大切に受け継がれてきた土佐和紙、先人の技に思いをはせて いの町 紙の博物館
今日のテーマは土佐和紙!高知県の「いの町 紙の博物館」にお邪魔します。
水質と水辺利用率でトップクラス仁淀川!
和紙づくりには清い水が必須。いの町を流れる仁淀川は清流として知られ水質全国1位!カヌーなどの水遊びや川漁師の漁船、釣り人や川辺でのキャンプなど水辺利用率もトップクラス。川とともにある町です。いの町 紙の博物館も川沿いの国道を隔てたところにあります。
館内を案内してくれる北岡さん、紙の職人さんで紙漉き体験の先生もしています。
今日はよろしくお願いします!
紙は文字を書いて手紙にしたり、お経、入れ物にするだけではなくて、衣や扇、お面などさまざまな道具として活用され、生活用品として人々の暮らしによりそった素材だったことがよくわかります。
世界最古の印刷物
百万塔陀羅尼経。陀羅尼経と納めていた小塔です。
764年(天平宝字8年)に称徳天皇が、鎮護国家と滅罪を祈願するために陀羅尼経を100万巻印刷し小塔に納めて、仏教寺院に奉納されたものの一つがこちら。
現存する中では印刷年代がわかっている世界最古の印刷物なんだそうです!
長い歴史を持つ土佐和紙も江戸時代には「御用紙漉」の制度があり、紙の製造は藩の許可制。保護を受ける一方、その製法の秘密保持のために厳しく管理されていました。
土佐和紙にまつわる哀しい伝説
土佐和紙の製法の秘密を守るための哀しい伝説も伝わっています。
遍路姿の行き倒れていた旅人を養甫尼(長宗我部元親さんの妹)と国人の安芸三郎左衛門家友(いえとも)さんが助けて介抱します。このお遍路さんは伊予の新之丞(しんのじょう)さん、一命をとりとめた新之丞はお礼として製紙技術を二人に教えます。そして三人で研究を重ね、草木染を施した美しい七色の紙を生み出します。とここまではハッピーなのですが、
数年後、国に帰る新之丞は、製法の秘密が村の外に漏れることを恐れた家友に斬られてしまいます。
この伝説には諸説があり、史実か伝説かの信ぴょう性は?だそうなのですが、それくらい、紙の製法が当時の人にとっては大切なものだったことをうかがい知ることのできるお話です。
写真は江戸時代の御用紙漉き職人が漉いた土佐七色紙です。
新之丞を慰めるためにいの町には「紙業界之恩人新之丞君碑」と刻まれた碑もあります。
大切に守られてきた製法やその技を伝える職人さんに敬意を払う気持ちが沸き起こってきます。
紙づくりを近代化した製紙に進化させた吉井源太さん
時代は明治になり国全体の近代化にあわせるように、和紙にも革命的な技術者が登場します。
まだ江戸時代だった1826年に代々御用紙漉きの家に生まれた吉井源太さん。まずは大型簀桁を発明、紙の生産性を2倍〜3倍に向上させます。
さらに明治維新の後には、藩の統制もなくなりさらに活躍のフィールドを拡大!
日本製紙論
経済性・防虫のための紙の原料の転換、ヤネ入紙(インキ止紙)、郵便半切紙(コッピー紙)の開発、簀に紗を敷く紗漉法(しゃすきほう)の発明など、製紙技術を改良・発明し、その技術を全国に広げる活動をしました。日本初の本格的な製紙技術解説書である「日本製紙論」を著し、また万国博覧会で上位の賞を受賞するなど源太さんの業績は世界レベルで認められています。
明治神宮に使われている「神宮紙」
明治神宮造営の際、明治天皇の功績を紹介する壁画用紙として使われました。縦横でおおよそ3メートルずつ。日本ではじめて作られたビッグサイズ和紙です。
神宮紙の紙漉きの様子
紙は単に大きくするだけでは破れてしまい、使うことができません。耐久性に優れた丈夫な和紙を漉くために当時の最高の技術が施されました。
では、製造工程の展示へGO!
原料のこうぞ
こうぞは紙麻(かみそ)とも呼ばれ、高知県の一部では今でもこの呼び方が使われています。
煮る!
原料のこうぞの皮を水に浸して薬品(苛性ソーダや炭酸ソーダ、消石灰など)で煮ていきます。薬品のない昔は木灰が使われていました。
水洗いし、さらします
現在は井戸水など伏流水を使いながらコンクリートやステンレス層で晒しますが、清帳紙は農閑期の水田を使い晒します。
ちりとり
原料を水に浮かべてちりを取ります。水に浮かべずにやる「空より(からより)」という方法もあります。
たたく
台の上に絞った原料を置いて棒で原料を叩きます。繰り返し一定の強さで叩くことで水分量を均一にしたり、繊維をほぐしていきます。かんぴょうのようになっていきます。
この工程は今はほとんど機械化されていますが、和紙を作りに来たオランダからの強者のロギールさんは今でもこの工程は手でやっているんだそうですよ。
こぶり
十分に叩かれた繊維を水中でかきまぜ、繊維を分散させます。川の流れの中に入れたカゴに原料を入れ、棒でかき混ぜます。
土佐典具帖紙においては、このこぶり工程が紙質を決めるので大切なステップ。
和紙づくりの写真や映像でよくみるこのマシーンは紙漉きの時に使います。
道具の名前は「桁(けた)」といいます。この和紙の原料を流し込む部分「簀」には竹ひごや萱ひごが使われています。
水分を含んだ原料はとても重いので、桁は上から吊るされています。
バランスをとりながら、エイッエイッて紙を漉いていきます。
薄い紙を漉くときには、簀の目の跡を残さないように、簀桁の上に絹紗(きぬしゃ)を折って上の載せておきます。そのための専用の機械「絹紗織機」もありますが、今は織る人はいません。
紙漉き体験に挑戦!
いの町 紙の博物館では、溜め漉き(ためすき)と流し漉き(ながしすき)という紙漉きを体験することができます。
流し漉きは毎月第1日曜日限定での体験となりますのでご注意を!
原料を枠ですくいます。紙の厚さを同じにするために、この原料を含んだ水も均等にすくうのがポイント。
しかし、左下のは水分がポタポタと落ちてしまいました。紙漉きは水のコントロールが決め手。
前後にゆすり、原料が均等に行き渡るように動かしていきます。
ピチャピチャというここちよいリズムに合わせて原料の水が踊ります。
このゆすり方は音を立てる、とか飛び散らないようにとかはあまり気にせず、職人さんによっても、やり方はさまざまなんだそうですよ。
けっきょく手伝ってもらいました。
この流し漉きのポイントは、上のヒモで吊るされた簀桁と腕の持つところのバランス良い支点を見つけること、自分のだけでやろうとすると水分の重さに流されてコントロールできなくなります。
均等にしないとこのようにムラになって紙になることはできません。
失敗してしまった原料は再利用されます。紙が大きくなると作るのが大変、ってことを実感いたしました!
この紙漉き体験コーナーでは、職人さんが漉いた紙を購入することもできます。
この博物館では、和紙の成り立ちから作り方、実際の体験まで和紙のあらゆることを見て、深く知ることができます。
古くは衣食住とくらしのあらゆるシーンで使われていた和紙。
伝統工芸品というだけではなくインテリアをはじめこれからも人間の生活に深く関わっていくことと思います。その和紙に触れるときには、先人たちの努力や今も製法を受け継ぐ職人さんたちに思いをはせながら、心して、そして気軽に使わせてもらおう、と感じた時間でした。
最後までおつきあいいただいた北岡さん、今日は有難うございました!!
【詳細情報】
いの町 紙の博物館
電話番号:088-893-0886
住所:高知県吾川郡いの町幸町110-1
URL: http://kamihaku.com/
開館時間:9:00〜17:00
休館日:月曜(祝日の場合は翌日休、12月27日〜翌1月4日休)
入館料:大人500円、小・中・高生100円
(紙漉き体験をされる方、10名以上の団体様、ギャラリー・コパ入館者は割引あり)
65歳以上の方は、年齢確認できる証明書提示で250円
年間観覧券 1,500円
手漉き体験400円(色紙2枚・はがき8枚)
交通手段:土讃線伊野駅下車、徒歩約10分。
とさでん交通路面電車「伊野終点」下車、徒歩約10分。
伊野ICから車で約10分。
駐車場:無料(大型3台、普通車50台)
(text:西村、photo:市岡 ※一部の写真はいの町 紙の博物館さんからお借りしています)
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