日本で一番宇宙に近い場所に行ってきた! JAXA筑波宇宙センター(宇宙航空研究開発機構)その2
JAXA(宇宙航空研究開発機構)のレポート第二弾です。
JAXAでは、常設展示館「スペースドーム」や「プラネットキューブ」の企画展の他に、平日でも満員御礼なことが多い人気の見学ツアーを実施。今日はこのツアーに参加してレポートしたいと思います。
六太と日々人の夢に会おう!
ご存じ小山宙哉さん作の宇宙飛行士漫画「宇宙兄弟」の六太と日々人のパネルがドーン!
見学ツアーの出発を待っている間に記念撮影でパチリ☆
ツアーの前にガイドさんによるでのモニターでの説明。JAXAのこれまでの歩みや日本の宇宙開発におけるミッションの説明などが映し出されていきます。
ソユーズ宇宙船に搭乗し、国際宇宙ステーションに約5ヶ月間滞在。2010年に地球に帰還した野口聡一さんからのご挨拶です。こちらこそ今日はよろしくお願いします!
説明が終わり、スタートっ!ドキドキするぅ〜
バスに乗って出発します。JAXAの筑波宇宙センターの敷地は約53万平方メートルで東京ドーム
12個分ほど。この広大な敷地には約2,000名の職員のみなさんが働いています。バスで移動しないといけないくらいの広さです。それと機密性が高い情報を色々取り扱っているので、見学できる箇所はセキュリティエリアと呼ばれる区画のみで、見学者が勝手にフラフラしないように、という目的もあると思います。
「宇宙飛行士養成棟」に到着。
ここは、宇宙学生物研究室です。
こちらは、1994年の向井宇宙飛行士と一緒に宇宙に行った「宇宙メダカ」の子孫、22世代目。
なぜメダカなのかというと、宇宙放射線の影響や筋肉萎縮を調査するため、メダカは遺伝子解析が終わっており、どの部分が傷つけばどのような影響が出るかを知ることのできるモデル生物だからです。また、世代交代のサイクルが早い(寿命は3年で3ヶ月で成魚になる、1年で4回世代が変わる)ので、子孫までどのような影響が及ぶかを早く見るためにもよい生物。さらにメダカは放射線の影響を受けやすい生物なので宇宙放射線の影響や筋肉萎縮といった研究成果を、宇宙で活動する人間の予防法へとつなぐ役目をしています。
宇宙ではけん玉ができない!
こちらのモニター映像は宇宙での無重力に真似た状態を再現し、人体への変化を調べる研究を行っている様子。けん玉を研究しているのではありません。けん玉の実験は無重力をわかりやすくするためで、無重力ではけん玉の玉が落ちてこないので、遊ぶことができません。
この実験では、宇宙滞在の短期間の体に起こる変化を調べ、微小重力を発生する環境を使って実験します。地上では無重力状態を作るこことができないので、飛行機のエンジンを上空で一旦停止させ、その降下するときの無重力に似た状態を再現、飛行機が放物曲線状に弧を描く状態での飛行する「パラボリックフライト」で実施します。つまり、遊園地のフリーフォールな感じ。20秒を何度か繰り返して実験します。この20秒間で、実験内容は神経・脳の反応、骨の研究のほか、心理学的研究、循環器系の研究や、無重力状態が及ぼす医療機器への影響なども調べられます。
傾いているベッドで人間の体の変化を調べる!
JAXAでは1週間、国際共同研究では約90日間、被験者にこの頭側に6度傾斜がついているベッドに寝てもらって、食事や髪を洗うなどの日常生活や身長測定を90日間すべてこのベットから降りることなく実験しました。
宇宙の無重力環境では上半身に血液などの体液が回ってしまい、顔が丸くむくむ「ムーンフェイス」、下半身は体液がなくなり足が鳥のように細くなる「バードレッグ」という状態が発生するので、このベッドは、体液を送り出す心臓の機能が必要となくなるので、体内の機能が低下し、筋肉や骨の老化が地上より早く進むと言われています。
JAXAの宇宙医学生物学研究チームでは、この他にも微少重力、宇宙放射線、閉鎖環境といった宇宙特有の環境で起こる人体のさまざまな変化や影響を引き続き現在も研究中。骨の脆弱化、筋肉の萎縮、免疫力低下、精神的ストレス、不眠、自律神経偏重など、宇宙で長期間生活すると地上の老化現象にも似た身体変化が発生することが報告されているので宇宙での生活をより良いものにするためのさまざまな研究を行い、その技術や成果は宇宙飛行士の健康維持だけではなく、地上の高齢者の健康維持にも応用されています。
宇宙食の研究。地上と変わらない食物が並んでいますが、日本で認定されている宇宙食は29種類。世界各国それぞれ作っているので、全体で300種類あります。宇宙に行くと、味覚が変わってスパイシーな味が好みになるのだそうですが、日本の宇宙食は世界の宇宙飛行士の間でも美味しいと好評なんだとか。和食は宇宙にも通じる!
お腹すいてきたぞ!
宇宙の食の次は、衣の研究。宇宙の船内服です。この服は実際に若田宇宙飛行士が来ていた船内服で、国際宇宙ステーションの中は地上と同じ1気圧に保たれているので、見た目はほとんど僕たちがいつも来ている服との違いはわかりません、でも実は工夫がたくさん。
宇宙に行くと前かがみになることが多いので、服の後ろの裾が長くなっていたり、ズボンの側面にはマジックテープでこういったところに道具くっつけたり差し込んだりして動きやすくしていたり、両手が自由になる工夫をすることで移動しやすくなっています。
足袋っぽい運動靴。運動靴なのは、宇宙飛行士のみなさんは毎日2時間の筋力トレーニングを行っているからです。この足袋構造にすることで足の指を動かしやすくなっています。靴ひもが一本でサイドにマジックテーブで着脱できるのも宇宙ならでは。他にもソールが薄くてかかとの部分に負荷がかかる(足裏の感覚を忘れずに敏感に保つため)ようにしていたり、細かい工夫がたくさん。
船内服には、特殊な素材や高度な設計といったことの他にもこのような生活するための細やかな工夫がたくさん込められています。
次は船外活動用の宇宙服!見たことある、と嬉しくなって記念ショット。JAXAの見学は撮影スポットがたくさんあります。
突然ですが、クイズが始まりました。「この宇宙服の重さは、30kg、60kg、120kgのうちどれでしょう?」とガイドさん。正解は120kgです。
重いと思うかもしれませんが、宇宙は無重力状態なので重さはあまり関係ありません。この重い宇宙服を着るのにかかる時間は二人一組で15分ほどなのだそうです。
赤い文字で「NASA」と書いてあります。これはアメリカのNASAモデル。後ろの大きな白い箱は生命維持装置で中には、酸素と水とバッテリーが入っています。
ヘルメットのシールドの部分が金色なのは、作業中に強い太陽光から目を守るサングラスの役割を果たしているからです。ヘルメットの横にはライトが付いていて、周りが暗い時にも作業ができるようになっています。
宇宙服の胸元の黒い大きなダイヤル。このダイヤルは温度調節バルブと言って、14層の分厚い層になっている宇宙服で作業をすると熱をもって暑くなってきます。暑くなった時には、この服の中にあるいくつもの管を水が流れて服の中の温度を調節する仕組みになっています。このダイヤルの役割は温度調節のための水量を調節するためのものなんです。
そして、このダイヤルの数字が逆になっています。理由は先ほどの巨大なヘルメットの中で首が固定されていて下を向くことができないので、宇宙服の手元のミラーを使って映し出して数字を確認するためです。なるほど!
手首の内側あたりに鏡がついています。
こちらは宇宙飛行酔いの研究のために使っていたお部屋。椅子の上に宇宙飛行士の訓練生が座り、目を閉じたり首を傾けたりして実験。この実験をしているとだいたい5分くらいでみんな気持ちが悪くなってくるのだそうで、実際には7割の宇宙飛行士が宇宙酔いになってしまうのだとか。
酔う人とそうでない人がもちろんいますが、実際に宇宙に行ってみないと酔うか酔わないかはわからない、ということで現在、この部屋は使われていません。
細長い部屋は「閉鎖環境適応訓練設備」といいます。中は国際宇宙ステーションの居住空間や実験地と同じ大きさ・作りになっていて、この部屋の中で訓練生は、性格・心理状態・協調性が検査され、実際の宇宙飛行士選抜の時にも使われています。
一番最近では2008年に宇宙飛行士の募集が行われ、その時に応募してきたのはなんと963名!
その中から最終選考に残った10名が、窓がなく真っ白な壁に覆われている環境で、簡単な計算問題や、旅行の日程を立ててみたり、真っ白いジグソーパズルをするなどの作業を1週間実施。上の監視エリアからずーっと試験官が見ているのだそうです。
2008年の試験では油井宇宙飛行士など合計3名が合格しました。
こちらは模型ですが、上からこうやって試験官が見ていたんですね。
宇宙飛行士になるための条件は次の3つ。
健康であること、英語が話せること、そして協調性。最後の協調性がもっとも大切で、広い宇宙の狭いスペースで共同生活を送り、またチームが共同して任務を遂行するために、協調性がもっとも重視されているのだと思います。
そして、宇宙飛行士の勤務体系は週休2日、1日8時間労働です。これは地上と同じ。空き時間には本を読んだり音楽を聴いたりしているのだそう。宇宙から聴く音楽は格別だろうな、と想像が膨らみます。
毛利さんもきっと訓練したのですね!
続いての見学は国際宇宙ステーション「きぼう」の運用管制室です。
実は、ここから先は写真撮影禁止エリアなので、写真は当日のものではなく、JAXAさんからお借りしたものになります。
「きぼう」は地上から400km上空の国際宇宙ステーションの日本実験棟の名前です。きぼうでは天体現象の観測やロボットアームを使った船外作業、超小型惑星を放出するなどさまざまな世界に先立つことを作業しているのですが、その宇宙で作業している実験などの様子をやりとりする地上側の基地がきぼう管制室です。また、きぼう運用管制室では、宇宙飛行士と通信でやりとりするだけではなく、地上側から遠隔操作で実験に参加もしています。
きぼう運用管制室は24時間で見守っています。
国際宇宙ステーションは時速28,000km、昼とよるで45分ずつ約90分で地球を一周しながら、宇宙でしかできない実験、生命の振る舞いや物理現象、新しい材料や医薬品の開発、地球環境の監視など、さまざまな実験が進行しています。地上側も夜はお休みということはなく、3交代で24時間で監視・作業を行わなければなりません。
映画なんかだと「惑星がぶつかってくるぞ!」とか「通信が繋がらなくなった」といった差し迫ったシーンが多いので大騒ぎで賑やかなイメージでしたが、当日はとても静かにモニターに向かって黙々と監視作業をしていました。中で働く運用管制官は「フライトコントローラー」とも呼ばれていて、彼らは「フライトディレクター」というリーダーの指揮のもと作業しています。
国際宇宙ステーション全体はNASAが監視しているので、このきぼう運用管制室とNASA(ヒューストンのジョンソン宇宙センター)とも繋がっていて、お互いにやりとりすることもできます。
正面には3つ大きなスクリーン、左側にはUTという世界標準時、JT(日本標準時)などの時刻が表示されていて、モニターからはリアルタイムで映し出される美しい宇宙の様子もみることができましたよ。
以上で、見学ツアーは終了。しかし、楽しみはまだまだあります。
申し込めば、JAXAの職員さん用の食堂で、昼食を食べることができます。注文したのはカツカレー!ごちそうさまでした。
今日、見学ツアーでみることができたのは、JAXAのお仕事のほんの一部。
JAXAでは、宇宙の衛星と通信するための技術や、人工衛星がどこにいて、どのような状態かを監視する統合技術ネットワーク。他にも、地球環境保護、災害監視への貢献、通信測位技術の高度化による新しいサービスの提案など僕たちの暮らしを支えている人工衛星の開発。人工衛星から得られたデータは、森林や植生の変化の観測、二酸化炭素やメタンの濃度観測、水循環や海洋生態、地球温暖化や気候変動などの地球環境問題の解明に貢献など幅広い分野に活用されています。
そして、ここ筑波宇宙センターでは、現在の宇宙ミッションだけではなく、将来のミッション研究も検討中。日本の宇宙研究の中心として、社会を豊かにするために、宇宙をどのように役立てることができるのかを眠らずに、毎日考えてくれています。
JAXAのみなさん、今日は有難うございました!
これからも、日本の宇宙開発をよろしくお願いします。
【詳細情報】
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
電話番号:029-868-5000
住所:茨城県つくば市千現2-1-1
URL:http://www.jaxa.jp/about/jaxa/index_j.html
(text:西村、photo:市岡 ※一部の写真はJAXAさん提供)
JAXAレポート第一弾「日本で一番地球に近い場所に行ってきた!」はこちら。
宇宙の後は地球も見てね。
「人類史上初!地球の過去・現在・未来の姿を描く 地球探査船 ちきゅう」
しゃかいか!編集部から一言
加藤 洋
見学ツアーの前後にJAXAさんの社員食堂を利用できます。JAXAの職員の方々がごはんを食べる中にまざってご飯を食べるとなんだかわくわくしますよー!
関連するキーワード