つながりが生む型友禅の可能性!伝統技法を活かして新たなプロジェクトに挑む「岩井染工」

こんにちは!しゃかいか!インターン生のかずなです。

今回は2024年6月22日に開催された京もの担い手育成事業の工房見学にお邪魔して、「岩井染工」さんに取材をさせていただきました。

京もの担い手育成事業」は、京都市が主催するインターンシッププログラム。

京都の伝統産業の職人さんが抱える悩みを学生や社会人のインターンシップ生とともに現状分析、解決策の検討を行います。伝統産業を持続可能な産業として発展させることを目的とした事業です。

今年度は3名の職人さんとのプログラムが、2024年6月から2025年2月にかけて行われます。

私は伝統産業に興味があり、しゃかいか!のインターンシップに加えて、この京もの担い手育成事業にも去年から参加しています。

そのご縁もあって、今回は「しゃかいか!インターン生」兼「京もの担い手育成事業インターン生」として、初回の工房見学に参加させていただきました!

今回の見学先は、岩井染工さん。

京友禅の「型友禅」の染色技法を用いて着物などを染められている工房です。現在は四代目の岩井靖次さん、次期五代目の隆明さんが従事されています。

「岩井染工」五代目 岩井隆明さん

「友禅」とは、布地に染料を用いて模様を染める染色技法。

友禅には主に型友禅と手描き友禅があり、岩井染工さんがされている型友禅は、型紙を繰り返し用いて染め上げる技法です。

ちなみに、以前私が取材させていただいた池内友禅さんは、手描き友禅の工房。手描き友禅と型友禅の工房ではどんな違いがあるのでしょうか?楽しみに伺いました。

かっこいい暖簾をくぐって早速工房にお邪魔。まずは染めの作業を見学させていただきました!

いざ工房見学へ!どんな材料を使っているのか!?

小さめの部屋が見えてきました!こちらは「絵の具場」といい、染料と友禅糊(のり)を調合する専用の場所です。

実際の着物を染める場所と分かれているのは、染料の粉は舞ってしまうから。本番の生地に意図せぬ色がつかないよう、細心の注意が払われているのですね!

友禅糊は米糠と塩と水ともち米と天然の材料から作られており、これは昔から変わらないそう。これがないと友禅が始まらないという大事なもの。

岩井さんが用いるのは、「松伊 太田製糊工場」さんの友禅糊。京都で十二代にわたって友禅糊を作り続けている工場なのだそうです!京友禅の歴史の深さを感じますね。

型友禅では、この糊と染料を混ぜて染めていきます。

黒2色、赤2色、グリーン、イエロー、ブルーのみでほとんどすべての色を出すのだとか。

図工で使う絵の具よりも少ない色の数ですね、この7色から友禅で用いる美しい色の数々が生まれることを想像すると、無限の可能性を感じます!個人的には黒が2色あるというのも興味深いなぁと思いました。

この染色にも、岩井染工さんの特徴が!?

業者さんによっては「この赤を作るには〇〇の染料を〇g」などと、色データを残して作るのに対し、岩井染工さんではご自身の感覚で色を合わせる「手合わせ」という方法を用いています。

完全に同じ色は二度と生まれないという、唯一無二の色。なんだかワクワクしませんか?

手合わせをするからこそ、岩井染工さんには一度に染める数にロットの決まりがないそうですよ。

絵の具場に突如現れるキッチンのような空間、なんだと思いますか?

私は知らなかったのですが、友禅染に限らず服を染める際には蒸しの工程があり、蒸すことによって色が定着するのだそうです。
ということでこちらは蒸し器。生地に指で色を付けて、仕上がりの発色を見るのだそうです!

職人技が集結!型染ができるまで

続いては、型染めの工程を見学。奥にある工房へと進みます!

少し話が逸れますが、岩井染工さんの工房は写真の右側の建物。2つの建物が連なっているようにも見えますが、手前の茶色っぽい建物から白い建物まで全てが工房です。

工房まで向かう道では見落としてしまいそうになるほど入口は普通のお家のようなのですが、こんなに奥に続いているとは!まさにうなぎの寝床です。

その奥行きの最大の理由が、この作業場。

写真から感じていただけるでしょうか?

細長い部屋の上と下に、長い板が15本ほど!これらの板は「友禅板」といい、全長7mもあります。

型染めは、友禅板に生地を張る「地張り」から始まります。

どうやって単なる長い板のように見える友禅板に生地を張ってくっつけるのだろう?と疑問に思っていたのですが、友禅板に霧吹きで水を吹きかけると、その秘密が!

板がペタペタするようになりました!

実は友禅板には糊が敷かれていて、水で濡れると粘着力が出るのだそうです。

そのため、地張りでは友禅板全体を濡らして生地を張り付けます。

7mもある友禅板に生地をまっすぐ張ることは重要ですが難しく、最も気を使って行う作業のひとつなのだそうです。

染める以前にも難所があるとは!意外でした!

地張りをした後は型紙を置いて、糊をのせていきます。

この工程は、岩井隆明さんのお父さまの四代目、靖次さんが実際に紙を用いて実演しながら教えてくださいました!

まずは型紙を固定します。

型紙は板のように細長く巨大という訳はなく、A4のコピー用紙2枚分よりもひと回り大きいくらい。

この型紙を何度も繰り返し置き直して糊を乗せていきます。この作業を「送る」と言います。

実物を目を凝らして見ないと分かりませんが、型紙の端には「星」という小さな丸い穴があり、それを頼りにピッタリ合わせて型紙を送ります。生地を張るのと同じくらい気を使う作業だそうです!

決まった位置にしわも作らず型紙を置く、シンプルな作業ですが、もし私がやったら何度も置きなおすことになってしまうだろうなと想像します。

白い点が見えますでしょうか?このように、目立たないものの実際の染めた布にも星の跡が見つけられるそうですよ!これが手染めの証拠です。

友禅染の着物などを見かけたらぜひ探してみてください!

続いて、糊を描いていきます!

型の上に糊を置いて伸ばすことを、「糊を描く」と言うのだそうです。

端に糊を置いて、

伸ばしていきます!

サッサッという音が癖になり、ずっと見ていられそう。ASMRのようです。

ちなみに糊を取るときは右端から。作業場の構造も型紙も右利き用になっているのだそうです。

型紙をはがすシーン。インターン生の目も釘付けです!

硬さのある糊を薄く均一に伸ばすのは至難の業。初心者はなかなかうまくいかないそうです。

私もブラシ越しに糊を触らせていただいたのですが、思わず出た言葉が「ねちゃねちゃ」。思った以上に硬さがありました!

これは難しそうです。挑戦してみたくなりますね!

ところで、こちらは先程も用いた写真なのですが、左右の板の高さが違うことにお気づきでしょうか?

難易度高めの間違い探しのようですが、奥にある棚との隙間の違いから、右の板の方が高めなことを確認していただけるかもしれません。

これは、職人さんの背の高さに合わせているから。

とはいえ低そうに見えませんか?腰の高さよりも20センチほど低いです。実際にこの高さで作業をすると腰にくるそうです。

「『高い方が楽やないか?』って皆さん言われるんですけど、台が高いと型紙を送るときに向こう側の星が見えないんですよ。上から見ないとダメなんで」とのこと。

私は「着物の染め」というと芸術よりの繊細な作業というイメージでしたが、腰をかがめたり7mの板を頭上に持ち上げたりと肉体仕事でもあるのだと驚きました。

型友禅の命!型紙のお話

続いては質問タイム!インターン生や一緒に見学をしている漆の職人さんからの質問が止まりません!

まずは、型友禅の命とも言える型紙について詳しくうかがいました。

古くから型友禅に用いられているのは「伊勢型紙」と呼ばれるもの。
岐阜南部の美濃和紙を用いており、なんとすべて手彫り!

こんなに細かい柄まで、どのように彫っているのでしょうね?
さまざまな熟練の職人さんの技術が集結して着物が出来上がっているのだなと改めて感じます!

「紗(しゃ)」というメッシュで穴の部分が補強され、柿渋と漆で固まっています。

よくご覧いただくと、穴の開いた部分にも網戸のようなメッシュが見えると思います。
この型紙は、50反〜60反ほど(1反は約12 m)使えるそうです。1反あたり何十回も型紙を送ると考えると、相当な回数用いてますよね!

美濃和紙や補強の丈夫さ、型紙を丁寧に保管・使用されているのだなと感じます!

また、型紙なんてもちろん私は普段売られているのを見たことがありません。全てオーダーメイドかと思いきや主には伊勢の型紙屋さんが同時に7枚ほど彫ったものを購入する形式なのだそう。

ちなみに、岩井染工さんには型紙が作業場と別の部屋に合わせて一万枚以上!
いちばん古いものだと江戸末期のものもあるんだとか。工房の財産ですね。
細かすぎて染めるのも難しく、ほとんど使われた形跡がないということです。使われなかったからこそ良い状態で残っていると知り、型紙にもさまざまな運命があるのだなぁと感じます。

また、昔ながらの型紙を活用するなかで、今直面している問題もあるのだそう。
それは、「型紙の幅が足りない」問題!

古くからの型紙は女性の体のサイズ、特に腕の長さに合わせて作られており、約 41 cm ほど。振袖などの幅の太さです。
しかし、現代では女性の身長に合わせて着物のサイズが大きくなったり、男性用の着物の依頼が増えたりしているため、昔からの型紙が使えないことも。
そのようなときは型紙4つ分くらいを繋げて、幅を広げるそうです。

こちらは広げた後の型。

だいぶ大きくなっていますよね!現代の技術がうまく用いられて時代による変化に対応されているのだろうと感じます。

また、型紙だけでなく染めも機械化できますが、手作業ならではのムラが失われてしまうという面も。
機械で掘り替えると均一に綺麗なものが安くできるかもしれませんが、面白味がなくなってしまうのだそうです。
何事もトレードオフなのだな、と感じるとともに、手仕事ならではの良さを感じました!

友禅染に用いる「糊」とは?

見学中、インターン生から「型紙を用いて描くのは、糊なの?染料なの?」「型紙の穴の開いていない部分はどうなるの?」という質問も出ました。

前者について、この作業場で型紙を用いて布に乗せるのは糊で、マスキングの意味を持つ「防染糊(ぼうせんのり)」と、色を付ける「色糊」があります。

色糊を塗った後に防染糊でマスキングをします。全体を染める際に、この糊を付けた以外の部分が染まるということです。2度も全く同じ場所に糊を描くなんて、難しそうですね!

色糊について、染めるのなら液体でもよいのでは?と思ってしまいましたが、それは不可能。にじんで広がってしまい、細かい模様がきれいに仕上がりません。

では糊に混ぜる染料は何なのか?と言いますと、これは染めるための色です。糊に染料を混ぜることでマスキングの役割と、染める役割の2役をこなしてくれます。

だから糊に染料を混ぜるのですね!納得です!

糊に染料を混ぜるときと混ぜないとき、どちらの場合もあるそうです。
染料を乗せた後は、地色を染める「しごき染」、前述した「蒸し」、そして水洗いの作業を経て反物が完成します。蒸すのと洗うのは、手描き友禅も同じだそうです。

また、友禅染は分業制。岩井染工さんでは型を用いて糊を描くところまで行い、乾いたら「蒸し屋」さんに持っていきます。

ちなみに、「友禅流し」という言葉を聞いたことがありますか?京都では昔鴨川で友禅を洗っていたそうです。

「悉皆屋」この漢字読めますか?着物独自の流通システム

「型紙がこれだけの種類ある中で、お店ではどのような説明がされているのですか?」と質問が。

「基本うちは、消費者さんと直接やり取りはしていないので、ほぼほぼ業者さんからの依頼なんですよ。」とのこと。

着物の依頼は「悉皆屋(しっかいや)」という着物の業者さんから。
染工所さんたちのそれぞれの特徴を理解して仕事を振ってもらえるため、職人さんたちは作業に集中できるという面もありつつ、どうしても値段が高くなってしまう。また、悉皆屋さんが高齢化しているという課題もあります。

業者さんとの付き合いとバランスも取りつつ、小売りや一般のお客さんともつながることで若い人でも買えるような状況にもできたらな、とお話されていました。

着物、洋服、観光・・・・・・、岩井染工さんの新たな取り組み

ここからは岩井染工さんがされている新しい取り組みについてお聞きしていきます!
まずは、「油小路」という岩井染工さんオリジナルの着物のシリーズ

最近では古来の型紙で染められているところはほぼ皆無で、機械製のスクリーンを用いているところが多いそうです。
そこで一貫して手作業の、岩井染工さん独自の染物を作ろう!ということで、新たなブランドを立ち上げられました。

柄をご覧ください。写真を拡大しないと見えないほど、とっても細かいです!

柄が細かければ細かいほど、染めるのも難しい。岩井染工さんの熟練の技が光ります!

また、ブランド名「油小路」の由来は、京都の「油小路通り(あぶらのこうじどおり)」から。
岩井染工さんの工房が油小路通り沿いに建っているのが由来です!

ここが油小路!実はこの工房の前の通りは、冒頭の写真にも写っていましたよ!

このオリジナルブランドを始められたのは、新型コロナウイルスが蔓延していた頃。
特に流行り初めの頃は、催事が出来ないため、着物の取引が大幅に減ってしまったのだとか。

そんな中、取引先から「(コロナ禍で従来の仕事が無い今だからこそ)値段が高くてもいいから、いつもならやっていないような着物を作ってほしい」との依頼があり、コロナ禍を乗り切れたのだそうです。

この出来事が、方向性を見直すきっかけになったのだと言います。

しかし、機械を用いてしまうと、すでに競合がいて勝てない。
そこで、岩井染工さんが得意とする「色の手合わせや手染めを売りにしていこう!」という方針に切り替えたのだそうです。

この取り組みによって味のあるかっこいい着物が生まれただけでなく、昔から続く高い技術が保たれていることも嬉しく感じます!

また、着物だけにとどまらず、最近は洋服の染めにもチャレンジしているそうです。この取り組みは縫製作家さんからの依頼で始まったそうですが、ここでも登場するのが幅足りない問題・・・!

一般的に洋服の染めは120 cm 幅。型紙の幅が足りないどころではなく、板の幅も全く足りません。

私はそこで「どのように幅の限られた布で洋服を仕立てられたのだろう?」と考えてしまいましたが、実際に出来上がったのは染まらないところも用いた洋服。

岩井染工さん Instagramより(@iwaisenkou_kyoyuzen

着物を染める工場らしさがでて、それが味になるのだそうです。逆転の発想で面白いですね!

また、着物は絹製なのに対してこちらの洋服は綿と麻。染める方法は着物と一緒ですが、用いる染料が全く異なるため、一から仕入れて試験を行い、染められたそうです。

洋服と着物の染料にも違いがあるとは知りませんでしたが、上手く融合して素敵に仕上がっているなと感動します!

他にも7月からツアー会社と組んだ友禅染の体験ツアーがスタートしたり、ライブイベントに合わせてTシャツを染めるプロジェクトをされたり、スカーフなど小物を作られたり・・・と、書ききれないほどさまざまな取り組みをされています!

これらの原動力を聞いてみたところ、「いろんな方から話を聞きたいんで、とりあえず動いて聞いて、なんか繋がれたらいいなと思って。」と岩井さん。

どう繋がるかが分からなくても行動してみたことで、思わぬところから発注が来ることも!

実は次期五代目の岩井隆明さんは大学卒業後、全く異なる業種で営業をされてから友禅の世界へ。後継ぎをされる前提で営業を学んで戻ってこられたと言います。

伝統工芸の世界では前に出ることの少ない職人さんも多いなか、積極的に繋がりを作ろうとされている岩井さん。その結果として、これらのプロジェクトが生まれているのではないでしょうか。

今回の「京もの担い手育成事業」に期待することも、「繋がり」とのこと。
「学生さんなど若い人から新しい発想がもらえたら嬉しい」とおっしゃっていました!

また、インターン生たちが今回のプロジェクトをきっかけに、岩井染工さんのことを頭の隅に入れといてもらえると、将来的になにか繋がるかもしれないとも考えられているそうです!

私は今まで着物づくりの世界は少し自分には遠いもののように感じてしまっていました。しかし、この工房見学を通して板の並んだ圧巻の作業場、職人さんの技などに触れることができ、友禅染が面白くより身近に感じられるようになりました。

工房見学会の後は、インターン生たちとともに4回の集まりで現状分析と課題解決策の検討を行います。
さまざまな意見が出るとともに、岩井染工さんを身近に感じる大学生がたくさん誕生することでしょう!

これからのプログラムがどのような取り組みに繋がっていくのかも楽しみです!

岩井さん、今回は貴重な工房見学をありがとうございました!

岩井染工
〒604-0071 京都府京都市中京区油小路通丸太町下る大文字町45番地
Web:https://iwai-senkou.com/
Instagram:https://www.instagram.com/iwaisenkou_kyoyuzen/

text:竹村和菜 photo:本田コウイチ

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