糸と糸を組む、人と人の繋がりで生まれる優しいくみひも「昇苑くみひも」
今回しゃかいか!がお邪魔したのは京都・宇治の昇苑くみひもさんです。
こんにちは!今回レポートをするのは”ときちゃん”こと四條 桐貴子(しじょう ときこ)です。
私は2021年の4月に東京の美術大学を卒業し京都に引っ越してきました。今は京都市立芸術大学大学院で日本画を研究しています。
日本画は天然顔料を使い絵を描くことや私は特に絹に絵を描くことが多いので、同じように日本の色を使う染色技術やそれを使った工芸品に興味がありました!
また、日本人に生まれたからには和装を普段着にすることに憧れていた私は、KYOTO KOUGEI WEEKでのインターンをきっかけに今回組紐や帯締めを取材できることになり、ずっとワクワクしていました!
新しい感覚と受け継がれる技術のベストマッチ・昇苑くみひもさんとは??
昇苑くみひもさんは1948年に誕生しました。
当初は帯締めや髪飾りを作ることが主な仕事でしたが、時代とともに和装離れが進んだことで、発想を転換し現在はくみひもを利用した様々な製品を販売しています。
今回お話を伺ったのは、昇苑くみひもの八田さんです。
複雑な組紐についてとても分かりやすく説明してくださいました。
次から次へ出てくる私たちの疑問を一つ一つ丁寧に解決してくださったお陰で、組紐の魅力を何倍も知ることができました。
こちらの素敵な空間は昇苑くみひも宇治本店のショップスペース。
「伝統工芸品」と聞くと手を出しづらいのかな〜と思うこともありましたが小さくて手に取りやすく、特にこのチャームや
靴紐など、私たちも日常使いしやすいものばかり!
(取材メンバーでお揃いにしようと話していたくらいでした)
そんな組紐ですが、現在は職人さんが1本1本手作業で行う「手組み」と「製紐機」という機械で紐を組む「機械組み」、さらには組んだ紐を手作業で「製品に加工する作り手さん」の両立で作られています。
一つ一つが欠かせない存在、チームで作られる組紐をひとつひとつみていきましょう!
組紐の基礎にして、揺るがない仕組み「手組み」について知る
まずはくみひもの伝統工芸士の梅原初美さんに手組みの説明をしていただきました。
組み紐とは、3本”以上”の糸を交差させ組み合わせて作るひものことを言います。
ということは、実は「三つ編み」は三つ「編み」ではなく三つ「組み」なんだそうです!「編む」というのは1本の糸をより合わせてループさせる というイメージなのだそうです。
意外と日常の身近なところにある「組む」という動作、皆さんもぜひ糸や紐を見て「これは ” 組む ”かな?“ 編む ”かな?」と考えてみると面白いかもしれません。
取材チームのちょっとした疑問にも丁寧にたくさん答えていただきました。
実はこちらに写っている紐を組んでいる方々、組紐教室の生徒さんなのだそうです。
素人の私にはすでに職人技なのでは?と思えるほどの手捌きにびっくりしました!
では手組みで使われるのはどんな機械なのでしょうか??
まずこちらは角台と呼ばれ、一番オーソドックスで円柱状の紐を組むことができます。
教室で教わるときに最初に取り組むのはこの角台なんだそうです。
何時間でもやっていられそうです、、!
こちらは丸台と呼ばれ、円柱状の紐も平らな紐も組むことができます。
こんなに小さいのに万能なんです!
このほかにも大きな「綾竹台」「高台」といった平で多くの糸を使った紐を組むことできる道具もあります。
一見すると機織り機のように見える綾竹台や高台。
思わず聞いてみると、なんと「組む」と「織る」には決定的に違う点があるようなのです。
それは、組紐には「経糸(たていと)が無い」という点です。
通常織物は経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が垂直に交差するように織られているので完全に異なるものなのです。
編み物も、織物も、組紐も同じ糸から出来ているのにこんなにも違うのかと驚きの連続でした!
手組だけでもこんなに太さも柄も様々なんです。
特に私は椿の花が大好きなので紐の中にモチーフを入れることができることに興奮しました!
全て細かい設計図があるのかと思いきやなんと今までの経験で感覚に頼ることも多いのだそう、、これにはまたもや一同驚きでした。
一本の紐の中でグラデーションを作る場合は先に糸を必要な分だけ染め、そこから組み始めます。これは織物と共通しているなと思いました。組む前の準備が実は一番大変なんだそうです。
「着物の中で自分で作ることのできるのは帯締めだけ」との話を聞き、いずれ迎える節目の晴れ着や大切な人の晴れ着に花を添えることのできる帯締めを私も作ってみたいと思いました。
準備が肝心!機械組み
外に出てみると、何やら「珍しい工程をみることができますよ!」とのことで一同興味津々。
その珍しい工程とは糸を束ねる工程で、これは機械組のための大事な準備です。
長い廊下と車輪のような機械で糸を束ねていきます。
日本に長い廊下を持つ長屋が多いのも、昔は家でこのような作業をしていたためなんだそうです。伝統工芸は人々の生活に根付いていることを改めて知り「なるほど〜!」の連続です。
さて、機械組の準備はまだまだ続きます。
先程の工程で束ねた糸たちを今度はミシンのボビンのように少量ずつ巻き取っていきます。実はこの工程が超重要なんだそうで、ここで綺麗に巻けるかどうかが仕上がりに大きく関わってくるそうです。
ここまでの準備を終えるとやっと、製紐機の出番です。
日中は糸の準備をおこない、製紐機は夜間にセットし仕事をしてもらうそう。
並んだ製紐機はまさに圧巻!
どこをどう撮ってもかっこいい製紐機たち。思わずみんなで写真をパシャパシャ。
同じように見える製紐機たちも実はこの中に30もの種類がありそれぞれをどう組み合わせるか、そこには基本の手組の知識が必要不可欠なんだそうです。
持っている手札の性質を見極めて最大限活かす、そこには職人の知識と技が問われます。
「製紐機の使い手」なんともかっこいいです。
依頼されたものを作るためにはどの製紐機を使うのがベストか考え、不可能と思われたものでも組み合わせ次第で作ることができたりと可能性は無限大だと感じました。
大きな製紐機の意外な動力とは?
さて、こんなにも精巧な機械は何を原動力に動いているのでしょうか?
実は大きな機械の下には歯車がびっしり。なんと動力は2つのモーターだけであとは全て歯車の力で動いているのです。
横に並んだ機械たちは全て連動して歯車で動いているので、糸がセットされていない機械も下では常に歯車が動いているのだそうです。
これには一同びっくりで、思わず下を覗き込んだり写真を撮ったり。
しかし少し覗き込んだ程度では到底理解出来そうもない複雑さで、ずっと見ていても飽きることがありません。
過酷な作業から生まれる繊細な色
次に見せていただいたのは、糸を染める工程です。
昇苑くみひもさんでは一部の糸はこうして工房内で様々な色に染め、使用しています。
この染液に浸され重たくなった糸を持ち上げる作業は過酷なため通常男性が行いますがこちらでは女性の方が1人で行なっていらっしゃるそう。
染料の配分や微妙な色味の調節はまさに職人技です。染色液は常に熱しながら作業をしなければいけない為、鍋に向かい続けることは過酷な作業。今回はあまりお話を伺うことは出来ませんでしたが、いつか詳しくお話を伺いたいなと思いました。
「誰もやらないなら、自分たちで作る」から生まれる高い技術力
次に見えたのは他とはまた少し異なる、水蒸気の出ている機械。これは一体何なのでしょうか?
実はこちら、数珠の房を作る機械なのです。組紐と数珠、確かに和装で使う物としては関連性は感じられますが元々は全く違う技術。ですが、数珠を作っていたことが縁で「他に作る人がいないなら自分たちで作る」と言う熱意で作ることになったそうです。「あきらめるのではなく「無いなら作る」と言う気持ちが新たな技術や魅力的な作品を生み出し続ける秘訣なのでは無いかと感じ私も自然と襟を正されるような気持ちになりました。
取材チームの中には体験をさせていただいたメンバーも!
工房で働くみなさんはとても気さくでこの他にも色々な説明をしてくださいました。
街を挙げたまさにチームワークの職人技
最後にご案内していただいたのは組んだ紐を製品化する工房です。
こちらでは数名のスタッフの方々が手作業で一つ一つ製品を作られていました。
最初は紐だったものが次々と様々な形に変わっていく様子を見ていると、自分が知り得なかった組紐の可能性を感じました。あまりに軽快な手捌きに、一見簡単そうに見えてしまいましたが見れば見るほど早いながらも正確で繊細な仕事だと言うことが分かります。
実は会社のスタッフの方以外にも近隣の方々の20〜30名程度のみなさんが内職によって製品化を支えているのだそう。まさに街を挙げたチームワークによって工芸品は成り立っているのだと知り驚きました。一見普通におもえる方が実はみんな職人だった、、!というのはあまりにかっこ良すぎませんか?
机上には様々な道具がありましたが、こちらには主婦のスタッフの方が多いそうで、かまぼこの板やラップの芯などを使った工夫を凝らした手作りの道具が見られました。まさかかまぼこの板も伝統工芸の一部を担っているとは、、暮らしの知恵を持つ主婦ならではの発想がとても面白かったです。
さて、机の上を見ているとふと可愛い視線を感じました。
こちらはスタッフの方が組紐を使って趣味で作られた物です。何とも愛らしくて思わずもらって帰りたくなってしまいました(笑)いつか製品化される日が来たら絶対に買いたいと思います。
このように遊び心のあるデスクを見るとスタッフの方の組紐への愛が感じられ、ますます私も組紐を好きになりました。
伝統工芸は身近な街の作品、だからこそ感じられる暖かさ
今回昇苑くみひもさんを取材させていただき感じたのは、伝統工芸は私たちのいる世界から隔たりのある特別な物ではなく「地域や生活に根付いた」身近なものであると言うことです。
伝統工芸をよく知らない頃は「何だか大仰で特別」「高価そうで手が出ない」「職人って怖そう(これは偏見!)」と言うイメージがありましたが、そのようなことはなく、特に今回の昇苑くみひもさんは地域の方々みなさんがチームで職人になっていました。
誰か1人の特別な人が作る工芸品も勿論素敵ですが、たくさんの人やその土地全体の思いの詰まった作品には柔らかな暖かさを感じることができました。
たくさんの貴重なお話や体験、ありがとうございました!
テキスト:四條 桐貴子、写真:市岡祐次郎、本田コウイチ
有限会社昇苑くみひも
住所:京都府宇治市宇治妙楽146番地 電話:0774-23-5510
宇治本店
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