カレーに合う一樽日本酒づくり体験 有賀醸造
丁寧に仕込んだ掛米を投入したタンクの中から酵母が白い泡立ちと甘い香りで「元気だよ」とこたえてくれます。手を掛けて仕込む酒母は、発酵の具合を眺めるだけでも愛おしく、ちょっと手を掛けないとすぐに機嫌が悪くなります。
今回は、江戸時代1774年創業から300年の長きにわたり、福島で酒造りを続けている有賀醸造さんへやってきました!
有賀醸造さんは、蔵人気分を味わえる酒造り体験を行っている貴重な酒蔵です。有賀醸造さんを代表するブランド「有の川」の他、日本の酒蔵で「虎マッコリ」というマッコリも造られています。しゃかいか!は、一樽の酒造り体験をする「BARみちこ」さんに仲間入りして、蔵人気分にどっぷりと浸ってきました!
ご案内していただきます有賀醸造11代目、専務の一裕さんです。実は、一裕さんは薬剤師の免許をお持ちなのです。
一裕さんの弟、常務兼杜氏の裕二郎さんは震災を機に福島へ戻り酒造りを始めました。2年目にして見事、新酒鑑評会で金賞受賞した「純米大吟醸 生粋左馬」を生み出します。そんな頼もしい有賀兄弟、本日はよろしくお願いします。
今晩は、往年を感じさせるこの空間で一樽の日本酒を仕込む仲間と一夜を共にします。
2階には昔ながらの酒造りに使用する道具や、有賀醸造の思い出の品々が展示されています。「有の川」の名誉賞受賞時の大変立派な旗もあります。
それでは日本酒造りの体験スタートです。まずは酒蔵へ移動します。
一麹、二酛、三造り
おいしい酒造りには、「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」が大切とよく言われます。
おいしい麹造りに必要な洗米作業は、酒造りにおいてもっとも重要な工程です。
福島の米300キログラムを仕込みます。
添仕込み(*麹と水、蒸米を入れた最初の仕込み)用の米をおいしい井戸水を使用し、手で洗米していきます。井戸水は常に温度が一定で、冬場は井戸水が水道水よりもあたたかいそうです。
時間勝負の洗米作業
ストップウォッチで正確に時間を計りながら作業していきます。今回は、「カレーに合う日本酒」というコンセプトのもと精米具合が70%(30%を削っています)の福島県産の米を使用しています。
洗米スタートです。今回は、特別に通常作業の半分の量の15キログラムで体験します。
最初は米の吸水が早いので、30秒ですぐ投入したザルを水の中から出します。
おいしくなーれー、おいしくなーれー。
すぐに次の綺麗な水に移動させるため米の糠(ぬか)を落とします。
リズムよく隣の水桶に移動します。イチ、ニのサン!
ここでトータル1分30秒です。
「はい、ザルを水から出して」の掛け声とともに急ぎます。
米の吸水時間を正確にすることで米の蒸し上がりが均一になり、よりよい麹がうまれます。
冷たい井戸水に手が真っ赤です。
洗米作業を終えて、米に最後の吸水をじっくりとさせます。
手間暇をかけてあげると愛おしさが倍増します。この状態で約25分間、米を浸水させます。
透明な米がさらに水を吸い、だんだんと白くなっていきます。通常の精米具合50%の場合は、10分間の洗米(吸水)時間で終わります。米の削り具合によって吸水時間を変えていきます。
次はアルコール消毒を入念にして麹室へ。麹造りのもととなる蒸米にまく麹菌を種麹といい、種麹を与えられた蒸米は麹米と呼ばれます。麹を包む2枚の白い布を外します。
杜氏の裕二郎さんが、朝一から準備をしてくださった蒸し米一粒一粒に麹菌が行き渡るよう麹菌をもみ込んでいく作業です。
麹室の室温は約30度、湿度約60%に管理されています。まるで、サウナ室でみんなで談話しているような初めての感覚に興奮気味です。
普段は、裕二郎さんが一人で担当している作業を参加者全員で体験します。
おいしい成長は香りをかいで確認
胞子をふりかけられた米は、10時間経って菌糸が伸びてくるので栗のような香りがしてきます。
香りをかいでおいしい成長をしているのかを判断します。
3時間おきに3回、麹室で麹を混ぜます。
次の麹を混ぜる時間まで、有賀醸造さんのお酒を思う存分に楽しみます。
左から生きた酵母が出すシュワっとした爽快感を持つ「虎マッコリ」は、韓国のマッコリとは異なりますが、改良を重ねて商品化されました。中央の「大吟醸 陣屋」は果実のような吟醸香とフレッシュな酸味、後味すっきりの大吟醸です。
杜氏の裕二郎さんにお酌しつつ、今回のコンセプト「カレーに合う日本酒」にするためどのように近づけていったのかをお聞きします。
最初のカレーの試食会で、カレーのスパイスと大吟醸の香りがバッティングして吟醸香のいいところを全く引き出せないことがわかりました。そこで、どぶろくみたいに米の味を堪能できるよう精米具合を70%に調整し仕込むことにしました。
2回目の麹室タイムです。麹菌は、糖化、酵母菌はアルコール発酵をするために必要な菌です。
納豆菌は厳禁
麹室に入るには、特に納豆など発酵食品を1週間前から口にしないという条件があります。麹菌よりも強い菌を持つ納豆を食べてしまった青木さんは、今回残念ながら麹室に入室できませんでした。
麹の息を感じる
木槽に入れられた麹をみんなで丁寧に混ぜていきます。混ぜるときは湿度によって乾燥させないように広げます。
充満したいい香りにおいしい成長を感じます。
これがカビである胞子です。麹をずっと放っておくと緑色になります。
木槽の下の方は大変あったかいです。
体験メンバーと一緒に混ぜ合う楽しさは、他ではなかなか体験できません。
今回のコンセプト「カレーに合う日本酒」というカレー側を担当するシャンカール・ノグチさんです。
お米の味見をします。だんだんと甘みが増してくるんです。今回仕込んだ酒のオリジナルラベルを担当することになっている根本さんも味見です。
麹パワーのおかげで、手が美肌になってきた気がします。
この後、さらに3回目の麹室タイム!
次の日の朝、もくもくと甑(こしき)から蒸気が上がる中、蒸米仕込みを始めます。
前日に洗米した米を大きな甑(こしき)の中へ投入していきます。
蒸米は米のデンプンが糊状になり、麹菌の生み出す糖化酵素の作用を受けやすくします。
洗米した米が均一に蒸されるように広げます。
有賀兄弟の見事な連携に見入ってしまいます。
酒米が蒸しあがるまでの間、有賀酒造の酒蔵を案内して頂きました。
「虎マッコリ」の新酒が入った大きなタンクです!蒸した米に麹と水を加えて15日目経過しています。酒母や醪(水と麹と蒸米)を櫂棒を使ってかきまぜる櫂入れも体験できました。
アルコール発酵している酵母の音が聞こえているそうです。
一時間ほどで蒸米の工程が終了し、むくむくと湯気の中からおいしい米の香りが部屋中に充満します。
熱々の酒米をスコップですくいだします。
酒米の温度を下げるため広げます。
参加者みんなで手分けして、酒米を薄く均等な薄さになるように伸ばしていきます。
蒸し上がった酒米を手のひらですりつぶして「ひねりもち」をつくり、その日の蒸し具合を確かめます。
薄く広げられた酒米を保冷室へ運び、さらに冷まします。
手をかけて混ぜてきた麹も冷ますために蔵へ運びます。
麹を広げて冷まします。
発酵スタート
米が冷えてきたので、いよいよ添仕込みです!タンクの中の麹と水に、蒸した米を投入し混ぜ合わせていきます。
タンクの中に福島県産の酵母も加え、酵母を増殖させていきます。カレーに合う日本酒のコンセプトに寄せて、フルーティーな味わいを出す酵母を選定しました。
タンクの中身は相当な重量ですが、負けずに桶の底まで力強く櫂を入れます。
いい香りが充満しています。甘くてトロトロとおいしそうです。
添仕込みから約2週間が経過し、さらに発酵が進みました。次の工程はもろみ管理です。
酒母に3回に分けて米、麹、水を混ぜ合わせます。麹の消化酵素が米のでんぷんを糖化し、酵母菌がその糖分をアルコールに変えていきます。
カレーに合うおりがらみ
出来立ての日本酒を試飲します。白い沈殿物は醪(もろみ)を搾った後に残る「おり」です。このおりを取り除かずに瓶詰めした日本酒のことをおりがらみと呼びます。
完成した醪(もろみ)を搾って、酒粕と酒にわけます。
搾りたての日本酒がちょろちょろと出てきました。この瞬間が感無量です。
カレーに合う日本酒造りに参加された皆さん、お疲れ様でした!
今回のカレーに合う日本酒の名前は「なますて」に決定しました。「なますて」は、フルーティーな純米酒で大変口当たりよく、ついつい飲み過ぎてしまいます。
有賀醸造さん、自分たちの好みに合う日本酒を仕込む貴重な経験をありがとうございました!「虎マッコリ」の生みの親で10代目の義裕さんと裕二郎さんと最後にパシャり。
後日、神保町TAMで行われた純米酒「なますて」のお披露目会の様子です。なますてT-シャツに身を包み、「なますて」に合うカレーをお越しくださいました皆さまにお召し上がりいただきました。
日本酒に合うように仕込むカレーも色々と試行錯誤がありましたが、お披露目会当日は、フルーティーな「なますて」に合う味わい深いカレーが並びました。シャンカール・ノグチさんと「curry dinnig bar笑夢」の芳賀さんの美味しいカレー、今回の貴重な体験を与えてくださった「BARみちこ」さん、有賀醸造さん、なますてです。
【詳細情報】
有賀醸造合資会社
電話番号:0248-34-2323
住所:福島県白河市東釜子本町96
定休日:不定休
体験予約:要予約(見学は予約不要)
問い合わせ先:info@arinokawa.net
URL:http://arinokawa.net/experience.html
Facebookページ:https://www.facebook.com/arigajozo
BARみちこ
http://barmichiko.com/mysake
(text、photo:坂田)
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