【オンライン公開インタビュー】繊維産業のために全国行脚・学校開校・YouTube開設!株式会社糸編・宮浦晋哉さんのバイタリティの源流を追う
速乾性がウリのTシャツも、ナチュラルな風合いが魅力的なシャツワンピースも、シワのつきにくいスラックスも、すべての服はあらゆる繊維からできている。
服や、服をつくるデザイナー・ブランドについて考える機会はたくさんあっても、その服がどんな繊維でできているかを考える機会はまだまだ少ない。もちろんそれは、世間にまだ繊維のことが知られていないからなのだけど。
ポテトチップスは好きだけど、ポテトチップスの芋がどんな芋で、どんな場所で栽培されているのかを知らない……そんな感じだ。
ポテトチップスでいう芋、服においての繊維を、あらゆる方法を駆使して世の中に向けて紹介・発信し続けている人がいる。
株式会社糸編 代表取締役の宮浦晋哉さん。
国内さまざまな繊維の産地をまわって産地とブランドの橋渡しをおこなったり、全国各地の産地でどんな繊維がつくられ、どういった可能性があるのかを学ぶ「産地の学校」を開校したり、繊維工場をオンラインで見学できる配信をしていたり、YouTuberっぽいことをしていたり、さまざまな繊維を写真集のように眺められるInstagramアカウントを開設したり……。
「繊維にかかわるすべてのこと」を思いつくままに実行し、アパレル業界・繊維業界に新しい種を蒔き続けている。
2020年5月コロナ禍真っ只中、さまざまな取り組みの目的や、多岐にわたる活動をおこなうバイタリティの裏側についてのお話を、宮浦さんの遍歴をたどりながらオンライン取材しました。
そもそも、宮浦さんって何をされている人でしょう?すごく多岐にわたる活動をされている印象なんですが。
メインの職業は……「ファッションキュレーター」というのがわかりやすいでしょうか。未身近なキュレーターでいえば、博物館の学芸員がいますよね。キュレーターはどういう仕事をしているかというと、展示をおこなうハコがあって、そこに適切なタイミングでモノを配置して紹介するわけです。僕は「ファッションキュレーター」として、アパレル・繊維業界に落ちているいろんな価値を自分の言葉で伝えるという仕事をしています。本を作ったり、展示会やったりして。
ほかには、デザイナーやブランドが「こういうものほしいな」と、求めているけど彼らに届いてない素材や情報をつなげたり、この素材にはこのデザイナーやブランドが合うなと思ったらそこを紹介する仕事もしています。「テキスタイルコンバーター」と業界的に言われているものに近いですね。いわゆる仲介業です。
なるほどなるほど。でも、デザイナーさんが求めるテキスタイルにぴったりな繊維をレコメンドできるってすごく大変じゃないでしょうか。
そうですね。デザイナーさんが「キラキラした生地」といっても、いろんなキラキラがある。糸自体に光沢感があるものや、ラメを織り込んでいるもの。「これはもう、この素材以外にないでしょ!」という場合もありますが、「次のコレクション、この繊維じゃないですか!?」と楽しんで提案することも多いです。
それがデザイナーさんにとっての正解かどうかはわかりませんが……僕はそんなに利害を求めないんですよね。好きなブランドがすごく多いから、この素材であの服ができたら僕が欲しいって気持ちで提案します。でも、好きなことに向かっているぶん強いと思いますよ。単純に利害を重視して提案する人よりは、純粋なファン心で提案するからいいマッチングは生まれちゃいますよね(笑)。
写真:2013年、全国の繊維産地をキャンピングカーで巡った
根っこの部分の活動としては「繊維の情報発信」です。日本は繊維製造の技術がとてもハイスペック。僕は2013年から全国の繊維産地をまわって、そこでどんな人が、どんな場所で、どんなテキスタイルをつくっているのかを紹介し続けてきました。僕が運営しているギャラリースペース「セコリ荘」や、国内の繊維産業を学んだり、繊維産業に関わるきっかけをつくるための場「産地の学校」などで。自分なりにいいな!と思ったものを取材して、紹介するのが好きな性分なんです。
ただ重要なのは、僕はアパレル・繊維の業界にいるけど、かっこいい生地を売りたいとか、商品をどうこうしたいというよりは、日本の繊維産業の高い技術に、デザイナーの感性を掛け算のすることに面白さを感じているということ。素材のたたき台に対して新しい視点が産地に入ってるとどうなるかな?って。
縁の下の力持ち的な感じなんですね。
結局、繊維業はBtoBですからね。
とはいえですね、宮浦さんって多岐にわたるお仕事とされているので、年表形式でまとめてみました!時系列で宮浦さんの取り組みを聞いていければなと。まず、服飾の専門学校から大学に進学してたってことは、もともとはデザイナー志望だったんですか?
そうですね。服を着るのが好きだったので安直にデザイナー志望だったんですけど、デザイナーとして何かをするという具体的なビジョンはなかったんですよね。
何がきっかけでデザイナーからいまの道に?
ひとつは、「coconogacco ここのがっこう」という、ファッションレーベル「writtenafterwards」が手がけるファッションデザイン教室に入ったこと。そこは才能あふれる人たちがものすごく集まっていたんです。あまりにその才能がすごすぎて「自分はデザイナーじゃねえな!!」って思い知った(笑)。
(笑)。
デザイナーじゃないなと思ってからの切り替わりは早かったです。教室の仲間のサポートをしたり、縫製工場で働きはじめたり。デザイナーを諦めることで自分の道が明確になったので、逆にスイッチが入った感じですね。
写真:coconogacco同級生とは今も親交が深い
デザイナーじゃない!となってから、繊維の世界に入ったのはどういう経緯ですか?
きっかけとしてはロンドン留学ですかねえ。服飾大学を卒業して、イギリスの「ロンドンカレッジオブファッション」に留学したんですよね。そしたら、日本人というだけで「テキスタイルの人じゃん!」って言われたんですよね。
日本はテキスタイル産業が盛んだということは知りませんでした。
そうなんですよ。僕も「日本から来たの!?日本はやっぱテキスタイルっしょ!」って向こうのクリエイターの言葉で知ったんですけど。イギリスは産業革命が起こって、繊維産業全体がシュリンクしていったんですが、日本にはそういったものづくりの文化が残っている。
日本の工芸品は世界でも人気ですしね。
ええ。でも、工芸品ってたくさん知られているのに、繊維って全然知られていないんです。糸や生地、染色加工など、技術力はあっても最終製品を作らない工場は認知機会が少ない。でも日本のテキスタイルは海外ですごく評価されている。これはすごいので、自分で掘り下げてみようと思いました。なんにせよ産地を回らないと何も見えてこないので、帰国後は土日バイトして、平日はいろんな産地をまわって……という生活をしていました。
そして、2013年に場を持つことになると。「セコリ荘」設立の経緯について教えてください。
そうですね。産地を巡るなかで、やっぱり魅力的な繊維を人に見てもらう場が欲しいなと思っていて。場所の必要性はずっと感じていたんです。
そしたら、月島に築100年くらいの古民家を見つけて。古民家の半分がおでん屋さんで、もう片方はギャラリースペース。ブランドの展示会や予約即売会、ポップアップショップなどを展開しています。
写真:いつも大人気のおでんスペース
おでん屋さんなんですね(笑)。
すごく趣のある古民家で、何ができるのかを考えたら「おでんしかないな!」って(笑)。飲みながらコミュニケーションできるし、おでんだったら作り置きしたのを温めるだけで提供できるじゃないですか。より会話に専念できるなあと思って。やっぱり繊維に関わる人やクリエイティブに関わる人……アンテナの感度が高い人がお客さんとしては多いですけど、それこそ近所の人がふらっときてくれることも。看板とかは出してないんですけどね。
ただ、いま僕の中ではセコリ荘は役割を果たし切ったと思っています。「小さな震源地」でノリでここまでやってきましたけど、いまは僕たちの事務所であり、キュレーションスペースですね。
自分で産地を回って、見聞を披露できる場をつくって、次のフェーズが他者に学びを与えることになるのかなと思うのですが。2017年にはじまった「産地の学校」がまさにそれですね。
写真:産地の学校東京校
産地の学校は、もっと繊維がつくられる産地に対して取り組みができないかな?と思って2017年に開校しました。全国のいろんな産地が日本各地にあって、どんなものがつくられているか、発注する側の目線で知識を学ぶんです。
半年間単位のスクールで、いまは7期目に突入しました。東京からスタートしましたが、いまは静岡県の浜松と福岡県の広川で、産地の「産地の学校」も開設しています。日本各地の繊維を幅広く学ぶ東京校に比べて、より地場産業に特化した学びを提供しています。
写真:産地の学校ひろかわ校
産地の学校東京校の遠州遠征の様子はこちらの記事にて公開しています!
どんな人がスクールにきますか?
東京はやっぱりアパレル・繊維関係で働く人、自分で何かやっているプレイヤーも多いですね。転職活動のために受講する人もいます。転職エージェントの人が産地の学校を進めてくれることも。僕、転職活動のサポートに関してはめちゃくちゃ力入れてますから。
地方の方は、現地で働きたいと思う人や、自分たちの暮らす場所の産業を盛り上げたいと考えている人もいますね。産地で会社をやっている人とか。
卒業して、生徒さんたちはどんな道に進んでいますか?
これは本当にいろんな人がいるんですよ。会社に戻って得たものを会社で発揮する人もいれば、次世代に向けたエシカルファッションを追求して会社をはじめた人や、一般大卒で、繊維の知識ゼロだった人がブランドを立ち上げた人も。
一言で言えばもうめちゃくちゃです(笑)。だけど、繊維業界でなにかやりたい!という目標を叶えるには近道なのかもなと思っています。
そもそも、そういった繊維に特化したスクールがあるというのが画期的ですよね。
そうですね。僕は2013年から産地を回りはじめているんですが、夜行バスに乗って飛び込みで現場に行って、工場に迷惑をかけながら学んでいった。それは楽しくもあったけど、遠回りしちゃった感が僕にはあって。繊維に特化した学びの場があれば、効率的に学ぶことができるなと。
学ぶだけだったらYouTubeや本がありますが、僕はあくまで学校という場が必要だと思いました。コミュニティがあることの大切さは、後述しますが、僕が「coconogacco ここのがっこう」というファッションスクールに通っていた経験がかなり影響しています。同じ釜の飯を食う仲間を得られる経験はすごく大切なんですよね。
産地の学校公式YouTube:【産地の学校】ウェブ工場見学-篠原テキスタイル編(デニム編)
ただ、学校というのは学ぶ内容がある程度閉じられているものですが、産地の学校が面白いのはInstagramアカウントやYouTubeチャンネルを作って、多くの人に学びの一部をオープンに提供していることだなあと思います。
ありがとうございます。
繊維業はいわゆるBtoBですが、宮浦さんはその業界のいろんな情報をC……つまり我々一般人にも伝える活動をされてますよね。「産地の学校」のように学ぶ欲がある人以外にも、幅広く情報発信をしています。Instagramアカウントの「textilejapan」とか。「産地の学校」もInstagramアカウントを開設していてますし。
写真:Instagram @textilejapan では、さまざまな国産繊維の画像が作品のように並ぶ。
2020年は、新型コロナウイルスの影響であらゆる業界が大きな打撃を受けています。繊維業界はどうでしょうか。
もちろん目を瞑りたくなるようなこともたくさんあります。ただ、このコロナ禍をきっかけに構造のパズルが組み変わって、新しいルートが出てきているということもあるんですよね。以前は表に出なかった企業が外に出てきた感はあります。繊維系の企業はマスクをつくることができるので、マスク需要に合わせて自社でマスクをつくり始めるとか。
宮浦さんとしては、打撃を受けている繊維業界にどういった形でコミットしてますか?
いろいろやってますよ。YouTubeやInstagramのアカウントで、Web上で工場見学ができる動画や、いろんな産地の人たちとZoomでの会話を配信していたり。工場の方が小型カメラを持って、中を案内してくれているものとかは面白いですよ。なんせカメラは小さいじゃないですか。すると、以前はリアルな場として工場見学をしていた際には危ないから近づけなかったところまで画面上で近づくことができるんですよね。
ほー。
繊維の工場って閉鎖的なんですよね。でも、このコロナ禍で「しょうがない」から新しい活動が始まっているなと感じます。オープンなWeb上でそうした動画を配信すること然り。また、僕としての活動ですが、セコリ荘のギャラリースペースで「無人のテキスタイルショールーム」を実施しました。
対人が前提だったテキスタイルの展示会は、外出自粛の最中ではできないので、ショールームにテキスタイルを並べて、中央にカメラをオンにしたPCを配置して、オンライン上で展覧会をしたんです。僕がいいと思ったものを提案するだけなので、仕事の本質としては変わらなくて。
宮浦さんのすごいなあと思うところは、本を出版したり、学校を立ち上げたり、動画配信を始めたり、とにかくいろんなことに手を出すし、「いいな」と思ったらすぐに行動にうつすバイタリティがある。でもしっちゃかめっちゃかにならないのは、繊維業に対する思いが筋として通っているからなのかなと。
常に目的に対してまっすぐやってきた感はありますね。何が自分にできるのかは常に考えますし、僕がいいと思ったものをそこはブレずにやるだけ。最近は動画配信を頑張ってるんですが、奥さんが専用のmacを揃えて動画編集を始めたんです。
これからも極力Webでできることはどんどんやっていこうと思います。また会えないからこそ会うことの価値もハッキリしたじゃないですか。バランスだとは思いますけど、今後の展望としては「ビンビンきてます」その一言ですね。
宮浦晋哉 さん
1987年千葉県生まれ。株式会社糸編 代表取締役。
2012年日本のものづくりの発展と創出を目指すキュレーション事業「Secori Gallery」創業。2013年『Secori Book』出版。2013年セコリ荘開店、2016年名古屋芸術大学特別客員教授就任、「NUA textile lab」発足。2017年株式会社糸編を設立。国内の繊維産地の訪問を重ねながら、各種マッチング、素材/製品開発、コンテンツ制作、場の運営、ものづくりの学校の運営(産地の学校)などを展開。
株式会社糸編 : http://ito-hen.com
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CD音源よりもライブのパフォーマンスの方が圧倒的なアーティストがいるように、宮浦さんの言葉は音声で聞くからこそ、その熱量が伝わります(記事としてまとめておいてなんだというお話ですが)。ぜひ、公開インタビューのアーカイブもラジオがわりにお聞きください。
text:平山靖子、photo:(株)糸編提供
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