京表具が生んだ新たなランプシェード。”折灯華”を世界に届けるイノベーティブ・クラフト・ワークス

突然ですが、こんなランプシェードを見たことがありますか?

実は、折りのみで構成する骨格の無いランプシェードなんです!
和紙加工紙を折り紙のように折って仕立てた作品たち。京表具の技術に、最先端の折り紙設計のデジタル技術を掛け合わせて作られています。

京都で千年以上にわたり受け継がれてた「京からかみ」の技法で模様を刷ったものから、

京都の黒谷和紙をはじめとした和紙を張り付けたもの、

布を張り付けたシックかつ華やかなものまで!

美しくやわらかい光を放つ、これらのランプシェード。その名を「折灯華(せっとうか)」と言います。

今回はそんな折灯華を製作されている工房にお邪魔しました!

今回記事を担当させていただくのは、しゃかいか!インターン生のかずなです。
わたしは京都の大学に通う3回生で、奈良で英語の観光ガイドボランティア活動も行っています。

約1年前、みやこめっせの展示で初めて折灯華を知り、その新しさや綺麗さに驚き気になっていました。ずっと憧れていた折灯華。職人さんたちにお話を伺えるとあって、ワクワクドキドキのなか取材に向かいました!

お話を伺ったのは折灯華を作られている表具の職人集団 イノベーティブクラフトワークス合同会社(以下ICW)の木南拓也さん(写真中央・ICW代表)、田中善茂さん(写真右・主に事務担当)、宮岸篤史さん(写真左・製作担当)。なんとみなさん勢ぞろいで私たちを迎えてくださいました。

表具とは、襖や障子、屏風、衝立(ついたて)、掛け軸などに、紙や布を張って仕立てることです。

京都の表具の特徴は、長い歴史の中で成熟してきた上品な趣。そんな京表具も、生活スタイルの変化に伴って仕事が減ってきてしまっているのが現状です。

そこで折灯華を手掛けるICWのみなさんは、京表具の技術を活かしつつ、現代のライフスタイルに合わせた、今までにないモダンなデザインのランプシェード「折灯華」で新たな需要の開拓を進めています!

折灯華はドイツ、フランスでの展示会など、海外進出も始められているのだとか!

表具の技術が折灯華にどう活かされているのでしょうか?海外での反応はどうなのでしょうか?折灯華やICWの誕生のお話、海外進出のお話、作業の様子などなど、見ただけではわからない折灯華のストーリーにたっぷり迫ります!

表具業界を盛り上げよう!「折灯華」誕生のお話

折灯華が最初に発表されたのは2016年。
長年京表具を支えてきた表具店のひとつ、「安達表具店」の3代目である木南さんが中心となって進められました。

「業界がね、元気がないというなかで、現代のライフスタイルに合うような新しいものを作っていきたいとずっと考えておりまして」と木南さん。

表具業界の仕事は得意先や絵師から声がかかる受け身の体制が多く、現代のライフスタイルから和室が姿を消していることで、依頼が減少しているという厳しい局面にあります。そういった課題から表具の協同組合では、技術を活かした新商品開発に取り組まれており、木南さんもその一員。

折灯華誕生のきっかけとなったのは、開発の中で知り合った、伝統工芸品のプロダクトデザインも手掛けているデザイナーの平瀬尋士さんとの会話。

「表具の技術と折り紙を掛け合わしてランプシェードを作ったらどうやろう」と会話の中でアイデアが出たのです。

「それ面白そうやな」と思ったものの、組合の新商品開発部門ではその年度に開発するものが決まっていたため、すぐに商品化には至らなかったそう。

転機となったのは東京の伝統的工芸品産業振興協会が開催したコンペ。入選すれば、開発資金が出るというのです!「開発費が出るいうことやから」と、コンペの存在に後押しされプレゼンに参加することに。

新たな取り組みを始めるときは腰が重くなってしまいそうですが、「やってみよう」と始められた決断力は凄いなと脱帽しました!

審査員からの評価は高く、大絶賛!もちろんコンペにも通り、商品化できることになりました!

折灯華が完成!折灯華と表具業界のこれまでとこれから

そしてついに2017年に折灯華の原型が完成。当初から新聞に取り上げられたり、問い合わせがあったりと大評判。

この評判の良さを受け、「折灯華誕生のきっかけはやっぱり組合だったので、組合の方に開発を戻したら、組合が活性化するんちゃうか」と、木南さん個人としてではなく、組合で折灯華の製作をすることに。

これを聞いて私はびっくり!個人で作れば独占できるのに、木南さんは目先の欲ではなく表具業界全体のことを考えていらっしゃるのだなぁと感動しました。

そして、それからわずか数か月後、ホテルから注文が!
たくさんの注文が入ったため、組合の職人さんたちと協力して製作。若手や手の空いている職人さんの新たな良い仕事になったそうです。

その後も折灯華がどんどん進化していく中、スピード感や柔軟さを求めて一旦組合から独立することに。
2022年、3人でICWとして法人化されました。それ以降、さまざまな素材や技術とのコラボ、海外への挑戦など、さらなる進化を続けられています!

「現在は種まきの段階。軌道に乗って、もっと需要が増えたら、また(組合の方々を)巻き込んでいけたらいい」と宮岸さん。表具業界の未来を常に考えられているのですね!

使う素材によって様々な表情を見せる折灯華、背後にあるストーリーとは?

ここで、実際に折灯華をいくつか見せていただきました!

まずは光る前と後の比較。全然違いますよね!
縞模様によりやわらかく光る姿、折り目の紙の重なりにとっても惹きこまれます。

フレームがなく1枚の紙から作られているのは、折灯華の特長のひとつ。華やかで美しい折り目の表現を可能にしています!それを実現するには強度が必要。50〜60種類もの素材を試されたそうです。

「初めはもう和紙しか頭になかった」とのことですが、ランプシェードに必要な強度を和紙に持たせようとすると分厚くなってしまい光を通さない。そこで和紙の間に樹脂を挟んだ今の素材にたどり着きました。

照明器具は1年の耐久性があれば合格と言われますが、折灯華は誕生から8年、全く破れたことが無いそうです!

こちらは京からかみとコラボした製品。
版木に唐紙を当てて刷る「京からかみ」の技で、折灯華の素材となる和紙加工紙に模様を付けています。

明かりをつけると模様が浮かび上がって綺麗ですよね!

これらは、和紙加工紙に和紙や和手ぬぐいを貼り付けて折ったもの。
ノリで紙などを貼り重ねる、表具の「裏打ち」という技術が用いられています。

工作などでノリを紙全面に塗って貼り付けようとしたら、空気が入ったりふやけてボコボコになってしまったりと難しかった記憶が……ぴしっと狂いなく貼り重ねられているのは匠の技ですね!「こればっかりは機械ではなかなかできない」のだそうです。

玉ねぎのような形のこちら、中に紙が貼られているのですがなんだと思いますか?

実はこれ、襖の中に貼り込まれていた昔の和紙!お寺の記録や、借用書などが多く、襖の中に歴史的な紙があることはほとんどありませんが、たまーに徳川家康の恋文といったものも出てくるそう!

このランプシェードが家にあったら、お友達が来るたびに「これ昔の借用書やねん」などと私だったら自慢してしまいます!

今でこそSDGsと言いますが、表具の世界では昔からリユースが当たり前。古く小さく残った材料なども、常に工房に置いておいて、何かのタイミングで使うそうです。表具の修理の際、元の古い部分に馴染ませるために、あえて古い材料を使うこともあるそうですよ!この精神から、折灯華でも古い和紙、着物の帯の端材、台風で倒れてしまった京都の北山杉などが有効活用されています!

これらの他にもレースを貼ったり、薄い円柱型の折灯華を使って壁掛け時計にしたり。
お客さんの希望に合わせて柔軟に対応しているうちに、さまざまな種類の折灯華が誕生したのだそうです。

和紙を折って表具の技術で仕立てるという基本に沿ってさえいれば、「なんでもあり」なんだそう!これからも折灯華がどのように進化していくのか楽しみですね!

いざ、フランスへ!海外挑戦のお話

折灯華の代表的な取り組みのひとつが、海外進出。
私自身、外国人観光客のガイドをするなど、国際交流に関心があることから、興味津々で質問させていただきました!

今回は、2024年1月のフランス、パリでの挑戦について詳しく伺いました。

メゾン・エ・オブジェは、欧州最大級のインテリア・デザイン見本市。メゾン(家)に関連する、生活空間を彩るあらゆるアイテムが集結します。
今回のパリ行きでは、メゾン・エ・オブジェにて映像による折灯華の紹介を、そしてパリの中心地にある日本の工芸品アンテナショップ”maison wa(メゾンワ)”さんにてテスト販売をされたそうです。
どうして出展を決められたのか?反応や手ごたえはどうだったのか?詳しくお聞きします。

まずはきっかけから。

元々日本の展示会に積極的に出展していた折灯華。その際、お客さんたちから口をそろえて言われたのは、「海外の人、折灯華好きやろうな」ということ。

海外展開を検討していた中、京都市の補助金も後押しとなりパリへの挑戦を決断されました!

日本からは唯一照明器具として参戦した折灯華。
メゾンエオブジェには照明器具屋さんの出展が多く、パリでは50〜60社ほどもあったそうです。

東京ビッグサイトで出展した際には照明器具屋さんは1件か2件しかなかったそうなので、ヨーロッパでは照明が重視されていることがわかりますね!出展商品の中には、奇抜で洗練されたデザインの照明も数多くあった一方、折灯華のデザインは際立っており、来場者の反応からも手応えを感じられました。

アンテナショップ、メゾンワでも、1年目にも関わらず評判はとてもよかったそうです!
日本発のものが海外でも受け入れられるのは嬉しいことですね。

しかし最初からすべてが順調に、というわけにはいかず、こんなトラブルも。

日本から折灯華を梱包した2つの郵便物を送ったのちに、パリへと飛び立ったICWのみなさん。折灯華のテスト販売をしているメゾンワに着くと、さっそく折灯華を「買いたい」と言っているお客さんが。「あ、ちゃんと受け入れられるんや」と感じつつ周りを見ると、明らかに展示の商品が足りない。
お店の方に聞いてみたところ、荷物のうちの一方が届いていなかったんだそうです!

フランスの国際郵便ではよくあることなんだとか…。「そんな大事な時に!」と私も聞いていてびっくりしました。

そんなこんなもありつつ確かな手ごたえを感じられた1年目。もう2年目以降のことも考えられているそうですよ!

そもそも海外での展示会は、1、2年目で様子を知って、商売になるのは3年目からと言われているそう。今回得た学びを生かして、さらにフランス人の好みに合うようブラッシュアップし、2年目以降に臨みたいとおっしゃっていました!

どのような点をブラッシュアップされるのか、2年目以降フランスでの反応はどう変わるのか興味が湧きます!

フランスで知った、日本との違いとは?

では、フランス人の好みとはどのような感じなのでしょうか?

実際にフランスに行かれたり、フランス人デザイナーさんと話したりして学ばれた、フランス人が好む特徴を3つ教えていただきました!

①手作り感、素材そのままが好き

これはランプの土台部分ですが、この2つの内フランスでは右の木のものが好まれるそうです。

明らかに工業製品というものではなく、洗練されているけれど手作り感が残っているもの。塗装などもせず、素材そのものを使ったものがいいんだそうです。

日本では汚れを懸念してコーティングされたものを選びがち。でも、フランスでは木のテーブルも塗装なし。「ジュースをこぼしたらそのシミがつく。それが歴史。」なんだそう。

ものの汚れを家族の歴史と捉える考え方、聞いて驚きましたがそれも素敵だなと感じました!

②明治時代の紙が好き

フランスで特に人気だったのがこの古い和紙を貼った商品。ICWのみなさんも「なんで?」と驚かれたそうです。

特に、「明治時代の、古い文書を散りばめたもんや」と説明されると”Meiji!!”と大きな反応が。というのも、日本文化が書かれた教科書などから、明治には特別な思いが持たれているんだそうです。

私自身、ガイドをしていて”Edo period”を知っている観光客の方がいらして驚きましたが、”Meiji”も知られていると聞き、なんだか嬉しくなりました。

③間接照明文化

ヨーロッパでは、日本と違って間接照明が多く「ランプがすごく売れる。照明にこだわってるのに、ものすごく家が暗いらしい」と宮岸さん。おしゃれなバーなんか行ったらもう字が全然見えないほどなんだとか。

暗いとはいえ、置く数は多い。日本だと、照明器具は壊れたり引っ越しをしたりして必要になったときに買うというイメージですが、フランスではいいものを見つけたら買って、何個も置いておくのだそうです。光へのこだわりを感じますね!

折灯華の光は、日本で暮らす私からすると柔らかで落ち着いた光に感じたのですが、フランスに持って行ってみると、折灯華は明るい部類に入るようです!

お話を聞いて、明かり1つをとってもこんなにも文化の違いが表れるのだなと驚くとともに、折灯華はそんなフランスでどんどん人気になっていきそうだなと感じました!

展示会以外での海外との関わりは?

実は折灯華の開発当初から、海外への輸出を考えられていたそう。

構造に折り紙を取り入れたのもそのため。平らに畳んだ状態で輸送し、お客さんに組み立ててもらうという想定をされていました。

しかし実際に組み立て前の製品を送ってみたところ、海外のユーザーさんでは折って復元することができず、「残念ながら、もう組み立て終わった形で送らないとダメや」となりました。

何事もやってみないと分からないものなのですね!

しかし、「ゆくゆく現地に折灯華を折って組み立ててくれる存在ができたら海外で作ってもらう」という構想も!折灯華の海外製作拠点、面白そうです!どんな方が働かれるのか?たくさん見学者が訪れるのか??想像が膨らみます。

「折灯華を知ってもらった上で、我々の表具という技術を、知ってもらえたら1番やと思ってるんです。」と木南さん。

だから折灯華の紹介文にも「表具の技術を使って」と書かれたり、プロモーション映像の中にも表具の「裏打ち」という作業をされている田中さんの様子を入れられているのだそうです。

折灯華をきっかけに「表具ってなんだ?」と興味を持つ方が増えるといいですね!

また、海外から日本を訪れる観光客の方々へ向けた取り組みも!

今までも、平安神宮近くの京都市伝統産業ミュージアムで折灯華を見つけて求めに来られたアメリカ人の方、自分のお家にふすまを作りたくて訪ねてこられたドイツ人の方などがいらっしゃったそうです。

そこでいよいよ今年、工房の一部を改装して、ショールームとワークショップができる空間をオープンされます!

場所は二条城の近く。観光客の方でにぎわいそうですね!
既に着工済みだそうで、7月頃に完成なんだとか。楽しみです!

匠の技!折灯華の製作を拝見

最後に、折灯華はどのように作られているのか、実演していただきました!

新たなシリーズやオーダーメイドの形の折灯華を最初に作る際は、デザイナーの平瀬尋士さんが、折り紙プログラムORI-REVOを用いて図面を制作。それを実際にICWのみなさんが作ってみて、フィードバック。調整を重ねて完成系に行きつくのだそうです。

ここからは、「ぼんぼり」という形を折りあげる工程を見せていただきます!

最初に私が驚いたのは、こちらが一枚の四角い和紙加工紙から作られているということ!
私は折り紙をするのが好きなのですが、特に複数枚をつなげる物よりも一枚を折ることで完成する物の方が好きなので、なんだか嬉しかったです(笑)

写真の折灯華は直径10cmほど。この場合は1人で折ることができますが、折灯華のバリエーションには直径90cm大のものも。そうなると元の紙は幅4m20cm!3人がかりで製作されるそうです。

まずは折り目を入れていきます。こちらの工程には機械を使っていて、

ご覧いただけますでしょうか?うっすらと折り筋が入っています。

元々はペーパーナイフを使って手で折り筋を引いていたのだそうです。それだと力加減を失敗すると破れてしまったり、0.5ミリでもずれてしまうと全体の形がいびつになってしまったりと大変だったそう。

機械を使うことで職人さんの負担も減り、ホテルからなどの大量注文にも対応しやすくなるメリットも!

機械で正確に折り筋を入れられるとはいえ、和紙を貼り合わせた紙は場所によって厚みにばらつきがあり、何も考えずに折ると形がいびつになってしまいます。それを踏まえつつ綺麗な形に仕上げるのは職人さんの技です。

これらは折灯華の用いる道具たち。

へらやローラーを用いてで折り目をくっきりさせ、綺麗な仕上がりにする。「耳折り」という表具の作業工程で培われた技術が活かされているそうです!

折り目がずれてしまったら全体の歪みにつながってしまうので、細心の注意が必要です。

立体の折り目をつけて、

筒状にするため、端を合わせて接着し、

上下の部分を組んで、

完成です!

見ているうちに私も折ってみたくなってしまいました!(笑)
もし私と同じ気持ちの方がいらっしゃったら朗報です!ワークショップやキットで実際に折って作ることができます!過去のワークショップでは、夏休みの宿題にすると言っているお子さんもおられたそうです。

ここまで読んでくださって、実際に折灯華を自分の目で見てみたい!という方もいらっしゃるのでは?
現在折灯華は、京都市伝統産業ミュージアム、またはデザオ建設北野展示場で常設されています。オンラインショップで購入も可能です。

MOCAD ONLINE SHOP
Creema

他にもホテルや百貨店などに行ったときに見つけられるかも!?ぜひ探してみてください!

折灯華を作る職人さんたちにお会いさせていただき、じっくりお話を伺うことができてとっても幸せな時間でした。

個人的には、表具は基本材料を置いておいて再利用すること、フランスでは照明にこだわるけれど部屋が暗いこと、折灯華が1枚の紙から出来ていることが特に印象に残っています。今後オープンする折灯華のショールームにも行ってみたいです!

ICWのみなさん、今回は温かく迎えてくださり、たくさんの興味深いお話をありがとうございました!

ICW イノベーティブクラフトワークス合同会社(LLC)
〒604- 8403  京都府京都市中京区聚楽廻中町27-12 弘誠堂内1
Web:https://www.settoka.com/index.html

text:竹村和菜 photo:本田コウイチ(一部、ICWさんよりご提供)

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