炎をより明るく、大きくしたい 日本人の知恵を重ねた和ろうそく 高澤ろうそく
高澤ろうそくの創業は1892年(明治25年)。石川県七尾市にあります。
七尾市は金沢と奥能登の街道沿い、能登半島の真ん中にあり、光徳寺の門前町として栄えました。
JR七尾駅前から、七尾南湾に注ぐ御祓川(みそぎがわ)に沿って北に進むと、赤い欄干の仙対橋を目印に左へ。七尾の明治から昭和初期の商家の建物が立ち並ぶ「一本杉通り」と呼ばれるメインストリートの中ほどにお店があります。
この通りは、町家や土蔵など国の有形文化財に指定されている建物がいくつもあり、町のみなさんに愛されています。
高澤ろうそくの店先
この建物は明治43年に建造。重厚な佇まいです。
お話を聞かせてくれた高澤久さん。
町のこと、お店の歴史、ろうそくの話を初心者の僕にもわかりやすく、噛んで含めるように丁寧に、そしてあったかい語り口でお話してくれました。
有難うございます。
浄土真宗と北前船が七尾の和ろうそくを育てた。
ろうそくが七尾で発展したのには二つの理由があります。
和ろうそくは奈良時代に仏教とともに伝来。もともと蜂の巣の蜜をろうとして使っていました。
蓮如上人が加賀・能登地方で一世を風靡したことからもわかるように、七尾も信仰心の厚い土地柄。ろうそくは、仏壇など仏事と関係する他の産業とともに発展してきました。
こちらの地方ではキリコといって、中に灯が入った数メートルもの巨大な灯籠(=キリコ)を担いだり車をつけて動かし、町を練り歩く祭りもあります。
もう一つは地理的な条件。七尾は穏やかな湾内にあることで、江戸期には北前船の寄港地として栄え、和ろうそくの原料がここに運ばれました。蝋は九州・四国地方から、芯になる石州和紙は石見(島根県)からこの七尾に到着し、ろうそくとして加工され、北前船によって日本各地へと運ばれていきました。
燃えた後は何も残らない、和ろうそくの秘密
和ろうそくの特徴はキレイに燃えること。
キレイとは、消えにくくて炎が大きく明るい、ということの他に燃えた蝋が垂れることなく、ろうそく立てには何も残らない、始末がしやすいという意味も含まれています。
イカリ型と呼ばれる船の錨の形をした独特の形状は、上の部分がお皿のように広がっていることによって、火をつけた後にもろうが流れ落ちないように計算され、蝋が蒸発し燃えた後は何も残りません。
炎をより明るく、大きくしたいという思い
和ろうそくは洋ろうそくに比べて炎が大きく明るいと言われています。
ろうそくの長さと同じくらいの炎!(この写真は菜種を主原料とした菜の花ろうそく)
ろうそくの底にあいた空洞、ここから空気を入れて酸素が流れるので炎が大きくなります。これはなんとなくわかります。
もう一つのカラクリはその芯。棒に巻きつけた和紙の上から、イグサ科の植物の皮を剥いだものをらせん状に巻いていきます。この植物、その名も「燈芯草」!
この燈芯草はスポンジ状でたくさんの気泡を含んでいるので、毛細管現象により溶けた蝋を吸い上げるので、燃焼力が高まります。
毛細管現象とは細い管状の物体(毛細管)の内側の液体(=ろう)が管の中を吸い上げるする現象のこと。燈芯草はまさにろうそくのためにある植物!といっても良いかもしれません。
知恵が重なっている
原料と形と工夫、電気がなく油で灯りをとっていた昔、なんとか少しでも明るくしてやろう!という日本人の思いが伝わって来ます。
高澤ろうそくの工場はお店から車で5分ほど。このあたりは山の寺寺院群と呼ばれ、前田利家が七尾を居城とした時に、奥能登地域からの備えを目的に七尾じゅうのお寺を陣地として移転させたものなんだそうです。
工場では15人の従業員の皆さんが働いていて、うち14名は女性。子育て中のママやお孫さんのいる方まで幅広い年齢の方が元気に働いています。
高澤ろうそくでは、木製・金属の和ろうそくの型に溶かした蝋を流し入れる「型流し製法」で作っています。
型に入れて待ちます。素人の僕は、冬の方が乾燥していて作業に適しているのかと思ったのですが、実は高澤さんによるとひび割れの原因となるので、夏の方が作りやすいのだそうです。
お盆の時期に使われるろうそくは夏が繁忙期。ちょうどぴったりです。
使った型はすぐに水で冷まします。こうしておかないと熱で膨張したり反ってしまうのだそうです。
ふたたびお店。中はろうそくの他にもお香など和の雑貨、念珠や仏具も取り扱っています。
花の絵ろうそくは絵付け専門の内職さんもいらっしゃるそうです。
さらに知恵と工夫を重ねる
和ろうそくとキャンドル(西洋のろうそく)の違いの一つはその原料。
キャンドルが鉱物由来のパラフィンを原料としているのに対して、櫨(はぜ)という漆の仲間、米ぬか油や菜種油など植物性の成分を使用しています。限られた資源ではなく、育てることのできる植物を素材に使用し循環させているのは、日本人の知恵と言えます。
櫨だけが100%国産で、クレヨンやお相撲さんの髷(まげ)に使われる鬢付け油にも使われています。
希少性が高く、英語で櫨は“Japanese wax tree”とも呼ばれているほど。
でも、その櫨も需要の減少に伴い、生産者が減少。高澤ろうそくでも、ろうそくを作り販売することで原料の生産側を支えようと応援しています。
そこで生まれたのが、福岡県筑後産の櫨ロウのみで作った「ろうそく等伯」。形は櫨の葉っぱを意識しています。長谷川等伯(○○鑑定団でよくでてくる人)は七尾市出身、郷土のスターの名を冠したこの商品は、ろうそくを使う人、櫨ロウを採る人、売る人、関わる人たちすべてを結ぶろうそくです。そして自然とも繋がっています。
庶民は油に芯を浸した灯りを使っていた昔には、高級品だった和ろうそく。
仏事やお墓参りが使うシーンの中心になったけど、これからも灯りとして使ってもらうことが高澤さんの願いです。
食事の時や職場のパソコンで疲れた目をリラックスしたり。
揺れる炎を見ていると、目だけではなく心も癒され澄み渡ってきます。
高澤ろうそくさん、これからも明るくて大きな灯りを守っていってください。
有難うございました!
(text:西村 photo:清谷)
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