みんなに思わず手渡したくなる!活版刷り名刺の秘密を見つけた 中村活字

お店の中今日は活字を見学。

中村活字店先中村活字(なかむらかつじ)さんは創業105年、活版業界の老舗。最近はパソコンのソフトが発展していて、Illustlatorなど自分でレイアウト・デザインをして印刷屋さんにデータを持ち込んで名刺を作る方も多い中、こちら中村活字さんの店先は活気に溢れています。その元気な活版の理由を探しにやってきました!

中村活字軒先お店はおしゃれなショップやレストランが並ぶ東銀座のメインストリートを少し入った通りにあります。

中村明久さん社長の中村明久さんです。今日はよろしくお願いします!

活字メインイメージ中村活字は当時の京橋木挽町で中村活版製造所として1910年(明治43年)創業。100年以上の歴史を持つ活字屋さんです。当時から銀座は電通などの広告会社や出版社などが集まっていた情報文化の中心地。印刷関係の会社だけでも200社以上もあり、当時、銀座の地場産業は印刷業といえました。
ルネッサンスの三大発明であるグーデンベルクの活版印刷が15世紀に発明されて以来、500年近く活版は情報発信の手段として定着し、戦前戦後の新聞はすべて活字。昭和の終わりまで使われ続け、印刷に関わる職人さんもたくさんいました。

中村明久さん語る文選、植字といったさまざまな職人が活躍する世界でした
現在の印刷はパソコンのソフトでデザインやレイアウトを行い、製版フィルムに絵や写真、文字を焼き付けたそのフィルムを機械にかけ印刷するという方法が一般的です。しかし活版印刷の場合は、記者や作家さんが原稿を書き、その後からは職人さんの世界。
活版印刷の工程は大きく分けて4つ、文選(ぶんせん)という活字を拾う人、植字(ちょくじ)という活字を組んでいく人、印刷工、解版(かいはん)という作った版をバラす人というように分かれており、それぞれ専門技術を持った職人さんが担当していました。

中村さん語る

祭り半纏お祭りの時に使った半纏があります。
Tのマークは、創業者であるおじいさまの貞二郎(ていじろう)さんのT、もしくはTypography(タイポグラフィ)のTと二つの説がありますが今となってはナゾです。

工房の中へ工場の中を見せてもらいます。

活字の引き戸たくさんの活字が「引き戸」というケースに入って並んでいます。

馬の背この活字の棚は「馬の背(うまのせ)」と呼ばれています。少し傾斜がついているのは、たくさんの活字が落ちないように、そして文選の職人さんが選びやすいようにという工夫。

活字が並んでいる活躍する活字もあるし、使われない活字もある
たくさんある活字、選ぶのが大変だなぁ僕だったらやってらんないな、と思っていると、並び順に工夫があるということを教えてもらいました。例えばこの写真のケースには「平成」「東京」、年月日というようによく使われるものが並んでいます。ケースの「平成」のところは上から紙のシールが貼り付けられていて、そのシールの下は「昭和」、つまり時代が変わるとこのよく使われる活字たちグループから「昭」「和」の文字がさり、「平」「成」の文字が入れ替わりに入ってきた痕跡です。そしてこちらは東京にある会社なので「東」「京」の活字がよく使われ、大阪の活字の会社ではきっと「大」「阪」がよく使われる文字として集められているのだそうです。時間や場所によってよく使われる活字が違うなんて、パソコンを使っていると気がつかないことかもしれません。オモシロイ。
そしてその一方活字は作ったけど使われないままの文字もたくさんあります。

活字の見本帳活字の見本帳です。印刷をお願いするときは、このようなサンプルを見ながら選んでいきます。

書体もいろいろ書体もいろいろ。

活字を拾うまさしく活字を拾ってる。大変な作業。
昔書籍を活版で印刷していた当時は重版(一度出版した印刷物を再び印刷すること)するともう一度活字を拾って組版して印刷するという気の遠くなるような作業でした。
江戸時代にも木製の活字で活版印刷を行っていましたが、増刷のときには再び活字広い、組み直し、もう一度校正といった時間と大変な手間であることと、高価なので「版木」というすでにレイアウトされた状態で木の板に文字を彫っていくものが主流になりました。

名刺用のステッキ名刺用の組版を行う「ステッキ」というケースを見せてもらいます。
現在は書籍や新聞、広告といった印刷物はパソコンソフトとフィルムで製版する印刷機にほとんど代わっていて、中村活字さんで印刷するのは名刺やハガキといった小さい印刷物が中心。
このステッキの中に組版した活字を入れて印刷を行っていきます。

名刺サイズ日本の名刺サイズは55×91mmが定番。このサイズは実は黄金比。
欧米では89mmと少し細くなっています。

縦横間違えないように活字には「ネッキ」という活字のボディの上面に溝が入れられています。
組版するときに縦横を間違えないように、という工夫。

クワタ文字の余白の部分には「クワタ」という板を積み重ね文字のない部分を埋めていきます。
横に長い板のクワタは行間、文字間の余白にも同じようにクワタが使われます。

ピンセットクワタはとても細かいので金属や木製のもの、紙製もあり、組んでいくときは細かい作業が要求されるのでピンセットを使用。しかし活字自体は「活字合金」という柔らかい金属でできているので、組版の時は傷まないようにピンセットは使いません。

活字サイズイメージ10.5ポイントの謎
活字は5号や16ポイントという単位で大きさが決まっていますが、この文字間の空き具合は、文字サイズごとに調節する必要があります。一文字分の空きが「全角」、半分の空きは「半角」です。パソコンのワープロソフトのスペースの「全角」「半角」もこの活版用語から来ています。
ワープロソフトの「10.5」ポイントという半端なフォントサイズも実は活字の大きさの基準が残っている名残。

活字マシン中村活字では、創業当時から活字そのものを自社で製作。母型(ぼけい)という活字の型を持ち、マシンで鋳造しています。

母型これが活字を作るための型「母型」。

年賀状の母型セット年賀状でよく使われる活字はあらかじめセットになっています。

活字合金の原料活字合金の原料の活字合金には鉛、アンチモン、錫が含まれています。

ガス噴出この機械ではガスで原料である活字合金を溶かし、母型に押し付けて活字が生まれていきます。

活字再利用試作で作ったものや不具合があった活字は溶かして再利用します。

母型庫に入る母型は活字屋さんの財産です
活字自体は上のように鋳造できるのですが、その型である「母型」は活字屋さんにとってとても大切な財産。火事や空襲でも大丈夫なように耐火仕様の金庫に保管されています。
入り口も細くなっています。

母型庫の中これが母型庫の中、型を作る職人さんもほとんどいないので、中村活字にとってはもちろん、日本の活版印刷にとっても大切な資産です。

印刷の職人さん印刷の職人さん。

印刷職人試し刷りをチェックしています。

ハーフエア活字の名刺には「ハーフエア」がおすすめ
活字は押し付けて印刷していくので裏面に独特の凹みができることがあります。その風合いを好んで活字の名刺にする人がいるくらい。
この紙は「ハーフエア」という種類で、名前の通り紙の繊維の間に空気が含まれていて、活版印刷にすると、優しい感じの手触りとこれぞ活版の名刺という仕上がりになるのだそうです。

ゲラ「ゲラ」の語源もあります
出版・印刷業界で今も使われている「ゲラ」の語源は英語の「ギャラリープルーフ」といわれています。このギャラリープルーフは組版された原版(げんぱん)を置いておくふちの浅い木箱のこと。中村活字さんのギャラリープルーフがこれ。この中に組まれた原版が印刷を待っています。
印刷を待っているとギャラリープルーフ→ギャラリー→ギャラ→ゲラ、のようになったのでしょうか。

名刺を作る活版印刷は知れば知るほど奥深い、ワクワクしてきたのでお名刺をお願い、見本を見せてもらったり紙を選んだり、刷り色をどれにしようかと悩んだり。考えるのがとても楽しいです。
中村活字ではインターネットでも注文を受け付けていますが、できれば対面で相談してほしい、という思いがあります。「間違いがあったらいけないし、それが一番早いよ、がはは」と明久さんはおっしゃいますが、お願いする人と一緒に考えたり選んだりという時間が大切にしているんだと推察いたします。

お店に来てよ、がははまずはお店に来てよ、ガハハ〜

明るい中村さん初めて会う人に触れるツールなんです
とっても楽しい工場見学でしたが、パソコンソフトやデジタルな技術にとって代わられ、さらに高齢化・手間がかかる・需要の低迷といった理由で業界全体が衰退しているのは、素人の僕でもわかります。

しかし中村さんは「でも最近わざわざ活字で名刺作りたいっていう人がふえているんだよー」と楽しそうに教えてくれました。

この取材中にも、お客さんが何人も相談・発注に来ていて「フリーランスになった時に気合入れて作って以来、やめられなくなった」「幸運の名刺なんでずっと増刷しないといけないの」といったお客さんの声を聞くことができました。
イラストレーターのお客さんは、とあるイベントの名刺交換の際に、相手の方も活字の名刺であることに気がつき「あ、おたくも中村さんで!」と偶然出会った方と中村活字のことで盛り上がったエピソードを披露。名刺を引き取りに来た知らないお客さん同士が、出来上がったばかりの名刺を交換するシーンに出会うこともできました。

中村さんいわく、名刺は初めて会う人に触れるときに渡すものだから大切なんだよね。それはみんな直感的にわかってるんじゃないかな。

創業100年のメッセージ台帳写真は中村活字創業100周年を記念して、お客さんに書いてもらったメッセージが書かれた帳面。ファンによってたくさんの活字愛が書き込まれています。手書きだけど。

また、中村活字では、お客さん兼クリエイターさん兼仲良しのみなさんと活字のワークショップを実施したり情報を元気に発信中。
中村活字のブログ

ご兄弟機械や技術は日々進歩している出版・活字の世界ですが、活字の世界はずっと続きそう、と感じることができました。なくなると僕も名刺が増刷できなくなるし、困る。

今日は楽しいお話を伺うことができて有難うございました!
また伺います。

【詳細情報】

株式会社 中村活字

電話番号:03-3541-6563
住所:東京都中央区銀座2丁目13番地7号
URL: http://www.nakamura-katsuji.com/

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