たくさんのキーパーソンが織り成すハタオリのマチ、富士吉田の秋祭り! ハタオリマチフェスティバル
つくり立てほやほやのマフラー巻いて、こんにちは!実りの秋に高まる好奇心、今ちゃんです。
道の向こうには大きな富士山も、こんにちは!山の上のほうにもまだ雪はなく、穏やかそうにどーんと構えています。
富士山のふもとの織物産地、富士吉田の秋祭り!ハタオリマチフェスティバル、通称ハタフェスにやって来ました。マチの下手のほうにある小室浅間神社は、お祭りの出発点。境内には雑貨や食べ物のお店のテントが並び、おいしそうな匂いも漂ってきます。
お祭りだから、顔ハメとかしちゃう。おさるが手にしているのは、シャトル。布を織るときにヨコ糸を通すための道具です。バナナじゃないよ、さすがハタオリのお祭り。
今年のハタフェスのメイン・ビジュアルにも、おさるが!雲を従えているような雄大な富士山。そこから流れ出る湧き水をつかって、ハタオリをしている様子が描かれています。
神社の前を流れるこの川も、富士山のほうから流れてきています。水が綺麗な土地で米や酒づくりが盛んという話はよく聞きますが、ハタオリ産地にとっても水質は重要なのだそうです。富士山の地下水のやわらかさは織物に使う糸を染めるのに適していて、糸の発色が良く綺麗に染まるのだと教えてもらいました。なるほどなぁ、富士山ありがとう。
ハタフェスは、今年で3年目の開催。しゃかいか!編集部も、毎年遊びに来ています。
▼ 一昨年の様子はこちら。
ですが、実はわたしは初参戦。ハタフェス初心者として、お祭りのことハタオリのこと、タテ糸もヨコ糸もきめ細かくお届けしていきますね!
ハタフェスは、ハタオリマチフェスティバルという名前の通りマチ全体がお祭り。ここ富士吉田で織られている色んなテキスタイル製品を見たり買ったりできるだけでなく、ふだんは非公開の工房の中を見学したり、ハタオリのデモンストレーションを見せていただけたり。そして製品づくりの一部を体験できるワークショップがいくつも開催されるのも、このお祭りの2日間の目玉!さてどこへ行こうかしらと、おさるのパンフレットを広げたら目に飛び込んできたのは...
ワークショップ: 山梨県織物整理「工場でニードルパンチ体験」
整理って、なんだろう?ニードルパンチって、なんだろう?
なんだろう?は、行ってみよう!の初期症状。さっそくお邪魔することにしました。
織物づくりの最終ランナー、整理加工
山梨県織物整理の小杉さんです、こんにちは!
幾何学模様のマフラー、すてきですね。
山梨県織物整理さんのおこなっている整理加工とは、染めたり織ったりした後の生地が製品として完成する直前に、生地に風合いや機能をつける加工工程です。生地の幅を一定になるよう整えたり、毛羽立ちを抑えるといった「風合い」をほどこす処理や、傘の生地を防水にするといった「機能」を持たせる処理。これらはみんな整理加工の種類で、それぞれ専用の加工機械があるそうです。
工場入り口の明け放れた倉庫のような所に、色とりどり触感さまざまな布や糸がど~んと山になって置かれています。ハタフェス中には、普段のお仕事で使われる布の端切れや糸類を大放出して、整理加工機械の一つであるニードルパンチ加工機を使ってオリジナルマフラーを作るワークショップを開催しています。
ニードルパンチ加工機は、2枚の生地を専用の針(ニードル)で叩き込み(パンチ)、繊維を絡ませてくっつけることができるとのこと。どんなパンチを繰り出すのかは、後ほどじっくり見せていただくことにして、まずは布や糸を並べてマフラーの絵柄を作ります。
色んな布を、裁ちバサミでざくざく切り出したり、
モコモコの太い糸の束をふわりと投げ上げて、重力に任せてみたり、
パーツを上に下に並べて、織物っぽい模様を作ってみたり。準備していただいた、真っ白なマフラー地のキャンバスの上に乗せていきます。黙々と思い思いに、図工の時間みたい。やっぱり手を動かすのは、楽しいですね。
ピザ生地に、色んな具材をのせたような絵柄になりました。さぁ、いよいよニードルパンチ加工機の登場です!
長手方向に進むよう、マフラーをセットします。
ダッダッダッダダダダダダダ
スイッチを押すと、機械が動き出しました。
ふわふわと上に乗っている布や糸が、ずれたり引っかかったりしないよう気を配りながら、マフラーを送っていきます。
1万本ものニードルたちの、鋭い連続パンチ
マフラーが進む先には、剣山のようなニードルの一群が規則正しく上下運動。パンチを繰り出してます。規則正しい音と共に厳しさを感じる仕事ぶりを目の当たりにして、思わず無言になってしまいます。
機械の反対側にまわると、この通り。上に乗せた布や糸が、マフラーの生地にしっかりくっついて出てきました!
下に重なった布の色が透けて浮かび上がったり、くねくねふわふわしてた布の帯が、マフラーの生地と絡み合ってどっしりした印象になったり。それぞれのパーツの位置は同じですが、表情がぐっと変わりました。
表と裏の両面、2回ニードルパンチ加工機に通して出来上がったしっかり堅いマフラー。これを今度は蒸絨機(じょうじゅうき)という機械にかけて、柔らかい肌触りにしていきます。
蒸絨機はひとことで言うと、巨大スチームアイロン。大きなローラーに巻きつけている布の間に、しっかりと加工したい布地を挟み込み、熱と蒸気と圧力を加えます。
ぐるん、とローラーを回転させると、マフラーの姿が見えなくなりました。機械の側に立っているだけで、あたたかい蒸気を肌で感じます。美容によさそう。
今回のマフラーは長さも横幅も短いものですが、特に大きな生地を蒸絨機にかけるときは、シワにならないよう細心の注意を払い、蛇行せず真っ直ぐ巻き取るようにと、高い技術力を要する繊細な作業なのだそうです。
ぐるん、と再びローラーを逆回転させ、湯気の中からマフラーを取り出します。出来上がりです、ほっかほか!
私の具だくさんピザは、にぎやかで楽しそうなマフラーになりました。
色とりどりの布はレースの中に閉じ込めたけれど、パワーがあふれ出ています。
グレーのモコモコの糸は、しっかり生地に馴染んで優しい雰囲気に。
おや、これは!
工場の入り口のほうに目をやると、小杉さんが巻いていたおしゃれなマフラーのシリーズが飾ってあるのを見つけました。POSTEXTILE(ポステキスタイル)という、山梨県織物整理さんとテキスタイルデザイン集団pole-pole(ポールトゥポール)さんとの共同ブランドなのだそうです。
一見パッチワークのようにも見えますが、一つ一つ縫い合わせるのではなくニードルパンチで布の繊維を絡ませ重ね合わせています。そのため缶バッジの表面もふわふわではなくビシッとすっきり。スマートな仕上がりです。
こちらは、手提げバッグのシリーズ。真ん中のグレーのフェルト地に陰影が映り込んでいるような模様が美しくて、すっと目に止まりました。
「それはですね、」と小杉さんが見せてくださったのは、薄いボーダー柄の布。これを折りたたんだり斜めに配置したりしてニードルパンチ加工を施しているそうです。布に布を溶け込ませてしまうなんて。まさにニードルパンチならではの技ですね。
POSTEXTILEシリーズの商品の他にも、整理加工のサンプルが置いてあるのを見つけました。このジーンズ地のサンプルは、ふさふさした糸の列がデザインの要。生地は1枚のようですし、糸の列は刺繍?と思ってしまいましたが、なんとニードルパンチで加工しているのだそうです。
実はこれ、ニードル違いのニードルパンチ加工。
左のニードルは、糸を引っ掛けてハツるように、先端が二股になっています。これを裏側からパンチして、糸の列をつくります。そして右のほうが、ワークショップ体験で用いた2種類の布を合わせるためのニードル。点にしか見えないくらいですがニードルの先のほうに小さな凹みがいくつかあり、そこが繊維にひっかかり叩き込んでいくので繊維がうまく絡み合うんだそうです。
生地の素材やニードルの種類と絵柄のつくりかたの組み合わせで、ニードルパンチ加工機の描き出す表現の可能性の幅はこんなにも広く豊かなことを、じわりじわりと実感することができました。山梨県織物整理さんを訪れるまでは全く知らなかった整理加工ですが、ワークショップを体験してサンプルを見せてもらったりたくさんお話を伺って、今はもう、生地をつくっていく一連の流れの中で、多彩かつ優秀な最終ランナーたちが生地の織り上がりを待ち構えているようなイメージが浮かんできそうです。
続いて向かったのは、ハタオリ大学展。富士吉田の機屋さんと東京造形大学でテキスタイルデザイン専攻との産学連携プロジェクト、フジヤマテキスタイルプロジェクトの展示です。今年は10年目ということで「10年間のアーカイブ展示」と「今年の展示」のふたつが並んで開催される、とっても豪華な年。今までプロジェクトに参加した大学生(卒業生含め)は、なんと総勢47名。機屋さん13軒と一緒につくってきた様々なテキスタイル製品が見られますよと聞いて、わくわくしながら展示会場へ向かいます。
まずは「10年間のアーカイブ展示」から。
靴を脱いで、3階建ての木造の蔵に足を踏み入れます。
東京駅のお店で見つけて、おめでたい感じがとにかくかわいいなぁとテンションが上がったkichijitsu(キチジツ)シリーズに再会したり、
干支ザブトンに描かれている、12の素敵な動物の図案と織糸の輝きにぐいぐい吸い込まれたり、
あまりの美しさに、思わず笑ってしまったり。もし天女の羽衣が実在するならきっと、こんな感じ。
最上階の屋根裏は、傘の部屋。たくさんの傘がふわりふわりと宙に浮いています。浮遊する傘を下から見上げると、それぞれのテキスタイルに包まれる小さな空間に入り、ほっと落ち着きます。こんな雨の日なら、雨でも楽しく出掛けられそう!
多品種織物の産地のパワーあふれる縮図、10年間の濃密な軌跡
あたたかいライトに照らされて、洋服、ストール、座布団、傘、ネクタイがずらりと並びます。見応えあふれる展示ボリューム、モチーフやアイデアの新鮮さや、織物の細やかな造作の美しさに、すっかり圧倒されてしまいました。そして、テキスタイル製品の種類の多さにもびっくり。この多品種の製品を織ることのできる技術はこのハタオリ産地の特長で、富士吉田市を含むこのあたりで織られたものが郡内織物(ぐんないおりもの)と呼ばれていた、およそ1,000年も前の平安時代から脈々と受け継がれ、洗練されてきたものなのだそうです。
そして、それぞれの作品の隣に置いてあるキャプションに、機屋さんとデザイナーの学生さんの名前が併記してあることがとても印象的でした。ハタオリ産地と学生さんたちのそれぞれの二人三脚の空気感が、にじみ出て伝わってくるようです。
フジヤマテキスタイルプロジェクトが歩んできた濃密な10年間のインプットを受けてもうすでに大満足!の心持ちですが、お隣の蔵「今年のプロジェクト展示」も覗いてみましょう。
この蔵の中をぐるりと案内してくださったのは、一松さん。東京造形大学テキスタイルデザイン専攻の現役の学生さんです。一松さんの作品のこと、詳しく伺ってみました。
Coast Bag(コーストバッグ)は、爽やかなボーダー柄が透ける大きめのトートバッグです。パートナーの機屋さんは、株式会社オヤマダさん。高密度で細いシルクの糸を織る技術で、ドレスに使われるような薄いオーガンジー生地を織ることができます。
「もともと海が好きで、オヤマダさんはオーガンジーが得意なので、ビーサンやタオルを入れて海に持って行きたくなるような爽やかなボーダー柄のバッグを作ろうと思ったんです」と、一松さん。
確かに!一松さんは、夏の海が似合いそう。
試作の初期段階で、様々な色や幅のオーガンジー生地のボーダー柄のサンプルをオヤマダさんから受け取ったときに、オーガンジーが透けて向こう側のボーダーが重なるというレイアードの美しさに気づき、異なる幅や色のボーダー柄を組み合わせることにしたのだそうです。
お気に入りというこのバッグは、横糸で青〜白色でボーダー柄を表現し、タテ糸は赤色の糸なのだそうです。太陽キラキラの夏の日にこのバッグを持って出かけたら、光を受ける角度によって全体が赤や青、紫に変わり、さらに裏側のボーダーも透けてきっときれいだろうなぁと想像がふくらみます。早くも、来年の夏が楽しみになりますね。
そしてCoast Bagの手前に並んでいるのは...、お寿司です!
シャリのご飯のふっくらした粒感も、魚の切り身の新鮮そうなつやつやも、とても美味しそう。
こちらはメゾン寿司 -MAISON SUSHI- という、鈴木さんの作品。
蔵の展示の外側のポップアップショップでは、サコッシュと名刺入れの販売もおこなっています。「マグロの赤身とトロ、サーモンの3種類。どれになさいますか?」と、完全に寿司職人の身のこなしの鈴木さん。サーモンをおひとつ握っていただき、お寿司の話を伺いました。
「3年くらい前からお寿司のシリーズを作っていたんです、織物ではなくプリントで」という、鈴木さん。シャリがポコポコと柔らかい凹凸のワッフル生地になっているバージョンや、全体をフェイクレザーで仕立てたスタイリッシュなバージョンなどを展開してきた中で、このフジヤマテキスタイルプロジェクトでは織物でお寿司の質感を表現しようと決意し、試行錯誤を重ねてきたそうです。
パートナーの機屋さんは、普段は座布団を作っている田辺織物さん。次のお寿司のラインナップとして光り物の切り身やいくらの試作を進めているなど、田辺織物さんとの共同開発はこれからも続いていくそうです。メゾン寿司、美味しいお寿司の人気繁盛店になりますように!
フジヤマテキスタイルプロジェクトの動力、情熱のエネルギー
もともと海が好きな一松さんと、もともと別素材でお寿司を作り続けてきた鈴木さん。おふたりのプロジェクトが「自分のいちばん好きなこと、自分がいちばんつくりたいもの」というシンプルでパーソナルな出発点から始まっていたことに驚き、とても眩しく感じました。きっとそのまっすぐな情熱のエネルギーに巻き込まれ、機屋さんも一方的な技術提供元や製作担当ではなく一緒に新しいことにチャレンジするパートナーになり得たのだろうと思います。
この大ボリュームな展覧会とともに 、フジヤマテキスタイルプロジェクトの10年の振り返りとしてハタオリ大学賞の授賞式が開催されました!
前列左から、富士吉田市長賞受賞の鈴木龍之介さん(メゾン寿司 /機屋さん:有限会社田辺織物)、ハタオリ大学大賞受賞の井上綾さん(おまもりぽっけ /機屋さん:光織物有限会社) 、山梨県絹人繊織物組合理事長賞受賞の井上美里さん(hanacasa /機屋さん:株式会社槙田商店)、富士吉田商工会議所会頭賞受賞の山本遥さん(干支ザブトン /機屋さん:有限会社田辺織物)です。
富士吉田市も織物の組合も機屋さんたちも一緒になって、感謝と祝福と、同志の健闘をたたえあうような熱い空気に包まれました。なんてホットな表彰式!みなさん、おめでとうございます!
おや? 黒板に絵を描いている人を見つけました。声をかけて振り返ると、五十嵐さん!
しゃかいか!でも以前に取材させていただいた五十嵐さんは、山梨県産業技術センター富士技術支援センター、通称シケンジョで、富士吉田のハタオリ産地の魅力を伝える仕事をされています。6年前の2012年から始まった、産地の機屋さん自身が店頭に立ち、山梨のテキスタイル製品と山梨の素晴らしさをお客さんに直接伝えていくという展示販売、ヤマナシハタオリトラベルや、バイヤーさんやデザイナーさんなど織物・繊維に携わる人たちと産地の機屋さんとのビジネス・マッチングを目的にした機屋さんの工房やショールームを巡るバスツアー、ヤマナシハタオリ産地バスツアーの開催に関わっていらっしゃいます。
▼ 五十嵐さんの取材記事はこちらです、寄り道どうぞ。
そんな五十嵐さんから、1冊の冊子をいただきました。ハタフェス前日に行われた今年の産地めぐりのバスツアーの勉強会で配布したという、五十嵐さんの最新作。パラパラパラと、さっそく拝見!製糸に始まり製織から整理加工まで、織物づくりのプロセスに登場する各工程の図解が載っているのですが、その分かりやすさといったらもう、ため息もの。
せっかくなので、山梨県織物整理さんでワークショップ体験をさせていただいた時に登場した整理加工の機械たちのページをご紹介しますね!
ハタオリ産地の、スーパー・コミュニケーター
機械をスパッと切った断面の図解からは動きや流れが見えてきて、理解のレベルがぐーんと上がるのを実感します。黒板にワークショップ開催告知の絵を描いているのも、機屋さんが直接展示や販売をおこなう仕組みをデザインしたのも、産地めぐりバスツアーを企画するのも図解イラストを描くのも、すべて富士吉田のハタオリ産地の魅力を伝えるアプローチなのですね。愛があふれています。
すぐ近くにも、五十嵐さんの描いたかわいいワークショップ看板が!
導かれるようにして、ロゼットをつくることにしました。
かわいいー!
金糸が映えるフリルも、ワインレッドの色味がしっとりしたリボンも、シャトルを持ったおさるのくるみボタンの生地も、もちろん全てこのハタオリ産地で織られたもの。たくさん色や模様がある中から選んで組み合わせるので、同じおさるのロゼットでも、作る人によって雰囲気がガラッと違っていたりするのが面白いです。
去年も一昨年も、ハタフェスで人気のワークショップということで、今年つくった人だけでなく、去年も遊びに来たリピーターも産地の人も、このロゼットを身につけている人をそこかしこで見かけます。私も、来年またこのロゼットつけて遊びに来たいな。
場所変わって、ポップなポスターに囲まれたこちらは、産地の学校ブースです。オレンジ色がまぶしい宮浦さんが運営する産地の学校は、テキスタイルの実際のものづくりを学んだり、テキスタイル産地に足を運んだりする週末の教室です。ハタフェスでは、ふじよしだ定住促進センターのコラボレーション企画として、機屋さんを巡るツアー、ハタオリマチルーキーズツアーを開催しています。
機屋さんに会えるチャンス!ツアーに混ぜてもらうことにしました。
みんなでてくてく、マチを歩いて巡ります。
有限会社テンジンの、小林さん。肌触りがふんわりやさしいクロスやエプロンのリネン製品のファクトリーブランドALDIN(アルディン)を展開しています。
光織物有限会社の、加々美さん。掛け軸の額縁のような部分、表装や和小物に用いられる、金糸を織り込んだ厚手できらびやかな織物を織っています。フジヤマテキスタイルプロジェクトに参加し、おまもりぽっけを始めとするkichijitsuシリーズの機屋さんでもあります。
有限会社羽田忠織物の、天野さん。シルクを中心とした天然素材を使用したネクタイのファクトリーブランドHADACHU ORIMONO(ハダチュウオリモノ)を展開しています。
株式会社槙田商店の、槙田さん。こもれびという新作の晴雨兼用傘を、お披露目いただきました。影がやさしくてきれい!
リネンに表装裂地(ひょうそうきれじ)、ネクタイ、そして傘。ハタオリ大学展でも見てきた、富士吉田で織られるテキスタイル製品の多品種ぶりに、改めてハタオリ産地の底力のようなものを感じます。
ツアー後の別の会場では、渡邊織物、Watanabe Textile(ワタナベテキスタイル)の渡邊さんにもお会いしました。建築を学んだ後、写真家として活動しながら、ハタオリをする渡邊さん。展示空間がまとう雰囲気とテキスタイル製品の雰囲気が、やわらかく連続しています。
個性豊かな多品種のハタオリ産地の、個性ゆたかな機屋さんたちの顔が見えてくると、不思議とテキスタイル製品の見え方が変わってきます。つくっている方の人柄とプロダクトの特徴がリンクして伝わってくるような感覚は、なんだか心地のよいものです。
さわやかな秋のマチを歩き人の流れに身を任せて、また別のエリアにたどり着きました。
こちらは、SHINTO TOWEL(シントータオル)の神藤さん。大阪の、泉州産地というタオルのハタオリ産地からの参戦!
こちらの溝端さんが手にしている、長崎県の小値賀島(おぢかじま)のピーナッツカレー。今回のハタフェスでふるまうピーナッツカレーには特別に、山梨県で甲州味噌をつくり続けている五味醤油株式会社さんのお味噌が入っているんだそうです。
こちらがそのお味噌の、五味醤油の五味洋子さん。五味さんが着ているエプロンは、富士吉田のリネンの織屋テンジンさんのブランドALDIN、ハタオリマチルーキーズツアーでお邪魔した小林さんのところのものです。
カレーからリネン、小値賀島から山梨そして富士吉田がはるばる繋がるなんて!富士吉田の内外から出店されている方たちも、なんやかんやシームレスに繋げていってしまうような目に見えない力、ハタフェスのおおらかな引力を感じます。
ハタオリ大学トーク、始まるよー!
ハタオリ大学展の蔵の手前のスペースに、人が集まってきました。これからテキスタイルデザイナーの鈴木マサルさんとシケンジョ五十嵐さんのトークセッションが、始まります。
鈴木マサルさんは、東京造形大学の教授でフジヤマテキスタイルプロジェクトの生みの親です。最前列キープで、全身耳!
名前をなくしてしまった、ハタオリ産地
トークセッションの前に、五十嵐さんから富士吉田のハタオリ産地の歴史をレクチャーいただきました。江戸時代に特産品として有名だった絹織物は郡内縞(ぐんないじま)と呼ばれ、その後戦前期までは羽織の裏地などに用いられた高級織物、甲斐絹(かいき)がこの地で作られてました。しかし戦後になり国内外の有名ブランドの生地を受注生産するOEMのスタイルが主流となると、ハタオリ産地は名前をなくしてしまいました。機屋さんは「そのブランドの生地はウチで織っていますよ」と言わない契約を結び、お客さんは生地がどこで織られているか分からなくなりました。名前を失うと同時に提案力や発信力も失い、ハタオリ産地に元気がなくなってしまったのだといいます。
確かに私は今着ている服がどこのブランドの商品かは知っていて、生地の素材も「綿100%」等の表示を見れば分かります。でも、どこの産地で織られた生地かは知りません。「名前をなくしてしまった」というフレーズの独特な悲しい響きと、それが身をもって実感できることに、心がざわざわしてきます。
このようにハタオリ産地が危機感を抱える状況下で始まった、フジヤマテキスタイルプロジェクト。ここで、鈴木マサルさんの登場です。「正直、ここまですごいことになるとは思ってなかった」という鈴木マサルさん。10年前に機屋さんから産学連携の話を持ちかけられた時にも、機屋さんにとっても学生にとっても妥協が多くお茶を濁すようなものを作ってしまってはならないと、一度はきっぱりと断ったそうです。
私は蔵の展示のテキスタイル製品から、機屋さんと学生さんとの信頼関係を感じましたが、それは鈴木マサルさんの絶妙な采配のもと、両者にいい緊張関係がピンと張ってその上につくり上げられてきたものでした。もし機屋さんに就職してきた若手デザイナーとしての提案だったら、常識的に考えて跳ね除けていたかもしれないアイデアも「学生さんが一生懸命考えてきたものだから、そして鈴木マサルさんと学生さんの提案にノーと言わない約束をしたから、手探りでもやってみよう」と試行錯誤を繰り返し、ユニークないい製品として実現できたものがいくつもあるそうです。
このプロジェクトを修了した卒業生で、機屋さんとオリジナルブランドを立ち上げた方が8名、そのままハタオリ産地に就職した方が5名いらっしゃいます。トークセッション会場と同じスペースにポップアップショップを構えていた吉本さんも、東京造形大学出身でプロジェクトの修了生。テキスタイルブランド、YUMI YOSHIMOTOを手がけ、活躍されています。学生さんも機屋さんも努力して楽しんで、ひとつのモデルケースではなくそれぞれのバラバラの成功や未来をつかんでいます。活き活きとしたハタオリ産地の姿、これが名前を取り戻したということなのですね!
キーパーソンが大勢、ターニングポイントが頻発
五十嵐さんの図解「山梨ハタオリ産地の100年 フジヤマテキスタイルプロジェクトの10年」という年表スライドからは、グレーの帯がしめす織物生産量の振れ具合から100年の変化の激しさが伝わってくると共に、直近10年の濃密さがにじみ出ています。
五十嵐さんと鈴木マサルさんの話には「あの時あぁならなかったら、どうなっていたか分からなかった」というフレーズが何度も繰り返され、キーパーソンやターニングポイントが絶え間なく登場。みんなでひとつの大きな流れをつくって連続急カーブをぐいぐい進んできたような印象の10年間のお話は、泥臭くてたくましい。ミラクルを感じて、くらくらします。
今回はフジヤマテキスタイルプロジェクトの10年を振り返るのがトークセッションのメインですが、ヤマナシハタオリトラベルやヤマナシハタオリ産地バスツアーの話も端々に。ここでも、巻き込まれたり飛躍したり感動が連鎖したりと、色んなドラマが詰まっていることが垣間見えてきます。
ハタオリ産地全体が「名前をなくしてしまった」状態から脱却し、元通りを目指す回復方向ではなく新しい未来を拓きつつあるというお話を伺っていて、ふと、これは織物工程内における整理加工も同じような構造だなと思いました。
織物に関わる人たちにとってはなくてはならない存在の整理加工も、一般のお客さんの立場である私にとっては全くなじみがなく、整理加工という名前も存在も知りませんでした。それがデザイナーさんとのダブルネームでニードルパンチ加工が主役のオリジナルブランドを立ち上げたことで、「整理加工って?」「ニードルパンチって?」ということが、お客さんに商品特徴として届き、その美しさや面白さがストレートに響いてきます。ゲームチェンジ!ただ名前を取り戻しただけに留まりません。
トークセッションの終盤で突然、鈴木マサルさんから、次のフジヤマテキスタイルプロジェクトを引っ張っていくディレクターに指名された高須賀さん。みんなで拍手!高須賀さんもまた、プロジェクトの1期修了生であり産地に就職した方のひとりです。
富士吉田の、タテ糸とヨコ糸
私が目撃した2018年秋の富士吉田は、富士山からの良質な水資源が供給される良い環境と、郡内縞や甲斐絹といった有名織物の生産の歴史や技を、長い長いタテ糸として、そこにたくさんのキーパーソンが色どり鮮やかなヨコ糸としてガンガン加わり、みんなで強く美しい織物をパワフルに織り進めているような、そんな豊かなところでした。
トークセッションの最後には、鈴木マサルさんが「早く行きたければひとりで行け、遠くに行きたければみんなで行け」ということわざを引用し「自分たちは後者です」ときっぱり断言していたのが、心に響きました。富士吉田のみなさんがどんな遠くまで行けてしまうのか...!その未来をまた目撃したいです。
感動にひたりながら、盛り上がりの渦に巻き込まれながら、富士吉田パーティー・ナイト!
こちらがハタフェスの言い出しっぺ、富士吉田市役所の勝俣さん。Watanabe Textileのワンピースが、とってもお似合いです。
それを受けて、ハタフェスの骨格をつくってきた実行部隊の3人。順に、赤松さん、藤枝さん、土屋さん。ハタフェスの生みの親たちに、次々にマイクが渡ります。富士吉田の、ヨコ糸リレー。アツい夜が深けていきます。
最後に!たくさんのキーパーソンにお会いして目まぐるしくて食レポできませんでしたが、ハタフェスは食も最高。まちなか青空食堂で、文字通り青空の下でいただいたカレーライスやどら焼き、富士山の湧き水からつくられたという日本酒は、格別でした。
富士山ありがとう、富士吉田のみなさんありがとう。ハタフェスは、また来年!
【詳細情報】
主催/山梨県富士吉田市・ハタフェス実行委員会
電話番号:0555-22-1111 (富士吉田市富士山課)
URL:http://hatafes.jp/
山梨県織物整理株式会社
電話番号:0555-22-0177
住所:山梨県富士吉田市下吉田6-2-16
URL: http://www.fyoshidacci.or.jp/member/orimono/
山梨県産業技術センター富士技術支援センター
電話番号:0555-22-2100
住所:山梨県富士吉田市下吉田6-16-2
URL: http://www.pref.yamanashi.jp/yitc/
メゾン寿司 -MAISON SUSHI-
※ 本文中に掲載の「ニードル加工機」,「蒸絨機」,「山梨ハタオリ産地の100年 フジヤマテキスタイルプロジェクトの10年」の図解は、山梨県産業技術センター富士技術支援センターに提供いただきました。
(text:今飯田、photo:市岡、加藤)
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