200年続く銘菓を守り、新しい世界に挑む老舗の和菓子屋 亀屋良長
本日は、何度かしゃかいか!で取材をさせていただいている京都のテキスタイルブランドSOU・SOUさんからご紹介いただき、SOU・SOUさんと一緒に和菓子づくりもされている亀屋良長さんへやってきました。享和3年(1803年)に創業した京都の歴史ある和菓子屋です。六角に囲まれた「良」の大きな旗が目印です!
初代は超名店の番頭
京都の和菓子屋は、江戸時代に幕府の要請により禁裏御用達業者の集まりである「上菓子屋仲間」を結成します。「上菓子」とは上等の菓子の意義ではなく、上納菓子、献上菓子の意から出ています。当時、文平さん(後の亀屋良長初代)は、江戸にまで名を知られた上菓子屋仲間の亀屋良安さんの店で番頭を務めていました。ところが、火事で亀屋良安さんの店が焼失してしまいます。文平さんは決意して、享和3年(1803年)に亀屋良長を創業します。
創業からの京の名水
創業当時から、地下80メートルから汲み上げた井戸水「醒ヶ井水」を使用してお菓子づくりをしています。初代が良質な水を求め、現在の地に創業されたそうです。店舗では、「醒ヶ井水」を味わうことができます。味はとってもまろやかで、しゃかいか!編集部の今日の渇きを潤してくれました!
入店すると、色鮮やかなお菓子が目に飛び込んできます。SOU・SOUさんのテキスタイルの箱に敷き詰められたお干菓子が並んでいます。
まるで宝石みたい!一つ一つをずっと見ていたくなるかわいさで食べるのがもったいない!
こちらの艶やかなお菓子は、200年以上もの昔から変わらぬ姿でつくり続けられてきた銘菓「烏羽玉(うばたま)」です。
江戸時代から続く銘菓の資料
創業(江戸時代)当時から作られてきた銘菓「烏羽玉(うばたま)」の配合が明記されているレシピノート「配合帳」が残っています。(明治時代のもの)
「烏羽玉(うばたま)」のページを見つけました!配合するものは3種類「あん」、「玉」、「イラコ」。代々受け継がれてきた大変貴重な財産ですね。
お菓子のデザインノート
「配合帳」の他、江戸時代から昭和初期までの「菓子見本帳」が温故知新と書かれた箱から大切に出てきました。
「菓子見本帳」は、お客様に見せるために、京都の絵師に依頼して描いてもらったものだったそうです。
江戸時代に描かれたお菓子のデザイン、なんてポップな色使いなのでしょうか!
見ているだけで幸せな気分になります。
この色鮮やかなデザインのお菓子が江戸時代に考案されていたと思うと驚きです。
七五三の祝いのお菓子、松竹梅でしょうか。貴重な資料に釘付けなしゃかいか!編集部、いつまでも見続けてしまいます。
さて、こんな歴史ある亀屋良長さんの工房では、ちょうど「烏羽玉(うばたま)」をつくっているとのこと、早速いってみましょう!
その前に衛生のためフードキャップと白衣を身につけて準備万端です。
扉を開けると甘い香りが部屋中にひろがっています。
すでに出来上がった和菓子がたくさん!本日、ご案内いただく取締役の?村由依子さん、よろしくお願いします。
工房の奥では、餡が時間をかけてじっくりと練られています。
餡の様子を確認しながら、練り上がりを調整していきます。まだまだ練り続けます。
ひたすら2時間練って、やっと餡が練り上がりました。
こだわりの黒糖
亀屋良長8代目の?村良和さんが、こだわりの黒糖を持って登場です。「烏羽玉(うばたま)」には、沖縄の波照間(はてるま)島産の黒糖を使用しています。他の黒糖を使用したこともあるそうですが、波照間(はてるま)産の黒糖にコクがあり、バランスも良く「烏羽玉(うばたま)」づくりに適していたそうです。
餡の割合10に対して、黒糖:白糖:水飴=3:2:1の割合で配合しています。昔は、砂糖が貴重で、甘ければ甘いほど上等品とされていましたが、時代の好みにあうように配合を変えて餡づくりをされているそうです。
*餡練りの同じ工程に黒糖を加えて行うと「烏羽玉(うばたま)」の餡になります。今の餡は別のお菓子に使用されます。
黒糖をペロリ。驚きのコクにびっくりです。
「昔は、白砂糖がたいへん高級品だったので、比較的手に入りやすい黒糖のお菓子も京都では多く残っています。こだわった先代からのおいしい黒糖を受け継ぎました」と良和さんも笑顔です。
練り上がりのチェックを終えて、餡を番重に移し替えます。
ほっかほかの餡、このまま食べてもおいしそうです!練られた餡は十分に冷まされます。
1日かけて冷まされた餡は、こちらの包あん機に入れられて同じ形の餡に整えられます。
丸まった形の餡が上からポトリと出てきました。はじまして「烏羽玉(うばたま)」の餡です。
「烏羽玉(うばたま)」の餡がたくさん出てきました。昔は、全てが手作業だったなんて大変!
慣れた手つきで職人さんが並べていきます。
餡をこちらへ並べていきますね。
かわいいまん丸がたくさん並びましたよ。餡子好きには堪らない、餡子万歳です。
隣の作業台では、鍋から100度に沸騰させた熱々の寒天液をお玉ですくい、餡子にコーティングをしています。あっ、手があつそうです!この道25年の職人さんが6年目の職人さんと息のあった寒天コーティングの至難の技を繰り広げます。
ぱっぱっ、ぱっぱっと寒天がかけられていきます。1日に約3.000個から4.500個分のまんまる餡子に寒天のコーティングをしていくそうですよ。どひゃ〜!
赤くなった指先にも動じず、どんどん「烏羽玉(うばたま)」に艶を生み出していきます。
見事に寒天コーティングされた餡子たち。美しいです。
出来上がったばかりの「鳥羽玉(うばたま)」一つ一つを容器に入れていきます。
あなたのお家はここですよ〜。
最後に、ケシの実を二本指でちょん、ちょんとつけてあげれば、
「烏羽玉(うばたま)」の完成です!
完成した「烏羽玉(うばたま)」を自動包装機にセットして、
「烏羽玉(うばたま)」が6個づつ包まれていきます。包装された「烏羽玉(うばたま)」は梱包されて運ばれていきます。
出来上がった「烏羽玉(うばたま)」を見送っていると、工房の後ろからカンカン、カンカンと木型をうつ音が聞こえてきました。
亀屋良長さんへ昭和40年(1965年)に入社、この道48年の大ベテランの山下順一さんです。
今年で69歳の山下さん、威勢のいい木型の音を響かせ、
米粉と上白糖を混ぜたお干菓子の材料を手際よく木型に埋めていきます。
ただいまつくっているお干菓子は、十三参りにお寺にお越しになった方にお渡しするためのお菓子です。
十三参りとは、京都に古くから伝わる行事で、13歳になると福徳・知恵などを授かるために法輪寺に参詣します。お参りをしたあとに振り返ると知恵を返すといって、ご利益がなくなるといわれ、「渡月橋までは振り返らずに歩く」と言い習わされています。
京都の法輪寺の山号、智福山と型取られています。
昔からの木型を合わせて何百種類も
こちらは釘抜き地蔵(石像寺)の型です。新しい依頼があれば、新たな型からつくるので型は無数に増えていくそうです。
年間250種類以上のお菓子をつくる
ピンク色のお干菓子もあります。お干菓子だけでも80種類以上、定番のお菓子15種類、生菓子150種類と年間で250種類以上のお菓子づくりをされているそうです。
こちらは、職人さんが使いやすいように整理整頓された道具棚です。道具は職人さん各々が使いやすいように自分で手を加えて使用されているようです。
練りきりに細工していくための「三角ベラ」という道具です。墨で「良和」と名前が記されています。
「三角ベラ」、ほんの数秒で練りきりに模様がつくられていきます。
におい棒で花芯を作ります。京都では「おしべ」と言わず「におい」といいます。
はい、あっという間に完成です!
かわいい形のお菓子がたくさん並んでいて、見ているだけでも大興奮です。あそこに並んでいる菊の形をした商品はもしかして!!
最中(もなか)のお菓子『菊もなか』は、SOU・SOUテキスタイル「菊づくし」の柄になっています!
こちらが、もとになったSOU・SOUテキスタイル「菊づくし」。
今の仕事をやっていて、その先に次の仕事がある
「老舗は、自分の代で潰してはいけないというプレッシャーが誰しもあるかと思います。ケチになって、守りに入ってしまいがちです。でも、社員、まわりの人の幸せを考えていると、自分が成長して幸せになっていかないといけないと思いました。」と良和さん。
良和さんが、果敢に新しいお菓子の世界に挑むのには理由がありました。
「こだわりを捨てなさい」
8年前、良和さんに脳腫瘍が見つかり、良和さんは生まれてきた意味を日々考えるようになります。良和さんは、身体にいいと言われるいろいろなことを取り入れ、ヨガを始めるようになります。そんな時に、ヨガの先生から言われた「こだわりを捨てなさい」という言葉が、スカッと良和さんの腑に落ちたそうです。京都の和菓子屋だからこそのこだわり、京菓子だからこの素材を使わないと、京菓子だから…。というこだわりから解放され、徐々にいろいろなご縁が広がり、仕事の幅も拡がっていったそうです。老舗という土台があってこそできる新たな挑戦を模索し始めます。
作り手は、相手が喜んでくれるために自分を捨てて作る
「今までは、思い描いてきたよいものを形づくろうとしてきたが、変にこだわりすぎていました。自分を捨てて相手を喜ばす。作り手は、相手が喜んでくれるために捧げる気持ちで作るものだと思っています」と良和さんは笑顔で語ります。
亀屋良長さんは現在、5つの企業と一緒にお菓子づくりをされています。その中の1つに、『Satomi Fujita by KAMEYA YOSHINAGA』というブランドがあります。こちらの「まろん marron」というお菓子はブランドの人気商品です。
『Satomi Fujita by KAMEYA YOSHINAGA』のお菓子を担当されている職人さんが藤田怜実さんです。藤田さんは、製菓専門学校を卒業後パリで2ツ星レストランのシェフパティシエを担当されていました。ある日、パリで和菓子の素晴らしさに目覚め、由依子さんとのご縁で亀屋良長の元で修行を始めました。パティシエの経験を生かし、亀屋良長の和菓子に新たなエッセンスを加えたお菓子づくりをされています。
SOU・SOUさんのテキスタイルに包まれたお干菓子や、
エコなお菓子という依頼から開発した『焼きあづき』と『焼きカカオ』。
捨てられる部分をおいしいお菓子に
どちらも捨てられる部分の小豆の皮、カカオ殻をぼうろ生地に混ぜてさっくりと焼き上げたお菓子です。
捨てられていた小豆の煮汁をどうにかお菓子に使えないかと考え巡らし生まれた商品がこちらの『あづき餅』です。小豆の煮汁のみで練り上げられた、とてもふっくらとした柔らかいお餅です。
ふわふわと柔らかい食感を思わせるこちらのパッケージは、SOU・SOUさんによるものです。
新しいお菓子の世界に果敢に挑戦する、亀屋良長8代目の?村良和さん、由依子さんご夫妻、本日はありがとうございました。貴重な代々続く資料には圧巻でした。後編では、SOU・SOUさんとのコラボのお話をお届けします!
【詳細情報】
亀屋良長 株式会社
住所:京都府京都市下京区四条通油小路西入柏屋町17-19
営業時間:9時〜18時、年中無休(1月1,2日はお休み)
お問い合わせ:info@kameya-yoshinaga.com
URL: http://kameya-yoshinaga.com/
(text:坂田、photo:市岡)
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