当たり前の「宅急便」を支える、当たり前でない仕組み。
羽田クロノゲート
やってきましたー、今回の見学は羽田クロノゲートです。
羽田クロノゲートは、クロネコヤマトの宅急便でおなじみのヤマトグループの物流ターミナル。今日は、宅急便がどうやって全国各地にきちんと届けられるのか?という仕組みを学んで行きたいと思います。
クロネコがお出迎えしてくれます。
でかい、モフモフの黒猫!
受付を入ると、こちらにもでっかい黒猫!小さな荷物をおトクに送ることができる「宅急便コンパクト」という商品のPRイベントなどの広報活動を担当。今は羽田クロノゲートの入り口にどっかりと腰をすえて、宅急便コンパクトの展示を紹介しています。
隣には「宅急便コンパクトの箱と、中にはこんな品物が入るよー」という展示があります。
鼻を押すと「ニャ〜♪」と鳴いてくれます。大きな体だけどかわいい。
と、入り口で遊んでいると、案内を担当してくれる広報担当の家永さんが登場。今日はよろしくお願いします!
「クロノゲート」という名前は、時間を司るギリシャ神話の神「クロノス」と出入り口や門を表す「ゲートウェイ」という言葉を組み合わせたもの。
「新しい『時間』と空間を提供する物流の『玄関』であるとともに、物流の新時代の『幕開け』となることを目指して」名付けられたのだそうです。
羽田クロノゲートの敷地の中には、荷物を仕分けする物流機能の他にも、近隣の方や周辺の職場に働きにきている人も利用できる「ポピンズ ナーサリースクール羽田」という東京都の認証保育所や、障がい者の雇用促進と自立支援を推進するヤマトグループの株式会社スワンが運営するカフェ「スワンカフェ&ベーカリー」、里山の生態系を再現した広場「和の里」など複合的なオープンスペースである「地域貢献ゾーン」が設けられていて、羽田クロノゲートのご近所の皆さんの憩いの場としての役割も担っています。
絶えずたくさんの荷物が届いて運ばれて行く拠点とは思えないような空間です。
静かで気持ちいい。
では、さっそく見学へGO!
見学者には専用の入館カードが配られます。ここから先は荷物がたくさん個人情報がたくさんの区域なので、セキュリティは厳重です。
ゲートをくぐると「100 THANKS」という歴史のコーナーがあります。
「100 THANKS」では、来年2019年でちょうど創業100周年を迎えるヤマトグループが、これまで育ててくれた感謝の気持ちを伝えています。
四角いキューブには、それぞれヤマトグループや宅急便にまつわる裏話やエピソードが書かれていて、ヤマトグループの歴史を振り返ることができます。
一番最初のキューブには、創業者の小倉康臣さんの写真。1919年の創立時の名前は「大和運輸株式会社」と漢字で、4台のトラックで輸送業を始めました。
クロネコヤマトの親子猫マークの原画も展示されています。このマークは1957年に制定され、子猫を優しく運ぶ親猫のように荷物を優しく運びたいという思いが込められています。当時の広報担当者の6歳の娘さんが書いた絵をアレンジして生まれたものだそうです。
スタジオジブリの映画「魔女の宅急便」のキューブ。
実は「宅急便」という言葉は商標に登録(一般的に使用することができるのは「宅配便」)されていて、スタジオジブリから映画化する際に「宅急便」という言葉を使いたい、という申し出があったご縁で映画にも特別協力することになったのだとか。誰かに言いたくなるエピソードです。
バリアフリーデザインのご不在連絡票。なぜバリアフリーなのかというと、横に猫の耳を模したギザギザが入っているので、目の不自由な方が触ると、クロネコヤマトの宅急便がきたことがわかって他の宅配会社さんと区別ができるから。
ご不在連絡票の向きを変えると猫の耳に見えます。
などなど、面白いお話がたくさんあるので、もっと見たい方はぜひ現地で見てみてくださいねー。
続いては「見学者ホール」というお部屋。
スクリーンでは、宅急便の成り立ちや生活スタイルに合わせて宅急便が発展してきた歴史を学ぶことができます。
ヤマト運輸の宅急便がスタートしたのは、今から42年前の1976年。
スタート当時の配達可能エリアは関東圏で、5年後には全国の都市部までそのサービスが拡大。さらに1990年には全国の99.5%までサービスエリアが拡大。その後、小笠原諸島での宅急便がスタートし、全国をカバーする宅急便ネットワークが完成しました。
宅急便というサービスがない時代、個人が荷物を送るにはどうやっていたんだろう?
現在からはちょっと想像しにくい世界です。
現在、ヤマト運輸の宅急便サービスで、荷物を受け付けてくれるお店は直営店である「宅急便センター」とコンビニなどを合わせて約22万箇所あり、トラックでドライバーによって荷物はその後全国70カ所にある仕分けターミナルである「ベース」に集められます。
ベースでは、行き先ごとに荷物が仕分けられ、届け先の別のベースに到着。さらにその後、届け先の最寄りの「宅急便センター」に到着し、セールスドライバーさんがお家や受け取り指定先のコンビニなどに届けてくれる、という流れになっています。
と、基礎知識を注入したところで、実際に荷物が仕分けられるエリアの現場へ潜入です!
近未来っぽい!そして誰もいない。
流れているのはもちろん、本物の荷物。
羽田クロノゲートには「着車バース」というトラックの積みおろし場があります。物流棟の1階をぐるっと囲んだ着車バースに同時に停めることができるトラックはなんと最大104台!
トラックから降ろされた荷物は、物流棟の2階に上がって仕分けされる、という流れになります。
見たところ物流棟の2階には人はいません。さまざまな仕分け機械は別の部屋で、作業リーダーによって監視・コントロールされています。
この仕分けシステムは主に、
(1)荷物の行き先を認識する「スキャナー」
(2)荷物を仕分ける「クロスベルトソータ」
(3)クロスベルトソータを構成するたくさんの長方形の大きな板「セル」
(4)仕分けされた荷物を1階まで下ろす「シューター」
という機械たちで構成されています。
名前がいちいちカッコいい!
荷物の行き先を認識する「スキャナー」。
この赤い光で認識するのが、
6桁の数字とバーコード。
集荷にきてもらったり宅急便センターに荷物を持ち込んだ時に、クロネコヤマトのスタッフさんが手に持った機械で「ジジージー♪」と発行し、貼られるアレです。
このバーコードの情報の中に含まれる送り先の情報を読み取って、先ほどのスキャナーが赤い光で認識、荷物を「クロスベルトソータ」というベルトコンベアへ送り出していきます。
このクロスベルトベルトソータがとってもエライ!
よく見ると、クロスベルトソータのベルトは1枚ではなく、板が何枚も連なってできています。この長方形の板は「セル」と呼ばれ、1枚のセルごとに、先ほどのスキャナーが読み取った荷物の行き先の情報が登録されます。
セルが荷物の行き先の情報を持っているので、1つのセルに乗っている荷物は必ず一つ。
コンピューターが空いているセルを判定してるので、セルに空きがないとクロスベルトソータに乗せることはできません。
取材した日はゴールデンウィーク明けだったので、とっても荷物が多い。
お、空きを見つけたぞっ!
空いたセルにヒョイッ!
クロスベルトソータは常に一定の速度(時速9.7km)で動いていて、スキャナーから荷物を送り出す黒い斜めのベルトで合流します。絶妙のタイミングで荷物がすっと滑り込むことができるのは、スピード調整を行っているから。
そして、荷物が乗っている1枚のセルは、スキャナーが読み取った情報を持ったまま移動、例えば、東京の●●ベースや神奈川の□□ベースなど行き先別に分かれている「シューター」の前で、セルが荷物を送り出します。
荷物が勝手に動く(ように見える)!
しかし、なぜ荷物が無人のベルトから勝手にシューターに移動しているのか?
磁力?エアー?超能力?
パッと見てもわかりませんでした。
荷物がシューターに自動的に送り出される秘密は、セルの周りに巻きついているベルト。
スポーツジムのランニングマシーンと同じような構造で、ベルトを「くるくるーっ」と回転させることによって、荷物の底面を滑らせ、該当のシューターに送り出しています。
滑らせて荷物を移動させる理由は、荷物が壊れないように安全に仕分けをするため。
セルはかしこく、そして優しい!
荷物を優しく安全に仕分ける仕組みはまだまだあります。
クロスベルトソータをまたいでいるグレーのハシゴのようなものには、「リセンタリング」という機能が備わっています。
リセンタリングとは、荷物がセルの中央になるように微調整をする機能。クロスベルトソータがカーブに差し掛かった時、遠心力によって荷物が落ちてしまわないために必要です。
また、シューターがクロスベルトソータに対して左右についているので、一旦荷物を真ん中に寄せることによって、同じ回転力で確実に左右に仕分けることができるように、という目的もあります。
宅急便はサイズや重さなどの規格が決まっているので、どんな荷物でも規格内であれば同じラインで仕分けることができるそうです。
では、規格内に収まらない、つまり一枚のセルには乗り切らないゴルフバッグやキャリーケースなどの大きな荷物はというと、「スライドソータ」という幅の広いベルトの別ラインで仕分けられます。
羽田クロノゲートには、スピードや効率を追求しながらも「安全に」「確実に」荷物を仕分けられる仕掛けがたくさんありました。
国内最大級の物流ターミナルである羽田クロノゲートは、他にもさまざまな物流機能があります。
トラックからの積みおろしを行う1階、荷物を自動仕分けする2階と見てきましたが、7階建ての物流棟の他のフロアでどんな作業が行われているのか、を見ていきましょう。
見学コースの壁面に映し出される映像で勉強します。
まずは7階。ここでは修理の必要な家電製品を引き取って修理し、お家まで届けるサービスや、病院で使用した手術器械の洗浄や点検、洗浄した道具をまた病院にお届けするといったサービスも提供しています。
他にも、出荷元の異なる製品を必要なものだけピッキングし、まとめて届ける「FRAPS(Free Rack Auto Pick System)」というシステムもあります。
このシステムは、メーカーなどの会社が、受発注から納品までの業務をヤマトグループにアウトソーシングすることで、効率化の実現や物流にかかる人件費などのコストを削減できるというサービスです。
まだまだあるびっくりなサービス!
パンフレットなどを必要な分だけプリントし、複数の印刷物をお届け先ごとに組み合わせて梱包し発送するオンデマンドサービス(6階)、梱包資材の研究や開発が行われているヤマト包装技術研究所(6階)、さらに単身赴任のお客さんを対象に家電をレンタルするサービス(5階)、日本の荷物を海外へまた逆に海外からの荷物を日本に送る際の通関手続き、海外から来た製品に日本語の取扱説明書を同梱、送り状を貼付するなどのサービス(3階)も提供しています。
羽田クロノゲートの3階〜7階で行われているサービスは、「運んで届ける」という物流機能に、さらに価値をつけてお届けするので「付加価値サービス」と呼ばれています。
これらのサービスは、全てヤマトグループ各社で行っています。宅急便だけかと思っていると、そんなことあんなこともやってしまうヤマトグループ。スゴイ!
これらのサービスは、高品質なサービスを低コストでスピーディーに実現することを目指した「バリュー・ネットワーキング構想」のもと提供されています。
ヤマトというと宅急便という印象が強いですが、このような企業向けのサービスも充実していることを知ってびっくり。物流ってどんどん発展してるんですね。
さてお次は、
なんだここは?秘密の部屋!
家永さんが合図をすると、
スモークがかかっていた部屋が、丸見え!
ここは「集中管理室」という羽田クロノゲートの頭脳!
部屋の中の壁面いっぱいに配置されたモニター。
先ほどの無人の仕分けエリアがキチンと稼働しているかを監視したり、
常時到着するトラックの着車バースを振り分けるなど、この羽田クロノゲートの動きをコントロールしています。
この集中管理室は24時間3交代制。1〜5名のスタッフが常駐しています。
見学コースの最後は「展示ホール」です。
プロジェクションマッピングで日本から海外へクール宅急便でものが届く「国際クール宅急便」の流れを学ぶことができます。
宅急便は、現在アジアにも展開中。
台湾、上海、シンガポール、マレーシアなどの国や地域でも、日本の高品質な宅急便というサービスが提供されています。
そして、展示ホールの壁にはいろんな言葉が書かれていて、ヤマトグループの様々なサービスが社会に生み出す価値や役割、思いなどを知ることもできます。
「ヤマトは我なり。」
「場所に届けるんじゃない、人に届けるんだ。」
「世界共通語。TA-Q-BIN」!
アジア地域でも日本と同様に「TA-Q-BIN」と呼ばれています。
さらにお楽しみもある!
ヤマトグループ独自のシステム「FRAPS」の模型の棚に入っている品物を取る、ピッキングを実際に体験できるコーナー!!
ゲーム形式でお仕事体験できるので、小学生の見学者に人気です。
もちろん、大人も盛り上がる!
赤くついたランプの箱から品物をピッキング。
クリアファイルやクリップ、メモ帳など楽しい品物を、
ピッキングしたらボタンを押して完了。これらを繰り返しランプが全部緑になればオッケー!
ピッキングした品物は、お土産としてもらうことができます!ここでしかない限定アイテムなので、クロネコヤマトファンの皆さんはぜひチャレンジしてみてくださいね。
楽しい見学コースもゴールに到着。
最終地点に待ち受けるのは「PUDO」と呼ばれる宅配ロッカー。PUDOは「Pick Up & Drop Off」の略で、例えば駅や公共施設、コンビニなどに設置され、荷物を受け取ることができます。
ヤマト運輸と、フランスに本社のある「ネオポストシッピング社」とで共同出資して生まれた「Packcity Japan」という企業が開発・提供するサービスです。
みんなが利用できるオープンスペースに設置された宅配ロッカーに荷物が到着、時間を気にせず手軽に受け取ることができます。これなら再配達はないので、受け取り側はセールスドライバーさんに申し訳ない気持ちになることもありません。
そして、この宅配ロッカーのメリットは利用者だけじゃない。
ロッカーを設置したお店にとっては荷物を受け取りに来る人がついでにお買い物をしてくれるキッカケにもなりますし、ECなどの荷物の爆発的な増加に伴う再配達の増加、宅配業者の負担増加といった社会問題も解決してくれそうです。このロッカーの中には荷物の他にも、希望や可能性などいろんなものがつまってそうです。
みんながいつもお世話になっている宅急便という便利なサービスが維持されるよう、今後どんどん普及して、みんなの幸せにつながれば良いなと思います。
以上で羽田クロノゲートの見学は終了。
日頃お世話になっている宅急便ですが、ここ羽田クロノゲートで荷物が運んで届けられる流れの中を実体験することで、
当たり前となった社会インフラである宅急便というサービスが、当たり前でない仕組みで支えられていること知ることができ、本当に感動しました。
クロネコさん、いつもありがとう。
そしてこれからも、ずっとよろしくお願いします。
(text:西村、photo:市岡)
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