叩いて叩いて和む音づくり!頼りは職人の勘 シマタニ昇龍工房
「チ〜〜ン、モワワワワワワワワワ〜〜〜ン、モワワワワワワワワワ〜〜〜ン」
心癒されるおだやかな響きにじっと聞き入ってしまいます。どうやってこの心洗われる音色が生まれているのか知りたい!
ということで、富山県高岡市でおりんの製造・販売で有名な「シマタニ昇龍工房」さんへやってきました!
明治42年(1909年)創業、音づくり100年の歴史ある工房の4代目島谷好徳さんにお話をお聞きしました。仏具製造に携わるだけに、物腰柔らかくおだやかな好徳さんはまるで仏さまのようでした。
高岡に職人さん集結
鋳物で有名な高岡は開町から間もない慶長16年(1611年)に、加賀藩初代藩主の前田利長さんが、鋳物発祥の地である大阪から職人さん7人を高岡市金屋町に招いたことが始まりといわれています。
おりん職人さんは、今や日本国内10人に満たない人数です。その内3人がシマタニ昇龍工房さんにいらっしゃるんだとか。職人さんが、ほぼ集結していらっしゃいます!
お鈴の材質には、真鍮(しんちゅう)を使います。一般的に真鍮(しんちゅう)は、銅6割、亜鉛4割の割合で作られますが、シマタニさんは銅7割、亜鉛3割の特殊な真鍮を使っています。割合を変えることで、加工性がよく、音色が柔らかくなるそう。
叩いて、叩いてを繰り返すだけあって、相棒の木槌がたくさん並んでいます。癒しの音を生み出す「打出の小槌」ですね。
お鈴の製造は、6つの工程があります。
1、上部の加工
2、底絞り
3、下仕事
4、焼き鈍し
5、仕上げ
6、鳴り出し(調律)
厚みのある上部、真ん中、下部、底とパーツをわけて叩きあげていきます。
同じ力で均等に叩き、同じ薄さに
同じ力で均等に叩き、同じ薄さに仕上げることが重要。これぞ職人技です!0.7mの薄さの真鍮を溶接し叩かれ、ぐるっと回ってお椀状になります。
音色をよくする練りの連続
上部、真ん中、下部を溶接し、境を金槌で横から叩いて、上から叩いて、金属密度を高めていきます。真鍮を練れば練るほど、音色がよくなります。繋いでいるところが全くわからないように重ねて溶接します。
こちら底になる部分です。
底板になる部分を切断し、窪んだ木の盤の上で叩きます。(工程2の底絞り)
カパッと完成した底のパーツをのせて溶接します。
底と3パーツをつなぎ合わせた部分の焼き鈍しをします。
焼き鈍しをして、金槌で叩くの繰り返し
炎をあげた炉の中で、焼き鈍します。焼き鈍しをしては金槌で叩き、また焼き鈍しをしては叩きます。おりんを叩くと堅くなってしまうため、30回の焼き鈍しを繰り返し行い形を整えます。
炎の中で真っ赤!シマタニさんも真っ赤になって汗だくです。
できた!
炎の中でも慣れたもの
隣の窓を見ると、大きなおりんを焼き鈍し中です。半端ない大きさのカラフルな炎を慣れた手つきで操る職人さん!カッコイイ!
最後にわかる音の良し悪し
仕上げの叩きも終了し、最後の鳴り出し(調律)の工程です。お鈴の中には、できのいい子もいますが、時折できの悪い子がいるそう。できのいい子は10分で聴音作業が終わるそうですが、できの悪い子は何時間も耳で音を探っていきます。
「最後の工程にならないと、音の良し悪しがわからないので、最初の頃は、全行程が無駄になることもありました。職人として一人前といえるのは、最低形で7年、最後の音の良し悪しを決める部分はさらに修行が必要ですよ」と好徳さん。
鳴り出しを終えたおりんは研磨されて、全国各地のお寺へ運ばれます。
おりんをつくる家に生まれ落ちるなんて
4代目として、研究熱心に家業に励む好徳さん。昔は、親の引かれたレールにのっかるのが嫌で悶々し、家業を継ごうとは思ってはいなかったそう。高岡から大学進学を機に上京し、モノづくりは好きだったが、自分の中で、自分が本当にやりたいと思わないと続かないと。
たまたま、アルバイト帰りの駅のホームで女性に身の上話をしていたら
「仏具のおりんをつくる家に生まれ落ちるなんて、なかなか無いことよ」と言われ、家業への見方が変わっていったそうです。そして、実家に戻り、職人の後ろ姿を見て覚えるところから職人としての道がスタートしました。モノづくりの精神はおりん製造以外にも生かされています。
おりんの技術を生かしてうまれた「すずがみ」
おりん以外にも、高岡伝統産業青年会のメンバーでもある好徳さんは、青年会メンバーが出展しているギフトショー向けに毎年、商品開発を行っています。真鍮のコースターや灰皿を作ってみたりと試行錯誤を繰り返しますが、器としての使用は難しかったそうです。
そこで、最終的にたどり着いたのが、錫(すず)という柔らかく弱い素材。この錫(すず)を使って圧延し、叩いて叩いて2mの薄さにできました。
「もっと薄くできれば自由自在に形状を変えられる器ができる」と好徳さんはこれはいける!と自信をみなぎらせます。
再び研究を続け、0.7mの薄さにまで圧延した「すずがみ」が誕生しました。
折り曲げたり、丸めたりと形を使うものや用途に合わせてカスタマイズできて、すごい!
「すずがみ」は、この薄く圧延された錫(すず)を切断し、叩きあげていきます。
リズムにのった金槌が生み出す文様
コンコンコンコン、コンコンコンコン。板状の錫(すず)を同じテンポで勢いよく同じ面積を叩きあげてきます。
文様の跡がつくように打ちつける金槌の槌目には、日本の美しい気象現象に見立てた3種類の文様が形作られています。
あられ(音をたてて降る氷の粒)
さみだれ(陰暦五月に降る長雨)
かざはな(雲の少ない晴れた日に舞う雪)
氷の粒の打ち付けたあられの文様はテンポよく打ちつける技がなければ、この技は生み出せなれないですね!さっさすがです!
好徳さんこの度は、人気商品となった「すずがみ」の製造でお忙しい中、ご案内いただきましてありがとうございました!全行程が手作業なため月に製造できるおりんやすずがみの数は限られてしまいます。高岡にきたる若者職人さんも募集しているそうですよ。
(text、photo:坂田)
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