素朴でぶっきらぼうだけど奥深い、ほしいもの未来を語る生産現場 世界ほしいも大会(工場見学編)
「世界ほしいも大会」の翌日は、黄金に輝く干し芋の生産現場を見学!
「第1回 世界ほしいも大会」では、エクスカーションという参加者との意見交換や現地での体験議論も行いお互いに理解を深めていく体験型の見学も開催。たくさんある干し芋生産者の中から照沼勝一商店さんにお邪魔します。
加工場の入り口には、さっそく天日干しの干し芋がお出迎えしてくれます。
今日はよろしくお願いします。
干し芋仲間のみなさんと一緒に加工場を見学。
こちらの加工場は平成19年に新設されたもの。「いばらきHACPP」という衛生管理基準に基づいて厳しく管理されています。
原料のサツマイモ。照沼勝一商店では玉豊という品種を加工しています。
玉豊は干し芋に使われるサツマイモの中でも、干し芋を大好きな人がたくさん食べることのできるように、甘味がさっぱりめ。
畑ではすぐれた個体だけを次の世代に継承するため「系統選抜」という、より干し芋に適した品種に完了していく方法を採用しています。「干し芋は土作りから」という理念のもと、干し芋の皮・残渣のみを使った自社製の完熟堆肥を使い、活性水と海洋深層水を混合させたミネラル分の高い水でサツマイモは育ちます。
大切に育てられた苗は、一本一本手植え、農薬や化学肥料は極力使いたくないので、除草は草刈機を使用。虫を発生させないために、虫が嫌うにおいの食酢を散布します。
無事収穫を迎えたサツマイモはすぐに加工せず、糖度を上げ殺菌効果を高めるために太陽の光を浴びせ7〜10日程度乾燥します。これでやっと加工場へ運ばれてきます。
こちらは加工場の中の様子。干し芋への加工の第一歩は「蒸し」の工程、季節により微妙に調節しますが、イモの中心が72度になるように1時間から1時間半、じっくり蒸していきます。
一本ずつ手で丁寧に皮むきがされています。時間が経つと見た目や味わいに影響するので、皮むきはアツアツのまま素早く行われます。この皮むきの制度と早さが品質にも直結してしまいます。
一本一本慎重に、しかし手早く!中で作業されている方は真剣そのもの。緊張を強いられる作業です。
その後、食べることのできるサイズにカットされ、
乾燥工程へ。
照沼勝一商店では、天日干しとともに遠赤外線での乾燥も行われていて、太陽光と変わらない美味しさと品質の統一が保たれています。
イモが中から輝いているように見えます。
遠赤外線の設備。
こちらがその設備メーカーの社長さん。「いつもお世話になっています」
天日干しは、糖度といった味や風味、見た目の美しさの理由からも干し芋づくりでは伝統的に採用されてきた昔ながらの乾燥法ですが、いっぽう天候や気候にも影響されることも事実。生産性といった手間やコストの理由だけではなく、同じものをおいしく安定的な量をお届けするといったことからも、併用しているのだそうです。
黄色いエビラの上には無数の干し芋が気持ちよさそうに日向ぼっこしています。今、どんどんおいしくなっている最中。
おいしくなるんやでー。
モグモグモグ。出来たてというか、作っている最中の干し芋もおいしい。
生産の様子を見学させてもらった後は、みんなでディスカッション。実はこの見学、一般向けというよりは、前日の「世界ほしいも大会」の参加者が中心なので、別の地方のほしいも生産者、バイヤー、サツマイモ農家、スイーツ作りの達人などどちらかというとプロ向けの見学。設備を見せてもらった後なので、製法や乾燥させる温度、はたまた従業員さんのモチベーション維持の問題まで、自分ごととして真剣に語り合っています。
お話の中でも「干し芋を切るときのぺんぺんはどこに?」という言葉が聞かれます。干し芋づくりでのぺんぺんとは静岡県で蒸した干し芋を切るときの機械、ギターの弦のように複数の切断用の糸が張られているので「ぺんぺん」と呼ぶのだそうです。
ほしいもをどう盛り上げるか?と同じ課題に向き合う立場の人たちなので、見学もいいですね、すごいですね、だけではなく、肥料はどうなの?乾燥設備を導入する際のコスト計算は?赤く変色しないように蒸す時間はどうやって調節しているの?温度帯湿度帯、風量のバランスによる糖度の進行具合は?など専門性がとても高い質問の応酬です。
ここで、ちょっとブレイク。
このプリンはもちろん、干し芋の加工食品なのですが、照沼勝一商店では、プリンを外部に依頼し製造しています。これで大儲けを!というわけではなく、宣伝広告の一環、ほとんど儲けはなく、とにかく食べて干し芋を知ってもらう、目を向けてもらうことを目的に作りました。
背景はとても切実なのですが、おいしい。
みんなほしいもプリンを食べると、笑顔になっていく。
こちらは干し芋の素人さんです。兵庫県から茨城へ干し芋が大好きで親子で参加。ほしいもガール!干し芋の希望の星。この後のお食事会では、うちのほしいも見に来て、とかサンプル送りますとか、果てはうちの若いモンのお嫁さんになってくれたら食べ放題ですよ、などなど大変な人気でした!次回はひょっとすると、干し芋を作る側になっているのかもしれませんね。
今日の見学はこれで終了。
最後に照沼さんが言ったひと言。「農家のポジションを上げたい」。
他の加工食品と比べて、生産者と加工業者の敷居が低い、というかそれらの境目があまりない干し芋。干し芋は加工食品という単なる商品ではなく、サツマイモを作る農家さんたちの解決手段なのかもしれないな、と気づくことができました。
さまざまな地方のいろんな人に食べてほしい、そして、これから続けて食べていってもらうためにも、新しい価値を見つけてもらわなければならない。そのためにどう発信していくか?受け取ったニーズをキチンと消化しつつ伝統的な干し芋も残す努力を怠ることができない。
また、茨城県の名産にとどまることなく全国的・世界的に広がりを持ち消費量が増えることが好ましいが、その場合「茨城のほしいも」という独占的な立場と世界的な食べ物となったHOSHIIMOの折り合いをどうつけていくか?
口ベタで素朴、見た目も慎ましやかな昔ながらで干し芋は、このように食文化、ブランド、製法や品質という、いずれもものづくりと切っても切り離せない課題が含まれたモデルのような食べ物だな、と思いました。他のものづくりにも言えることがたくさん含まれています。
一朝一夕には解決することはできませんが、世界ほしいも大会がひとつひとつ解決するプラットフォームになって、何十年と回を重ねながら解きほぐしていくのだろうな、と思いました。今回は記念すべき第1回の世界大会。次回は一体どこで、どんな内容に発展していくのか、今は想像もつきませんが、今後もずっとほしいもを追っかけていきたいなと思います。
【詳細情報】
ほしいも学校
住所:茨城県ひたちなか市勝田中央14-8
URL:http://www.hoshiimogakko.com/hosiimo_index.html
株式会社照沼勝一商店
電話番号:029-282-0062
住所:茨城県那珂郡東海村照沼600
URL:http://hoshiimo.co.jp/
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