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自転車を愉しむ文化を届けたい!創業94年の『VIGORE』が“究極の自転車“『70next 知足』を創り上げるまで
皆さん、こんにちは!
すしざんまい・・・と言いたくなるようなポーズで失礼いたします。
今回、しゃかいか!が取材させていただいたのは、1929年の創業以来、数々の素晴らしい自転車を生み出している京都の自転車ブランド「VIGORE(ビゴーレ)」さんです!
VIGOREさんの京都本店は、京都市営地下鉄「国際会館」から歩いてすぐのところにあります。
お店のウィンドウには、2022年で創業93年になることが記されていました。
ということは、今年で創業94年です!(※取材は昨年12月に行いました)
朗らかな笑顔で私たちを迎え入れてくださったのは、VIGOREの三代目、片岡聖登(かたおか まさと)さん。
自転車のフレームの設計から製造まで、自転車にまつわる全ての工程に関わる「フレームビルダー」として長年活躍されています。
ロードレースやトライアスロンなどの競技用自転車から、日常の移動を中心としたものまで、目的に合わせた様々な自転車を作られてきたそうです!
実は、自転車競技の選手として、ご自身もレースに参加していた経験もあるそうで…!
どのような人生を歩み、現在に至ったのか、その経緯も気になるところ。
今回は、そんな片岡さんの半生にも触れながら、VIGOREさんの歴史や自転車づくりへの思い、そして近年の取り組みついてもじっくりとお聞きしていきます!
機能的で美しい!VIGOREの自転車たち
お店に入ると、自転車がずらり!
こちらは「KYOTO Collection」というシリーズ。
京都の空気感を形にしたもので、京都の地に溶け込み、都市空間の一部を形成するようにと作られた自転車です。
京都生まれ、京都育ち、まさに生粋の京都人!の片岡さんですが、令和の今、近代化が進んだことで街並みや空気感が変わり、このままでは真の”京都らしさ”が失われてしまうのでは…と危惧するようになったんだとか。
では、これからも京都が京都であり続けるためにはどうしたら良いのか?
片岡さんは、建物だけではなくそこに住んでいる人が京都の空気をまとい、”京都してる”ことが大切であると答えます。
「僕らが京都の景観であるように」という思いを込め、こちらの「KYOTO Collection」を生み出しました。
確かに、歴史的建造物の多い京都の街中でも溶け込むシンプルで無駄のないデザイン…!でも、存在感はしっかりとあって、京都で乗ってる人を見かけたら「素敵だな…」と目で追ってしまうと思います。
「不要なものは削ぎ落とし、必要なものだけを磨き込む」という哲学のもと、VIGOREの自転車は創られているそうです。
もちろんデザインだけでなく、その乗り心地も抜群!
「KYOTO Collection」は、VIGOREの「クロモリレーサー」と呼ばれる、レース用として開発したクロモリ製のロードバイクをベースにして作られたコンセプトモデル。
こちらの自転車も日常の通勤・通学はもちろん、初めてのレースや長距離のツーリングまで難なくこなすことのできるマルチな一台なんです!
デザインと機能性を兼ね備えているなんて、話を聞けば聞くほど欲しくなってきました…。
しかも、VIGOREの自転車は全てオーダーメイド!
注文を受けてからオーナーの好みや想いに合わせてつくります。
お店にはサンプルも置いてあり、初心者でも感覚的に決めやすいのが嬉しいですよね。
そして、店内にある多くの自転車の中でも一際目立っていたのが、こちらの「70next 知足」という自転車。
黒一色に塗られたフレームに、金色で特徴的な模様と「VIGORE」のロゴがデザインされています。光に照らされると線の模様が煌めいて、ずっと眺めていたくなるような美しさ…!
聞くと、2022年に片岡さんと漆芸家・服部一齋(はっとり いっせい)さんがコラボして生まれたプロダクトなのだそう!
京都の伝統美が加わった特別な自転車。とーっても気になりますが、こちらについては後ほど詳しくお聞きするとして…!
まずは、VIGOREというブランドがどのように生まれたのか?その成り立ちや歴史についてお聞きしていきます!
目指したのは、単なる移動手段ではなく「愉しむために乗る」自転車
片岡さんは、VIGOREが生まれた経緯とその歴史について、順を追って丁寧にお話してくださいました。
始まりは1929年。片岡さんの祖父・四郎さんが京都で設立した「片岡自転車商会」がVIGOREの発端となりました。
片岡家はもともと鍛冶屋の家系だったので、その技術を活かして当時高級品であった自転車製造に参入することを決意したそうです。
その後、技術力や社交性に恵まれ、順調なスタートを切りますが、第二次世界大戦によりやむなく休業することに。
戦後、下鴨に店を移転して事業を再開し、二代目となる片岡さんの父・保さんも加わりました。
しかし、時代が変わり、その頃には人の移動手段が自転車からバイクや軽トラなどエンジン付きのものになっていたそうです。
自転車は安いものしか売れなくなっていき、自転車屋は薄利多売でいかに台数を売るかという方向に…。
エンジン付きの車両にシフトしたくないが、薄利多売も困る…という相反する思いの中、「一代目と二代目が今後の商売について毎晩議論していたことを覚えている。」と片岡さんは懐かしそうに語ってくださいました。
そしてある日、ヨーロッパではレジャーやバカンスに自転車を使って愉しむ文化があることを知ったそうです。
単なる移動手段ではなく、「愉しむために乗る」自転車。
そんなヨーロッパの文化に感銘を受けた一代目と二代目は、日本でもそのような文化を作りたいと考えました。
しかし、輸入車では日本人の体格に合わなかったり、地形が異なっていたりと本来の体験が損なわれてしまうことに気付きます。
「ヨーロッパ製のコピーを作っても仕方がない。日本のフィールドや日本人に合わせた自転車を自分たちで作ろう!」
そうした思いから、1963年に「VIGORE」が誕生したそうです!
その後、三代目として家督を引き継いだ片岡さんは、先代から培われてきた技術を紡ぎながら、VIGOREの自転車をさらに進化させていきます。
さらに新たな試みとして、トライアスロン用のロードバイクや、マウンテンバイクをはじめとする”競技レース用の自転車”の開発を始めました。
では、どのようなきっかけから新たなジャンルに舵を切ることになったのか?
ここからは、三代目・片岡聖登さんの半生に迫ります!
まさに開拓者?!常に新たなチャレンジをし続ける片岡さんの軌跡
新しいものが好きで、自転車製造においてもこれまで多くの挑戦をしてきたと言う片岡さん。
現状に至るまでの様々なエピソードをお聞きし、物腰柔らかな印象とはまた違った、エネルギッシュな行動力に驚きました。
まさに”開拓者”という言葉がしっくりと来るようなチャレンジ精神旺盛な方…!
片岡さんの人生の転機となったのは、28歳ごろ。「アメリカにマウンテンバイクらしきものがある」と聞きつけ、勢いでアメリカへ渡ったそうです。
当時はまだ日本のメーカーがアメリカ市場に目を向けていない時代だったため、父親にも「なんでアメリカに行くんや!?」と驚かれたんだそう。
片岡さんは、現地でアメリカの自転車文化に触れ、「これだ!」と思ったと言います。
というのも、当時、自転車競技は耐久レースが中心だった日本に対し、アメリカで流行っていたものは、山に造られた急斜面のコースを高速で下る「ダウンヒル」という競技。
自転車の遊び方を知っているアメリカ文化に感銘を受け、「日本でもダウンヒルで遊びたい!もっといいバイクを作りたい!」という思いから、マウンテンバイクなど競技用の自転車製造に力を入れていくようになりました。
1988年にはアメリカのロングビーチで開催された展示会へ、製作した自転車を出展。
初めての出展となりましたが、現地の人々が協力的で助かったとおっしゃっていました。
その後、片岡さんは本気で楽しめるマウンテンバイクを目指し、様々な設計と素材を試していきます。
また、マウンテンバイクだけでなく、並行してトライアスロン用のフレームの開発も始めました。
乗り心地を追求するために、片岡さんがこだわったのは「自ら試すこと」。
なんと、そのためにご自身が選手として自転車競技に出場していたんだそう!
日本だけでなく、アメリカのレースにも参加。その身体感覚をフレームに取り入れるということを繰り返し行い、自転車の精度を高めていったそうです。
「疑問を感じたらまずは自分で乗ってみる」「わからなかったら現場へ行く」というのは、片岡さんが現在もずっと貫いているポリシー。
2014年に誕生した、「山と旅の自転車」の開発にあたっても、実際に山の中で乗り心地と性能を何度もテストし、細かな調整を行っていくことで完成に至ったそうです。
2019年に販売された「山と旅の自転車プラス」の前身となったこちらの自転車は、VIGOREが長年培ってきた技術を基に、マウンテンバイクとロードバイクの良いところを組み合わせた新しいジャンルのオリジナルツーリングバイク。
「もっと街中で気軽に乗れる自転車にシフトしていこう」という思いから開発された自転車のひとつです。
というのも、これまで競技用の自転車に力を入れてきた片岡さんでしたが、市場が成熟しストイックに高性能を追い求めるようになった現状に疑問を感じ始めたんだそう。
2000年代に入ってからは、一代目や二代目が考えていたような「時間を楽しめる自転車をつくる」という原点に立ち返りました。
なるほど。そうして、競技用自転車から、京都の街を駆けゆく「KYOTO Collection」にも繋がってくるわけですね!
さて、ここまでのお話からも分かるように、片岡さんはこれまでもそして今後も、妥協を許さないこだわりを持って自転車を作り続けています。
きっと、その作業場にもこだわりが隠されているはず……!
ということで、京都本店に構えるフレーム工房も覗かせていただきました!
フレーム工房で発見!理想の自転車を作るための知恵と工夫
こちらがフレーム工房!京都本店の真ん中にドーンと設置されており、存在感も抜群!
元々は京都比叡山麓にフレーム工房を構えていましたが、2020年に10年ぶりにフレーム工房を京都本店の店舗内に移転したそうです。
というのも、台風に3回も見舞われて機械の半分が使い物にならなくなってしまったそうで…、写真に写っている立派な機械たちは元々使っていたものではなく、ここ数年で取り入れた新たな機械がほとんどなんだとか。
「自分で道具を製作したり、自分に合った最先端の道具を探すということがものづくりで一番大事なことだと思っているんです」と片岡さん。
その言葉通り、現在の工房には、友人から譲り受けた昔ながらの機材からご自身で取り入れた最新の電子制御で動くものまで、新旧問わず様々な機械があります。それらを組み合わせながらフレームを作っているんだそうです。
こちらは、部品に穴をあけたり削ったりと、様々な加工ができる万能機!
写真のスープ缶の隣にある治具で加工を補助しています。こちらの治具もご自身で考えてつくられたんだとか!
中古機械は探してもなかなか手に入らないので、ずっと欲しいと思っていたこちらの機械を友人から譲り受けることができたのは奇跡的だと嬉しそうに教えてくださいました。
しかし、中古品と言ってもすぐに使えるようになるわけではなく、メンテナンスが完了するまでに約1年かかったそうです。長い時間をかけて調整を重ね、今や大活躍の万能機です!
続きまして、こちらの2つはフレームを組み立てる時に使う機械。
上のものは昭和80年代に、下のものは1年ほど前に購入したもの。
はい、ご注目!こちらの手に持っているものは、フレームを溶接する道具。
アルゴンガスを出して空気を遮断して、アーク放電をさせて2000℃に温度を上げて溶接します。
よーく見てみてください!先の部分がガラスになっているのが分かりますか?
先端が透明のものを使うことで、溶接してからも設置面を見やすくなります。
片岡さん曰く、画期的で便利なのに、アメリカの道具のためか日本では意外と知らない方が多いそうです。
このような道具の情報も常に仕入れているのだとおっしゃっていました。さすがです!
また、設計には自転車専用のCADソフトを使っているため、細かく寸法の設定ができ、スムーズに溶接ができるそうです。
電子制御によって幅を均等にすることができるので、誰でも平均値をとることができるのだと教えてくださいました。
この機械は、旋盤といって丸いものを削っていく機械です。この旋盤と始めに紹介した万能機で大体のものが作れるそうですよ!
現在工房におけるフレーム製造は、ほぼ片岡さんお一人で対応されているそうですが、今後は工程を分解し、単純な作業に落とし込むことで、分業化にも取り組んでいきたいのだということも教えてくださいました。
属人的な職人技ではなく、誰でも作りやすい状態にすることで、VIGOREの自転車を次世代に繋げていきたいという強い思いがあるからです。
また、ものづくりにおいて”ハンドメイドである”ということが必ずしも正解ではなく、工業的に生産した方が質を保ちながら効率的に製造できる場合もあるんだとか。
そのため、新しい自転車を考える際には、構想と製造の工程は別で考えているそうです。まず思い通りのプロトタイプを作り、それを実現させるのはハンドメイドなのか工場なのか、より理想に近づけられる効率的な手段を採用しています。
フレームビルダーとしてものを仕立てること自体が目的ではなく、次世代に向けて何を作るのか、そのコンセプトを考え形にしていくことの方が難しく、三代目である自分の役割であると考えているからです。
「とりあえず潰れんと、この船が目的地にたどり着けば良い。次の世代は時間を楽しめるような自転車の文化になったらええなと思ってるんです。今はだいぶ近づいてきたけど、まだ過程ですわ。」
片岡さんは普段から「この時代はこうやって遊んでほしい」「次の時代はこうなるべきやろ」ということを考えながら、自転車製造を行っているんだそう。
少年のような表情を浮かべながらそう語る片岡さんの姿を見て、「ああ、ものづくりが好きな方なんだな」と改めて感じました。
片岡さんはさらに続けます。
「VIGOREが続いているのは自分の美意識でものを作っていたから。それをさらに次の時代にフォーカスして伝えていきたい。その思いが、”知足”に繋がったんです。」
ここで京の伝統美を加えた特別な自転車「70next 知足」の登場です!冒頭でもちらっとご紹介しましたね。
それでは満を持して、ご紹介していきましょう!
90年以上の歴史を持つVIGORE、その技術や理念を継ぐ三代目・片岡聖登さんの想いが込められた、”究極の自転車”とは?
2022年に誕生!フラッグシップモデル「70next 知足」に込められた想い
こちらが「70next 知足」。何度見ても美しい…。
1970年代のクラシカルモデルを復刻し最新技術を搭載した「70next」に、漆芸家の服部一齋さんが手掛ける伝統美を加えた、まさに究極の自転車!
ちなみに、ベースとなった「70next」とはこちらの自転車。
創業100年を前に、先代から受け継がれた想いを見つめなおし、これからのモノのあり方を考えるための自転車をつくりたいという想いから誕生したそうです。
そんな「70next」にさらにメッセージ性を込めるため、京都の伝統的な感性と融合して生まれたのが「70next 知足」というわけです!
ちなみに、「知足(ちそく)」という名前は、『人々の“足“の一部となる自転車という道具を、もっと深く”知“り愉んでいただきたい』という想いも込め、禅の言葉「吾唯知足」から名付けられたそうです。
調べてみると、「吾唯知足」という言葉には「満足する気持ちをもって、欲張らず、今の自分を大切にしなさい」という意味が込められているようです。ふむふむ。
さて、こちらの「70next 知足」、気になるお値段はなんと100万円以上。
なんて贅沢でプレミアムな自転車…!堂々たる佇まいで、美しい!心なしか後光が差しているような気がしてきました。
片岡さんはこちらの自転車を「ポルシェ」のようなものだと例えます。
「人間ってアナログが好きだし、テクノロジーだけでは疲れてしまうでしょう。もっとゆったりした暮らし方をしたい人はたくさんいる。例えば、ポルシェのように、たまに乗ってリフレッシュし、インテリアとしてもずっと見ていたいと思えるもの。そんなものを創りたいと思ったんです」
なるほど。確かに高級な自動車はよく聞きますが、”ラグジュアリーな自転車”というのはあまり聞いたことがないような…。「新しいジャンルを切り開くのが好き」とおっしゃっていた片岡さんらしいプロダクトとも言えます。
では、どのような経緯から「70next」が創られ、さらにそこに漆芸を施した「70next 知足」が誕生したのでしょうか?
究極の自転車「70next 知足」が誕生するまで
片岡さんは、「70next 知足」のベースとなっている「70next」が生まれた背景からお話してくださいました。
まず「70next」で目指したのは、”30年経っても手放したくない、飽きのこない自転車”。
「コンセプトは決まったけど、それって一体どんな自転車?」と考えを巡らせ、「これまでのVIGOREの考えを最大限に表現できる自転車はなんだろう」と自分に問いかけたそうです。
そうして出た答えが、”1970年代に先代が作っていたラグ溶接フレームの自転車”でした。
「不要なものは削ぎ落とし、必要なものだけを磨き込む」というVIGOREのデザイン設計の原点を最も再現していたのではないかと。
しかし、ただ復刻するだけの”レトロ”に走るのは避けたいという気持ちが強かったんだそう。
「スタイルだけではものは売れない」という実体験と、「ものづくりをする者はクリエイティブで未来を作っていくべき」という信念があるからです。
1970年代の自転車を再現しながらも、現代にもう一度フォーカスし直して、未来につなげることができないかと考え始めました。
昔の良いところを復刻させ、現代の技術によってさらに性能をあげる…。
「その融合ができたら最高傑作ができるのではないか?」と。
そうして完成した「70next」には、片岡さんが誇りに思う、先代がこだわっていた部分を復刻させています。
例えば、こちらのヘッドバッジにあるエンブレム。
二代目がデザインしたものを現代の形で再現しました。
(「70next 知足」では金箔仕上げ。なんともゴージャス!)
次に、シートステイキャップのVIGOREの刻印。
こちらの刻印、よく見ると微妙に文字のサイズが違っているのが分かりますか?
「V」が小さくて、「G」が大きいですよね!
実は、バランスを考え、各文字の大きさを調整しているんです!
先代の細かなデザインへのこだわりはぜひ再現したいと思ったとのことでした。実際に復刻させてみて「これを1970年代にやっていた父親の美意識がすごい!」と、先代の偉大さを改めて感じたんだそう。
ちなみに、当時使っていた材料は廃盤になっていたのですが、「ないなら自分で作ったらええやん!」と、ご自身で旋盤を使いデザインしたんだとか!
ん?旋盤……?あぁ!工房でご紹介いただいた、丸いものを削っていく機械ですね!
大抵のものは作れるとおっしゃっていたことを思い出しました。こんなに細かいものまで再現できるなんて、す、すごい…。
もちろんデザインだけではありません。
体験として目指したのは「スポーツカーのような乗り心地を五感で感じること」。
最新の乗り味にするため、高い走行性を実現するフレームをひとつひとつ片岡さんが手作業で製造しているそうです。
また、ラグ溶接時の熱によって軟化してしまうという従来の課題に対して、「70next」では新たな素材「KAISEI8630R」をフレームに導入しました。
肉薄で軽量な素材である「KAISEI8630R」には、クロモリにニッケルが配合されているため、溶接時の熱で結合部に剛性が生まれ、クロモリのしなやかなバネ感と合わさり、乗り手の力を前に進む力に変換してくれるんだそう。
つまりですね、伝統的な技術やデザインを応用しながらも、最高の乗り味を体感できるという、まさに最上級の自転車なんです!!!
こうした多くのこだわりが詰め込まれた「70next」ですが、こうやって説明をしていただかないと、なかなか背景や想いまでは伝わらないですよね。聞けば聞くほどこんなに心が動かされる自転車なのに、もどかしい…。
「説明をしなくてもコンセプトや想いが伝わるよう、何か表現を加えられないか?」と考えるようになった片岡さんは、コラボレーションしてくれる作家さんを探し始めます。
しかし、様々な工房や作家さんを巡りますが、自分のイメージにマッチする表現方法になかなか出会えず……。
そんなある日、ふと漆芸家の服部さんのことを思い出しました。
実は、服部さんは元々VIGOREの自転車を愛用するお客さんで、片岡さんと15年以上の付き合いがありました。元々は漆芸家であるということを知らずに知り合い、後に作品を見てその素晴らしさに驚いたんだとか!
そして、なんと偶然!3年ぶりに服部さんと再会する機会が訪れたそうです!
「ちょうど服部さんに電話しようと思ってたんやー!」と、その場でデザインを依頼し、手掛けてもらえることになりました。(そんな偶然のタイミング、運命としか思えません…!)
服部さんへの依頼は非常にシンプルなものでした。
「知足」のコンセプトやストーリーを簡単に伝えた上で、このように伝えました。
「VIGOREが一番大事にしていた1970年代の作品を取り入れて、あとは気配を消したいんや。その想いを漆芸で表現してほしい。」
しかも、わずか15分で伝えたそうです。かなりざっくりとした依頼に思えますが…服部さんは「わかりました!」と即返事をし、製作に取り掛かったそうです。
そして服部さんが出したのが、こちらのデザイン。
金蒔絵やアワビ貝を使用した螺鈿の特徴を生かし、フレームが持つ直線と曲線の美しさを表現しています。何度見てもうっとりしてしまう…。
実は、先ほどご紹介したこだわりの部分、復刻したVIGOREのロゴやエンブレムへ、視点が向かうデザインになっています。
服部さんの表現は片岡さんにとってパーフェクト以上!!!
不要なものは削ぎ落とし、必要なものだけを磨き込むVIGOREの美学を見事に再現してくださったと嬉しそうにおっしゃっていました。
VIGOREさんのサイトでは、知足についてより詳しくご紹介されています!
お二人の想いも聞ける素敵な動画もあるのでぜひこちらもどうぞ。
さて、ここまでVIGOREの自転車のデザインやコンセプトをメインに語ってきましたが、肝心な乗り心地はどうなのか?やっぱり気になりますよね。
取材の終わりに、実際に乗らせていただきました!
まるで空を漕ぐ感覚!これまで経験したことがない乗り心地
お話の中でも登場した「山と旅の自転車プラス」に実際に乗ってみると、そのスムーズな乗り心地にビックリ!
力を入れなくてもスイスイと前に進んでいく…!もし雲の上で空を漕ぐ自転車があれば、こんな感覚なんじゃないでしょうか。
普段使っている自転車とは比べものにならないほどの快適さに、これはもう、別の乗り物なんじゃないかと思うほど。こんな自転車、はじめて…!取材班みんな感動していました!
今回の取材で、VIGOREさんの自転車についてたくさんお話を聞き、十分理解したつもりだったのですが、百聞は一見に如かずと言いますか、乗ってみて改めてその価値と素晴らしさを実感しました!
わーわーとはしゃぐ私たちを見て、「自転車に込められている想いを伝えたいときは、乗る体験も伴った方が伝わりやすいんです」と片岡さんも笑っていました。
そんな思いから、VIGOREさんでは、一般の方向けに乗り比べ試乗会も定期的に開催しています。
お店で自転車の試乗をお願いすることはなかなかハードルが高いと思うので、誰でも気軽に試乗できる機会があるというのはありがたいですよね!
記事を読んで、気になった方はぜひVIGOREさんの試乗会にも行ってみてください!
さて、伝えたいことがありすぎて思いのほか長い記事になってしまいました!皆さんもすっかりVIGOREさんのファンになってしまったのでは?
今回、VIGOREさんを取材させていただき、なんと約3時間半もの時間を使って本当にたくさんのお話をお伺いしました。
記事内でご紹介した以外にも様々なエピソードをお聞きし、どれも非常に面白かったのですが収まらず…残念!
振り返ると、どのエピソードにも共通して感じられたことがありました。それは「乗ること自体を愉しんでもらう自転車を作る」というVIGOREさんの哲学と信念、そして「自転車の文化を次世代へ繋ぐ」という強い目的意識です。
一貫してぶれない軸を持ち、ものごとの本質を追求するストイックな情熱に、クリエイティブに関わるものとしても非常に刺激をいただきました。
最後に、片岡さんの娘さん・片岡有紀さんにも入っていただき、記念撮影。みんないい笑顔〜!
もうすぐ100周年を迎えるVIGOREさん。これからもどのような自転車が生まれていくのか楽しみです。
貴重なお話や体験を本当にありがとうございました!
VIGORE 京都本店
〒606-0033 京都府京都市左京区岩倉南四ノ坪町55
Web:https://vigore.co.jp/
Tel : 075-791-6158
営業時間:平日 13:00~18:30 / 土日祝 11:00~18:30
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協力:京都市伝統産業未来構築事業 https://kmtc.jp/sfc/
(text:前田恵莉/平山雄貴 photo:市岡祐次郎)
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