めがねフレーム国内生産シェア9割を誇る福井・鯖江の今を学ぶ。河和田めがねツアー! RENEW 2016
めがね!の町鯖江にやってきました。
ものづくり体感型マーケットRENEW レポートの第二弾。今日は漆器と並ぶ鯖江市河和田の主要産業であるめがねを勉強したいと思います。
福井県はめがねフレームの国内生産シェア96%と全国的にも有名。
ここ福井でめがね作りがはじまったのは、明治38(1905)年。冬になると豪雪地帯のこの地域で、農閑期にも行える副業として、少ない初期投資で現金収入が得られる眼鏡枠作りに着目、したことがはじまったきっかけなのだそうです。
その後、高度経済成長とともにめがねの需要も増加。めがねフレームの一大産地としての地位を築きました。
博物館や体験施設を持つめがねミュージアムが、市役所には「めがね課」ができたり、そして最近では生産農家、精米業者、販売者みんながめがねをかけた人たちで作った「めがね米」が話題になりました。
中でもここ河和田地区は、多くのめがねの商品開発・加工・販売と職人さんたちが仕事し暮らしている地区。今日はRENEW を通して、河和田のめがね作りの現在に触れ、9割以上のシェアを誇るその理由に近づきたいと思います。
RENEW に見学に来ている人たちも運営している人たちも、めがね率が高い気がする。
RENEW の旗振り役、TSUGIの新山さんもやはり、めがね。
今年のRENEW は展示や販売だけではなく、出展者さんたちも力が入っていて、ワークショップが充実しています、楽しんでいってください!ということで、力一杯楽しみたいと思います。
いろんなところを見たい、いろんな人たちから話を聞きたい、ということで自転車で全速力!
一軒め!RENEWチャリンコをこぎこぎして到着したのは、ハヤカワメガネさんです。
社長の早川善徳(はやかわ よしのり)さんです。今日はよろしくお願いします!
工場の中にお邪魔させてもらい、お話を聞くことができました。
ハヤカワメガネは自社製品はありませんが依頼されためがねを丁寧に作り上げ、河和田のめがねづくりで信頼を得ています。
最終製品の仕上げから、部分的な組み立てまで河和田にはなくてはならないめがねの工場です。
中にはたくさんの機械もありまずが、手仕事と併用。
ヤスリがけなどの細かい調整の必要な作業は今でも手で行わなければなりません。
職人さんにもお話を伺いました。
現在、流行しているのは「コンビネーション」というメタルとプラスチックのフレームを組み合わせためがね。1997年頃からプラスチックのブームが来たのだそうですが、徐々にメタルとの組み合わせたデザインが増加。現在ではコンビネーションの中でもメタルが多めのもの、少なめのものとその組み合わせ具合も多様になってきています。
その分、大変になってきたのは作業(=手間)の多さ。
デザインが多様になるということは、使用する部品が多くなる、作業も同じものではなくそれぞれ必要になる、大変になってしまう、ということです。
「たとえば、自動車産業など10万個、1万個以上という単位の大量の需要があればもっと機械化してブァーっと行けるんですけど、メガネは最近250〜300というロットで母数が全然違います。量が増えれば、もっとしっかりした最新の機械が導入できるし、コストもかけられるけど、小ロットに対応するためには、長年の勘的なものと手作業に入って来ざるを得ない」とのこと。
さらに、
一点ものと量産ものは微妙につくり方が違う。
「一点ものはなんとか形にできればいい、出来上がったその一点がしっかりしていればオッケーですが、いっぽう、数百という単位で量産するときは、いい加減なところがあると量産に結びついていかない。同じ品質でたくさん作らないといけません」
しかし、日本のめがねの強みはここにある。
世界に視野を広げてみるとめがねの産地は、ここ福井の他にも中国、イタリアなどがありますが、日本の工場の強みはまさに、この「数は少ないけど量産し、良質な製品を作り続ける」というところです。
コンビネーションのように部品の多いめがねは特に、使う部品の数が多く、様々な部品同士の接着に工夫が必要になってきます。
「たとえば、めがねの鼻パッドとめがねの輪を支持するブリッジ、さらにそれらを接合する部品があるのですが、これがメタル同士のように同じ材質だとそんなに大変ではありません。
この機械に電流を流して同じ温度で熱圧着できるから。
しかし、プラスチックとメタル接合する場合は接合の際の温度が違い、このめがねの場合だとベータチタンを通して、熱が伝わり、プラスチックを溶かしながらくっつけるのですが、プラスチック素材の扱いも頭に入っていないといけません。さらにメタルやプラスチックと、ひとくくりにいっても素材やサイズもさまざま。実際にやりながら、人の経験と勘どころで調整しながら行っています。接合以外にもフレームには、部品をはめ込むための座彫りや組み込む前の部品加工など、さまざまな作業が発生してしまいます。このようにいくつものパーツを数百単位で安定的に作り上げるのが日本人は得意。機械テストのものも含んで歩留まり(出荷前の不良率)は3%を目指してやっていますが、これは日本人にしかできない、と思いますよ」
部品を加工する機械もサイズ、そしてめがねには左右があるので、数え切れないくらいの種類があります。
うーん、そうなのか。
精緻な作業と品質の安定が、福井のめがね職人さんたちの強みであり、誇りだったのか。
日本製のめがねが少しくらい高くても仕方がないなぁ、と思えてきました。
実はこの工場にはここでは書けませんが、超有名ブランドの秋の新作めがねの組み立てもおこなっていました。
「お店で見てると『ああ、有名ブランドのね!』って買っていく人もいるし『みんながかけていないものを』とおっしゃる人もいる。
みんなそれぞれ差別化したいし、自分の考えるめがねを作りたい人はハウスブランドのめがねを購入されます。そうすることでそれを扱うお店も差別化される。めがね業界全体でいうとブランドの細分化が進んでいて、日本の技術が求められる土壌はまだまだあると思います」
「でも、作業はすごい大変だけどね」と職人さん
細かい作業を繰り返しながら品質を保つ技術。日本のめがねはこういう人たちに支えられているんだということがわかりました。そして、めがね職人さんがみんなめがねをかけている理由もひょっとしたらこういう細かい作業をずっとしているからなのかもしれません。
ハヤカワメガネではRENEW にあわせてめがね製造の際に生まれる端材を使ったアクセサリーづくりのワークショップも開催。そして、このイベントにかかわらず、日頃から学校や町のイベントに出張し、このようなワークショップを開いているのだそうです。
ベースの板に、
お好みで選んだ端材をくっつけていきます。
綺麗なパーツがたくさん、これだけでもアクセサリーになりそう!
小さなかわいいめがねがアクセサリーとしてちゃんと売っていました。
でも、さきほどのお話しを聞いた後だと、作るのが大変そう、って思ってしまう。
立派なアクセサリーになりました!
最後に「めがねー」を掛け声に記念写真。
めがね製造現場のリアルなお話、そして楽しい体験を有難うございました!
次は、めがねの商品開発やデザインをしているopt. duo(オプトデュオ)さんを見学。
オプトデュオは河和田のめがねメーカーのデザインを請け負ったり、自社ブランドも展開。
河和田のめがね工場とは考えてあげたり、作ってもらったりという関係です。
扉をあけると、素材やさまざまな形状のめがねが展示されています。
今日は、めがねをデザインするワークショップを開催。もちろんしゃかいか!も参加させていただきました。先生はオプトデュオの代表取締役、山岸誉(やまぎし ほまれ)さんです。
このワークショップは、スクエアや丸型などのめがねの型紙にさまざまなデコレーションを施していくもの。
デコレーションする素材も、カラーペンやマスキングテープにストローやボール、ビーズなど立体的なものも用意されていて、楽しそうだけど…はっきり言って迷います。すでに参加者のみなさんの作品も飾られていて、もっとかっこよくしないと、負けないぞという気持ちが出てしまいます。
お話をするのを忘れて無言になってしまう。
「本当に、自由になので、好きなように作ってください」と先生が優しく声をかけてくれますが、素材はあっても、なかなか手が進まない。お子さんたちの方が手を動かしながら自由に進め、仕上がりも面白いものが出来上がってくるのだそうです。
もちろんレンズの色も自由。透明なセルロースの紙をボンドで貼り付けていく。
最後に鼻パッドにあたる部分をくっつけて完成。
かけさせてもらいます。
完成!
めがねを実際にデザインしてみて悩んだのは、その理由だった。
めがねをデザインするワークショップを体験してみて、めがねの型紙を前にした途端に、手が動かなかったこと。どうしようかな、と悩んでいると先生が「何がテーマですか?」と声をかけてくれました。決めたテーマは「幸せになれそうなめがね」。そこから先は頭の中で「幸せになれそうなやつ」と繰り返しながら、素材をチョイスし、色味をカラフルにと、デコレーションしていくことができました。
めがねのデザインはコンセプトが8割!
山岸さんいわく、「めがねのデザインはコンセプトが8割」なのだそうです。
今回のワークショップのように手で、いろんなものを貼り付けていくことは実際のお仕事の中ではせずに、パソコン上で作業を進めていくのですが、ものを作っていくという進め方は基本的に同じ。どんな風にしようか、こうしたい、という考え方があって形状や素材や色を選んでいくという流れを体験することができました。
オプトデュオのホームページには「意図を持って、意味を込めてモノを作り続けていきたいと願います。」と書いてあります。そして、生まれた製品たちにも、どんな思いが込められているのかがきちんと説明されています。
その「意図や意味」がここ福井・鯖江というめがねの職人が集う地で、実際にめがねとして形になる。河和田って町全体でめがねを作ってるんだな、と実感できました。
さきほどのハヤカワメガネさんの見学とあわせて考えると、デザイン性というメガネの価値を上げる、それを工場が作って支える。しかし、デザインの多様化で作業に手間がかかって大変になって利益に結びつきにくい。さらにしかし、その結果職人さんの技術が鍛えられる、日本のめがねの強みにつながっている、というサイクルになっているのではないか?と思いました。圧倒的な国内生産シェアを誇る福井のめがねの理由が少し見えてきました。
続いてお邪魔したのは、加藤製作所さんです。
ザ・工場って感じのたたずまい。
加藤製作所が得意とするのはメタルフレーム。切削から、ロー付け、磨き、仕上げまで、こだわっためがねを作っています。
めがねには左右のレンズを入れる輪を支える「ブリッジ」、鼻にあてる「パッド」、パッドを取り付ける「クリングス」など細かい部品が実はたくさん使われています。
なにか、やってくれそうなマシンがいます。
なんと、メタルフレームの工程は250以上の工程があると言われています!そして、これら小さなパーツは一つ一つほとんどが手作業で組み上げられていきます。めがねは顔につけるものなので、使う人のことを考え、不快感がないか、安全かなど職人さんが細少しずつ微調整しながら組み立てなければなりません。
めがねの資材をつかったストラップづくりを体験させてもらいました。
せっかくなのでメタルっぽい素材をチョイス。
先生に教わりながら、ストラップに鈴をつけ、輪っかにつける。
職人さんに教わりながら作ったストラップが完成!
やっぱりワークショップがあると、職人さんの工夫していることや考えていることに少し近づくことができます。
思い出の品もそういった実感も持ち帰ることができる。
最後に訪れたのは、昨年もお邪魔させていただいた谷口眼鏡さん。
社長の谷口康彦(たにぐち やすひこ)さん、ご無沙汰しております!
「はいよ!いい眼鏡してるねー」と昨年購入させてもらった谷口さんのところのめがねを褒めていただくことができました。有難うございます!
昨年の記事もぜひご覧ください。
先ほどの加藤製作所さんがメタルフレームを得意としているのに対して、1957年創業谷口眼鏡は、セルフレーム一筋の眼鏡工場。ハウスブランドの「TURNING」が人気です。
昨年、手に入れたときの「またおいで、見てあげる」という言葉通り、1年後のめがね定期点検をしてもらいました。アフターケアもばっちりです。
おとなしくお待ちしています。
谷口眼鏡の強みはフィッティングの技。
「小さな工場だけど他社と少しでも差別化できるように」という思いから谷口さんがめがねの小売業にお勤めだった頃のフィッティングの技術を生かし、ニーズを汲み取るモノづくりを行ってきました。
このように「いかに心地よくかけ続けてもらえるか」をいつも心がけている工場で生まれたのが「TURNING」という自社ブランドのめがね。扁平なアジア顔の日本人でも気持ち良くフィットするめがねを作り続けています。
谷口眼鏡では、めがねフレームの側面部分、テンプルの端材を使用したボールペンづくりを実施。去年よりワークショップの内容がアップデートしています!
「アセテート」というメガネフレームの素材。色彩が楽しめ、加工性・デザイン性に優れた素材。原料は綿花やパルプなどの天然素材!だから、肌触りがよく、温かみがあるめがねになることができます。
好きな模様を選んで、後は磨く。
機械の回転に負けないようにひたすら磨く。仕上げの手磨きで使う研磨機をつかって「ウィーン」と表面をなめらかに削っていきます。
ぱっと見は簡単そうですが、形状が思ってたより複雑なので気を抜けないのです。けっこう力も必要。これを職人さんは毎日数百という単位で作業する、しかも、均一にしなければならないなんて、と少し尊敬しました。
できたー、べっ甲テイストの上品なボールペンの完成です。
「上手にできたかのう?今日はありがとうのう♪」
と温かいメッセージ入りの袋にきちんとつめてもらって、
大切に使います!有難うございます。
今年のRENEWは出展社の参加意欲がパワーアップした!
谷口さん、昨年は河和田地区区長会長としてRENEW 出展社への働きかけや取りまとめを担当。
去年と変わったところは?と聞いてみると「出展社が前向きになったところ」なのだそうです。「私たちも含めて、今年はどうしようか?と昨年の経験を生かしてもっとアップデートしよう、という思いが強くなりましたね。参加すればいいのではなく、きちんと効果を狙っていこうと。
出展社同士でノウハウをおすそ分けしあったり、競争する意識と共にやろう、という意識が全体として向上している気がして良い傾向!」と谷口さん。
漆器と同じように、分業しながら商品企画、製造や加工、販売と強固につながりあっている河和田のめがね。
商品企画力、素材やデザインにあわせた精緻な手作業や技術力、安全性やかけやすさも含めた品質の高さと、それぞれの現場が競争し、また補いながら、めがねをともに作っていく、というところに強さがあるのではないかな、と思います。シェアを取り合ったり、支配したり従う関係ではないところが、この小さな町のめがね産業の強さ。その強固なつながりが実感できるのが、年に一度のものづくりのお祭りRENEWです!
また来年も他のめがね工場を回らねば、と思った今回のめがねツアーでした。
見学させていただいた工場のみなさん、今日は本当に有難うございました!
【詳細情報】
opt duo(有限会社 オプト. デュオ)
電話番号:0778-65-2374
住所:福井県鯖江市北中町539
URL: http://www.optduo.co.jp/
加藤製作所
電話番号:0778-65-0301
住所:福井県鯖江市西袋町37-10
ハヤカワメガネ
電話番号:0778-65-0196
住所:福井県鯖江市寺中町29-7
URL: http://www.hykwmgn.com/
有限会社 谷口眼鏡
電話番号:0778-65-0811
住所:福井県鯖江市西袋町228
URL:http://www.turning-opt.com/
(text:西村、photo:市岡、室谷、西村)
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