今年のテーマは「美しさと共振する力」。グッドデザイン賞が提示するデザインの変化とは?
今回しゃかいか!が向かったのは、東京ミッドタウンで開催されたグッドデザイン賞の受賞展。ミッドタウンの入り口には見覚えのあるGマークが構えています。
グッドデザイン賞は1957年に開始された、今年で62年目となる日本を代表するデザインの評価とプロモーションの活動です。世界的に見ても歴史が長く、近年ではアジアからの出品や選出が多くなっている賞の1つです。
主催・運営するのは、日本で唯一の総合デザインプロモーションの専門機関、公益財団法人日本デザイン振興会。年々変化するデザインの定義やニーズに応えるために、デザインを軸とする事業開発や社会課題への提言などをしています。
当時欧州に輸出していた織物の意匠がヨーロッパの盗作だと指摘されたことが、グッドデザイン賞設立のきっかけだそうです。盗作の規制をするだけではなく、デザイン力の向上を目指した指標としてグッドデザイン賞を設けました。
今年は5,000弱の応募の中から1,420件がグッドデザイン賞に選ばれ、特に優れたグッドデザイン・ベスト100やグッドデザイン大賞1件、金賞19件、グッドフォーカス賞12件が選出されました。
洋服や建物などの造形の美しさを指すデザインだけではなく、最近では仕組みやシステムにもデザインという言葉が使われています。60年以上の歴史の中で、デザインという言葉の意味や範囲は広くなりました。グッドデザイン賞も、何をもってグッドとするのか、時代によりテーマを変えています。
審査委員長を務める、プロダクトデザイナーの柴田文江さんによると、造形美だけではなく、作られたプロセスや理論の積み重ねにより備わった「美しさ」や、人々の共感を呼び覚まし望ましい変化をもたらす「共振する力」が今回の審査テーマだと言います。
年々デザインという言葉は定着し、世の中に使う頻度は増えましたが、使う場面や範囲が広がり、その抽象度は増している気がします。
では、グッドデザイン賞はデザインという言葉をどのような意味で使用しているのでしょうか。グッドデザイン賞の社会的意味や注目すべきポイントを、エキシビジョンと発表会に潜入しながら見つけていきたいと思います。
今、素材やコトのデザインに注目が集まっています
グッドデザイン賞では毎年、受賞作品を紹介するGOOD DESIGN EXHIBITIONを開催しています。2019年は「デザインミュージアム」をテーマに、2019年度のグッドデザイン賞を受賞した1,420点の作品を全て展示する他、過去の受賞作品をブックで一挙に見ることができます。
案内をしてくださった秋元さんによると、ここ数年家電や自動車の応募数や賞に選出される作品は減少し、建築や活動、アプリ、素材が増加している傾向にあるのだそうです。
モノよりコトの需要がより高まった2000年代以降、サービスや仕組みに対するデザインが注目され、”ソーシャルデザイン”などの言葉も一般的に使われるようになっています。
ベスト100に選ばれた建築も、空間の使い方や場所の役割、影響力までデザインされたものが多く選ばれていました。
素材に注目が集まるのも、消費や産業の変化があったからだといいます。今までは最終的な製品の応募や受賞が多かったそうですが、最終製品となるための加工方法や素材もグッドデザイン賞を受賞しています。膨大なモノとその情報が個人で入手できる現代では、ユーザーが良い素材を選択し、組み合わせて使うことが容易になりました。選択肢が広がったからこそ、機能性や美しさなどがしっかりデザインされた素材に目が向けられているのです。
素材を製造するプロセスがデザインされていることも重要です。無駄や資源、排出物を抑えた製造方法を確立した素材開発も評価されています。
ミッドタウンの敷地内、屋外エリアにグッドデザイン・ベスト100に選出された素材が展示されていました。
こちらはトピー工業株式会社が製造している鉄筋コンクリート用の鋼。
人手による加工が主流で、生産性が高くない鉄筋加工業界において、製造・保管・輸送・加工で生じる様々な無駄の削減を可能にしました。
直棒だった鋼をボビンに巻いたことで、保管場所の空間を70%、産業廃棄ロスを4%改善し、生産プロセスをデザインしたことが高く評価されたそうです。
以前しゃかいか!でインタビューをさせていただいた、デザイナー堀内康広さんがディレクションをする着火機能付きお香「hibi 10MINUTES AROMA」がグッドフォーカス賞に選出されました。
マッチ本来の「擦って火を付ける」という行為を後世に残すため、 2015年に3年半の開発期間を経て誕生した「hibi 10 MINUTES AROMA」。 マッチ製造職人の腕が存分に活かされ、受け継がれてきた産業の価値の再編集によって地域に新しい風を吹き込もうと試みる関係者の姿勢が素晴らしいと評価されたそうです。
日常をデザインの視点で再発見できるロングライフデザイン賞
ミッドタウン内に併設する21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3にやってきました。ここでは、ロングライフデザイン賞2019の受賞展が開催されています。
ロングライフデザインとは、スタンダードなデザインとして人々の生活に生き続け、暮らしや生き方に影響を与えているデザインのこと。毎年10件以上の作品がロングライフデザイン賞に選出されています。
グッドデザイン賞と異なる点は、ユーザー自身がロングライフデザインだと思う製品や作品を推薦することができること。使い手こそがそのモノの価値を知っているだろうという考えから推薦を受けつけているそうです。そのため、発売から10年以上経った製品や作品しか応募・推薦できないそうです。
今年の応募は123件、うちロングライフデザイン賞を獲得したのは19件でした。グッドデザイン賞より応募数は少ないものの、倍率はグッドデザイン賞より高いそうです。
今年はラジオ体操やUNIQLOのヒートテックなど、今や生活の一部になっている習慣や日用品が受賞しています。ロングライフデザイン賞を通し、生活の中に長く居続けていたために気に留めなかったデザインを改めて発見することができました。
グッドデザイン賞は誰でも楽しめる発見の場
グッドデザイン賞を受賞した約1,400件を一挙に見ることができるブースにやってきました。
初回からしゃかいか!が毎年取材させてもらっている、「RENEW(リニュー)」がグッドデザイン賞に選出されています!
「RENEW(リニュー)」は、福井県鯖江市・越前市・越前町で開催される、持続可能な地域づくりを目指した工房見学イベントです。2019年度は、越前漆器・越前和紙・越前打刃物・越前箪笥・越前焼・眼鏡・繊維の7産地の工房・企業を一斉開放しました。見学やワークショップを通じて、一般の人々が作り手の想いや背景を知り、技術を体験しながら商品の購入を楽しめるイベントとなっています。
ベスト100だけでなく、約1400件に及ぶデザインを見ることができるエキシビジョンは、デザインに携わってない私でも気軽に面白い製品やサービス、プロジェクトと出会える場でした。グッドデザイン賞は誰でも気軽にデザインと触れることができるイベントなのです。
デザインの向かう先を示すグッドデザイン賞
エキシビジョンを見学した後は、大賞・金賞・グッドフォーカス賞の記者発表会に参加してきました。
5,000弱の応募の中から今年の大賞に選ばれたのは、富士フイルムが開発した「結核迅速診断キット」。
尿中に微量に含まれる結核菌特有成分を検出するために、写真の現像方法「銀増幅技術」という従来から富士フイルム社内にある技術を応用することで結核の早期発見を可能にしたことが高く評価されたそうです。
従来の技術を元々の用途ではなく医療に用いた点において、開発チームにも共振が起こされたのではないかと、プロダクトデザイナーであり、グッドデザイン賞の審査委員長を務める柴田文江さんはおっしゃっていました。
グッドデザイン賞は60年の歴史の中で、人々のライフスタイルに沿ったデザインのあり方を見出しながら、人や社会が向かう指針を提示していることがわかりました。
これから必要となるデザインとは?
日本デザイン振興会矢島進二さんは、ただ完成されているのではなく、使い方が示されていることや、おのずと使われたり広められるようなデザインがこれから必要となるデザインだろうとおっしゃっています。
今回グッドデザイン賞に潜入し、デザインは使い手の潜在的な需要を見出したり気づきを促す役割や、同じ方向を目指したくなるような刺激を与えるものだと学びました。
これからも益々、デザインという言葉があらゆる物事の設計や構築で使われていきます。来年、5年後、10年後、グッドデザイン賞がどう変わっていくのかとても楽しみですし、常に「今現在必要なデザインはなんだろう?」と考えることがデザインに携わっていない私たちにとっても大切なことだと感じました。
【詳細情報】
GOOD DESIGN AWARD
公益財団法人日本デザイン振興会
グッドデザイン賞事務局
住所:〒107-6205 東京都港区赤坂9-7-1ミッドタウン・タワー5F
https://www.g-mark.org/
(text:森口、photo:市岡)
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