丁寧な仕事に裏打ちされた自信「漆器の裏側お見せします!」 輪島キリモト
「漆器ってなんだか高い…」
そんな印象を持っていませんか?数千円から中には数万円まで、確かに安い買い物ではありませんが、もしそれが一生使えるものだとしたら!?私たちが長く大切に使えるよう、実は漆器には表に見えない数々の努力と工夫が盛り込まれていているんです!今回はそんな漆器の裏側に迫ってみたいと思います!
お訪ねしたのは、輪島キリモトの輪島工房・桐本木工所。朴(ほう)木地屋を生業としながら、30〜40才代の力のある職人さんたちと一緒に漆の器、小物、家具、建築内装材に至るまで、漆が今の暮らしにとけ込むような可能性に挑戦し続けています。
輪島塗には124の工程があります
お店で出迎えてくれた加藤修央さんから漆器について丁寧に教えていただきました。輪島塗の椀の製作は細かく分けると124もの手数になるそうです
手前から奥に向けて、①木地作り、②下地塗り、③中塗り、④上塗りと工程が進んでいきます。ここにあるのは工程の一部ですが、なかなか馴染みのない見た目のお椀が並んでいます!
お椀などの丸物木地はろくろ挽きという技術で作られます。
こちらではスプーンを作っているようです。
ご案内してくださったのは、朴木地師の谷治樹さん。職人さんが座っている姿って何だかカッコいいですねー!
”治具”という型にスプーン木地を固定して、
ある程度までは機械で荒削りします。
治具も機械に取り付ける刃もたくさんの種類があります。これらをそれぞれの商品に合わせて作るのも、大変な作業だそうです。
向かって左が機械で荒削りする前、右が荒削り後です。
最後はノミやカンナを駆使し、手作業で丁寧に形を整えていきます!
こんな複雑な形のものまで。職人さんの造形力の深さに脱帽です!
堅牢さの秘密は下地塗りに
輪島塗の特徴は、ずばり”堅牢さ”。そしてその秘密は下地塗りの工程にあります。木地の形を整え、補強し、漆を塗ることができる状態にしていきます。塗りの質を左右する重要な工程で、漆器作りの中でも最も工数がかかります。
布着せ…?
生漆を塗って木地を固めた後、”布着せ”と呼ばれる作業に進みます。木地に布を着せるって一体…?
塗師の小路貴穂さんにご案内いただきました。
木地はそのままだと形が変わりやすく、強度もありません。破損しやすい部分に布を漆で貼り付けることで、そうした木地の弱点を補っていくそうです。
綿や麻の布に漆を吸い込ませて、
貼りました!布を引っ張りすぎると木地に負担がかかるので、絶妙な力加減が求められます。こうすることで強度が格段に上がるそうですが…何てユニークな発想!最初に考えた人は偉大ですね!
より強く、滑らかに
いくつかの工程の後、今度は珪藻土(けいそうど)の焼成粉末を漆と米糊に混ぜたものを木地に塗っていきます。
珪藻土とは、植物プランクトンの珪藻の死骸が海底に堆積して化石化した土。漆と混ぜ合わせると木地に密着しやすく、断熱性・ろ過性・吸収性などに優れています。
器をろくろに乗せ、くるくると回しながらヘラを使って均一に漆を塗っていきます。
くるくる…
なんだか気持ちいいですねー!ずっと眺めていられる光景です!
この段階ですでに十分すぎるほどきれいなんですが、まだこれが下地だというのだから驚愕です…!
この後も、塗って研いでを何度も繰り返していきます。繰り返すことで強度が増し、滑らかな下地になっていきます。下地塗りは最終的には見えなくなってしまう工程ですが、木の形を崩さず美しく仕上げ、そして漆器を長持ちさせるには重要だそうです。見えない部分にこんなにも丹念な仕事が隠されていたなんて!
もちろん市場に出回っている漆器の全てがこうした丁寧な工程を経てできあがっているわけではありませんし、逆に言えば、そうした工程の有無が品質や値段の差を生んでいるようです。快く漆器の裏側を見せていただけたのも、丁寧な仕事に裏打ちされた自信の表れかもしれませんね!
下地をさらに固くし、上塗りの仕上がりをよくするために中塗りをします。
最後に上塗りを施して完成です!見てください!この深い、艶やかな輝き!!
(中塗り・上塗りにもいくつもの工程があり、特に高い技術と集中力が要求されます。上塗りは専用の塗り部屋で一切のホコリやゴミがつかないように最新の注意を払って行われ、こちらも最終的な品質を左右する大事な工程です。)
漆器は何年も使っているうちに、欠けたり変色したりすることもありますが、しっかりした木地に丁寧な下地が施された漆器であれば、修理することも可能だそうです。まさに一生もの!
「うるしはともだち」
いい言葉ですね!丁寧にご説明いただいた加藤さん、職人の方々、本当にありがとうございました!三代目当主・桐本泰一さんへの取材も乞うご期待!!
(text:清谷、photo:西村)
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