140年間一歩ずつ。歴史と職人技、そして地域の誇りから生まれた「MADE IN KURUME」のスニーカー! ムーンスター
今日は月と星のマークでおなじみ!ムーンスターのスニーカー工場の見学です。
ムーンスターの本社工場は福岡県久留米市にあり、JR久留米駅から歩いて10分ほどですが、ほとんど直結。敷地が広いので、工場の壁沿いにとことこ歩いて行くと、正門にたどり着くことができます。
見学の会場は、講堂風の歴史を感じさせてくれる建物です。
実は今日の工場見学は、筑後地方を中心にものづくりやその地域の人の魅力を発信するアンテナショップ「うなぎの寝床」さんによって実現したもの。うなぎの寝床さんでは定期的に九州や福岡、そして筑後地方のものづくりの現場を近くで見て体験してもらうツアーをいくつも企画し、お店やインターネットでその素晴らしさを伝える取り組みを行っています。
こちらが「うなぎの寝床」代表の白水さん。素敵な機会を本当に有難うございます!
今日の参加者は約20名。大きな会議室で、会社のこと、製法やムーンスターのものづくりの現場を紹介するムービーで予習させてもらいます。みんな真剣なまなざし。
ムーンスターで大人気の「ALLWEATHER」というシリーズ。かっこいいな!
しかし、アラフォーの僕にとってはムーンスターのイメージはこんな感じ。学校の上履きや体育館シューズで義務教育と高校時代、10数年以上お世話になりました。
いつの間にこんなにかっこよくオシャレになったんだろう?とその辺の疑問を解決すべく、現場からお届けしたいと思います。
座学のあとは、外へ。大きな工場の壁伝いにたどり着いた先は...
つきほし歴史館。
僕の体育館シューズ自体(約30年前)は「ムーンスター」というブランドがおなじみでしたが、株式会社ムーンスターという社名になったのは2006年と結構最近です。それまでは、月星化成株式会社という名前でした。
月星だからムーンスターです!
歴史を感じさせる建物の扉を開く。
こちらは、大正15年に当時の工場内に建築された「迎賓館」の建物を移築し、2005年に歴史館として新しく生まれ変わりました。久留米にあった陸軍18師団の視察の折に、昭和天皇(当時は皇太子)もご来訪された由緒ある建物なんですよ。
中では、ムーンスターが靴づくりを始めて140年以上の足跡がぎゅーっと詰め込まれています。
月星ポーズで記念写真!
歴史館の受付は、ムーンスターOBの太田さん。学校を卒業して44年、月星化成時代からお勤めで、3年ほど前に退職されましたが、この歴史館の受付として、そしてムーンスターの歴史の語り部として、たくさんの人をご案内しています。
ムーンスターはもともと1873年(明治06年)に「つちやたび店」として創業。座敷たびを作っていました。
創業者の倉田雲平さんの彫像(高村光太郎さん作!)です。
この倉田雲平さんのお家はもともと「槌屋(つちや)」という米穀や呉服を商っていました。しかし、明治時代はじめは激動の時代で、家業は零落。槌屋再興を志し足袋製造に転換。長崎で修行し、久留米市米屋町に小さなお店を開き、徹底した精品主義のもと、家内工業から本格的に工場での量産へと舵を切り、のちに「足袋王」と呼ばれるまでになりました。
現在の本社のある白山に1908年(明治41年)、工場を建設し、ここからムーンスターの歴史がはじまりました。
御誂向御好次第(おあつらえむきおこのみしだい)
創業時のつちやたび店の看板。
「御誂向御好次第(おあつらえむきおこのみしだい)」というのは、お客様に合う足袋を一足一足丁寧にあつらえますよ、という創業者倉田雲平さんの心意気。この精神は今もムーンスターに受け継がれています。
足袋の進化の過程を見ることができます。
創業の明治時代はじめは、まだまだ着物・履物は庶民の間ではまだまだ江戸時代の名残が残っていて、草履が中心。農村部では素足も珍しくありませんでした。しかし、1899年(明治32年)明治政府から「素足はダメ!」という御触れがでて足袋の需要が急増。大量生産に備え設備の充実をはかるとともに、品質を担保するために新たに生まれた白山工場の中には「従業員養成所」が設けられました。
その後、大正期には「地下足袋」「総ゴム靴」「布靴」、昭和には「革靴」と、用途や履く場所に応じて、素材や形、要求される機能が多様化し、履物の種類も増えていくことになります。
男はさわやかな笑顔で地下足袋でしょ!
当時のミシンも展示。一足一足手作りなのは140年たった今も変わりません。
「一足千里責任保証」品質へのこだわりも変わりません。
南極探検隊にも特製の防寒靴を提供。それだけ品質が信頼されていたってことですね。
ほとんどハイカットのスニーカーな足袋。
コンバースのスニーカー?
コンバースやニューバランスのスニーカーもムーンスターで作っていました。
よく見ると先ほどの足袋とシェイプがそっくりです。
ずーっと見てても飽きない。興味深く楽しい展示物がたくさんです。
これくらい楽しいっ!
と、これまでの歩みを見せてもらった後は、いよいよムーンスターの現在の姿、工場でスニーカーが生まれる現場に潜入です。
こちらが、今日の工場見学をガイドしてくれる平田さん。
商品開発部ユース企画課 課長です。
今日はよろしくお願いします!
みんなで、お揃いの帽子をかぶる。
レッツゴー!
スニーカー作りの工程は大きく分けて5つ。
1.スニーカーのソールや側面の接合に使用される原料であるゴムの「配合」
2.ソールやアッパーと呼ばれるスニーカーの甲の部分など各部材の「裁断」
3.一枚の布から立体的な形にしていくアッパー部の部材を縫い合わせる「縫製」
4.ソールとアッパー職人さんが一つ一つ手で接合する作業を行う「底付け」という加工
5.底付けされた靴を熱と圧力、そしてゴムの中に練りこまれた硫黄を化学反応させ、柔軟性と耐久性を増強し、最終仕上げを行う「加硫」
という流れでスニーカーが完成します。
まずはゴムの配合工程から。
機械の奥のロールから配合されたゴムがひらひらと出てきます。
原料となる生ゴムは自社で素材開発から行っていて、パーツごとに適した耐久性としなやかさに優れた特性のゴムが使用されます。これらいくつか種類の異なるゴムを、製品の仕様や使われる部位(底なのか側面なのか、など)によって、微妙に配合具合を変えていきます。
これを大きな機械を通して、後の工程に必要な大きさにざっくりカット。
これで、ゴムの配合が完了。
ゴムっぽい匂いがするのかなぁ、と思っていましたがそんなに匂いはしませんでした。
見るだけではなく触ることができるのも、工場見学の醍醐味です!
さらに、蒸気で熱したローラーを通すことで、ゴムを練り上げ均質化する「練り返し」という作業を行います。ここで後の工程の型抜きや加工で使いやすい温度にしておくのだそうです。とにかく温度高めで柔らかければ加工しやすいからオッケー、というわけではなく熱の加減によって後のゴムの化学反応(加硫)にも影響を及ぼし、その日の湿度や気温によっても微妙な加減が必要。そこ信頼するのは、この職人さんの肌感覚!数字に表れない人の感覚に信頼を置いています。
また、触る。
「ゴム」と聞くと触りたくなるのは、なぜなんでしょう?
続いては、
糊引き(のりひき)工程
静電気除去暖簾を通り抜けて、
配管がたくさん通っています。これぞ工場!って感じです。
糊引きとは、ゴム同士、あるいはゴムと布を合成していく工程。その際に糊を引くので「糊引き」と呼ばれます。
先ほどの配合、精錬された1枚もののゴムはそのままスニーカーに使われることは少なく、幾つかのゴム同士が合成されて使用されます。
このスニーカーのソールのブルーのグラデーション(ムーンスターのコーポレートカラーを表現している!)は、2種類のゴムを重ね合わせて成型し、半透明のゴムの厚さを徐々に薄くしてゴムの色を透けさせていくことで美しいグラデーションが浮かび上がります。
自社工場で作るスニーカーへの誇りを感じる!
ローラーがいくつも並んでいます。
従業員の方が作業している奥のマシンが、「ゴム引布」を作るための機械。ゴム引布とは、ゴムを塗布された布のことで、この糊引き工程は、生地の裏に液状の糊を塗ることで布のホツレを防止したり、強度を増すために施されます。しかし、最近では生地の素材が進化し強度が増したため、スニーカーでは省略されることが多くなりました。しかし、ゴム引きをすることでスニーカーの美しいシルエットを長くキープできるので、ムーンスターでは今もこの糊引きの作業を行っています。
ゴム引布は、レインウェアや医療用、カバンやボートなどに使われていて、ゴムの含有量や厚みは用途に応じて異なりますが、ムーンスターではもちろんスニーカー用に作られています。
糊引き工程の建物を出て、次の工程へ移動。
工場の敷地の中には、変電所もあります。
歴史を感じる防火用水。「日華ゴム」は1949年(昭和24年)から使われた商号なので、戦後すぐくらいのものだと思われます。
自前の消防車もあります。
成型されたゴムはこのような型で抜かれていきます。
ゴム課のお仕事です。
サイズごとに整理されています。このサイズだときっと男性用のスニーカーですね。
MADE IN KURUME はこの工場で作られた証、そして誇り。
こちらは、アッパーの裁断と縫製。
アッパーのパーツはざっとこんな感じです。
ひとつひとつ丁寧に手で作られています。
続いては、スニーカーの加工です。
布のアッパーとゴムのソールを型に合わせてそれぞれ引き延ばすことで、立体になっていく。
そして糊付け!
この工程のポイントは平面である部材を3次元に立体化されたスニーカーにするために、布とソールを引っ張りながら適度に伸びているうちに素早くノリをつけること。そして、作業中に爪を立てないこと。ゴム製品なので爪を立てると傷がついてしまいます。素早く丁寧に、そしてやさしく、が大切なんです。
スニーカーらしくなってきましたが、まだまだ!
つま先部分のゴムをつけていく。
くっつけるだけではダメなので、型に合わせて調子を整えていきます。
熱でプレス!
側面にテープ状のゴムを貼り付けます。
この加工の工程では職人のみなさんがそれぞれ異なる道具を使いながら、作業しています。
よく見てみると部位によって力加減も微妙に加減しているみたいで、これがはき心地や強度に影響しているのだそうです。そして、ものすごいスピードでちゃっちゃと進めていきます。
これで完成〜、と言いたいところなのですが、最終仕上げが待っています。
仕上げるのは、この窯「加硫缶」といいます。
この窯で行うのは「加硫」という工程で、底付けされた靴を中に入れ熱と圧力を加えることで、生ゴムの中に練りこまれた硫黄が化学反応を起こし、ゴムの柔軟性や耐久性を増す、というわけなんです。
この窯に入る前のゴムは、ビヨーンとは伸びますが、
伸びたままで元に戻ろうとはしません。
例えるなら、噛む前のガム、といった感じでしょうか。
スニーカーのはき心地や歩きやすさ、長持ち具合を決める大切な工程、それがこの加硫なんですよー
加工後の靴を窯にイン!
出来上がった靴がこちら。
本当は仕上がりまで窯の中で1時間ほどかかるのですが、料理番組みたいに投入と取り出しを同時に見えるように、時間を調整してくださっていました。ムーンスターさん、ありがとうございます!
加硫後のスニーカー。なんだか「一人前になった」という誇りを感じます。僕だけでしょうか?
スニーカーが完成!
検査され、出荷を待ちます。
ちっちゃいけど、こちらもMADE IN KURUME!
ムーンスターのロゴが入ったコースターをもらって、楽しいスニーカー工場の見学は完了!
なのですが、今日見せてもらったのは、ほとんどの工程で人の手が加わり、最後に加硫窯で加熱・科学反応させて仕上げるヴァルカナイズ製法(加硫缶を用いた製法)という製法。
今日見せてもらった流れで出来上がった製品たちは、温かみを持ち、一点もののこだわりのクラフトマンシップを追求した「FINE VALCANIZED(ファインヴァルカナイズ)」というコンセプトともと生み出された製品群ですが、ムーンスターにはもう一つ、「CHIC INJECTION(チックインジェクション)」というコンセプトの製品もあります。
上がFINE VALCANIZEDの製品、下がCHIC INJECTIONの製品です。
このCHIC INJECTIONというコンセプトは、最新の技術を用い、洗練・クールさ・均一性を追求したインダストリアルデザインを追求したもの。職人技のFINE VALCANIZED、インダストリアルデザインの粋を極めたCHIC INJECTION、クラフトか、インダストリアルかというデザインの違いのほか、製法が異なるので履き心地(しなやかな屈曲か、フィット感か)に大きな違いがあり、それぞれの良さがあります。
そうだ!作業に見とれて、かっこよくなった理由を聞けていなかった。
ということで、ユース企画課の松永さんにインタビューします。松永さんは鹿児島県出身でムーンスターに勤めて10年目。現在は若きカテゴリーマネージャーとして活躍中です。
「ムーンスターが現在のように少しかっこよくなった(笑)のは『自社で誇れる製品を作ろう』という声が社内から出てきたことがきっかけでした。創業140周年を迎え、商品・サービスをムーンスターブランドに統一したり、新しくシンボルマークやロゴタイプが決まった節目の時期とと同じ頃に生まれたユース企画課に与えられたミッションのひとつは、今まで自分たちが培ったものづくりのノウハウを活用して、若い世代に訴える国産にフォーカスした靴を作る、ということでした。
そして、つちやたび店から続く140年の歴史や伝統、そして創業時から受け継がれる精品主義をバックボーンに持つ職人さんたちの優れた技術、ゴムの町、スニーカーの町久留米という地域性と物語を掛け合わせたものづくりの結果、生まれたのが『MADE IN KURUME』というシリーズです。
リブランディングといった大げさなことではありませんが、量販店に製品を置き買ってもらうのではなく、服と合わせて選んでもらう、手にとって履いてもらわないと良さがわからない対面接客の洋服屋さんや雑貨店に限定したものに、と流通面にも配慮しました。
これだけ素晴らしいものを作っている職人さんの技術を世間に知ってもらい、正当な評価を受けることでやりがいを感じてもらいたいという思いではじめた「MADE IN KURUME」シリーズでしたが、自分たちが計画したブランディング、というよりは、ブランディングの流れが後からついてきた、というのが本当のところです。
おかげさまで『なんだかムーンスターがかっこよくなった』というお声をたくさんいただけるようになり、これまでは九州出身者の入社が大半だったのが、最近では全国から入社してくる人も増えて、採用面でも良い影響がでてるのかな、そして工場で働いている人たちにも夢や希望が持ってもらえるようになったのかな、と少し思えるようになりました。それも最近になってからですけど(笑)」
と少し照れくさそうにお話ししてくれました。
みんなで記念撮影して、今日の工場見学は終了!
体育館シューズのイメージのまま約30年ぶりに再会したムーンスターさん、まるで中学の同級生が同窓会でとてもかっこよくなっていた、のと同じ感じがします。
ああ、かっこよくなっちゃったねー、ということでムーンスターを購入することにしました。
西鉄久留米駅から歩いて15分ほど、繁華街の中にムーンスターのサテライトショールームがあります(販売はしていませんのでご注意!)。
中には歴史館のダイジェストや製造工程の紹介が展示されています。
足の形をスキャンする「フッ撮る」というマシンで足のサイズや形を計測することができます。
この「フッ撮る」は、足の長さや足の周囲の長さ、足の幅などを教えてくれます。
なんとなく26.5cmと長さだけでこれまで靴を選んできましたが、靴サイズの目安は26.5cmの3E(足幅)と判明。
びっくりしたのが、左右で足の幅が4mm、足囲が10mmも違っていたこと。姿勢や歩き方、体重によっても変わってくるのだそうですよ。新しい靴をお買い上げの前に一度みなさんも測ってみるのはいかがでしょうか?
うなぎの寝床さんでムーンスターの企画展を絶賛開催中!一晩寝てみてもどうしても新しいスニーカーが欲しい気持ちが抑えられなかったので、工場見学の翌日、バスで1時間ほどかけて八女市のお店に来ました。
八女市は古い町並みが残る町。
知〜らなぁ〜い町にぃ〜♪と歌いたくなる風情。
久留米絣や波佐見焼のお皿など、福岡県を中心に生まれた品物がたくさん置いてあります。
バス停を降りて、お店までは歩いて約15分。途中行き交う人はあまりいませんでしたが、お店の中は盛況。人口密度がここだけすごく高いのではないでしょうか?
あーこれもいいなぁーと思うのですが、今日の目的はムーンスターのALL WEATHER!
やってた♪♪♪(電話で確認してたけど)
履いてみる
僕の足は甲高で幅も広めなので、27cmをチョイス。ピッタリ過ぎる♪
うなぎの寝床の春口さんとパシャッ!
ムーンスターALL WEATHERのブラウンを購入して、自分の中での工場見学が完了!
他にもさまざまな工場や職人さんをご存じだそうなので、しゃかいか!は、これからもうなぎの寝床さんを追っかけていきたいと思います。
この機会をいただいたうなぎの寝床さん、そしてはしゃぎまくりの僕をあたたかく工場見学に迎えいれてくださったムーンスターのみなさん、本当に有難うございました!
【詳細情報】
株式会社ムーンスター
電話番号:0942-30-1110
住所:福岡県久留米市白山町60番地
URL: https://www.moonstar.co.jp/
うなぎの寝床
電話番号:0943-22-3699
住所:福岡県八女市本町(モトマチ)267
URL: http://unagino-nedoko.net/
(text:西村、photo:市岡 ※一部の写真はムーンスターさん、うなぎの寝床さん提供)
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