のみだそうですが、ずっと使い続ける人のために、手帳を作り続けて欲しいと思います。
(text:西村、photo:市岡 ※一部の写真は新寿堂さん、日本能率協会マネジメントセンターさん提供)
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