油性ペンの元祖?マークのあのペンに込められた!な工夫 寺西化学工業
みんなどこかで見たことのある?マークの寺西化学工業さんの工場にきました。
そうです。こちらはみなさんお馴染みの油性ペンマジックインキの製造元。
僕らもお仕事でいつも使わせてもらっています。有難うございます!
大阪府守口市にある寺西化学工業の守口工場は、マジックインキ製造の主力工場として1963年(昭和38年)に稼働開始。当時、周りは田んぼや畑だったそうですが、現在は住宅地の中にあります。ここで作られているんだなぁ、と感動。
今日ガイドしてくださるのは工場長の銘苅(めかる)さん、よろしくお願いします!
まずはインクの作り方から学びます!
目的や書き味によって、細かい性能があります
寺西化学工業のペンたちがずらっと並んでいます。全部使ってみたくなる。
カタログを見せてもらうと、ペンとひと口にいっても色や先の太さだけではなく、さらに線の太さやひと息に書くことのできる距離(筆記距離)、ダンボールには適しているけど和紙や色紙は適さない、のような細かい性能に分けられています。
このように、さまざまな書くものや書き味に対応するために、インクも油性と水性、粒子が溶けやすい染料と粒子が大きいけど紙にとどまりやすい顔料、など目的や用途に合わせて使い分けられているのだそうです。
マジックインキの原料は3つ
マジックインキ「大型」の場合の原料は主に3つ。(1)染料と( 2)有機溶剤と(3)樹脂。
染料は色を出すもの、有機溶剤は溶かしこまれる媒体の役割。そして樹脂はというと、書いたときにインクが垂れ落ちにくくするために含まれています。
キシレンなどの有機溶剤は地下タンクに保管されています。危険物なので取扱注意。
この下にタンクが埋まっていて、溶剤が入っています。
油性ペンの場合は石油系の原料が有機溶剤として使用されますが、水性ペンの場合は水になります。
また臭いもキツくご近所に迷惑をかけてはいけないので、脱臭装置も完備。
中には活性炭が入っていて臭気を取り除いた上で排気しています。
インクの原料を混合する場所を見せてもらいます。
混合の手順は、
(2)それぞれが馴染むように温度を上げるためにお湯であたためます。
(4)遠心分離機で不要物を除去します。
この段階で出てしまった不要物は特別産業廃棄物として処理されます。
こうしてできあがったインクの原液は、色ごとに保管されます。
ドラム缶一つにはおおよそ150kg、マジックインキ「大型」1本に約9~10gのインクが使われるのでおおよそ15,000本分です。
特に多い黒・赤・青の三色はパイプを通って次の組み立ての工程へインク原液が送られます。
黒色は全体の7割くらいを占めているんですって。
安全を守るラッパがある
この建物の中は危険物がたくさんあるので、もちろん火気厳禁。
もしも火が出てしまったときには、液化炭酸ガスがこの建物全体に充てんされ酸素をなくすことで鎮火される仕組み。このラッパはその時に「今から液化炭酸ガス行くぞ」とアナウンスする装置です。映画でよく見る潜水艦の声を伝達する装置「伝声管」と同じ役割を果たします。
ちなみにまだこの装置は一度も使われたことはありませんが、いざという時のために、キチンと機能するかのチェックは定期的に実施。
今回見せてもらうのは、マジックインキ「大型」の黒です。容器になるビンがずらりと並んでいます。
まずは、ビンの中にインクが充てんされます。黒色のインクは先ほどの原料を混合する建物から配管で送られてきます。写真の中の機械の左の回転する車の部分でインクが注入され、ビンが運ばれていき、右側の少し大きめの車の部分で「中芯」と呼ばれるインクをしみこませておく素材(吸収体)がビンの中に入れられます。
中芯があるので、ビンを逆さまにしてもインクが垂れ落ちてきません。
マジックインキ「大型」はインクがビンの中で乾いてしまわないように密封性を保つため、パッキンが入っています。
次に待つのはキャップのはめ込み。ちなみにビンやペン先、キャップはじめパーツはすべて日本製のものを使用。工場長によると「やっぱり信頼の面で日本製のものは全然違う」とのこと。
キャップが開けやすくなりました!
発売以来、ほとんど同じ形状のマジックインキですが、2015年の6月にキャップが開けやすく改良されました。写真の左側のものが改良前、右が最新バージョンです。
材質をPBT樹脂に変えて柔軟性を向上させ、キャップ内部の形状を変更し、また円周を少し大きくすることで力を伝えやすくなり、開けたり閉めたりが簡単になりました。
筆記具業界に革命を起こす、マジックインキ!
マジックインキ「大型」が発売されたのは1953(昭和28年)年4月。
当時の筆記具の主流は先端に少しインクを付けながら書くつけペンや万年筆、鉛筆など。
プラスチック、金属やガラスなどには、書くことはできても手で擦るとすぐ消えてしまいました。そこで開発されたのがこちら。どんなものにも書くことができ、すぐに乾く、雨でも手でこすっても消えないペンとして誕生。まさにその効果はマジック!
魔法のインキ「マジックインキ」として、「筆記具業界に革命を起こす」という意気込みで文具店などに売り込んだものの、最初は苦戦しました。その理由は…
キャップを閉める習慣が日本には無かったから!
まだマジックになじみのない日本では、使用後にキャップを閉める習慣がなく「ペン先が乾いてかすれた」という苦情が殺到し、苦戦を続けたのだそうです。
なるほど!今でこそ普通にキャップを閉めるけど、初めてだったらわからなかったかもしれませんね。僕もキャップを閉めずにそのまま置いておいたら親や先生に叱られた記憶があります。
しかし百貨店での実演販売や説明書きを箱に入れるなど、普及に向け努力を重ねた結果、その便利さや使い方が世に広がりはじめます。やがて仕事や生活には欠かせない筆記具として、発売から半世紀たった現在でも使われ続ける超ロングセラー商品となりました。
キャップがはめ込まれたマジックインキには、薄いビニールのシールが巻かれていきます。
これは落としてしまったときに中のビンが割れにくくするため。工事現場など動きながらだったり高い所で仕事をするときにも使われるので「割れにくい」というのも大切な性能です。
巻かれたシールは熱によってあたため、ビンにぴったりなサイズになります。
箱が組み立てられるラインと、マジックインキ本体が流れるのラインが交わりながら、一本箱への箱詰めが進んでいきます。
キチンとセンサーでウエイトチェック。ペンのない空箱はセンサーで感知され、エアーで吹き飛ばされます。
出荷用の箱詰め作業です。この工程は3人の従業員の方で担当。10本ずつマジックインキは出荷用の箱に詰められます。
用意されているぺったんこ状態の箱をすばやく立体化しなければなりません。
あとはフタを閉じるだけ!
と簡単に書きましたが、これが一定スピードを保ちながら、というのがとても難しいんです。
銘苅さんが「やってみる?」ということで、体験させてもらいました。
次々に来るマジックインキに焦ってしまいます
まず箱の組み立てがむずかしいー。1本箱と出荷用の大きい箱がぴったりキッチリなのでナカナカ収められず、焦りが重なる。さらに次から次にマジックインキの1本箱が流れてくるので、手につかずフタがキレイに閉じられません。
この一連の作業を手早く確実に行う従業員のみなさんに脱帽です。
このマジックインキ「大型」用の製造ラインの一部は、1963年(昭和38年)製。今でも現役で元気に活躍しています。シンプルな機械を組み合わせて使っているから、部品の入手も簡単でそんなに手がかからずメンテナンスできるのだそうです。
マジックインキ「大型」の製造風景の動画もどうぞ!
次は、マジックインキ「極太」!
「大型」に比べてその筆記線幅(かける太さ)は倍以上の10×18mmで、工事現場や工場、イベントなど大きく書くときに大活躍。
マジックインキの生産は、太さが変わるとペンの胴部分やペン先の大きさが変わってくるので、別のラインでの製造になります。
つづいて、マジックインキNO.500、細書き用で幅広く使えるタイプ。
中芯のフェルトは折り曲げられて、ペンの胴部分に入れられます。
ペンを逆さまのまま移動させることで、インクをペン先に染み込ませます。
こちらは水性インキをつかった「マジック ラッションペン」の検品&封入作業。
カラフルな多色セットは3〜4月の新入学シーズンによく売れるのだそうですが、赤と黒のペンのセットはなぜか9月に需要が高まる商品なのだそうです。季節によって売れる色やペンの種類も変わってくるなんて楽しい。もうすぐの入学式のなんだなぁ、とか作業しながら考えたり。
一番太いペンがゆび3本くらいだったので、すごかったです
こちらの工場にはご近所の守口市の小学生が見学にきます。カラフルなペンで感想がたくさん。みんな一生懸命書いてくれています。
工場見学の後、広報ご担当の今井さんにお話を少し聞くことができました。
一般のエンドユーザー向けの商品では、若年層女子向けのラッションプチを開発。色バリエーションが36色あり、手帳に使ったりメモ書き、メッセージカード用。
0.3mmのペン先で小さい文字が書きやすかったり、ペンが細いのでペンケースにたくさん入るとか、女子向けペンとして注目されています。散りばめられたハートマーク♡やRushon petiteという可愛いロゴも好評。僕も使いたいと思います。
乾かないけど、乾きやすいペンが欲しい??
いっぽう、最近は産業用・工業用の需要も高まっていて、プロ用は屋外で使うことが多いので「硬いものに書いてもペン先のへたりが少ないものをつくってくれ」とか、「キャップを外したままにしてても乾かないけど、書いた後にはすぐに乾くようなものがいい」というなかなか難しいリクエストをいただくこともあります。用途や目的によってペン先やインクの種類など改良を続けています。
油性ペンの元祖「マジックインキ」は筆記具の一分野を築き上げ多くのペンのルーツになりましたが、その製造現場ではこれまでの製品をもとにしながらも、書き味や用途など使ってもらう人のことを考えた製品づくりへの工夫をしっかり見ることができました。
※「マジック」「マジックインキ」は株式会社内田洋行の登録商標です。
(text:西村、photo:市岡 ※一部の写真は寺西化学工業さんの提供)
関連するキーワード