その場所で生まれたものを世界に伝える。
そして、きちんと売っていく。 堀内康広さんインタビュー〈後編〉

堀内さん03

たくさんのヒト・モノ・コトとつながりさまざまなプロダクトを生み出している、TRUNK DESIGNの堀内康広さんのインタビュー後編。今回はこちら、神戸市塩屋にあるカフェ&ストア「TRUNK DESIGN KOBE SHIOYA」で、今後の取り組みについてお話を聞きたいと思います。
前編はこちら。

カフェ店内

垂水区塩屋は淡路島と穏やかな瀬戸内の海を見おろす坂のまち。
海のすぐそばにある塩屋駅の北側は閑静な住宅街で、神戸港開港の際に外国人が暮らした古い西洋建築の建物もたくさん残っています。

塩屋風景04

この塩屋のスペースはどういった場所なんですか?

地元の人や塩屋に遊びに来た人がゆっくりお茶を飲んでもらうような週末の土日だけ開けているカフェです。塩屋には世界で活躍するイラストレーターやアーティスト、カメラマンといった人たちが実は住んでいます。そんなクリエイターも町の人たちも相席してもらうことを意図して、大きなテーブルを真ん中においています。でも「坂の景色を見たいから椅子を動かして良いですか?」というお客さんが多くて、窓側にソファを置くようにしました。もともと眼科だった建物の2階に看板も小さく構えているので、入って来にくい(笑)。だけど一度来てくれた人はファンになって繰り返し来てくれます。

カフェ塩屋 SHIOYA_看板 カフェスペース2 カフェ店内 塩屋のこと

カフェの他にもプロジェクトでお世話になった生産者さんやメーカーの方が顔を出してくれたり、お菓子の職人さんや近所のアーティストたちが出店してくれるマルシェ、ギャラリーなども定期的に開いています。
夜には「集いのbar」という、ゲストをお招きして四季のおでんと日本酒でちびちびやったり。お料理に限らず作る人と作る人に興味がある人がつながる場になれば良いなと思っています。

集いのBAR

障がい者アートと地場産業を組み合わせ、形にしてこの土地ならではのものを作る

地元垂水との関わりでいうと、障がい者施設のものづくりの支援を4年くらいやらせてもらっています。僕のプライベートワークみたいな感じなんですけど、僕の人生のチャレンジとして、ボランティアでもいいから福祉に対して何かをやろうと思ってスタートしました。
僕らが運営している「たるみマルシェ」に出店したい、というのがそもそものきっかけで、垂水区の自立支援評議会が「垂水区の事業者さんのギフトカタログみたいなのを作りたい」というお話からスタートしました。

その障がい者施設の製品のカタログ制作を進めていく中で、写真の撮り方とか、商品の見せ方とか、注文が入った後の梱包のレクチャーも。そんな勉強会みたいなこともやりつつ、みんなで一緒に作っていきました。カタログ作りの他にも、料理研究家を呼んで一緒にレシピの本を作るワークショップをやったり。お菓子づくりでは地元のパティシエを呼んでレシピの改善や新商品を作ったりさまざなま試みをしました。僕はそのお菓子のパッケージをデザインして、その辺にあるようなお菓子屋さんと障がい者施設が作ってる垣根をなくすことを目指しました。完成した商品をギフトショーに出してみることで、市場価格や世の中に出ている商品の品質がどうなのか?などのリサーチを行いました。

商品開発にも携わらせてもらい、その時には障がい者施設に通って作る人の特徴だったり得意なところを見極めることにしています。その人の得意なところを伸ばすことで障がいってなくなるんじゃない?と気づきました。実は僕より能力がある人なんか山ほどいる。なので、そこをちゃんと引き出すようにしています。とても面白い柄やデザインになるんですよね、「特殊能力じゃん、これ!もっと活かそうよ」となります。

この面白い柄を10mのロール紙にずーっとローラーでひたすら塗ることが好きな人がいて、紙に描いてたらプロダクトに落としこみにくいので、素材を布に変えて塗ってもらいます。紙から布に変えてもやってもらうこと自体は同じ。しかし、布にさえなったらいろんなものに変えてアウトプットしやすいので、布でいろんな柄を作ってもらいます。線を描くのが好きな人にはひたすら布に線を描いてもらいます。

できあがった布は地元の靴屋さんとコラボレーションして足袋にすると、オンリーワンなものになります。切り抜く場所によってグラデーションが変わるので、とても面白い仕上がりになります。素材を帆布に変えてみるとカバンになりますし、地場産業と障がい者アートで組んで形にして、その土地ならではのものを作ることもできます。

障がい者アート作品

西宮の和ろうそくに絵を描いたり、播州そろばんの珠一個ずつに全部柄を描くこともできる。そろばんに描くのは細かくて気の遠くなる作業だけど絵を描くのが大好きで集中力もあるから、作品と呼べるほど素敵な仕上がりになります!計算道具のそろばんじゃなくてニューヨークやパリで、アート作品としても売れると思います。そろばん一個が5万円!メーカーだと「生産効率の悪い」ってなっちゃうけど、彼らの強みが生きてくる。彼らにとってずっと好きなことをずっとやり続けられるように、それが仕事になればいいわけじゃないですか!そういったサポートをしています。マッチ箱一個ずつに絵を描くとか。
ろうそくは西宮、マッチは太子、播州織は西脇、そして小野のそろばん、地場産業と障がい者を組み合わせた商品開発には可能性があると考えています。

日本全国どこの障がい者施設でも作られる「さをり織り」という織物があります。さをり織りには、規格がありあらかじめ決まった糸をチョイスして買って作るのですが、「糸ももっとこだわってオーガニックコットンにしたらいいんじゃない?」「自分たちで草木染めで糸を染めてみよう!」だとか。糸自体が変わっても機械でガシャンガシャンする行為は変わらないわけで、使う人が喜ぶ素材に変えて配色パターンのルールまでを作り、使う糸の色だけを決めておく。織り方や柄の入り方は作る人にお任せして...という感じで、さをり織の草木染めのストールを作りました。

hyogoMap

兵庫県の地図!
姫路のマッチが「燐」になってたり、淡路島の「香」、小野のそろばんが「珠」...兵庫県のものづくりがパッとみてわかるポスターですね。

地場産業のことをやり始めた時に、ちょうど「兵庫」っていうのをテーマにしたポスターコンテストがあったんです。これは当時の作品でグランプリを獲得しました。

産地に一人でも雇用が生まれたり、街がにぎやかになっていくようなデザインをやりたい

お店で説明していると兵庫県の人でも「淡路のお香を知らなかった」「塩屋の沖で作ってる海苔って日本で第2位の生産量なの!?」とびっくりします。地元のものづくりをきちんと伝えたい、という想いから2011年に立ち上げたのが「Hyogo craft」です。
まずは地元の人に地元のものづくりを伝える、次に地元のものづくりを日本全国に広める、そして世界に発信する、この3つのステップを軸に進めています。

Hyogoクラフトの商品 醤油

地元兵庫県の地場産業をどうにかして広げたい、と思いを持ちつつ、どうするかな、と悩んでいました。ナガオカケンメイさんに相談して「地元のものづくりを発信しようと思ってるんだけどアドバイスください」といって、この地図を持っていきました。「超大変だけどやった方がいいよ」と背中をしてくれたので、その場で「やります」と決めました。

その後、自分たちで兵庫県内各産地の組合に、「兵庫のいいものづくりを発信したいので、一回見学させてください」と突撃電話してアポを取り。県内各地を車で回りました。こんなことしてると収入が見込めないので生活していけない、ヤバイ!じゃあ300万借金して一年間この活動の費用に充てるぞ。とりあえず銀行でお金借りよう!(笑)

このHyogo Craftは自分たちのやりたい仕事なんだけど、誰から依頼されているわけでもないし、行政の案件でもない、補助金とってるわけでもないし...。なので、クライアントワークと自分たちのやりたい地場産業のことの仕事の比率を逆転させることにしました。広告でウソをつくデザインをもうやめようと思ってたし、自分のデザイナー人生としてこっちに向いていった方がいいな、という思いがありました。各産地に一人でも雇用が生まれたりとか、街がにぎやかになっていくようなデザインをやりたい、そういうのを自分の人生の中で残したいな、と強く思いました。やりたくなくてもお金を稼がないといけないこと、っていうのと、やりたいけどお金を稼げないもの、っていういろんな葛藤があって、貧乏でもいいけどどっちを選択するのか。
「迷ったらいばらの道を行くでしょう!!」と、いばらの道を選んだわけです。

その後いろんな職人さんのところを回りました。当初は自分たちが商品開発してプロダクトを作る目論見があったわけではなく、回ってたらいいものあるやろ!!みたいな。それを見つける旅を続けました。職人さんが作るものの販売のお手伝いなどを通して、会いに行けば行くほど関係が深まっていきました。

播州そろばんを海外に売る「MORE THAN PROJECT」

そんな風に運よくいろんなプロジェクトに参加しながら、経済産業省の事業「MORE THAN PROJECT」という海外販路開拓事業の一つの製品を担当させてもらうことになりました。
海外から見ると日本って「フジヤマ、スシ、サムライ、ゲイシャ、テンプラ」みたいなイメージだけど、違うよ違うよもっといいもの日本にはあるよ、というのがMORE THAN PROJECTのコンセプトなんです。
僕が担当したの地元兵庫県小野市の播州そろばんです。あのそろばんです。よくセミナーや講演会の時に言うんですけど「皆さんこれを見て、自分が海外に売る立場だったら売れますか?」と。正直非常に難しい...みんなに心配されました。「堀内くんどうすんの。これ大丈夫?」って(笑)。

播州そろばん_MORETHAN

MORE THAN PROJECTは、7月からスタートしてその翌年の2月には終わらせないといけません。スケジュールはすでに決定済み、2月には渋谷のヒカリエでレッドカーペットの上で100人の前で最終報告会でプレゼンしないといけない。一年間何もやってなかったら話すことない、プレッシャーもあり、なんとかしないといけない!ということで、リサーチをしまくりました。小野に通いまくって問題点の洗い出しから。まずは何に困っているのか、ということを調べ聞きまくって、後継者問題とか少子化が進んでいるので日本ではそろばんが売れないだとか。そろばん塾って現状どうなのかとか。増えてるの減っているの?塾生はどうなの?今の卸先は?とか。そろばんは塾に売ってるの?営業方法や売り方どうなん?作り方の工程を教えてください。歴史はどうなの?などなど。
自分の中で知っておかないと伝えられないので、まずは基礎知識を得るために徹底的にリサーチをして現状を知ることからはじめました。職人さんのところを回って、工程の写真や映像を撮ったり、してリサーチしてそれを映像にまとめて展示会で流せるようなものを作りました。

次に海外に出るための準備をしていく。日本だったらそろばんの授業があるけど、海外ではどうか?日本では今も3年生と4年生で授業があるんです。でも、今は各学年で2時間ずつしかとってないんです。昔はもっとあったらしいんですが。マイそろばんとかを昔はもってたけど今は学校が貸してくれるんですよ。だからそろばんが売れない、ということを知ったり。いろんなことがリサーチでわかりました。

そろばんが下火になってしまった理由は?なぜ産地としてしんどくなってきたのか?課題を解決していくと産地がどう喜ぶのか?といったことも考えたり。しかし、むやみやたらに海外に出ても仕方がないので、ターゲットになる国をちゃんと選んで、そこにアプローチしていくための方法を練り上げました。

ものだけじゃなく「行為」から伝えて残していく、海外でのマイそろばんづくりのワークショップ

まず行ったのがベトナムです。ベトナムの「ジャパンフェスティバル」というイベントに参加しました。その後、日本式の教育をベトナムに根づかせようとしている現地の塾とのコラボレーションもスタート。その塾ではカリキュラムの中にそろばんを入れてもらいました。しかし、いきなり「そろばん!」って言っても、誰も興味を持ってくれない。そこで「マイそろばんづくりキット」を持参し、子供たちにそろばんを作ってもらうというワークショップを行うことにしました。

ワークショップもやったら終わりではなく、このワークショップの作り方自体を現地の先生たちにレクチャーしておくんです。だから、現地の先生みんながワークショップの先生になることができる。マイそろばんワークショップは子供たちが集まって「おもしろそう!!」と、塾の集客装置にもなるんです。じゃあ、ワークショップを先生たちだけで運営できるようになったらワークショップの道具である「マイそろばんづくりキット」を置いて帰ってくる。次からは、メーカーとして発注をもらい、完成品を作らなくても、珠、枠、ネジ、竹ヒゴ、材料だけ材料だけどんどん出せばいい。バラバラで送っちゃえばいい。ワークショップのやり方とマイそろばんの材料をパッケージにして海外に売りに行こう!

マイそろばんワークショップ マイそろばんワークショップその2

ベトナムの次は台北でトークイベントをやったり、シンガポールではあるお店の軒先を「1時間でも2時間でもいいから貸してくれ。ちょっとだけチャンスをくれ」とお願いして場所を借りました。
ワークショップをするとすぐに人が集まります。「活動が面白いから、その活動をプレゼンテーションしてほしい」と場所を借りたお店の代表に呼ばれて、そこで産地のそろばんメーカーのおっちゃんと一緒にワークショップをして来ました。そろばんのおっちゃんと半年で、海外にめちゃめちゃ行きましたね(笑)。

そろばんワークショップ

日本でも自由が丘で場所を借りて3日間ともずっと朝から晩まで盛況の状態でした。普通に「そろばんを買いませんか?」とやってもこんなに集まらないけど、やはりマイそろばんが作れる、という一つのきっかけでそろばんを使う人口が増やしていくところからはじめる。ものだけじゃなく「行為」から伝えて残していく。マイそろばんを作ったら、ちゃんとそろばんの計算のやり方も最後に教えて帰ります。学んで帰ってもらいます。

ワークショップを行うことでそろばんの可能性みたいなものを見つけて、MORE THAN PROJECTが終わっても、そろばんの産地の小野のおっちゃんは海外に生まれたつながりをもとに、ワークショップをして旅をして、今もビジネスにつなげています。

不思議なつながりから生まれた台湾との縁。今では日本と台湾をつなぐ、架け橋になるような仕事につながっています

「台湾」というキーワードが出ましたが、堀内さんは台湾のさまざまなプロジェクトにも携わっていますね。

5年ほど前から台湾に行きはじめました。きっかけは「神戸モトマチ大学」というイベントで、僕は運営側だったんですが、ちょうどモトマチ大学の聴きに来てたお客さんと神戸駅から帰るときに電車が停まっちゃってたんです。「電車とまってますね。今日は有難うございました」となり「待ってるのもなんなんで一杯飲みに行きます?」と焼き鳥屋にいくことになりました。

そのできごとの前に「最近台湾のデザインが面白いんだよね」と別の知り合いから具体的に何がどうとは聞いてないけどなんとなく耳にしていました。焼き鳥屋で飲んでいると、その人も学生時代に台湾に留学してたらしく、友達の結婚式が2ヶ月後にあるから台湾行くんです、と。「へぇ~そうなんですか?じゃあ僕もついて行っていいですか?」(笑)。台湾って面白いらしいんですけど、行ったこともないですし、何もわからないですけど「ついて行っていいですか?飛行機とホテル教えてください」って言ってついていきました。それが最初です。

ついて行っちゃったんですね!(笑)

そして、半年後くらいかな。ニューヨーク在住の日本人から一通のメールが来たのですが、その方の知り合いがお菓子屋さんを始めるんですけど、そのブランディングとかデザインをしてもらえないですか?というお話でした。ポートフォリオをWebで公開していないのですか、ということで「お会いして見せするようにしています」とご返事しました。「海外なのですぐに会う、っていうのが難しいんです。紹介したい人は実は台湾にいるんです」と。またそこで「台湾」というワードがポコッと登場しました。

そして驚くことに、パティスリーをはじめる台湾人の方は、もともと神戸のスポーツ用品のメーカーで働いてたんです。日本語も喋れるというお話でした。台湾のマーケティングのことは僕もよくわからないので「では、一週間行きます」といって現地で一週間マーケティングリサーチを行いました。

実際に台湾に行った後は「今どうやって売ってるの?」「どうやって売り上げあげてるの?」みたいな話や彼のやりたいことを聞いて、見積もりを出してみると「思ってたより高い」って言われました。じゃあ、希望額でやる代わりに、僕が作っているものづくりを台湾で売りたいからサポートしてくれるようにお願いしました。
昼はそのお菓子の会社で打ち合わせして、夕方からパティスリーの彼がどんどん突撃電話でセレクトショップにアポを取る。一緒に行って通訳してもらってプロダクトを紹介して取り扱いしてください、という営業活動を二人で毎日やりました。
そうして台湾でつながったのが、fujin tree(フージンツリー)なんです。

当時、fujin treeはまだまだこれからという時期で、お会いできたのは代表の奥さんのミドリさんという方でした。彼女は神戸出身で僕と一歳違い。「普段はそんな営業の電話が来たら断るんだけど、神戸からデザイナーが来たから、じゃあ会ってみよう」ということで、運よく会ってもらうことができました。彼女も地元神戸の展覧会をやりたかったという話で、半年後に台湾でエキシビジョンやることになりました。そんな感じで台湾とのかかわりが深まっていきました。

その「台湾に会社を作ろう」と仲間と2年くらい前に話をしていて、「仕事がなくても2ヶ月に1回以上絶対行くぞ」ってルールを作って実際に行くようにしました。二人でずっと行ってたんです。そして、行政などいろんなところに挨拶回り、自分たちが持ってるコネクションでどんどん連絡して行って営業活動をしました。すると台湾デザインセンターからmade in taiwanのプロデュースの依頼が来るなど、つながリも広がりました。今も神戸市とのプロジェクトが進行中で、台北のポップアップのイベントの総合プロデュースもやってたりとか。台湾と日本をつなぐ、いい架け橋になるような仕事がじわじわ増えてきています。

台湾製品 台湾の雑貨

日本のものづくり地域を海外にも発信していくのが、今やりたい!やろうとしていること

台湾デザインセンターとのつながりから、木工彫刻をやっている伝統工芸士の職人さんとアクセサリーのプロデュースに携わるようになりました。もともと仏壇の彫刻とかやってた人がアート作品も作っていて、ちょっと作品がデカくて高価。「あなたの作品が例えば5,000円や10,000円で買えるものができたら買う人はいると思いますよ」というところから、新しい商品を一緒に考えていきました。プロトタイプを依頼して、チェックしてまた修正して、またチェックといったサイクルで毎月現地に行っていました。

台湾の職人さん

もう一人の職人さんとは、漆を使ったアクセサリーを作っています。塗り重ねて削ると模様が出るという技法で作っている重ね漆が得意な職人さん。台中の山の中の自然が豊かなアトリエで作っているのですが、その窓から見える風景や空気感がとても塩屋に似ているんです。高台にあって土手を降りていくと川に降りられたり。そんな場所なので、自然のものに漆を塗って何か作れないか、拾ってきた石でなんか作れないか、と彼と一緒に知恵を絞りました。

「同じものを永遠作り続けたくない」と職人さんに言われたので、じゃあ気分で変えちゃおう、ということにしました。雨の日、晴れの日、満月の日にしか作らない。単なるプロダクトではなく、その日やその時のストーリーを入れ込んでいくことにしました。
僕が完成形を決めてしまうのではなくて、全ルールだけ作って。例えば、この大きさこの厚み、でも色はお任せします、というスタイルです。アイデアシートを使って「こんなのどう?」みたいなディスカッションをしながら、一緒に作り上げていく。

デザインは向こうに任せて、今日から明日と変化が生まれていくクリエーションみたいなのを、コンセプトにしてブランドを「Toki(トキ)」とネーミングしました。同じものが大量生産されるのではない、今日の気分もあるし明日の気分もある、うまくやれる日もあればうまくできない日もある。同じものがないからこそ、その「ときどき」を感じる。時を楽しめる。そんなものづくりを作り手にも使い手にも楽しんでもらえたらなっていうので、この名前にしています。

台湾の職人さん(アクセサリー)

台湾で講演会をしたときに、聴きにきてくれた人の中に現地の出版社の人がいて、その台湾の出版社のみんなとは、工芸を中心としたメディア作りをやらないか、という話も動いています。台中のものづくり産地に行って職人さんに会いにいく、台中にはまた台北と違う文化があったり、そんなところをちゃんと掘り下げていく。それを僕が日本で発信をする。
タピオカミルクティー、小籠包、マンゴーかき氷、台北楽しい、、、じゃなくて台中にはこんな文化があると観光メディアや観光雑誌とは別の視点で紹介できるのは、僕らだからこそできるんじゃないか、っていう話をしました。台湾と日本が文化交流するようなメディアです。日本国内のものづくり地域みたいなものを工芸を通して、海外にも発信していくのが、今やりたい!やろうとしている次のことって感じです。

台湾プロジェクト

地域のことを発信していく、その場所で生まれたものをアウトバウンドでちゃんと売っていく、さらにインバウンドで来てもらう...

Hyogo Craftで兵庫にコミットしていろんなプロジェクトをやっている中、日本全国の産地から呼んでいただく機会も増えました。地域やその場の産業や工芸の課題をプロジェクトベースにしていくか、やそのプロジェクトでどうやってマネタイズしていくか、ということをオールジャパンでやっていこうみたいな動きが、これからやっていきたいことです。

オールジャパンで世界を舞台にどう戦っていくのか、世界に対してどのように発信していくのか。漁師さんもモノを作ってるプロダクトも、そこの素材があるからこそ生まれたものだったり、人の営みがそこにある、土地の営みを通してを地域への魅力を見にいくようなツーリズム「ローカルクラフトジャパン」っていうメディアを作って行こうと考えています。「クラフト&ジャーニー」というサブタイトルをつけたんですけど、工芸やものづくりを中心とした旅メディアを作る。

地域のクラフトマンが各地にいる。自分たちはモノを作ってないけど、編集者としてものづくりの職人は紹介できます。例えばTSUGIの新山くんうなぎの寝床の白水くんのような人たちと横につながって、旅をしてその人にまず会いに行けば、一番濃い情報をもらえる。ものづくりのことを一番よくわかっている人たちが地域をキュレーションする。そして、ゲストハウスをその土地でやっている人たちは「どこどこのご飯がおいしいよ」とか「このお店がオススメ」みたいに旅のナビゲーターとして、クラフトマンとキュレーターとその三役でちゃんと揃っていきながら、地域のことを発信していく。

そして、その場所で生まれたものをちゃんと売っていく。そこで生まれたものをアウトバウンドでも売っていく。さらにインバウンドで地域に来てもらう。こんな循環を今、作っていこうとしています。

カフェで喋る

自分たちが生み出す仕事を「ソーシャルプロジェクト」と呼んでいますが、ローカルで見つけて、グローバルで伝えていくっていうのを基本軸にして、産地と密接につながっていつつ、出口の部分では百貨店とかセレクトショップ、海外のショップのバイヤーだったりとか、いろんなコネクションでもっているところをしっかりつないでいくことが大切だと考えています。

デザイナーだったら「ここで終わり。流通はちょっとわからない」とか「売れるか売れないかは責任を持てません」とか、そんな感じで普通はやっちゃうんだけど、僕らは確実に売上につなげるために、自分たちの責任を果たすべきだと考えています。そのために店をやってたり自分らもマーケットで売ったり、そんなことをしながら売れる確率を上げていきます。

「実は別の会社の社長もやってるんです」ということで次にお邪魔したのは、神戸市内の印刷会社です。

印刷会社入り口 印刷会社の中3 印刷機械

孫のようにお世話になった先代社長の意思を引き継いだ印刷会社

町の印刷屋さん、というたたずまいですね。

2018年の4月に「有限会社グラミックプロセス」という印刷会社を引き継ぎました。。小さな町の印刷会社です。僕の他に4人の社員がいます。もともと下請け孫請けみたいなことをやっていた会社で、一人が営業の番頭さん、職人さんと印刷のオペレーターさんと、僕がヘッドハンティングしたオールマイティな若いスタッフという構成です。「引き継いだ」というのは、実は先代の社長さんにとてもお世話になっていたんですが、その社長さんが2018年の1月に亡くなってしまって...。70歳を超えてたんですけど孫みたいに可愛がってくれて、一緒にいつも飯食ったりしていました。

「Facebookで見てるけど、いろんなところに行って楽しそうやな、自分が若かったらお前ともっと仕事したかった」と言ってくれていました。

先代の社長は僕が持っていく無理難題をいかに実現するかっていうのを、いろんな印刷の手法をチャレンジをしてくれていました。「忙しいんだったらうちの工場を自分の工場やと思って全部使え」とも言ってくれて。この社長もいろんな新しいこととか、挑戦するのが大好きで、使うチャンスがなくてもたくさんのさまざまな機械を買ったりしていました。亡くなってしまった結果この会社に僕が入ったのですが、「ようやく社長と一緒に仕事ができますよ」って感じですよね。彼のやりたかったこと、思想みたいなところをきちんと受け継ぎながら、社員みんなが食っていけるようにするっていうのが僕の使命です。

印刷会社喋る

今はなかなか厳しい状況ですが、営業の番頭さんがリピートの仕事をガッツリと守ってくれています。「既存顧客の売り上げをあなたは維持してください、新規を取ってくるのが僕の仕事」というように役割を分けています。リピートが得意で新規が苦手な印刷会社グラミックプロセスと新規が得意なデザイン事務所であるTRUNK DESIGNが合体。企画を立てたりデザインをする前工程ときっちりした製品を作る後工程がつながることになりました。

今までだと僕らがグラミックプロセスに発注する費用に、金額をオンしてクライアントに請求しなければなりませんでしたが、現在は僕がTRUNK DESIGNとグラミックプロセスの名刺を2枚持っているから、グラミックプロセスから直接請求書を送っておきますね、みたいなこともできちゃう。余計な費用をのせなくてもいいので、みんなハッピーになることができます。

ウェディングカードの場合、例えば僕らはデザイン費だけで15万円って決めて作業をやります。プラス印刷費なので全体でどうしても数十万円くらいいっちゃう。でも、そこには二人のルーツを聞き出して、素材をそういうものを使う、テーマを決めてそれに沿ったデザインを作っていく企画やプランが含まれます。ですから「原稿があって、はいお願いします」じゃなくて、オリジナリティや結婚式で他にもこんな仕掛けができる、など満足度や品質を高くすることができます。結果気持ちがこもったお金をいただくことができます。安く安くしてください、ではなくて、価値をちゃんとわかってくれる方がいいという人たちもちゃんとターゲットにしてくっていうのが今後めっちゃ大事です。

印刷会社見本

作る人と作ってもらう人の距離を近くする、ものづくりがしたい人たちの遊び場に

新しい取り組みの一環として、みんなの図工室っていうのを作ろうとしています。
社長室は要らないからぶっ壊して、1階はショールームに、2階はいろんなデジタル機材、レーザーカッターやいろんなものが見学できたり、8人座ってミーティングができるスペース、プリンティングラボラトリーなど、リノベーションを進めています。

工房 年賀状

図工室の中にはすぐそばに印刷の職人もいるし僕がいればデザインもできる、デザインから印刷加工を一貫して受けて作ることができます。見学しながら作っていくことも可能。そのように印刷を発注する人との距離を近くしていく。作りたい人たちの遊び場です。「こんなのを作ってみたい!」という人が自由に出入りして、職人に相談や依頼しながら作っていくような仕掛けです。

デジタル化が進む今の時代、印刷の仕事は機械があればある程度誰でもできちゃう、という世界。現在は職人の技術はそんなに求められておらず、比較するのはどうしても価格になってしまうんです。
大手ではないのでスピードや価格競争にならないように、企画力やデザイン力といった価値を理解してもらうしかない。一般の人がここで何かものづくりをしながら「できますか?」と言いながら一緒にものづくりをできないかな、というのが図工室のコンセプトです。

たとえば、木工やってるご近所さんがレーザーできるの?と自分らで木材を買ってきて試しに使ってもらうとか。アクセサリーを作っている作家さんが金箔の箔押しできるの?とか。名刺200枚2万円かかってもかっこいい名刺作りたい、お金は払えるんだけどデザインできないから一緒に作ってという要望もあります。紙の知識が無いって人たちに対して、ちゃんとサービスをします。100枚1500円みたいな商売をしているのと全然真逆なこと、僕が作ることで価値を上げることができる。

加工するだけじゃない価値を提供しないといけない。その価値の底上げをしていくための場所です。

生産者や作り手と一緒に作り上げるプロダクトのこと、兵庫のものづくりへの想いや台湾でのプロジェクト、さらには引き継いだ印刷会社のことまでたっぷりお話を伺いましたが、地元のことから国をまたぐ大きなプロジェクトまで同じ温度で熱く熱く、そして優しい視線で語る姿が印象的な堀内さんでした。

ロゴがうまい、パッケージが上手、デジタルが得意、というデザイナーやクリエイターはたくさんいますが、この人が作ろうとしているものは、新しい事業や働く場所、販売先や売り上げ、産地の未来やみんなの幸せ、とかそういうものなのだろうな、と思いました。

堀内康広さん、有難うございました!

プロフィール画像

堀内康広 さん

クリエイティブディレクター、デザイナー。1981年兵庫県神戸市生まれ。
2008年に独立、「TRUNK DESIGN」を設立。
数々の企業のPRや製品開発、ブランディングを手がける。
クライアントワークのほか地元神戸を拠点に、兵庫県のものづくりを紹介する「Hyogo craft」の活動、自らのブランド製品の開発から販売、地域の場づくりなどさまざまなプロジェクトに参加。多くのヒトと交流しながら地域や企業、製品の新しい価値を創造している。
海がないところでは暮らす自信がないほど、海の見えるこの環境から元気をもらっている。愛車はVWカラベルとハーレー883スポーツスター。
URL: https://trunkdesign-web.com/

【詳細情報】

TRUNK DESIGN INC. / トランクデザイン株式会社

住所:兵庫県神戸市垂水区天ノ下町11-10
電話番号:078-708-0661
URL:https://trunkdesign-web.com/

TRUNK DESIGN KOBE SHIOYA /塩屋 カフェ&ストア

住所:兵庫県神戸市垂水区塩屋町3-14-25 2F
電話番号:078-797-4940

TRUNK DESIGN ONLINE STORE

URL:https://trunkdesign.stores.jp/

有限会社グラミックプロセス

住所:兵庫県神戸市兵庫区三川口町1-3-8
電話番号:078-651-2085
URL:http://www.gramic.co.jp

(text:西村 photo:加藤 ※一部の写真はTRUNK DESIGNさん提供)

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