他にない究極を求め辿り着いた馬革 井上鞄製作所
「まだ世の中にない物を信頼のおける熟練した職人と一緒に作っていく。そこに妥協はない」そう語るのは、墨田区の井上鞄製作所代表の井上修一さん。
井上さんがプロディースする『WOLF&DOG』の
「ホースホワイトバーン」シリーズは、
姫路のタンナーと革屋さんで開発し、
白ワックス加工を施した「ピット槽なめし」という
昔ながらの手法で加工しています。
「ピット槽なめし」とは、プールの様な場所になめし剤を入れ、
漬け込みと乾かしを繰り返す作業です。
通常の革では約10日ほどで仕上がりますが
馬革の繊維の細部まで浸透するように漬け込む為
60日もの日数がかかります。
単純に日数だけでも6倍の時間を要し、手間暇をかけることで
馬革の強度はさらに強くなり、
使えば使うほど使い手のアイデンティティーをさらに醸し出し
経年変化の質も向上させていきます。
革の表面のうっすらとした白みはワックスによるもの。
ワックスを吹き付けることにより、
使い込むことによってさらに艶を出す馬革へと変化します。
「入り口は狭くて奥が深い」と無理強いせず、
無骨な感じで男女どちらにも気に入った人に使ってもらえると嬉しいという。
「人が使わない素材、金具を選び、大手ができないことをやっていかないと」
井上さんが、妥協しない、信頼の中から生まれる物作りをコンセプトに掲げる
自社ブランド『WOLF&DOG』を立ち上げまでの
道のりは平坦ではなかったよう。
今は亡き父の会社を継ぐまで、
同じ業界で12年間、吉田カバンを始め、営業、流通、小売りを経験し
働きながらデザインの専門学校の夜間コースに通い、商品企画を学んだ。
物作りに対する情熱は、
作る・売る・結ぶを全て仕事としてきた経験が、
今の『WOLF&DOG』に生きています。
自らデザインした財布の図案をみせて頂きました。
財布を触ってみると、ポケットの位置や素材の切り替え、
(鞄は馬、牛、豚の3種類の素材を使用。豚革の産地が地元の墨田区なので、豚も素材として取り入れられているそう)
細部まで使う人のことをよく考えて作られていることが分かります。
井上さんの作業場から数分の裁断の職人さんの工房へ。
MADE IN TOKYOの拘り
「仕事に関わる人たち皆が栄えられるよう願いを込めてブランドを立ち上げました」
MADE IN TOKYOの拘りは、
井上さんが大切にしている「自他共栄」の精神から生まれているそうです。
「餅は餅屋」というように、
革・裏地の裁断は裁断屋、分厚い革を漉きミシンで縫いやすくする漉き屋、
縫製屋、『WOLF&DOG』のマークの押し屋と
昔ながらの熟練した東京の職人さんたちを結んで行く。
素材ごとに職人さんも変えてお願いしているという。
「井上さんはいいもの使ってるからね」
工房にあった段ボールの中には、
バックの裁断後に出た小さな革。
もったいないので、捨てずに利用できる部分は他のパーツに使用しているという。
「ハンドバッグだったら多い時で30から40のパーツを抜きますよ。昔は包丁で断ってたんです」
井上さんから強い信頼で裁断を行う66歳の渡部さん。
革にも伸びやすい方向と伸びにくい方向があり、
伸び目を意識した裁断によって、
ミシンのかけやすさや仕上がりにも関わってくるそうです。
この道45年の知識と経験が物語るまさに職人技です。
日本の物作りの極意を学びました。井上さん、ありがとうございました!
しゃかいか!編集部メンバーも馬革のブルゾンに袖を通してご満悦です。
肌にしっとりと馴染み滑らかかつ軽さを感じさせるブルゾン。
着心地の良さだけでなく、
迷彩柄のインナーやビンテージチャックだったりと細部へのこだわり光る一品でした。
(text:坂田、photo:市岡)
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