お刺身の名脇役!紅たでが目指す活躍の舞台 カネ筒農園
関西でひろまったで、紅たで
この紅たで、食べられるの?飾りだと思ってた、という人も多いと思いますが、きちんと食べることができます。お刺身に置いてあるのは殺菌作用があるからなんですって。ワサビと一緒!
関東ではお刺身には菊の花が置いてありますが、食用菊で同じく毒消しの効果があるからです。紅たでは赤い色が血の色を連想させるので、武士の文化である江戸ではあまり使われず主に大阪から西で使用されました。商人の町である大阪では、より華やかな赤い色が好まれたというのもあるそうです。
刈りたての紅たでをパクリッ!
ピリリッとしてます。
紅たでだけでいただくのは、今回がはじめて。こんな味がするんだ!とビックリです。
紅たでは刈ったばっかりの新鮮なものほど辛くて、時間がたつほどこの辛味が徐々に減ってしまします。今日もパッケージに詰められたものと、刈りたてのを食べ比べさせてもらいましたが、確かに辛味度合いが違ってて、刈りたての方がパンチがありました。筒井さんによると、市場に出回るのは2週間前後のものが多く、お刺身に使われる頃にはあまり辛味が残っていないものが多いのだそうです。
スパルタで育てられます、紅たで
「紅たでは養分をあげてはアカン」と筒井さん。
紅たでが生育する条件は水分と砂地。カネ筒農園さんの場合は種は直接地面に蒔かずにビニールをかぶせて、その上にアミのシートを覆いタネを蒔いていきます。つまり、わざと土からの養分を遮断し、種の栄養だけで新芽にまで成長させることで、鮮やかな赤色でピリリとした辛味の紅たでになることができます。
紅たでを育てるのよりも準備が大変
現在の栽培方法にいたるまでにはさまざまな試行錯誤がありました。
まずは、紅たでの成長に必要な砂。養分が含まれていないことが大切なので、山の砂よりも川砂が適しています。カネ筒農園さんでは、近くの淀川の砂を使っていましたが、大阪府の規制で1999年から淀川の砂を採ることができなくなってしまいました。
そこで山砂をふるいにかけて不要な土を洗い流して使ってみました。しかし、刈り取った後の連作障害を避けるために同じ砂を使うことはできず、再び洗うことを繰り返す。結局これは「やってられへん」ということでやめました。
次に、タネを食べてしまうスズメ対策。砂地にジカに種まきしてしまうと、スズメが食べにくるので、寒冷紗(かんれいしゃ)という網のトンネルで試してみましたが、刈り取りの時に面倒だ、ということでこれも構想段階で中止にしました。
他にも、レーザーで刈り取る!とか、刈り取った後の種カスを飛ばすためにブロアー(大きなドライヤーみたいなの)を使ってはどうか?とか、地面の方をローラーで動かしてみたら?などなど。「発想はいくらでも思いつくねんけど、いざ実現しようと思うと設備やコストが大変」と筒井さん。
実は、電気メーカーに勤めていました
筒井さんの前職は電気メーカーの設計者。大学で電気工学を学んだ後、東京の電気メーカーへ勤務。1999年に家業を継ぐためこの八尾市に戻ってきました。
「何か解決できないか?」と工夫を重ねる姿勢は、前職の経験のせいかもしれません。
紅たでづくりは種まきと刈り取りのステップは絶対に必要だけど、他のステップをどうしたら省略して効率化できるか、ということを常に考えているのだそうです。
手元にあるもので工夫しました
現在の畑の形に行き着いたのは、防風ネットを見つけたから。
このブルーのネット、もとは風除けのための防風ネット。地面に敷き、そこに種をまくことでスズメ除け、養分の遮断が可能になりました。紅たでを生産している農家自体が少なく、専用の農具などないので、さまざまな工夫が必要です。
包丁が長持ちするようになりました
地面を砂地からネットに変えることで、刈り取りの時の包丁もあまり研がなくて済むようになりました。端から端まで刈り取ると刃の鋭さがなくなってしまって、そのたびに研がないといけなかった包丁でしたが、ネットにすることで砂などの硬いものが刃の部分に当たらなくなったので、研がなくて済む!包丁のモチも良くなったのだそうです。思わぬ効果!
水やりがたいせつ
あまり手間のかからなそうな紅たでも、乾くと枯れてしまうので、1日5、6回の水やりは欠かせません。そこで導入されたのが、可動式の散水機。タイマー式で時間になると畑の奥から手前まで動いて、紅たでにシャワーしていきます。この散水マシンは導入されて約40年、ベテランですが毎日欠かさずに水やりしています。
最初はホースで撒いていました
この水撒きも最初はホースで、無駄なく水が散るように、専用のアタッチメント(パイプの口を潰したもの)もチャレンジしてみました。
散水機の配電盤。この配電盤の設計は筒井さんの自家製。さすがはメーカーの設計者出身。
すくすくと育ちます
紅たでは刈り取られるまでの成長スピードが季節によって違います。
真冬で約2ヶ月、今回お伺いしたのは6月の梅雨の季節だったので約2週間。真夏だと7〜8日で刈り取ることができるようになります。カネ筒農園さんは8本の紅たでのレーン(列)があるので、夏だと1日1列ずつ種を蒔いて、1列ずつ刈り取っていくと生育を待つことなく、効率良く刈り取っていくことができます。
1列刈り取るにはだいたい2時間くらい。真夏は成長のスピードが速いので、刈り取りはじめと終わりの紅たででは、辛味具合も微妙に変わってくるんだそうです。
刃をできるだけ寝かせて、長く動かすと一度でたくさんの量を刈り取ることができます。
こうして刈り取った紅たでは、水で晒した後、箱詰めされて出荷され、みなさんの食卓の上に並ぶことになります。
現在、紅たでの産地はこちら大阪府八尾市の他にも静岡、広島、福岡で生産されています。大阪の中でもこの八尾市久宝寺あたりでは昔は20軒ほどの紅たで農家がありましたが、最近は減ってしまい、このカネ筒農園さんともう1軒を残すのみとなりました。
価格の移り変わりが激しいで
最盛期は1箱1,500円のセリ値をつけたこともある紅たで。
海水浴場の料理旅館や民宿、春先のお花見弁当やお相撲の大阪場所など、お刺身には必ずついてたので、これまで需要は安定していました。しかし、1987年(昭和62年)〜1991年(平成2年)の4年間に最高の消費出荷量を記録した後は、減少傾向にあります。バカンスも国内旅行から海外になったり、普段の食卓でもお魚を食べなくなってきたり。また他の産地が減反政策の農地を紅たでに転作したりで、市場としても厳しくなってきています。
1999年には1箱20円、というちょっとやってられないセリ値にまで落ちてしまいました。
出荷すればするほど損する、箱代の方が高い状態。
これではダメだ、とインターネットモールにも出店しますが、送料無料にしようにも単価の低い紅たででは、採算があいません。
「何!この量、少なすぎ」と怒られたこともありました。
次にチャレンジしたのが、加工品づくり。ご近所のフレンチレストランに協力してもらって生姜とブレンドした、紅たでジンジャーシロップを開発。これはいける!という味だったので、瓶詰めしていざ生産だ、という段階になって保健所からストップが。シロップは清涼飲料水扱いなので、衛生の面から認可された専用の生産設備で作ったものしか、出荷できないことがわかりました。
製品化に向けて、羽曳野市の農業大学や知り合いに尋ねて工場を探し、試作を繰り返しました。
ドレッシングでは、紅たでのエキスの抽出段階で出てしまうアクを取り除くのが大変でした。
できた!
紅たでジュース
さっぱりとして、ほのかな香りがして、清涼感があります。夏の飲み物って感じです。
紅たでの甘酢も!
ちょうどいい酸味が好評の甘酢。冷しゃぶやサラダ、さんまやサバなどの焼き魚に垂らしてもステキ。これからの季節だとハモの湯引きとか!餃子のタレとか、ヨダレでてくる。
紅たでのお醤油!
お刺身はもちろん、マリネにも。ちなみにお酒飲みにはこちらの方が好まれるんだとか!指につけて舐めてもそのままいける!
これからの課題は売る場所づくり
栽培方法や製品化に工夫を重ねてきた紅たでも、課題は売ってもらう場所。
「甘酢」「お醤油」としたのも、ドレッシング売り場ではなくお醤油や売り場に、おしゃれなこのパッケージを並べて欲しかったから。
そして、既存の流通にのるだけでなく、地元のレストランで使ってもらったり、特産品として直売所や道の駅に売り込むなど、さまざまな挑戦が続きます。
お刺身の名脇役である紅たで、これから活躍の舞台が広がって、主役になれる日も近いかもしれません。
(text:西村、photo:加藤)
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