テンションMAX!で無農薬&循環型農業を実践する男 いちえん農場(一圓信明)

ヤギがお出迎えヤギがこんにちメェ〜とお出迎え。
高知県の清流の最も下流にある四万十川河口大橋から車で10分ほど走ったところにいちえん農場はあります。

一圓信明さん

松崎しげるさん...じゃないですよね?
「こんにちは」と玄関で声をかけると、「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!」と家の中からひときわ大きな声がかえってきました。この日はあいにくのお天気でしたが、南国の太陽で日焼けした笑顔と、そして初対面なのにものすごく高いテンションで、こちらも一気に元気になります。

この人が松崎しげる...じゃなくて、農場の主人である一圓信明(いちえん のぶあき)さん。農家の4代目で地元の農業高校を卒業後、林業の会社に就職。21歳で帰京し、家業を継いで農家になりました。

畑へ向かう一行今日はそんな熱い男一圓さんと、農場の中を見学。今日はよろしくお願いします!

いちえん農場では、ミカンなどをはじめとする柑橘類と土佐ジローという高知県の地鶏、米、炭、そして3年前からチャレンジし始めた栗を、農薬を一切使用せずに作っています。無農薬でとれた穀物を土佐ジローが食べ、そのフンが果物や米作りの堆肥に生かされ、そしてまた、鶏の飼料になっていくといった、土地の気候や土、太陽といった自然の力を最大限使った循環型農業を実践しています。

循環型農業 柑橘系の木

いちえん農場では、春にはタケノコや山菜、夏には小夏などの柑橘系の収穫、秋は無農薬で育ったレモンやハチミツそして土佐ジローの採卵の最盛期、冬はポンカンと一年間を通して自然の恵みを楽しむことができます。そして、この土地だからこそが持つ豊かな自然の本来の力を最大限生かすために、農薬や化学肥料は一切使用せずに美味しく食べてもらうことがこだわり。

いちえん農場風景

しかし、自然そのものにこだわる限り避けて通れない雑草取りや、太平洋が間近に見える高台の農場は、夏には涼しさを運んでくれる海風が秋に入る頃には台風になったり、と仲良くするだけではなく自然と時には格闘しながら、うまくつきあう必要もあり、循環型で無農薬栽培の農場を続けていくことは、大変な苦労が伴います。

説明中いちえん農場があるのは太平洋にギリギリまで面している四万十市名鹿(なしし)地区の丘の上で、柑橘の栽培が盛んな地区。いちえん農場も、もともとポンカン一本でしたが、信明さんが継いだ後はレモン、小夏、ぶしゅかん、夏みかん、はるかという柑橘類の品種を増やし、地鶏にも挑戦中。その理由は、品目を増やすことで、6〜7月以外の一年間のほとんどが収穫でき、土地が遊んでいる時間を減らせるからです。
ずっと働いて忙しくて大変なんじゃないのかな、と思っていると日本の農家のお悩みごとの話になりました。

ポンカンの収穫時期は一年のうち3ヶ月間だけ
一圓さんが継いだ頃の農場の作物はポンカンだけ。ポンカンの収穫時期は12〜2月くらいまでで、その3ヶ月間の収益を目標に一年間を過ごします。収穫が終わる、それ以降は剪定などの来年に向けた維持管理作業に入るのですが、この3ヶ月間の繁忙期のためにだけ、人を雇わないといけないほど忙しい。他の時期は暇なのに!
「なんだかおかしいぞ」と思ってた一圓さん。そして、一緒に農業を営んでいたご両親とおばあさんが同時に病気になってしまった年があり、一番忙しい収穫の時期に奥さんと二人だけでフルパワーで働き、追いつかない時には人をたくさん雇って手伝ってもらうことになりました。

そのあげく、奥さんとケンカになりました。
働いても働いても入るお金はいつもの年と同じ。その頃奥さんに「もっと売っていかないかん、売らんとお金にならん」と言われ、気がつけばいつも嫁さんと喧嘩していました。

そして、「もう、嫁と喧嘩してまでこんなもん作らんでいい」と、ポンカンの木を切ってしまいました。

楽しそうにお話しする

「切ったポンカンの木は全部炭にしたりましたわ、がはは」と、笑顔で当時のことを語ってくれる一圓さんです。

日本にあった農業のスタイルがある、それはプチ効率化
当時の一圓さんがずっと考えていたのは「農家がいっぱい人を入れてもお金に見合うか?」ということ。
米の自由化の前頃までは、ここら辺でも夏に米を作って、冬に青のりとってれば、農家でも充分食べていけていました。しかし、それ以降、日本の農業はわりと欧米化していて、今ではほとんどの農家が、これまでと同じことをやっていては食べていけない状態。
そこで、もう一度、日本の風土にあったやり方ができるんじゃないか、と考えました、と一圓さん。

お米がお金にならないのは、12ヶ月分のうち半分くらいしか土地を使わないからだと思います。その期間が倍になれば、もう少し収益もあがるはず。しかし、田んぼはお米しか作ることができない。
うちの畑もポンカンしか作っていなかったけど、土地を利用しない期間をできるだけ減らして、プチ効率化できるのではないか?自分でやってみよう、と思い立ちました。

柑橘系の木

こうして、いちえん農場の経営改革がスタート。
怒りにまかせて切ってしまったポンカンの土地には、できるだけ収穫時期が重ならない5品目の柑橘に新しく植え替え、少量多品種に。さらに、土佐ジローという高知特産の地鶏の飼育にも挑戦。
鶏のフンを堆肥に作った土で、作物を育てるという循環型の農業への挑戦が始まります。
また、「専業農家で、できるだけ人を雇わずにどこまで家族でできるのか?その限界を追求していこう」と決意。今では高校球児となった息子さんたちも中学まではこき使われました。

一圓さんご一家いちえん農場は家族みんなでがんばっています。

出てくるいちえん農場改革の柱である土佐ジローたちです。
土佐ジローは、高知県畜産試験場で飼育された種鶏(たねどり)の交配で生まれた卵から孵化したもののみが認められていて、脂肪分少なく、歯ごたえ、旨さがじゅわっと滲み出てくる味わいが特長。いちえん農場では採卵鶏を販売をしています。

土佐ジローを見学!#しゃかいか! - Spherical Image - RICOH THETA

一圓さんにとって、「鶏たちは、売り物だけど生きているパートナー。動物は動物らしくあるものだ」という考えがあり、餌は3日に一回ごっそり与えて、鶏たちの自主性を尊重するスタイル。
「集団意識が強いので、大きくなると人間と付かず離れずの距離を保つ」のだそうです。そして、親鶏が出荷されるのは450日後。この農場を後にします。

鶏は、草を咀嚼することや土をかくことでストレスを発散し、運動量が増すので、これが土佐ジローがしっかりした歯ごたえの秘密なのですが、今の大型養鶏の考え方は、決められたカロリーやタンパクをしっかり摂取してしっかり食べさせるというどちらかというと管理型の育て方。しかし、いちえん農場の独立自尊の気概を持つ鶏は基本的にフリー。しかし、産卵率が落ちてしまうことはないそうです。「草なんてカロリーもタンパクもないのに、なぜ産卵率が落ちないのかわからないんですけど...」と一圓さんも不思議顔。

むね肉加工品

歯ごたえがしっかりしていて、むね肉もスライスすることで食べやすくなります。

土佐ジローオストサカのごっついのがオスです。キリリ!
オスとメスの割合は1対25。一つの鶏舎だと、おおよそ4対100です。

栗畑遠景

いちえん農場が次に挑戦したのは栗!

海の近くにあるいちえん農場

いちえん農場は下を走る道路を隔ててすぐ海なので日照時間が多く、昔からこの地区では柑橘の栽培が盛んでした。同じ高知県でも山間部とは違い、あまり海岸線で栗を作ることはありません。もともと1.6haあった柑橘類の畑を自分一人で面倒みるのは難しい、柑橘類の区画は1haくらいに減らし、違う作物を植えることで、管理する時期を分散し、限られた労働資源である家族経営型を安定させるという目論見で栗に挑戦することにしました。

栗の木畑

桃栗三年柿八年といいますが、いちえん農場の栗は今年4年目。
長年農業に携わっている一圓さんも、落葉果樹の栗を栽培は初めてで、「こらもうすごい価値観変わった」のだそうです。栗を剪定していると、それまでやっていた常緑樹である柑橘への考え方も変わって、取り入れることがすごくたくさんありました。
「めっちゃおもしろい、たまらんくらい!」

栗をやって、一つの芽がいかに大事か?ということを勉強することができました。
今まで栽培していたみかんのは、いろんなストレスをかける手法もありますが、いちえん農場の場合はお天気やその土地に任せた設備を使用しない露地栽培なので、「枝が伸びるであろう、実なるであろうという予測の元に剪定を入れていく」のですが、栗の場合は、実になるところが決まっているので、予測はつくものの「この芽を落とすと絶対実をつけない」ということで、慎重に手入れしていかなければなりません。

実は栗を栽培し始めて、家族全員が栗好きだったということがわかった一圓一家。昨年の栗がなる時期には毎朝、おばあさんがザルををもって収穫しに来ていたのですが「木に一切さわらないで!芽にぶつからんといてくれ!枯れるから!絶対やめてくれ!頼む」と必死のお願い。栗の戒厳令が発動しました。

芽が出てる

栗は剪定が命。枝はどんどん切って、栄養を集中させ、実がなる枝を太らせ、粒を大きくするために芽数を減らしていかなければなりません。
肥料も与えすぎてはいけない、枝も枝もたくさん切る、一圓さんが初めて体験する、いたわって育てる作物ではなく、いじめて喜ぶタイプのドMな作物、栗。

栗の木傷

イノシシにやられた傷も、みかんの場合には、傷を放置することはまずありえません。さいあく枯れる可能性もあり、一度芽のところを飛ばして、もう一度違う芽を噴き出させないといけませんが、栗の場合は「かまわんらしいがですよ。自分で巻き込んで元に戻るらしい!」

添え木

栗の樹の添え木の先についている白い液体は傷口ボンドです。自家製の木酢液をこのボンドに半々くらいで混ぜて殺菌剤として使用しています。

栗についてマジ談義「立派な栗になりそうだ!」
日照量が糖度に影響する栗。いちえん農場のある四万十町とすでに栗が栽培されている高知県山間部だと1ヶ月分ほど日照時間が違うのですが、いちえん農場の栗がどれだけ甘く、そして、大きくなるのか夢が膨らみます。

柑橘系の枝「自分で植えたら作物が全部めっちゃかわいい」
栗をやると、栽培方法の違いの他に、色々と気づくことがありました。
ポンカンをやってた頃は、お父さんが植え付けて、自分が面倒を見る頃にはすでに成木。正直、あまり愛着はわきませんでした。
しかし、自分で畑を作って自分のお金で苗木を買って植えた作物たちは、めっちゃかわいらしい。
この愛情の違いにハッとした一圓さん。「おやじ、ごめん!」とお家に向かって手を合わせていました。
今では、いちえん農場の全てが愛おしい一圓さんです。

一圓さん語るそして、高知県特産の果実ぶしゅかんの師匠からも連絡。
「おまえ、四万十市に住みようが、ぶしゅかんも植えてくれやー」という話になり。すでに栗を植えてたので、新しく畑をつくって植えることになりました。
畑の面積を減らすつもりが、結局増えてしまうことに。
「ようお守りするのかなぁ」と言いながら一圓さんの声はどここか楽しげです。柑橘、地鶏、栗と新しい挑戦を通して再認識したのは、栽培方法と作物への愛情だったのかもしれません。

一圓さんいい顔

情熱は最高潮のまま、家族経営型の日本の農業でどこまでいけるのか?と限界に挑戦し続ける一圓さん。
無農薬の果物、少量多品種の循環型農業、高知県原産の地鶏「土佐ジロー」、そして今年初めて収穫できる栗、とそのチャレンジの輪はどんどんおっきくなりつつあります。

いちえん農場記念写真

最後は「土佐ジロー」をかけ声に記念写真。
一圓さん、今日は楽しいお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

【詳細情報】
いちえん農場
電話番号:0880-36-2567
住所:高知県四万十市名鹿465-81
URL:http://ichiyen.net

(text:西村、photo:市岡 ※一部の写真はいちえん農場さん提供)

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