世代を超えて生まれ変わる越前箪笥 Furnitureholic
サラリーマン生活を経て修行を積んだ後、地元である福井県越前市に戻り、オーダー家具を製作する「Furnitureholic(ファニチャーホリック)」を立ち上げた山口祐弘さん。
山口さんは家具職人、越前箪笥職人、指物職人と詰まる所、無垢材の家具や建具から小物まで、木に関することならなんでも製作する木工の魔術師。
「木工なら何でも作れる気がします」という物腰し柔らかな山口さん。
しゃかいか!編集部は、孫の代まで使い続けたくなるオーダー家具を製作するという山口さんの噂を聞きつけ、越前市の大虫町へやってきました。
この緑鮮やかな山の爽快感!
この清らかな自然の音!
ありがとう自然!しゃかいか!編集部一同心が洗われました。
「初めまして、山口さん」
「今日はよろしくお願いします。最近、『ふくいブランド大使』の任命を受けた山口です」と笑顔が素敵な山口さん。
山口さんにお聞きしたいこといっぱいありますが、まずはピンク色のタンスのお話からお聞きしていきます!
無垢材で作られた温もり感じる工房の扉を開けると、まず目に入ってきたのが、このピンク色のタンス。山口さんが『ふくいブランド大使』の任命を受けるきっかけにもなった「越前箪笥」なんです。
『7人の侍』が集結
昨年、福井の伝統工芸を現代風にした新商品を作ろうという呼びかけに、福井県内の越前和紙や越前打刃物、若狭塗など7分野の伝統工芸の職人が集まり『7人の侍』を結成。山口さんも「越前箪笥」の職人として、メンバーに加わりました。
新商品を披露するため、福井市内でファッションショーの開催が決定します。そこで、山口さんが考案したキャリーバッグの「越前箪笥」が初お披露目されて話題になりました。
可愛い!機内に持ち込めたら!と反響があったでそうです。
ピンク色に生まれ変わった「越前箪笥」。
実は、国の伝統的工芸品として認められたのは最近なんです。
伝統的工芸品と認められるまでの長い道のり
2013年12月に、「越前箪笥」は経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定されました。
「なかなか経産指定はとれないんですよ」と山口さんも安堵の表情。
江戸時代末期より製造されてきた「越前箪笥」にとって、伝統的工芸品になるまでの道のりは大変長いものでした。
「経産指定になるには、いくつかの証明が必要なんです。例えば、手作業で作られていること、地域産業として成立していること、100年以上受け継がれ、作られ続けているという証明が必要だけれでも、この証明がなかなか出てこなかった」と山口さん。
たまたま関係者の方が、あるお宅の古い箪笥の存在を知り、お願いをして見せて頂いた箪笥が、非常に立派なもので、箪笥の内部に文政二年(1819年)の墨書きがありました。この箪笥の情報を資料にまとめて国に提出し、ようやく伝統的工芸品と認められました。
金物にハートがあれば、越前箪笥かも!
「越前箪笥」が国の伝統的工芸品に認められ『7人の侍』の活動を始めるにあたり、「越前箪笥」の金物探しが始まりました。
古い「越前箪笥」の金物を外し、塗装をして新しく生まれ変えました。
越前箪笥の特徴は、金物にハートマークが入っています。ハートマークは猪目(いのめ)といって歴史が古く、伊勢神宮など歴史ある神社仏閣の飾り金物やお寺の屋根飾りの懸魚(げぎょ)にも猪目のハートマークがあります。
箪笥の金物に可愛いハートがあれば、それは越前箪笥かも!
木工機械の秘密基地
次は、箪笥だけはなく、色々な木工を製作できる山口さんの工房へ移動です。木工に必要な機械がずらり勢揃い!機械は、廃業する方から安く頂いたり、貰ったりと全て自分でかき集めた機械だそうです。
香川から、トレーラー2台で運んできた機械まであるそうです。
山口さんが、地元越前市にUターンし、この工房で独立するまでにも長い修行ストーリーがありました。
中途半端はいらん
大学卒業後は、香川にあるクレーンなどの建設機械を作るメーカーに入社し、設計部で7年間勤務しました。
入社2年目から、図面を書いて、人に作ってもらうばかりのモノづくりに違和感を感じるようになり、自分の手でつくりたいと悶々とした日々が続いていました。
ある日、香川で家具を生産する工房へ行き、
「まさに、自分が求めていたものはこれだ!」と運命的な出会いがあったそうです。
その工房は、建材から全てオーダーメイドで家具を作っており、自分の図面を持って現場に足を運び、ものづくりをしていたそうです。
この家具屋さんに入りたい!その気持ちで、「空きができたら、僕みたいな人は雇ってもらえますか?」とその場で情熱をぶつけた山口さん。
しかし、「中途半端だからいらん」と断られてしまいます。
木工の世界は、大体中卒か高卒から始めるのが一般的。
「高くはない賃金で、大卒、サラリーマンを経験した人間がいきなりこの世界にきても、集中できず大成できない」と言われたそう。
選択肢は、弟子になるか学校へ行くかの2択でした。
家具職人になれる職業訓練校を探していく内、長野県の「県立上松技術専門学校」の存在を知ります。「県立上松技術専門学校」は寮付きで、失業保険が延長できるという利点もあり、入学を決めます。
無垢材の椅子
「これは、上松での学生生活が始まり6ヶ月、課題で作った椅子です」と山口さん。
ゆらゆらと座り心地がよさそう!
雑誌に掲載されていた椅子の前と後の写真を見て、寸法を拾い図面に書き起こして、日本人にあったサイズにしたそうです。
上松での1年間が終わりに近づく頃、独立開業することを夢見てきたが、上松で無垢の家具づくりを学んできて、果たして無垢の家具だけで注文はとれるのかと慎重に考えて、フラッシュ家具(化粧合板などで作られる家具)も作ることができれば仕事の幅が広がると、さらに修行の道を選択します。
再び香川に戻り、あるオーダー家具メーカーに入社し4年間。
そして、開業のタイミングで地元である越前市に帰ってきました。
オーダー家具は毎回一点もの
地元越前市に帰ってきてしばらくは、指物組合の役員をされている親方の元でお世話になり、その後、念願の開業を果たしました。
親方から「粗大ゴミは作るなよ」とよく言われたそうです。
「オーダー家具を作るからには、ずっと使い続けてもらえるものを作りたい。おばあちゃんが、使っていた大切なものだから捨てたくない。とか
そう思ってもらえるものを作っていきたい」と独立を決めた当時からの変わらない思いを語る山口さん。
何世代にもわたり、思い出の中にも残り続ける家具だなんて素敵すぎます!
一生ものの家具とのお付き合い
オーダー家具の依頼は、基本的に雑談をして進めていくそうです。
例えば、テーブルの依頼の場合は
「キッチンはどんなキッチンですか」
「このテーブルは将来10年後、20年後もそのままですか」
「(お子さんがいる家庭なら)将来的にお子さんが出て行かれてからはどうしますか」
こんな雑談や家の雰囲気がわかる写真のやりとりを続けていきます。
今は、ダイニングテーブルだけど、将来は、ちゃぶ台へ変身できるように、
テーブルの足を取り替えられるように一生ものの家具とのお付き合いが始まります。
思い出が詰まった家具を、少し手を加えるだけで一生ものにできるなんて、私もオーダーしたいです!
オーダーでも「この家具と同じ家具を作ってください」と現物を持ってきての依頼もあるようです。
「なんでも挑戦してみる、無理なんてことないです」と柔らかな笑顔の山口さん。
木と木を組み合わせて作る指物職人さんへの修行も役立ち、木の構造から考えた家具作り、お客さんの想像を超えた欲しい!をカタチにするオーダー家具職人の山口さん、本当にありがとうございました!Furnitureholic(ファニチャーホリック)の社名の意味がよくわかりました!
(text:坂田、photo:市岡)
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