3Dデジタル業界の革命児、ほとばしるファイティングスピリッツ! ケイズデザインラボ
3Dデータからリアルなプロダクトを再現する3Dプリンター技術の利用は、近年、製造業から一般ユーザーにまで広まっています。
今回取材させていただいたケイズデザインラボさんは「アナログとデジタルの融合で世界を変える」を経営理念にかかげ、3Dデジタルツールを使ってまだ見ぬ、新しい世界、面白い世界の実現を目指す会社です。
「道具は使いこなしてこそ力を発揮するもの」まずは自分たちで使ってみるというスタンスで、活用方法を研究し、クライアントの業種・分野に合わせた、より良い使い方を提供されています。
そんなケイズデザインラボさんの活動は多岐に渡ります。
3Dスキャナー「BodyScan」で全身を3Dデータ化し、グミへ加工するジブングミ、
唇を3Dスキャンして、リアルなキスチョコをつくるリアルキスチョコ、
大人から子供向けに行われる3Dデジタルツール体験会、
上級者向けでは、CADソフトの講習や3Dプリンタの講座が受けられる3D道場(写真↓)や、お酒やドリンクを飲みながら、ソフト、技術、機材に関する質問ができる3D BAR。
その他にも、アーバンリサーチロッソの店舗で実現したiBeaconと3Dプリンタを融合したプロモーション、
デザインスタジオ・YOYとコラボした壁面に刺繍を施したかのようなD3テクスチャー®技術を活用したサインデザイン「WALL STITCH PROJECT」(=壁面刺繍)を製作など、
革新、販売、デザイン、共同、教育をテーマに、様々な3Dデジタルツールに関わる会社です。
今回は、代表原さんご自身のキャリアを通し、なぜアナログとデジタルを組み合わせているのか、それがどうして可能なのか、を伺いました。
もっともアナログな環境から、デジタルへの憧れ
大手メーカーに就職した原さんの最初の仕事は、試作所での作業でした。
「試作部門の現場で塗装や磨きをやってたんですけど。だいたい夏は50度くらいの中で作業をするんです。エアコンの効いた仕事場で働くってどれほど憧れだったか。」と当時を振り返る、原さん。
工業高校出身の同期がエアコンの効いた仕事場で働く中、社員食堂へ行くのも恥ずかしいほど作業服は毎日どろどろ。
金型加工・メッキ・塗装全部に携わる、もっともアナログな環境は、原さんをデジタルの魅力へと引き込んでいきました。
そして、入社3年目に原さんは念願が叶い社内試験でCAD(※1)センターに異動し、「現場のもっともアナログな環境から、思い切りデジタルに触れてやろう。」と心に誓ったとのこと。
しかし、現実はそれほど甘くありませんでした。当時はまだCADの一般化が進んでおらず、「デジタルを使うこと、またはデジタルツールに依存するやつはバカだ。」と心無い言葉をかけられました。デジタルとは最新のもので、便利なものだと認識している今の私たちにとっては、考えられないことですよね。
CADは標準化ツール
「僕はよく講演で、CADは創造するツールではなくて標準化ツールですと言うんですが、未だに怪訝そうな顔をしたり、反発する人も少なくないです。」
CADは「どんな設計者でも不足した技術や経験を補うことができるツール」だというのが原さんの考えでした。今も昔もそのスタンスに変化はありません。
「しかし、職人の世界というのは、脈々と続いている派閥みたいなものもあって。CADみたいな標準化ツールの普及はそのバランスを壊すものだったんですね。まあ、やりたくない仕組みづくりだったとは思うんですよ。」
技術を標準化するCADツールを導入することは難しかった。
格闘家へ転身、そして日本のものづくりの強みを知る
そして、そんな原さんは意外にも、ものづくりの世界から格闘家を目指すチャンスを得て海外生活を始めます。(格闘家時代のお話は濃厚すぎたため割愛します。気になった方は原さんに直接聞いてみましょう!)
そしてその生活を通し、日本製品の絶対的なブランド力を実感します。
出会った人に「おまえは素晴らしい技術を持つ日本のメーカーで働いていたのに、なぜ今更格闘家をしているのだ?」と問われたこともありました。
現在ではよく耳にしますが、当時は日本のものづくりが海外からリスペクトされていることは知られておらず、原さんは驚きました。そして、その他のいろいろなことを考慮した結果(くどいようですが、格闘家時代の話は直接聞いてね)、帰国し格闘家を続けながら、CAD/CAM(※2)の開発会社に就職するという決断をします。
CAMソフトの精度がいくら高くなっても、現場で手仕事をする職人さんほどの緻密な作業はできない
CAD/CAMを開発し始めた原さんは、様々な条件が重なってはじめて成形できる程度の精度しかでないCAMソフトをみて、デジタルツールのみで出来ることは前職で体感した職人のレベルには程遠いことを実感します。
現場でものづくりのノウハウを徹底的に叩きこまれ、少しものづくりから距離を置き、改めてデジタルツールの開発を行い気がついたこと、それは人間の技とデジタルツールをどう混ぜるか、どう歩み寄って接点を見つけるか、が重要だということです。
日本のCAD/CAM業界の変化、3Dソフトの低価格化
1990年代前半、日本のCAD/CAMソフト会社が衰退していった時代。「技術自体は行き着くとこまでいってしまった時代だ」と語る原さん。
そこから数年後の1998年、CAD/CAMソフトが数百〜1千万円以上していた時代にローランドDGという会社が12万5千円程度で、モデラという加工機が発売し、衝撃を受けたそうです。
それを自分で買って調べていたところ、普段書いていた加工機の命令プログラムで変換すれば動くことがわかり、「自分ならこのプログラムをもっとよくすることができる。また、この低い価格帯であれば、設計士ではなくて、個人でも使用できる時代が絶対くるはずだ。」と気がつきました。そして、そのデモソフトとモデラで作った切削加工サンプルを持って、ローランドDGの社長にプレゼンテーションし、同社子会社にてプログラム開発をはじめました。
そしてその後、予想通り一般の人の3Dデジタルツールの利用が増え始めます。この時流を考慮し、次は3Dモデリングツールの普及に注力し始めます。
Rhinoceros(ライノセラス)、Freeform(フリーフォーム)の普及
3Dモデリングソフト、ライノセラス。当時の十数万という価格は、100万円で「安い!」と言われていた時代には衝撃的でした。
原さんは、その将来性を見込んでライノセラスの普及に奔走します。代理店と協力してライノセラスのユーザー会を立ち上げ、専門書を自費出版で4冊書きました。「とにかくやれることはなんでもやった」と当時を振り返ります。
また、まるで画面の中の立体に触っているかのような感覚で操作ができる3Dモデリングツール、フリーフォーム。
このソフトについても、「黎明期から活用・研究して普及に努めてきました。おそらく、当社の活動がなければここまで普及していなかったのでは、という想いがあります」とはっきりとおしゃっていました。
他の販売代理店とは違う方法で、3Dデジタルツールを届けたい
「自社のCADが他社のCADに比べて、何フィーチャーでモデリングできるかとか、コマンドのクリック回数とか、そんな重箱の隅をつつくようなことばかり(笑)なんとなくCADメーカーのブランド力を盾にして、メンテナンスもしてくれない。プリンターもスキャナーも同じ。どの販売代理店もそうでしたね。」
販売代理店の一般的なコンサルティングに疑問を感じていたと語る原さん。
原さんの考える3Dツールコンサルティングとは、人の手で作るというアナログな手法と、3Dツール、プリンターなどを用いたデジタルな手法、この二つを組み合わせて、顧客の目的にあった最適の手法を提案すること。そうすれば、きっとクライアントは付いてきてくれるだろうと考えました。
3Dデジタルツールの販売、3Dデジタル技術を利用した製品開発の提案、デザイン業務、プロモーション企画、 ものづくりに関する講座運営、ワークショップの企画運営。
今現在、ケイズデザインラボさんで行わているすべての事業は、原さんが歩んできたキャリアそのものを反映しています。
「まずは自分たちで使ってみるというスタンスで、活用方法を研究し、クライアントの業種・分野に合わせた、より良い使い方を提供する」というスタンスの元、ケイズデザインラボさんはその歩みを止めることなく、活躍の幅を広めていくのでしょう。
今後のご活躍、陰ながら応援しています!
原さん、広報の岡本さん、ありがとうございました!
(※1)CADとは、コンピュータを使用して設計や製図をするツールの名称。
(※2)CAMとは、CADで作成されたデータを入力データとして、工作機械に加工をさせるツールの名称。
(text:加嶋、photo:市岡 ※一部の写真はケイズデザインラボさんからお借りしています)
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