直火の文化は私が未来に残す!燃える思いで技と思いを受け継ぐランプ職人の五代目 WINGED WHEEL

ハリケーンランプオンパレ大阪市八尾市にあるハリケーンランプの製造元、WINGED WHEEL(ウィングド ウィール)さんにお邪魔して工場見学です!

WINGED WHEELのみなさん

WINGED WHEELのみなさん。右から代表取締役の別所由加さん、工場長、別所さんのお母さまです。今日はよろしくお願いします!!

見学

まずは、質問から。

ハリケーンランプとは、いったいどんなランプなのですか?
ところでハリケーンランプって、普通のランプといったい何が違うのでしょうか?由加さんにくわしく聞いてみました。
「ハリケーンランプとはその名が示すように、嵐の中でも消えないランプというのが名前の由来だといわれています。馬小屋などににかけられている主に屋外用の灯りで、西部劇の映画でもよく出てきます。
原理としては、小学校の理科の実験で使ったアルコールアンプと同じで、オイルタンクに灯油もしくは、リキッドキャドルオイルを注油し、綿でできた芯が毛細管現象で燃料を吸い上げ燃やす。支柱を通って空気が循環するので、外気の影響を受けることが少く、火が消えにくいという利点があります。」

唯一のメーカー

日本ではじめてハリケーンランプを作ったWINGED WHEEL
日本にランプが伝わったのは幕末の頃。文明開化とともに、これまで使われていた菜種油に芯を浸して燃やしていた行灯に代わり、電灯が普及する戦後までハリケーンランプは灯りの主役でした。WINGED WHEELの前身である別所ランプは大正13年創業、日本ではじめてハリケーンランプを作ったメーカーです。創業者は別所留吉さん。由加さんの曽祖父です。

別所ランプの昔

別所ランプは輸出がメインで、イギリス・アメリカや中東をはじめ世界へハリケーンランプを販売。性能や安全性の評価が高く、最盛期には200人の従業員が一日に2,000個ものランプを製造していました。その後、会社名がWINGED WHEELにかわってもハリケーンランプは仕様を一切変更することなく、形状や構造、同じ製法で作られています。

見学スタート

ハリケーンランプの歴史を学んだところで、さっそく製造現場の見学にまいりましょう!

部品図解

これがハリケーンランプの構造です。
オイルタンクや、バーナー、柱、頭などその他細かいものも含め部品が20点ほど使われています。

ハリケーンランプの製造工程は、なんと全部で300以上。主だった流れをかいつまんで書くとこんな感じです。
(1)原料となるブリキ板の切断(シャーリング加工と呼びます)
(2)次にプレス工程。複雑な部品になると1パーツにつき10工程以上必要な場合もあります。
 型抜きの他、削ったり、穴を開けたりもします。
(3)仕上がった部品を手作業で製品へと組み立てる。
(4)テスト
(5)塗装
(6)完成

1日では完成しないので、全てを見せてもらうことはできないのですが、今日はプレスと部品の加工、組み立て、の工程をみせてもらいます。

プレス機を操作する

この工場で二番目にに大きなプレス機です。

金型がセット

これが金型。

プレススタート

円筒に段をつけます。
摩擦を軽減する粉をふりかけて、型が下りてくる。

真剣な表情

仕上がりを目視でチェック。

チェック1

「合わせ用」といわれる合格品と見比べてチェック。

チェック2

光に透かして見ると、より細かいところまでチェックすることができます。

機械を調整

機械を調整。

真剣な眼差し

目線は、部品だけを見ている。

プレス機作業

黙々と動かしていきます。作業中には声はかけられません。

出来上がった製品

出来上がりました。ハリケーンランプの頭の中に取りつける部品。

ケリポンたち

名前は「ケリポン」です。
この機械は電気を使わないプレス機、名前は「ケリポン」といいます。名付けた人は不明ですが、WINGED WHEELではずーっとこの名前で呼ばれています。動力は由加さんの脚力のみ。名前の由来は「足で動かすときに、ポンと足で踏み込むから、たぶん。」
それぞれ部品の寸法によって使い分けられ、ケリポンは4台あります。
このケリポンたち、すごい貴重なものらしくて、現在はアンティークとして使われているほどの代物なのだそうですよ。

ケリポン名札

ちゃんと名札も付けてある。

ケリポン動作

このケリポンに金型を取り付けエイッと踏み込み、板を曲げたり加工していくのですが、これがなかなか大変。
操作が大変なのは、女性で力が足りないせいではありません、ケリポンを動かすためにジムで鍛えたから!
難しいのは踏み込む強さと呼吸。部品を思った通りの仕上がりにするにはかなりの経験と技が求められます。現在のプレス機は金型を取り付ける部分に、ガイドという上下がずれないような治具があるのが普通。しかし、このケリポンにはそのガイドがなく、踏み込みの感触や動作時の音といった作業者の感覚で、具合を調節する必要があります。
「前の日にできて、今日同じようにやってみても、うまくいかないことも。昔の職人さんはすごいなといつも思います。
そして、ときどき『クソッ!』とか『コラっ!』と言いながら作業しているので、ケリポンのご機嫌を損ねているかもしれませんね。いつから使われているのかわからないくらい古くて、もうおじいちゃん、もしかするとおばあちゃんくらい。お年を召しているので、ご機嫌をとりながら作業しないといけません」と、由加さん。
この工場にあるマシンたちは由加さんにとっては仕事仲間。由加さんは「機械」とは呼ばずに「この人」と親しみを込めて、お話を聞かせてくれました。

ケリポン3号機

なかなかいうことを聞いてくれないケリポンたちですが、3号機に取り付けられている金型とはまだ仲良くなれていません...。

用途不明の金型

「この道具、最初に見たときには、何これ?って思いました」
面白い形の金型。こんな風にハリケーンランプづくりには、独特の道具たちがさまざまな工程でいくつも登場します。由加さんがこの仕事についた7年前は、見たことのない道具だらけで?マークが思い浮かぶことはしょっちゅう。作業についても何も知らないことばかりののスタートでした。
「家業を継ぐために入社してハリケーンランプを作るぞ、となったのですが、何も情報がない...。
金型もなかったり、あっても壊れてたり。古くからの工場なので、技術は職人さんの肌感覚で受け継がれていたようで、その職人さんも、もういない。
うちに残っているわずかな資料を見たり、学者さんに話をきいたり、ランプの販売に携わっていた方などに聞いて回ったのですが、ランプがあって当たり前の時代だったが故に、誰も研究せず、記録や資料に残っていないことがわかりました。
そんな中、取引先の社長様に、『馬小屋の中にかけているランプ、別所さんのところのランプは風が吹いても炎は暴れず安定しているので、揺れる炎に驚かずに馬がおとなしくしている』というお話を聞くことがありました。それではじめて、ああ、そうやったんや、うちのランプすごいんやな、と思ったくらいなんですよ
実は当社は、3代目のおじいさんの時に一度解散。その後母が別所ランプ工芸社として、再スタートしました。私は唯一、ハリケーンランプの製造ノウハウを知っていた工場長から教わることになりました」

しかし、工場長は職人歴66年目の大ベテラン、昔ながらの職人気質で、そもそもオンナが現場に入ることにあまり良い気持ちではなかったそうで、教わりはじめたころはなかなか大変だったのだそうです。

「今になって分かりますが、ちゃらちゃらした素人の女の子が自分の縄張りに入ってきて、誰が信じますか、って話ですよ。でも私もその時は必死だったので、煙たがられようと腕で押しのけられよう(比喩ではないです、実際に押しのけられた)と、金型を取り付けるところをずっと工場長の横に張り付いて観察していました。しかし、口ではいっさい教えてくれず見て覚えろ、教えるというより盗めって姿勢っていう昔ながらのやり方でした。そんな色々があって、私もそういう不満を感じている時間も余裕もなかったので、金魚のふんみたいにひたすらひっついて回って、ずっと記録を取り続けました。」

説明

「でも、見ているうちにだんだんわかってくるんですよ。例えばプレス機だと一番最初にこのボタンを押しているな、とか。この動きの前にはこの操作、といったように。それをわからないなりに全部紙に書いていって、後から見直して理屈を考えました。そんなふうにしているうちに徐々に機械の操作が一貫した流れとして理解できるようになってきました。その後、いろんな機械で応用してやっていくうちに、だんだん認めてもらったのかな。やっと教えてもらえるようになり、覚えていきました」

資料に残す

これがそのメモ。図入りでビッチリ書いてあります。

図入り 大問題が発生

大問題が発生したり。

中には、ここではお見せできないような激しい表現で心の叫びが書かれていました。

記録の棚

その蓄積がこのファイル。数年かかりでお母さまと二人で、部品や作業のことを細大漏らさず、書き出していきました。しかし、まだ途中で「半分くらい」なのだとか。メモと写真、そして今は動画を駆使しながら、ハリケーンランプの記録は今後も継続していきます。

金型の絵札

どこに使うかわからない、初めて見る金型もたくさんありました。今はどこに何番目に使うかといった情報が札に書かれています。

大きな金型

持ち上げられないくらい大きいものもあります。これはさすがにジムで鍛えてても無理なので、リフトで運びます。

金型保管方法 製品と金型

後から見直してもわかるように、金型、それを使って出来上がった製品、そしてその理屈のメモ書きがセットになって保管されています。

かしめる!?
「かしめる」とは八尾地域の河内弁ではなく、職人さんの言葉で、二つの部品を圧着させることを言います。
実は、WINGED WHEELのハリケーンランプには接着剤はつかわれていません。このかしめる作業で部品同士を組み合わせて接合しています。

しほん

こちらは「ゲージ」と呼ばれるサイズや形状が正解の加工の際のお手本で、完成状態だけではなく、加工の段階ごとに保管されています。フリーザーバッグで!
「フリーザーバッグは耐久性が良く湿気にも強いので、保管に適しています!」

一つの部品にこれだけの工程

この部品にも、加工の状態がこれだけあります。
まずは、プレス機に紙を通して切れ味を試します(紙の縁に切れ端が多く残っているとNG、スパッと型とおりに切り抜かれているとOK)。
その後、(1)板を円く切断し凹凸をつけて立体にする、(2)天を抜く、(3)外の縁を立てる、(4)後の工程のために手加工で調整する、(5)縁の外縁に強度を増すための加工を施す、とこの順番通りに作業しなければ部品の動作に影響してしまいます。そして、加工状態ごとにゲージを残します。

バネの部分

ハリケーンランプのホヤ押さえと呼ばれる部品を上下させるときに円滑にスライドするようにガイドの役割をはたす、とても大切な部品です。

たくさんの金型

金型好きにはたまらない工場
WINGED WHEELでは見学は募集していませんが、たまに見学に来たいという人には都合が合えば見てもらうこともできます。昔の機械が大好き!という人が特に八尾や東大阪あたりには多くて、みなさん何かで知って、グループで来られることもあるのだそう。
「見学に来られる方は、いろいろなところを見ているので教えてもらうことも多く、ありがたいな、と考えています」

ローレット

まだまだ面白い機械はたくさんある!
こちらもこの工場独自のマシン。空気穴あけの機械でバーナーのお皿部分を加工します。

横穴を開ける

ガチャンとレバーを引くと動き出し、段を潰さずに等間隔で横穴を空けます。

ローレットをつける

3つの金型が同時に駆動し周りながら、縁を内側に巻いて柄をつけます。この柄は装飾の意味合いよりも、強度を増すことが目的。

できあがり

できあがり。

怪我もした

怪我もしたけど、やり遂げて怖さを克服した
まだこの機械の操作に慣れていない頃、由加さんの手のひらをこの部品がシャーっと横断し、血だらけになってしまったのだとか。聞いてるだけで痛くなってくる。
機械を動かすためには足で踏んで、手を離すを繰り返しますが、タイミングが狂うとこのような事故が起こってしまいます。
「その時は無意識に体がビビってしまって、しばらく機械を動かすことができなかった。機械の前に立つと体が動かない。でも、教えてくれてた人がいい先生で、私を絶対甘やかさずに『全部やりなさい!』と言ってくれて、最後までやり遂げることができました。数をこなすことで恐怖心はなくなる、しかし、一度怖さに屈してしまうとできなくなってしまう。頭で考えてても体が怖がって動かない、それを乗り越えるには技術と気持ちが両方必要です。
今考えるとめちゃくちゃですけどね(笑)。でも、これじゃないとできない部品だからこの機械でやるしかありません」と由加さん。頭が下がります。

金型をつけるときはどつく

金型を変える時には、どつく
部品によってサイズや形状が異なるので、金型を取り替える時には、金型を杭で叩いて取り付けます。
これは金型をつける際に杭でつけた目印、と書くと上品ですが、どついた跡です。
最初はもっと慎ましやかな目印だったそうですが、上手に取り付けられずにだんだん腹が立ってきて、杭をたたくハンマーもゴツいものに。結果、こんな感じになりました。

どつく

今は慣れたので、叩き方も穏やかです。
「金型の傷や跡を見つけると前の職人さんがここで困っていたのかな、というのが道具を伝わって、だんだんわかってくるんです」

馬

「馬(うま)」と呼んでいる機械。レバーを回して、

ホヤ受け金具

ホヤ受け金具を曲げます。
これも由加さんを悩ませた道具のひとつ。

ケリポン空圧

空圧で動くケリポンです!ケリポンは手と足を同時にタイミングよく動かさないといけないので、リズムが大切、そして、少々無理な体勢。昔の機械は昔の人の身長の高さに設定されて作られています。
「わたし、身長がデカイんで、もうしんどくて、最初は腰を痛めてしまいました」
しかし、由加さんは過去ドラムをやっていたので、手と動作をそれぞれのタイミングで動かすのはお手の物。
ケリポンの操作に早く慣れることができたのは、工場長によると「ドラムのおかげやな」とのこと。

作業風景

続いては、組み立ての工程。手作業で行います。

手作りペンチの先

この先が削られたペンチは、ハリケーンランプのホヤ受けをレバーに取り付ける時に使う道具。
「最初はなにこれ、ほんまにもう〜」と中には2日間にらめっこし続けた道具もあります。形を見て、この形状がこうなっているから、ここに使うんだろうな、たぶん。とアバウトに進めながら、後から理屈を考えて、はじめてだんだんわかってきました」

専用器具手元

こうやってギュッと握ると、

かしめ終わり

金具が締められる。
この1工程だけのための道具。昔の職人さんが「やりやすいように」と思いを込めて、ペンチの先を削ったのだと考えられます。

取っ手を成形する

もうひとつのペンチは、口の片方が丸くなっていてなんだか生き物の口を思い出させてくれる形状。ハリケーンランプの笠の持ち手となるカンを折り曲げます。この道具もここでしか使われない。
ワイヤーは固くないので指でも折り曲げることはできますが、曲がり具合がバラバラになってしまいます。しかし、この道具を使うことで、一定の曲がり具合で、かつ全数安定的に同じ形状にすることができます。
このペンチも買ってきたものの先端部を焼いて丸く加工したもの。無くしたり壊すと代わりがきかないので大切にしています。

戒め

過去を思い出し自分を戒める「イマシメ」の数々。
組み立てられて出荷を待つ商品...ではなく、これらは失敗作。
製品としてはNGなものが組み立ての作業台の上に並べてあります。「戒め(イマシメ)」と呼ばれています。

決め押し

こちらもイマシメのひとつ、柱の部分の側面の縁の加工がされていないのがダメなのだそうです。
左側には凹みがあるのに対して、右側のにはありません。これは「決め押し」という工程です。この工程を抜かしたまま組み立ててしまいました。

なくても大丈夫なのでは?と素人考えで思ったのですが、由加さんいわく
「ひょっとすると機能上の問題はないのかもしれませんが、この決め押しがなくても大丈夫、ということを残念ながら今の私には判断できません。それにハリケーンランプは火を扱うもので安全性への保証が欠かせません。これまで長く使われてきたものだから必ず何か理由があるはずで、今はこれまで通りのものを作ることが大切と考えています。」

戒めの数々

イマシメの数だけ、経験が積まれる!

ホヤ

最後に「ホヤ」というガラスの囲みをつけて、ハリケーンランプが仕上がります。
ホヤは貝に形が似ているからなのかな、と思いましたが、さにあらず。「火屋」とかいてホヤと読む。
ハリケーンランプをすべて自社で作り上げるWINGED WHEELでも、このホヤづくりだけは以前のガラス職人さんはおらず技術は途絶えてしまったため、ガラス用の金型を提供し、現在は国外で作ってもらっています。全ての部分が同じ厚みで口の部分を巻いていく、という高度な技術を持つ職人さんは日本には数少なく、値段もあわない。やむをえない選択でした。

この後「油漏れテスト」を行います。
形状や仕組みは昔通りのハリケーンランプも、テストだけは時代に合わせて向上させています。
昔のハリケーンランプは馬小屋やビニールハウスといった屋外で使われることが多く、油が漏れてもそんなに気にされることはありませんした。しかし、現在はインテリアとしてお家の中で使われる場面が増えてきたため、タンク部にはんだづけをおこなうなど改良。
形は大正13年の創業の頃のまま、安全面は時代に合わせています。

出荷前製品

最後に、塗装して出荷します。

オイル

火がついているランプを見せてもらうことにしました。

ほのお

落ち着く。
炎が優しく形が美しいのも、WINGED WHEEL社のハリケーンランプの特徴。
ハリケーンランプで使われる芯は綿製で、炎の形を美しくするためにこの芯の形が重要。
芯を猫の舌の形、通称「ネコベロ」状態にしておけば、炎も美しいネコベロ型になるのだとか。
「ネコベロの言い出しっぺはわかりません。でも、なぜかずっと昔からネコベロって言ってます」

別所ランプ作品

WINGED WHEELではハリケーンランプだけではなく、

オイルランプより

オイルランプや、

洋燈

洋燈(ようとう)と呼んでいる、応接間などに置かれているような昔ながらのランプも作っています。しかし、洋燈を製造することになったのには理由があります。

黄金期

戦前の別所ランプは従業員200人以上を誇り、韓国などにも工場を構えるほどの大所帯で、まさに「黄金期」。その頃、大阪にもランプメーカーは別所ランプを含め3社あり、「ランプの町、大阪」と呼ばれたほど。大阪でランプ製造が盛んになった理由は、灯油の流通経路が西からで、それと同じく油を使うランプの製造も大阪の地で発生したからではないか?と言われています。

しかし、戦後の成長期には日本の隅々まで電気が普及。それに伴い、つぎつぎと大阪のランプ関連の会社の廃業が相次ぐ中、そのうちの1社から「おまえのところは、ハリケーンランプでなんとか生き残れるはずやろ、ランプの炎をなんとしてでも絶やさないでほしい」とランプの金型を譲り受けました。それが、洋燈づくりを続けている理由です。

その後、由加さんの祖父である三代目である別所昭さんが代表の頃、激しい輸出競争からは撤退。農業分野を開拓し、国内市場へ絞り込み転換したものの、2003年(平成15年)に残念ながら解散。一旦幕を閉じることになります。

二美子さん

しかし、翌2004年(平成16年)、お母さまの二三子さんが「別所ランプ工芸社」を復活。さらにその3年後の2007年(平成19年)、由加さんが大学卒業を待たずに入社することになります。
「あのタイミングで大学を辞めて会社に入って、ハリケーンランプの製法を教えてもらって良かったと考えています。その時期を過ぎてしまうと技術検証が間に合わないかも知れませんでした。教わっている工場長は、戦後すぐ入社したので、もう80歳を超えてしまっています。お歳なので忘れてしまっている部分も正直あります。
ほんまに間に合って良かった。周囲には反対されたけど後悔はありません。今になって、人生ってターニングポイントがあるな、と思うことがあります」と由加さん。
そこからハリケーンランプの製法を残すべく、由加さんの奮闘が始まりました。

実際にハリケーンランプを自分で作ってみることはもちろん、製法を残すために記録する、ホームページや宣伝物も自分で作る。そして、オンラインショップの開設を始めとする販売。灯りの歴史や文化を調査し、さまざまな場所で講演も行っています。
そして、由加さんは2013年(平成25年)に、株式会社Winged Wheelの代表取締役に就任。

ランプの周りに集う

ロマンチックな祖父の言葉に似合うランプを作り続ける
「会社を大きくしようとというのは考えていません。ただ、ランプって正直今の時代には必要ないもので、電気もあるし照明としての役割は終えたと私も思っているんです。

でも、単なる灯りじゃなくて、直火の炎は見て癒されたり、これからのランプは別の価値を見つけていかなければなりません。
三代目の祖父が残した言葉がとても好きなんです。

『暗闇に炎があると人は自然に集い合う
炎を囲んで語り合うと人は仲間になれる
ランプにはそんな不思議な力がある
だんらんのひととき
電灯を消してランプを見つめ語り合えば、
きっと素敵な家族になれる』

なんてロマンチックなじいさん、と思いません??この言葉に似合うランプをこれからも作っていくのが私の役割、と思っています。

いま、私は電気の代わりではなく、まったく別物としてのランプの立ち位置を模索していっている最中です。
自社ブランドでの発売、インターネットで直販、といった今までやったことのないことをやって、どうなっていくかを探りながら、進んでいこうとモガいているところです。完全にモガいています」
と由加さんは素敵な笑顔でお話してくれました。

別所ランプの昔2

日本のランプ職人たちの思いを受け継いでいく
「プレッシャーじゃなくて、私の後ろには大阪でランプを作っていた人たち、他にもいっぱい人がいると感じることがあります。金型を託してくれたメーカーの人の思いも一緒に受け継いでいる。だから、最後のうちらが、日本のランプや直火の文化を守らないといけない。
でも、現代に受け入れてもらえなかったらそれまでなので、生き残っていくためには、大正13年創業の看板でどーんと構えているんじゃなくて、新しい方向を考えて未来に残っていくように頑張ろうと思っています」

ハリケーンランプイメージ

思いと技術を受け継ぎ、直火の文化を守っていく、五代目のランプ職人。
明るくお話してくれる由加さんのお話を聞いたり奮闘する現場を見せてもらって、ハリケーンランプのように嵐に負けることなく、優しく力強い炎をいつまでも燃やし続けてくれるといいな、と思いました。

ちなみに、WINGED WHEELでは破損している金型を修復するために、クラウドファウンディングを実施中(9/30締め切り)。
クラウドファウンディング
ハリケーンランプ愛好家や金型マニア、WINGED WHEELさんを応援するぜ!という方はページをご覧の上、ぜひ応援してください。

WINGED WHEELさん、今日は有難うございました!

【詳細情報】

株式会社 WINGED WHEEL
電話番号:072-925-6780
住所:大阪府八尾市北亀井町2丁目5−5
URL: http://www.lanterns.jp/wingedwheel/

(text、photo:西村 ※一部の写真はWINGED WHEELさん提供)

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