リーンと伸びる一音にこだわり、続いていくおりんの魅力 「南條工房」

今回のしゃかいか!は、京都府宇治市からお送りいたします。

春の日差しも眩しいなか、暑くなって脱いだニットを抱えて向かうのは、宇治市の「南條工房」さんです。

今回の記事を担当するのは、KYOTO KOUGEI WEEK(以下KKW)でインターンをしている松田です!

私は現在京都の大学に通っている三回生です。大学では、主にプロダクトデザインについて学んでいます!学部上、製品がどんなふうな意図で作られたのか、誰に向けたものなのかなどを念頭において制作するため、今回はそのようなものづくりを深掘りした話が聞けると思い、楽しみにしてきました。

KKWのメインイベントの一つであるDIALOGEでは、インスタライブなどのスタッフをしていました。(よかったらKKWの公式Instagramものぞいてみてくださいね!)

今日はその縁もあって、KKWの運営&インターンメンバーで、出展者である「南條工房」さんと「昇苑くみひも」さんの工房にお邪魔しました!

(「昇苑くみひも」さんの記事はこちらです!)

近鉄向島駅からタクシーで数分、南條工房へ到着しました。

周りは工場に囲まれていて、宇治というと抹茶のイメージが強かったので、少し驚きです。

今回の最初の目的地である、「有限会社南條工房」さんです。

創業190年あまり。焼型鋳造法による「おりん」や祇園祭や各地の「囃子鉦(はやしがね)」など、鳴物神仏具を専門に製造している工房です。

「京の名工」六代目 南條勘三郎さんのもと、型作りから完成まで一貫して手作りで製造しています。

代々、独自で研究した配合の「佐波理(さはり)」という材料を使用しているとのことです。

ここまで書いていて、難しい言葉ばかり…

実際に現場をみせてもらいながら、工程をお伺いしました。

本日は、「京もの認定工芸士」の南條和哉さんにお話をお聞きします。

それではいよいよ、製造工程を見せていただきます!

焼型鋳造法は、土と粘土を捏ねて鋳型を作り、それを薪で素焼きにして鋳込みます。

弥生時代に作られていた銅鐸などと同じ技法です。

実際の現場では、いくつかの工程を並行して行っているのですが、

大きく分けて、

① おりんを成形するための型づくり

②原料「佐波理(さはり)」づくり

③ 佐波理(さはり)を型へ流し込む「鋳造」

④ 仕上げ加工

の工程があります。

順を追って、ご説明していきます。

長年、研究を重ねたと型作りと「佐波理(さはり)」づくり

丁寧に教えてくださる南條さん

まずは中子と呼ばれる、おりんの内側を形づくる型を作ります。

型は土と粘土でできており、気温や天気によってベストな配合が変わることから、毎日微妙に配合率を変え調合しているそうです。

写真のように、ここで作った外型と中型を合わせて、開いた空間に佐波理を流し込みます。

この中型はおりん一つにつき一つ使用します。また同じものは二度使えないため消費量も多く、月のおおよそはこの型作りに時間を費やします。

こちらはサイズ表です。

表記が見たことのないものばかり、どれがどのサイズを指しているのか見当もつきません…!

まわしという、コーティングの工程で大きさを決めます。

写真のように板をくるくる回して行うので、丸い形しか作れません。

作業場です。

ここで作った外型と中型を合わせて、乾燥させます。

機械等で乾燥させると、ムラができてしまうので、自然乾燥です。

次にこの型を窯で焼きます。

窯のある工房に入ってすぐに感じる熱気。窯から数メートル離れた場所にいても、顔の周りがほてってきました。

窯で焼いた型を、列に並べて床に置いていきます。この順番は、型が冷めてきた順番なんだそうです。内部の温度の加減を、色で見分けています。素人目には全く見分けがつきません!

並べた型が50〜60度程度になると、佐波理を流し込みます。

細かい温度は温度計を使って測ります。以前は職人が手をかざして確認していたのだとか。

型の冷まし具合と佐波理の温度がうまく噛み合うことで、おりんのリーンと伸びる音が仕上がるのです。

そしてど迫力の鋳造工程へ

窯で鋳型を焼く作業と並行して、別の炉では佐波理(さはり)の準備しています。

炎の色はオレンジと青の混じった緑色。金属を溶かしているときは、炎色反応が起こってこんな色になったりします。ほの暗い工房内に炎がなんとも神秘的です。

佐波理(さはり)の原材料、銅と錫です。

「佐波理(さはり)」とは、銅に錫を多量に含ませた青銅の一種です。含ませる錫の量が多ければ多いほど、硬く脆くなるので、加工が難しくなります。硬いので振動しやすく、音の余韻が長くなり、よく響きます。

銅と錫の配合には決まった数字はなく、一般的には、15〜20%程度と言われてます。

南條工房では、錫30%程度の配合になっています。

この配合は、割れた面の組織を顕微鏡で見ながら、少しずつ配合率を変えて研究を重ねた結果。

焼型鋳造法を用いることで、錫の配合量を限界近くまで高めた佐波理の成型を可能にしています。

不純物の無い綺麗な佐波理を作るために、混ぜる作業が必要なのだそう。

佐波理の温度が上がると土や砂、不純物が浮いてくるので、炎に近づきすくい取るのが重労働。

私は火山口を実際に見たことはないのですが、マグマとはこんなものなんだろうと思いました。

写真やイメージでは、グツグツしているような気がしますが、実際はとてもサラサラ!

金属というのを忘れてしまいそうなほどです。

型に限界まで入れたれた金属が、白くなってくると冷めた証拠。

上の流し込み部分をハンマーで叩いて外します。

職人の寺島 嘉宏さんにたくさんお話を聞かせてもらいました。笑顔がとっても素敵です!

工房内には「佐波理を溶かす1000度を超える炉」と、「型を焼く400度以上の窯」の二つの窯があります。

型を冷ますのは、ムラができないように自然冷却。クーラーは鋳造する部屋にはなくて別の部屋にあります。

「冬は暖かくて良いけれど、夏は地獄」ときき、その場にいたみんなが、その暑さを想像して遠い目をしました。

工房から外へ、型を移動させておりんを取り出します。

とても熱いので、雨水をかけてから、叩いて型から外します。

ここで使う水は昔から雨水を使っていたり、割った鋳型のかけらを粉砕して再利用したり、無駄のない循環する仕組みになっているそうです。

雨水をかけた瞬間、視界を覆い尽くすほどの蒸気が…!

この型から出すタイミングも音色に影響を与えます。

表面が黒く艶が光っていると、良い音色が出る証です。

この段階で音を聴かせてもらった私たち。

脳に響くような爽やかな音色に、アンコールの声が止みません

工房を移動して、仕上げ加工の工程へ

ここで、焼きなましといって、おりんをもう一度熱します。

このままだと硬すぎて加工が出来ないので、熱処理をして、一度金属を柔らかくします。

旋盤におりんを固定し、滑らかな曲線を出します。

縦と横どちらにも動くようになっています。同時に縦横から力を加えることで、滑らかな曲線を生み出しつつ歪みを取っていきます。ぐっと力を入れるので、なかなかの力仕事です。

右がビフォー、左がアフターです。

次にろくろで表面を整えます。

波打っていた表面がどんどん平らになっていきます。

しゃかいか!南條工房

この時に出る佐波理のくずを手に取ると、すぐにボロボロになります。

金属がこんなにも脆くなってるのは初めて見ました。はらっても手のひらに残ったくずが、キラキラと反射して綺麗です。

この後、焼きもどしという工程でもう一度熱して、硬い状態にもどします。

この仕上げ段階で音色の検品をします。おりんを納める宗派によって、出す音の音階が決まっていることもあるので、ここで調律をすることもあります。おりんは、この段階まで音の良し悪しがわかりません。

調律用の区分表です。何年も使われているから、年季の入り方がすごいです。

音が決まっているおりんの場合は、チューナーを使って測りながら調律します。宗教によっては使われる音が決まっていることがあるので、決まった一音が鳴るように調律することが必要なのです。

その後、研磨剤で磨いて、蝋をコーティングして完成です。

ここまでの工程に約2ヶ月ほどかけます。

おりんの音の違いを聞き比べさせてもらいました

リーンとまっすぐに、鼓膜の奥の脳まで響くような音。

ずっと音が鳴っているように感じて、普通だったら音の揺れがありそうなのに、消えるまで乱れはありません。

音の揺れは不協和音が出やすいので、それを防ぐために一音が響くおりんを目指しています。

そしてこの時、南條さんが、不良品を手からするりと落としました。

ぱりんと音がして、ガラスのように割れました。「金属が割れる」という初めての体験!

検品工程で南條工房としての品質でないと判断されたおりんは、また溶かして再利用するのだそう。

製造工程ででてしまう不良品や削った時に出る金属片は、すべて溶かして素材に戻して再利用する。無駄がなく、地球に優しい作りをしています。

南條さんのルーティーン

南條工房では、昔から鋳造の日には暑い日のご褒美としてオロナミンCが1本支給されます。

南條さんは、鋳造の日の作業後にオロナミンCを飲むのがルーティーンなのだとか。

オロナミンCを飲む姿がなんとも様になっていてかっこいいです。

オロナミンC広報担当の方!ぜひ南條さんにCMの依頼を!

みなさんもどうぞ!とのことでしたので、私たちもまねしてゴクリ。

南條工房が追求する音へのこだわり

「作るうえで気を付けているのは、悪くなる要素を減らすこと。おりんは最後まで音がわからないものです。その作業工程を分業しているので、どこがダメだったのかがわからない。だからこそ、よくなる要素よりも、悪くなる要素を少しずつ減らしていくことが大事。」

南條工房は創業してから長い間、おりんを問屋さんに納めることで日々を過ごしてきました。

なによりも優先してきたのは職人としての技術の向上。しかし近年、住宅環境やライフスタイルが変化するなか、仏壇や祈りの形も変化してきたことで、仏具の技術やこだわりについて知ってもらう機会が減少していると感じてきました。

そんな現状を変えようと、数年前「京都職人工房」に参加。

商品開発をする上での南條工房の強みと弱みを深掘りすると、「音」であるということに気がつきました。「リーンと真っ直ぐに伸びる一音を追求する」という南條工房の本質。音を作っていくためにしている作り方、素材の配合。そこが自分たちにしかできないものだと気がついたとのことです。

LinNeの取り組み

そして京都職人工房への参加をきっかけに、音を追求するという工房としての本質的な価値を考えた結果、手軽に南條工房の音を楽しめる「LinNe」が誕生しました。

お世話になっている問屋や小売業者とはまったく違う販路を考え、新しい顧客を開拓。LinNeをきっかけにおりんや仏具のことを知ってもらう機会に繋がればと考えてます。

12月には体験を目的としたファクトリーショップをオープン予定!

また、12月を目標に工房の横に音色が体験できるお店を出される予定とのことです。

建設予定地の様子。後ろに工房が見えます。

「「宇治=平等院と抹茶」のイメージがすごく強い。ものづくりの現場はたくさんあるのに知られていないのがほとんどです。地域に貢献しつつ、自身が場にいながら人に伝えられるように、来てもらえるような仕組みを作っていきたいです。また、『おりんの音がそれぞれ違う』ということを知らない人やそもそも気にしたことのない人が多いです。だからこそ、色々な音色を聞き比べできる場を提供し、好みの音色を見つけてほしい。また工房の横に作ることで、工房ツアーなども行いたいと思います。」

実は南條さん、元料理人とのことです。

外の業界から入った人間だからこそ、「昔からある伝統をただただ守っていく」ではなく「続けていくために試行錯誤していく」というスタンスで脈々と受け継がれてきた仏具としてのおりんを絶やさないように、LinNeと並行し、続いていくようにしていきたいという、思いを伝えてくださりました。

伝統を知ってもらい、そして続けていく

今回工房を見学するまで、恥ずかしながら私はおりんの音の響きに違いがあることを知りませんでした。

きっとこれを読んでいる方も、音の違いがわからない、そもそもおりん自体を知らない、という方が多いのではないでしょうか。

「知らない人」に魅力を伝えるのは、難しいことです。私は自分の制作する時、設定するターゲットをその良さをもともと知っている限られた人にしています。

ただ、「知らない人」に対して魅力を伝えていく取り組みが、その本質をどんどん発展させているということがある、ということを知れた実りのある取材でした。

南條工房の伝統は、おりんの音とともにこれからも続いていきます。

南條さん、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!

有限会社南條工房

住所:京都府宇治市槙島町千足42-2

ホームページ:https://linne-orin.com/

Instagram:https://www.instagram.com/linne_orin/

Facebook:https://www.facebook.com/linne.orin/

テキスト:松田くるみ、写真:市岡祐次郎、本田コウイチ、KKW運営メンバー

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