豆の味もお兄さんもパンチが効いてる!愉快なチョコレート工場 USHIO CHOCOLATL
広島県尾道市に来ました。坂の多い街として有名なこの街は、山のきわっきわに街があってすぐ海。そんな地形のように坂道たくさんできわどいお兄さんたちの作ったチョコレート工場が海を隔てた向島にあります。
USHIO CHOCOLATL(ウシオ チョコラトル)はJR山陽線の尾道駅から車でだいたい15分くらい。USHIO HOCOLATLのホームページにも「公共交通機関はないので自動車で来てね」と書いてあります。
向島はしまなみ街道の入り口。バイパスをとおって島をわたって、山道をクネクネクネ。だいたい8クネクネくらい。夜はイノシシが出るらしいですよ。
こちらの店舗は、尾道市から建物の一部を借りているのだそうです。
オシャレなカフェやんか。間違えました〜、帰りますーと言いかけるくらいカッコイイ店内。
今日はよろしくお願いします。
店内にもちゃんとカカオ豆の袋もありました。
USHIO CHOCOLATL(ウシオ チョコラトル)の名前の由来は、工場長の娘さんの潮(うしお)ちゃん、ちょっと日本語のテイストを入れたかったのと、お店の前のキラキラしている海。朝の海は「潮」、夕方の海が「汐」というので、この名前になりました。
「チョコラトル」は?
カカオ豆の仕入れに行ったグァテマラ。マヤ文明のあのへん。現地では「ケツァルコアトル」という神様を別名「チョコラトル」というのだそうです。
ケツァルコアトルはアステカ神話の文化神・農耕神、または風の神。それがなぜそうなったかはわかりませんが、スペインに征服されてからその言葉がヨーロッパに伝わり、現在の板状のお菓子ができ、それを「チョコラトル」と言っていたものがいつの間にかチョコレートになった、という説があります。チョコレートだけに豆知識!
チョコは昔からバクバク食べてた
チョコレートとの出会いは明○のミルクチョコレートでした。
小さい時からおいしくてバクバク食べていましたが、25歳くらいのときに、自分で殺せない奴は食べたくないと思えてきて、菜食主義になりました。それ以来ミルクが飲めない、お肉も食べていない生活です。
最初はカレー屋さんをやったらどうか?と周りの人にすすめられて考えてみました。
次に考えたのがコーヒーのお店。しかし、すでにカレーもコーヒーもすてきなお店がたくさんあり、自分でやる意味があまり感じられませんでした。
そこで見つけたのがかっこいいチョコレート工場。
「『料理通信』という雑誌を見るのが好きで、ずーっと眺めていたのですが、マストブラザーズチョコレートがめっちゃかっこよかった。チョコレートは大きな工場がないと作れないと思い込んでいたけど、家庭の台所みたいなところでも作れる」ことを知りました。
これだったらやりたいと思いました。パッケージにもこだわることができるし、お店やりながら好きな音楽ができるし。
原料を探して三千里(よりも遠い!)のグァテマラへ
チョコレートの修行とかはしていません。
研究はネットでやり始めたけど、調べているだけじゃダメだと思いました。
やってみようと思いつく人はいると思うけど、
1,000人がやってみたいって思って、
100人がいろいろ調べて
10人が実際に動き出すとして...
これならいける!と思いスタート。
実際に動き出してみて、だんだん知り合いができてきました。
たまたまアメリカのデンバーにあるリチュアルチョコレート(RITUAL CHOCOLATE)にゆかりのある人が尾道にいて、紹介してもらいました。アメリカ人のソネットさんという人で、ソネットさんは若い時に尾道で英語の先生をしていて、久しぶりに遊びに来ていました。
知り合いがどんどんふえていく
そして実際にコロラド州デンバーのチョコレート工場にいって、原料の選別方法とか、発酵したらこうなるんだ、とかを学びました。倉庫を改装したような工場。
チョコレートは豆の品質でチョコレートの味の良し悪しが決まって、香味が引き出せたりする。また、チョコレートの製造工程で「テンパリング」という作業(カカオバターを分解して、細かい粒子に結晶させて融点を同じにするための温度調整のこと)があるのですが、これをやると結晶が安定してツヤが出てきます、42度くらいに温度を上げて、27度くらいまで下げて、31度くらいまで上げる。
焙煎温度も知ってたのよりも「結構低いやん」ってことを知りました。
ほかにも仕入れ値や相場なども教えてもらうことができました。
つぎに、東京の中目黒のコーヒーとチョコレートのお店の「カカオワークス」にもアポなしで飛び込み。
朝日さんという方と知り合い、チョコレートの基礎知識を教えてもらいました。
しかし、中村さんたちがチョコレートを作ろうと動き出したときにはまだカカオ豆は流通していなくて、カカオ豆を直接買い付けに行く必要がありました。そして尾道の「ハライソ」という喫茶店のマスターに紹介していただいたグァテマラに住む日本人のご夫婦を頼りに、何もわからない状態でグァテマラへと...
カカオ豆を探しに現地に行ってみる
作っている人の顔が豆にあらわれる「単一農園の面白さ」みたいな思いがあり、できれば単一農園との取引が希望でした。
今ではカカオ豆はふつうに商社経由で流通しているのですが「どこどこ産」とあっても、実は日本でいうJAみたいなところに色んな農園の豆が集荷されて、良いモノも良くないモノも混ぜられて売られています。正直、不透明なのが現状。しかし、ダイレクトトレードでないと単一農園のカカオ豆を手に入れることがむずかしい。
良い品質のカカオを求めるのはもちろん、その良い豆をどんな人達がどんな風に作っているかを知りたかったので、現地の農園に行くことにしました。
でも、現地に着いてみるとアレーッ?なことがたくさん。
フェアトレードの品目であるコーヒーも、不当な労働を強いられているみたいに聞いていたのに、実際に農園に行ってみると働いている人は全然しんどそうじゃないし、よくコーヒー豆の産地では良い豆は地元には出回らずに、現地の人は良い品質のコーヒーを飲んだ事がないと聞いていたのに、グァテマラのカフェでは実際にカップオブエクセレンス入賞豆のコーヒーまで提供されていてビックリしました。
グァテマラでは、アティトランというところを拠点に、スチテペケス県のサマヤック市にあるカカオ農園に飛び込みました。
でもそこに行くまでが、大変で…
空港のあるグァテマラシティは危険と聞いていたのでスルーし、標高2,000メートル級の山をいくつも越えて何時間も。チャリで世界を旅している日本人のワタル君にあったり、まさに大冒険でした。
サマヤックでは品のあるご婦人に会って、スペイン語で「カカオ豆を探している」って書いたメモを見せて、カカオプラントを教えてもらうことができました。
訪問したのはエルネストさんという人の農園。
「ダメダヨー!」という門番さんになんとか中に入れてもらったら、運良くトゥクトゥクが前から来たのでコッソリ乗せてもらい、勝手に奥まで連れて行ってくれました。
そこで使用人と思しき人が「カカオに興味あるのか?」と聞いてくれたので、その人が農園主のエルネストさんを連れてきてくれました。
エルネストさんには断られたのですが、カカオ豆協会の会長を紹介してもらって会うことができました。その会長さんに「2トンくらい欲しい」って言いましたが、1トンくらいなら出せるって言ってもらって、安心して帰って、その後で「今年は収穫量少なかったから売れない」と言われました。
アイデンティティがあるチョコレートたちです
現在USHIO CHOCOLATLには、6種類のチョコレートがあります。パッケージも素敵です。
バナナのような後味のパプアニューギニア、いちごの香りで食べやすいのに独特な味で通好みのトリニダード・トバゴ、紅茶withピーチフレーバーのハイチなど、それぞれに豆自身が「オレオレ俺を味わって」と主張しています。
交渉で鍛えたボディランゲージ
1種類だけパプアニューギニアのだけダイレクトトレードで仕入れてる豆があって、これは宮本さんが契約を決めてきました。根性とボディランゲージがなければ成し得なかったこと、宮本さんしか契約できません!USHIO CHOCOLATLではパプアニューギニアが一番人気。「2万倍愛してるんで」と宮本さん。
工場を見学させてもらいます。
チョコレートはおおよそ、選別、焙煎、砕く、石臼で挽き続ける、テンパリング、成型といった工程で作られます。
いらっしゃい。工場の中で作業をしていた栗本さん、「やっさん」と呼ばれています。
原料のカカオ豆です。この時点ではまだ香りは決まりません。嗅いでみたくなったので。
いい豆、よくない豆を手で選別
今日のはパプアニューギニア産の豆。
ハンドピッキングで選別していきます。
悪い豆、いい豆、焼く価値がある豆、ない豆を分けていきます。
虫食いがないかとか、形や色を見ます。
割らないとわからないものは割ります。
怪しいなって思ったらすぐ割る。
現地では砂糖を持ち歩いてて、実際に殻を割って食べて確かめました。砂糖をまぶしたおやつ。これだけでもガンガンいける、ウイスキーにぴったり。
いただきもののマシンが役立ちます
豆と殻を分ける道具。「唐箕(とうみ)」といいます。
このマシンは割った豆を風力で身と殻にわけてくれます。もともとお米を籾殻とお米に分けるためのマシンで名前は「唐箕(とうみ)」。尾道駅裏のセレクトショップ「れいこう堂」のノブエさんからのいただきもの。
次にコンチングという工程、高温で何時間もかけてチョコレートの生地を練っていきます。チョコレートの粒子を細かくして攪拌することによって乳化を促すことで滑らかにし、摩擦熱やその熱の放出でチョコレート独特の風味を出したりするため。
回すと摩擦熱などで味が変化していきます。
香味が増して酸味が減ったり、といったように味を調節しながら。
さらに豆によっても、回すスピードや時間を調節します。
六角形の理由
型に入れて冷まします。
USHIO CHOCOLATLのチョコレートは全種類六角形です。
四角いチョコは当たり前だし、丸いチョコレートも世の中にたくさんある。ハニカム構造で強度もバッチリだし六角形に決めた!
六角形は三角形の集合体でもあります。実は、USHIO CHOCOLATLには三角形をモチーフにしたものがたくさん。三角形はもちろん三人を指します。
トリオがいい!別のカフェで3年くらい働いていた中村さん。
2年目でチョコレート工場をしたいのでやめると言った時に「3年がひとつのサイクルだから、もう1年働いたほうがいいよ」とアドバイスをされました。
その1年の間に二人の仲間ができました。
栗本さんとは同級生でご夫婦で尾道に引っ越してきました。
「カレーやコーヒーにとても興味があって、好奇心が旺盛で何かはまることがあれば、とても一生懸命、かつ冷静」と工場長。
宮本さんは東京暮らしから尾道に引っ越してきて結婚したので就職活動をしていましたが、ナカナカ就職出来ずにモジモジしているところを工場長がスカウトしました。
実はチョコレート工場以外にも一緒に音楽をしている三人。
「ケミカルクッカーズ」というヒップホップグループをつくって勝手に活動しています。
お店の中でジャケットづくり。
実は昨日の夜もお店の中でレコーディングしてたんですって。
音楽活動のキッカケはフリースタイルのライブに誘われて言葉が出なくて悔しかったから。
最初はなかなか言葉が出てきませんでしたが、店舗を作っている時にコテで珪藻土の壁を塗りつつ、栗本さんをディスったりしながららだんだん言葉が出てくるようになり、練習する内にだんだんハマっていきました。パンチラインもどんどん出てくるようになったんだそうですYO!
工場の中にお話をもどしますYO!
はい、たべます、ありがとうございます、いただきますっ!
包装するエリア。いっぱいお手紙が貼ってありますね。
最後にパシャッです。しゃかいか!編集員も仲間にしてもらいました。
個性的な豆の味に負けない三人。
ぜひ向島の海を眺めながら、愉しくて美味しいチョコレートをどうぞ。
【詳細情報】
USHIO CHOCOLATL
電話番号:090-7391-1746
住所:広島県尾道市向島町立花2200
営業時間:9:00~17:00
お休み:火曜・水曜
URL: http://ushio-choco.com/
(text:西村、坂田 photo:市岡)
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