暮らしの中に火を取り戻す! 大野製炭工場
日常生活の中に”火”を
「炭というもの、すなわち火は私たちの生活の原点です。少し、自分で火を起こしてみる。そういうことを日常的に体感する環境を作ることで、世の中の様々な便利なものと正面から向き合えるのではないでしょうか」
そう話すのは、石川県珠洲市で製炭を専業に営む大野長一郎さん。
私たちは様々な便利なものに囲まれて日々暮らしていますが、どこかでその便利なものの力に振り回されているのではないかと危惧する大野さん。自分たちでコントロールできた上で、その便利さを享受することが大事。そうした想いで、炭火を通して日常生活の中に火を取り戻そうとしています。
良質な茶炭をつくる
大野さんは県内唯一の炭焼き専業職人。炭焼きだけで生活していくには、より付加価値の高い商品の開発が不可欠です。中でも力を入れているのは茶道用のお茶炭作り。国産茶炭の生産者は激減していて、良質な茶炭をつくれるのは日本でわずか5人しかいないそうです。
「日本を代表する伝統文化である茶道から炭が消えるという事態は何としても避けたい。とにかく自分が少量であっても最高の茶炭を焼けるようにならないといけないし、作り手としての人間力も高めていきたい」と大野さん。
クヌギを原料とする茶炭は、切り口が菊の花に見えることから”菊炭”とも呼ばれるそうです。こんなにも美しい炭が存在するなんて…!
HOW TO MAKE 炭!
山から木を伐り出して長さを揃えます。窯の中にできるだけ隙間なく詰めれるよう、真っ直ぐに切り揃えることがコツ。
窯の中に
ぎっしりと木材を敷き詰め、1週間ほどかけて蒸しながら乾燥させていきます。
本焚きの様子。木を普通に燃やすと短時間で燃え尽きて灰になってしまいますが、加熱と酸素との反応で有機質が熱分解され、残された炭素(無機質)同士が再結合を繰り返すことで炭ができるそうです。
見た目はそのまま木ですが、つまるところ炭とは炭素の塊なのです!
耕作放棄地にクヌギを植え続ける!
良質な茶炭を作るのに最適なクヌギの木は、能登半島ではなかなな手に入らないそうです。そこで大野さんが10年前から手掛けているのが、耕作放棄地へのクヌギの植林。行政やNPOなどと連携しながら植林を体験交流事業として推進し、これまで数百人のボランティアが活動に参加してきました。毎年クヌギを植え続け、あともう少しで大野さんが循環できる山が完成するそうです!
里山保全の観点からも、近年では炭の生産が少しずつ見直されてきています。クヌギだけでなく、ナラ、クリといった広葉樹は昔から里山に多く見られ、森林と生態系を守る資源として大切に守られてきたそうです。
大野さんは地元珠洲への想いも深い。「これまでは珠洲のよさをうまく伝えることができていなかった」と話す大野さんは、いまこそ珠洲の未来像を描こうと地元の若者に声をかけていっているようです。これからの珠洲がどうなっていくのか、注目ですね!
取材後に大急ぎで次の現場へと軽トラックを走らせていった大野さん…ご多忙の中ありがとうございました!!
(text:清谷、photo:西村)
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