栗ビジネスの旗ふり役と剪定の先生の強固なタッグが生み出す、 地域の夢がつまった高知四万十のでっかい栗!しまんと地栗
大きな栗の〜木の下で〜♪
ということでやってきました、高知県の四万十町!今日は栗の見学です。
ご案内いただくのは、株式会社四万十ドラマの畦地履正さん。
畦地さんはここ高知県四万十地域でお茶の商品化や道の駅の運営、野菜のマルシェの開催など地域の特性を生かしたビジネスを次々に生み出している方。しゃかいか!では 四万十町に何度もお邪魔していて、いつもお世話になっております。ありがとうございます!
高知県四万十流域で地域ビジネスの仕掛け人として活動中の畦地さんの取り組みやプロフィールはこちらでご覧ください。
畦地さんはここ高知県四万十で収穫される「栗」で、次々と商品を開発中。
そして、収穫の秋が到来!栗の収穫を見に行かないと、そしてたくさん食べないと、ということでやってきました。
今日はなぜ四万十地域のビジネスで栗を扱うのか?そして、四万十の栗ビジネスは現在どんな風になっているのか、などを学んでいきたいと思います。
「栗を見せてあげるで」畦地さんにさっそく栗園へ連れて行ってもらいました。
栗の収穫は例年9~10月の上旬まで。お邪魔したのは10月の初めだったので、だいぶ収穫が進んでいます。
ここは四万十町小野地区にある栗園。
JR予土線と平行に走る国道381号線から四万十川橋を渡って、集落を少し登ったところにあります。
山がちで平地が少ない四万十地域では、田んぼや他の作物と同じようにこういった斜面にある少ない耕作地を有効利用したところに栗園が配置されています。
栗の木がお行儀よく並んでいます。
栗というと収穫高では茨城県が日本一。そして、全国的な知名度をほこる丹波栗、将軍家にも献上されたと言われている長野県小布施町が産地としては有名ですが、実は日本全国で収穫することができる作物。
栗の原産地も日本です。土地が凍らないところなら、日本中どこでも育つことができます。
高知県は栗の栽培に適している。
栗の栽培に適した条件は日照時間と土質。
土はミネラル分が多く含まれる四万十帯が通っているおかげで、栗の圃場として優れているそうです。この日当たりと土が四万十の栗を育てる。
そして、栗の甘さを決めるのが寒暖差と湿度。
高知県は温暖なイメージがありますが、四万十の町のある山間地域では、朝晩の温度差が大きく、霧が行き渡るほどの適度な湿度が栗が育つには好条件。この地域でお茶の栽培が盛んなのもこの寒暖差と湿度が関係しています。
この日お邪魔したのは台風通過の翌日。実が落ちてしまうので台風は栗にとって大敵なのですが、この霧が栗を甘くしてくれます。
このように栗にとっては非常に過ごしやすい四万十地域ですが、10年前くらいまでは減少傾向が続いていました。昔は500トンもの栗が生産されていました(生産量日本一の茨城県の年産は約5,180トン/2014年※)が、徐々に減少。生産量の縮小→商売にならない→作らない→もっと生産量が縮小というよくない循環に陥ってしまい、とうとう20トンにまで縮小してしまったのだそうです。
そこで、なんとかせねば、と立ち上がったのが畦地さん。
これまで、四万十地域で新しいアイデアを次々とビジネス化してきた経験を総動員して栗の商品化に挑戦。栗をつかった商品開発に着手しました。
※農林水産省平成26年産西洋なし、かき、くりの結果樹面積、収穫量及び出荷量
「びっくりするものを見せてあげる」と畦地さん。四万十の栗の商品が販売されている道の駅四万十とおわに移動します。
道の駅では栗フェアの真っ最中です。
今年の栗はデカイぞ!
四万十の栗は毎年記録を更新中!昨年まではひとつ58gくらいだったのが、今年はなんと73g、ゴルフボール並みの大きさです。はたして口に入るのだろうか!
この記録保持栗は道の駅四万十とおわで見ることができます。
大きな栗の渋皮煮、パウンドケーキやパイまんじゅうをお土産で購入してしまいました。
人気商品、モンブラン。
道の駅で販売するのは栗の加工品。栗をそのもので販売するのではなく加工して販売する理由は、地域で加工することによって作業費が発生し働く場が生まれ、生産者だけではなく他の人にも還元できるから。
道の駅には「とおわ食堂」という飲食スペースもあって、お昼をご一緒させていただきました。栗ごはんおいしかった。
ごはんの後はデザート!ということで、四万十川を眺めることのできるあるおちゃくりカフェで、栗をつかったスイーツをいただきました。
おちゃくりカフェに併設されている加工場で働いているのは地元の人たち。若い人が多く平均年齢30代までくらい。
合計5名ほどでシフトしているのだそうですが、パティシエの経験者は1名。素人だけど地元で働きたい人が、仕事をしています。
四万十地域では今でも仕事を求めて若者が外に出てしまうのですが、カフェ、食堂、道の駅という働く場が生まれることによって少しだけ流れが変わってきているのだそうです。
もはや四万十の名物となったモンブランも地元の人が一つ一つ手作り。
栗がいっぱいのロールもまく。できるだけ地元の素材と人を生かす。
そして、今年の目玉の新商品、栗率90%の「ジグリキントン」。
畦地さんも大好き、四万十の栗をつかったきんとん。このジグリキントン、原料は栗、砂糖、以上です。口に入れると、いきなり栗そのもの。
「うまいっすよ」
と畦地さんも大好きなこのジグリキントン。この商品はこれまで数々の四万十の商品開発でタッグを組んできた、デザイナーの梅原真さんのアイデアから生まれました。もともとの栗ペーストがうまいからようかん状にしたものをそのまま作ってみてはどうかな!栗70%甘い、80%まだ甘い、90%これでいこう、とどんどん栗率が高まっていきました。砂糖混ぜて原価を下げることもできるけど、できるだけ栗そのものを味わってほしい、ということで誕生した商品です。
パッケージはもちろん、梅原さんデザイン。
20案以上のデザインを出して、二人で話し合って…ではなく梅原さんご自身が「やっぱりこれが良いかな!!」と決めてしまいます。箱の設計や紙の種類も全部梅原さんが決める。商品名が「ジグリキントン」とカタカナになった理由は、畦地さんにもわからない。
「栗の含有率が高いので、開封するとすぐポロポロなるけど、これも栗本来の食感。これがいいのよー。うちの商品は原価がめっちゃ高くて、加工の利益は薄い。けど、うまいよ。価格はなかなか高いけど、手土産に持っていけば、めっちゃ喜ばれる!」と畦地さん。
一つ800円となかなか高級なジグリキントンですが、価格設定は生産者の利益をまもるため。
食べている最中もカフェのお客さんに「ちょっと食べてみて、栗のきんとんだから。東京だとどこそこで帰るよ」としっかり宣伝。ジグリキントン愛が深すぎる。
発注をとってきてから、作る。
おちゃくりカフェ横の加工場で作られる商品は、すべて発注済みのもの。カフェで出すもの、道の駅で売るものの他に、百貨店や流通企業で取り扱っているものも作っています。
だからここでは、すべて売り先が決まってから作られます。
「単価は絶対に下げない。価値を下げることになるから、ここの人たちのためにならない」と畦地さん。
栗スイーツを始めとする四万十ドラマの外販の担当は畦地さん含めて2名。例えば東京にいくときには営業まわりする先を決めて、テレアポ。バイヤーと会い商談して発注をとってきます。
百貨店のイベントにも参加します。
でも、営業できる人がもう少しほしい、作る側もお店も飲食もまだまだ人手が足りないのだとか。
ジグリキントン、食べてみてね!
このジグリキントンは、道の駅とおわの店頭でも1日100本ほどならあっと言う前に売れてしまいます。大手の流通企業から数千本単位の発注も獲得しました。今年は年間2万本を生産予定。「10万本でもいいと思っていたけど、原料が全然足りない。ジグリキントンは1億円を稼ぐことのできる商品。単価がいくらなので、原料としての栗が何トン必要で、製造側の人数も増やして〜」と畦地さんの頭の中のそろばんか電卓がパチパチパチとなっているのが聞こえてきます。
「でも、本当はもっと売れるのにな」と少し残念そうな畦地さん。
現在は栗の商品が好調なこともあり、四万十地区での栗の生産は増産が必要になりました。むしろ、おいつかないくらいの状況です。
そこで、頑張っているのが栗の木の植樹&再生。
原料となる栗を確保するため、「四万十の栗10,000本の剪定プロジェクト」を実施。現在、みごと1万本は達成。プロジェクトがスタートしたころは、年1,000本程度でしたが、この数年で数千本とペースアップ。これからも引き続き増えていく予定です。
しかし「桃栗三年柿八年」というように、木を植えて実を収穫できるには、しばらく時間が必要。実は「栗三年」ではなく安定的に収穫できるようになるためには5年が必要です。
そのため、植樹だけではなく、急いで供給できるよう現在ある栗の木を剪定し再生する1万本プロジェクトも2016年からスタートしました。
「1万本で一つの木から10kg取れたら、それだけで膨大な数になる。そっちが早い」と畦地さん。またそろばんが鳴る。
「栗は生産者にとって、これまでの天の恵み。生産量や値決めもきちんと数字に基づいて、損をしないように作っていく全体のデザインが必要、全体のデザインを実現するための目標となる数字はとても大切です」と畦地さん。
栗の植樹と再生には強力な助っ人がいます。
こちらが栗の剪定士で四万十栗復活に取り組んでいる伊藤直弥さん。伊藤さんはもともと岐阜県の恵那で栗の栽培をしていましたが、畦地さんにスカウトされここ四万十にやってきました。
現在は生産者向けに栗の剪定方法の指導を行っています。
伊藤さんは、一つの園地に集まってお手本を見せながら枝の切り方を講習する一般的な剪定講習のほか、「特選栗」という認定された生産者だけが栽培した高品質な栗を栽培する部会に対して、その人の園地に行って、実際の作業をやってもらって、伊藤さんが見に行ってジャッジ、さらに一回手直しをしてもらう、というきめ細やかな指導を今シーズンから開始しました。
「栗の剪定というのは、日照条件や気温、土質などの選択の繰り返しです。四万十はある場所では晴れていてもトンネルを越えると土砂降りになっていたり、平地とは違ったアプローチが必要。このやり方が一番いいという剪定はなく、それぞれの園地で適切な条件を選びながら進めていくべきです。ですから、お手本を見せっぱなしではなく、実際にその園地に行くことまで責任を持つべきだと考えています。
研修では技術指導だけでは、これさえしていればいい、と切りっぱなしになってしまうので、考え方も併せて伝えなければなりません」
伊藤さんの剪定は教科書に載っている一般的な内容とは異なり、独自の方法があるそうです。
従来の栗の剪定方法では、一本の木から少ししか栗を収穫することができません。
一般的な栗は一本の木から約2.5kg、農水省の統計によると全国平均で一反(約1,000平米)で約100kgしか採取できないと言われています。この剪定方法は栗の生理に基づいたもので、ながらく栗の剪定の教科書にも掲載、この方法がお手本とされていました。しかし、この方法では一つの栗の木から収穫できる栗の量も必然的に決まってしまい、量を確保するためには広大な土地が必要になります。
伊藤さんは恵那の農業法人で、親会社の菓子屋さんから自社で100トン採りたい、というお話があり、開拓や乱れた園地を直しましたがまったく土地が足りません。7年で20町歩(ha)を超え植栽本数も7500本ほど増やしましたが、この面積では目標の半数しか収穫することができません。
伊藤さんが、一つの枝にもっとたくさんのイガがつけばいいどうすれば良いのか、と悩んでいると、園地の中でたくさんの実がついた枝をいくつか見つけることができました。
この偶然から、それらの木の共通の条件を探してなんとか形にできないか、と考えた結果、従来の栗の生理にたいする前提が違っているということを発見しました。
そうして、数年テストを行い、ほとんど上から下まで全部の枝で、25〜6個イガがつく現象を人工的に作り出すことに成功。この方法だと、一つの木の枝本数を減らしても、たくさん実をつけることができる。言い換えると1/3に枝数を減らしても一つの栗の木から同じ数を確保できることになります。
見込んだ収量を確保しつつ、枝の数が減るというのは栗の木にとっても生産者にとっても、いいことだらけ。栗は風媒花なので受粉率が上がる、邪魔な枝がないので奥まで日当たりが良くなり日照面積が増す、日当たりが良くなると病中害果が減るので樹が元気になる、枝伸びが良くなるので結果枝が太くなって大きなイガがつく、そして枝の勢いがあって、葉っぱが大きくなって光合成がしっかりするので実がデカくなる。
実は大きくなると普通は台風で落ちるものですが、枝が太く実がついているヘタの部分との接合がしっかりして実が落ちにくくなります。
この方法で150~180kgだった収量が反収(1反あたりの収穫量のこと)で平均300kg、2年後には3倍の収量を実現しました。
「剪定する枝の角度や本数、高さは実際に園地をみて、日照条件、樹種によってぜんぜん勢いが違うので、調整しながらやる必要があります。
弱い木は制御しやすいが、強い樹の場合は自分だけが育とうとして実がつかないという「栄養成長」に転じやすく、本来30mになるような栗の樹が人間の手によって、2m50cmほどに低くするため、栄養があり余り、樹が自分で伸びよう伸びようとする。これをどう抑えるか、抑えながら生理的に実がつく状態にどうするか?というバランスが大切なので、土地の栄養分や木が生えている場所によっても、日当たり・樹種・肥料の入れ方によっても違うから、その園地に実際に行ってみてみなければ適切な指導は行えません」
道の駅で見せてもらった四万十の栗があんなに大きくなったのも、伊藤さんの剪定の賜物だったのですね。
適切な剪定を行うことができれば、農薬も必要ありません。
「まだ、僕の園地と特選栗生産者の園地のみですが、無農薬での栽培を行っています。栗の病虫害は主に、モモノゴマダラメイガやクリシギゾウムシの食害と、実が黒くなってしまう実炭素病です。実が大きくなればなるほど、実炭素病になりやすい、といわれています。
しかし、僕の園地で去年、無農薬でもモモノゴマダラメイガは少し1〜2%出たくらいで、実炭素病、クリシギゾウムシはゼロを達成しました。
無農薬や剪定によって栗の木が元気になれば抵抗力がつくので、他のいろいろな生き物、天敵もいるというバランスのとれた環境になる。
農薬が実をおいしくするわけではありませんし、農薬をかけて健康になるわけではありません。農薬をかけるとその作物には耐性が生まれても他の植物には効果がないし、木の周りにいる成長を助ける土壌細菌などが全部死滅してしまう、その結果、そこにある栗の木が元気を失うことになる。
そして、その農薬に耐性がある虫が来ると栗の木はやられてしまう、というおっかけっこ状態。
基本的には園地が健全でそこに元気な作物が育っていれば、戦後出てきたような農薬や化学肥料はほぼ要らずもともとの農法だけでいけるはず、と私は信じています。
昔は化学肥料や農薬を使わず草刈機などの機械もなかった。農薬などを使い始めたのはここ数十年のこと。
外来種の作物などは土壌や環境があっていないのも確かで農薬を使用することが当り前とされていますが、たとえば無農薬でリンゴができた『奇跡のリンゴ』の木村さんの例があるように、やっぱりバランスがとれさえすれば無農薬でもいける。外来種のリンゴができるんだったら、日本原産の栗の場合は無農薬で実現することができるはずです。」
日本はどこでもいい栗ができる。
「日本は栗の原産地なので、どこでも栗はできます。剪定方法も改善すれば収量も増す。受粉率があがること(未受粉が少なくなるといい)、生理落下が減ること(全部のイガが収穫できればいい)、病害虫に対する耐性ができる(樹が元気になる)、栗の木の適切な剪定(枝や葉が大きくなると栗の実も大きくなる)、これら4つの比率が掛け合わさると数倍なんてものではなくて、10倍近くも目指すことができる、と考えています。
そして、収量が確保できてさらに必要なのは選果技術です。いい栗を見極める必要があります。
栗はリンゴやミカンのように形や色を見たり、糖度を測ることはできません。実際に食べてみないとわからない。これが外を見ただけで全部わかる方法があります。
その技術を使用し、四万十の栗で特別に選果した栗は「特選栗」という名前なんです。
生産歩留まり、選果技術の向上によって、納入する栗の品質もアップします。
加工者としては買ったものを100%捨てないで全部使えれば安いはずなので、栗の価格も維持できて、これが農家に還元できる。
この仕組みで、新しい農家を作りたいと考えています。
栗は冬の仕事なので、春から秋にかけては別の作物を育てたり別の仕事ができます。これを組み合わせると、こういう地域に若い人たちが入ってきて農業中心に暮らしが成り立つようになります。そのきっかけに栗を使って欲しい。」
疲弊している土地こそが栗の生産に向いている。
「栗は日本原産種で無農薬でできる、落ちたやつを拾うだけなので素人でもできる、そして中山間地の土質にあってる、平地よりもこういった地域の方がいい栗ができる。それは空気中の湿度の問題、平地だと乾いてしまうけど、山地では湿度が高いので空気中の水分を草で取り込むことができる森林地帯、つまり今、疲弊しているところが栗の産地としてはもっとも適している、といえます。
そこに人を住まわせるには栗を使うのがベスト、そして、椎茸をやるとかカヌーの先生をやるとかなんでも組み合わせていい仕事を見つければいい。就農者のベースの収入は栗で200-300万円を冬に確保して安心して好きな仕事を見つけてくれればいい、と思います。
栗は農薬かけないので夏はほとんど園地に入らなくていいし、草を少し刈って、僕の場合はミネラル剤(にがり)を散布する、そういったことをするだけ。にがりだったら浴びても平気で川も汚さない。
そういった点でも栗は育てやすく、しかも栗は付加価値が高いので加工すると高価格を維持できます。その地域で30トン〜50トンとれるようになると、その地域で加工する会社や施設が必要になってくる。その結果、加工する人たちの雇用する場ができる。それが四万十地栗のビジネスモデルです。」
日本ブランドの栗で、価格競争ではなく切磋琢磨できる前向きな産地間競争を生み出したい。
栗が各地で生産されるようになると、地域ブランド同士が潰し合うようになりませんか?どう折り合いをつけていくのですか?と聞いてみました。
「今後は、栗をメインにして地域ブランドではなく日本全部をまとめた日本ブランドの栗を作りたい。品質はこういう剪定方法でこういう選果を行うので安心ですよ、と僕が保証します。その代わりに、みんながその同じブランドを共有し、地域の名前をつけ価値の違いを維持する仕組みを考えています。
例えば、和の栗というブランドの中にマークで「四万十産」「津和野産」「恵那産」などのマークを入れられるようにしたい。そうすると栗はブランドとして日本のものだが、どこの産地にファンがつくのかは別なので、たとえば、四万十産の栗の人気がでれば、その地域の産地の価格も価値も上げられるようになる。そうして、産地同士でお互いに切磋琢磨することができるようになります。
これまでの産地間競争は市場原理でした。需要と供給のバランスだけで決まっていて、いいものでもたくさんできても安いものは安い。これまでは、作って評価されても『今年は300円です、今年は500円です』って言われる。これが相場ですよね。それだと作りがいがないし、たくさん作ると損してしまう。
これが農業をダメにしていると僕は考えているので、最低価格を保証して品質の向上という前向きな競争を生み出したい。
最低価格の保証に向けて、僕も指導をしたところから買い取りをするようにしています。収量のうち半分買います、と。その代わり半分は頑張って売ってください。しかし、どうしても売れない場合は買い取ります、という感じにしようと考えています。
こうして栗の最低価格ラインを決めることで、価値は下げずに作ればその分生産者の利益になる。
これが、将来の見える作物の作り方、だと思います。」
栗は日本の誇る作物、売り場は外へ。
「最低価格を下げないことで、その生産者の安定を保証しつつ、頑張る余地も半分残すことができます。そして、最低価格を維持するためにはブランド化、販売努力が必要。いつも足りない状態にしておく。これができるのも栗で、今日本では3万トン使われている。ところが国内では1万6千トンしか昨年は供給できていません。あとは韓国産や中国産、今はイタリアからも輸出されています。
日本の栗は香りや食味もいいので、この状態さらに向上させ、逆に外に出せるようにしていく余地がまだまだある、と考えることもできます。
外国の人が栗の味が嫌いなわけじゃないので、日本の代表的な輸出品目になる可能性もある。たくさん作ったら、売り場は外に作ればいい。
栗は種という扱いなので生では検疫で引っかかるので輸出できない、したがって加工しないと輸出できない。日本にかならず加工賃が国内に落ちる、というモデルになります。
高級なブランド品として外に出すので、高くても買われる。栗は『日本でしか作れない特別な穀物、ナッツ』になります。
しかし、今はやはりどうやって作るのか増やすのか、の段階。
作ってくれないと増えないので、まずは指導して実績を作っていかなければなりません。」と伊藤さん。
全国に栗作りの仲間を作ろう。
「僕は今は四万十に縁があって、ここにいますが、できれば、できれば日本全国で仲間を作りたい。同じ方法の同じ選果基準をもった質を同じにした栗を作ることのできる仲間。
しかし、まだまだこれからです。
技術だけ知りたい、というのが生産者さんのたぶん本音だと思いますが、生産、加工、販売という考え方も一緒に共有しないとなかなかうまくいきません。
研修では、技術を伝えるだけの『演習』ではなくこのようなことをわかってもらうため、まずは考え方を伝える『講義』を行います。お話しして納得したらやりましょう、ということですね。」
日本のどこでも育つ栗。
四万十の栗には、地域を元気にしたいという栗の産地の人々、剪定や選果技術で栗を全国に広げるという野望を持った栗の先生、こういったみんなの夢がぎっしり詰まっています。
単に気候、日照時間といった栗の生育条件だけではなく、生産者、加工や販売、という異なる立場で同じ目的に向かう栗ビジネスの参加者の強固なつながりこそが四万十の栗の強みなのだと知ることができました。
しゃかいか!では今後も四万十の栗に注目していきたいと思います。
【詳細情報】
株式会社四万十ドラマ 畦地履正
住所:高知県高岡郡四万十町十和川口62-9
電話番号:0880-28-5527
URL: http://shimanto-drama.jp/
「くりけん」一般社団法人 栗のなりわい総合研究社 伊藤直弥
住所:高知県高岡郡四万十町古城163
電話番号:080-3072-8020
(text、photo:西村 ※一部の写真は四万十ドラマさん、いなかパイプさん提供)
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